72.ルネはお姉様です
前祝いが終わると、就寝の準備だ。
湯浴みの準備が出来たとルネが呼んで、レティシアはゆっくり湯船に浸かる。
ご飯もいつも以上に食べる事が出来た。きっと自分が大好きな人達と一緒だからだろう。
ふと自分の体を見る。倒れる直前は本当にガリガリだったけれど、少しずつ肉が付いてきた。
とは言えお世辞にも健康そうな体ではない。
食欲が一度失せるとしばらく戻らないのがもどかしい。胃の許容量も少ないままなので、思うように食べられないのだ。
味覚が無くとも、周りの人達が気を遣って食べやすいように工夫してくれている。そのおかげで少しずつ食べられている。
「明日、遂に亡命かぁ……」
なんだか複雑な心境だ。前までだったらドキドキして、これから第2の人生を歩むのだとワクワクしていただろう。
引っかかるのは、クロードとの会話だ。
「殿下……」
ジルベールは何を考えているのだろう。
そしてレティシア自身、ジルベールに対してどうしたいのだろう。
答えの出ないことがグルグルと頭の中を回っている。
そして誰も言わないし、レティシアも聞こうとは思っていないのだが、気になることがあった。
バンジャマンとジュスタンだ。
倒れてから一度も顔を合わせていないし、手紙も無い。
それを不満に思っている訳ではなく、情報が無いのが気になるというか。
かと言ってジョゼフに聞こうにも、どのような内容でもダメージを受けると思う。
結局知らないままでいるのが、レティシアの精神が安定するのだ。
ジョゼフ達も分かっているから、何も言わないのだろう。
何となく、ナーバスな気分になっているのを自覚する。
手慰みにちゃぷちゃぷと湯を遊ばせていると、浴室の外から声がかかる。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ルネ? 大丈夫よ。どうかした?」
「いえ、いつもよりゆっくりしているので、念の為声を掛けさせてもらいました」
どうやら物思いに耽っていたら、時間が過ぎていたらしい。
「ごめんなさい。今出るわ」
そう言うと、浴室から出た。
◇◇◇
湯浴みが済んでゆっくりしていると、ルネがよく寝付けるようにハーブティーを淹れてくれた。
それを飲んでいると、ルネが聞いてくる。
「何を考えていますか?」
「……ルネには何でもお見通しね」
お風呂で考え込んでいたのを、見抜かれたのだろう。
この心の揺らぎも、話せば落ち着くだろうか。
レティシアは言葉を探しながら、ゆっくり話した。
「クロードさんとの話が頭から離れなくて。わたくしは殿下のことをどう思っているのかしらって」
「お嬢様の話を聞いている限りですと、好き嫌いだけで語れるものではないようですね」
「そうね。そんな簡単に答えを出せないわ」
憎んでいる訳では無いけれど、良い感情ばかりではない。けれど、ちゃんと敬意や人としての好意も持っている。
「……お嬢様」
「何かしら?」
「私はお嬢様の味方です。殿下が何を考えていようと、それは揺るぎない事実です。だから、自分の思いに素直になりましょう。きっと、明日になれば、お嬢様がどうしたいか明確になると思います」
「ルネ……そうね。ルネがいれば、大丈夫だわ」
ルネの言葉に、揺れ動いていた心が落ち着いてくる。
「ありがとう。ルネ」
「いつでも私を頼って下さいね。何と言っても、私はお嬢様の姉ですから」
「ふふっ! そうね。頼りにしているわ、お姉様」
以前話していたことを持ち出され、笑みが浮かぶ。
ふと、レティシアはあることを思いつく。
「ねぇ、ルネ。今日は一緒に寝て欲しいわ」
「ほぇっ⁉︎」
レティシアの提案に、素っ頓狂な声を上げるルネ。
「ルネのお陰で前向きになれたけれど、また1人になったら考えてしまいそうなの。お願い」
「わ、分かりました。お嬢様の願いなら」
「嬉しいわ。ありがとう」
茶器を片付けると、さすがに緊張しているルネと一緒にベットに潜り込む。
言い出したレティシアも、段々と緊張してきている。
ベットの中に自分以外の存在がいるというのが、思ったより違和感を感じる。
「……何だか緊張するわ」
「これ、やっぱり私は……」
「ルネ。背中を向けられたら、余計に緊張するわ」
「うっ」
レティシアの言葉に、気まずげな声を上げる。
少しして、レティシアの方に向いてくれた。
「……向かい合うのも緊張するわね?」
「天井見ます?」
「いえ……少し良いかしら?」
「はい?」
レティシアは、ルネの手を取る。
暖かいその手を握ると、ルネは驚いていた。
「お、お嬢様?」
「ルネの手ってすごく温かいわね」
「ベットの中ですし……。お嬢様は少し冷えてますね」
レティシアは痩せ型なのもあり、慢性的な冷え性だ。
冷えた手を温めるように、ルネはマッサージする。
「ルネの手が冷えない?」
「大丈夫ですよ。むしろ冷たくて気持ち良いくらいですね」
お互いの手をにぎにぎする。
次第にお互いの体温が移り合い、丁度よくなってきた。
それと共に、レティシアの瞼も重くなってくる。
「眠くなりましたか?」
囁くようなルネの声に、レティシアは答える。
「ええ。……何だか、凄くよく眠れそうだわ……。ルネの手は、魔法の手ね」
「良かったです。ゆっくり寝てください」
「ルネ、わたくしが……寝たからって……でていかないで……ね」
そこまで言うと、レティシアは夢の世界へ旅立った。
ルネはそっと頭を撫でる。
「おやすみなさい、お嬢様。良い夢を」
そう言うと、レティシアの顔が緩んだように見えた。
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