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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第3章

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71.卒業の前祝いです

昨日お知らせを忘れてしまいましたが、今日から第3章になります!


ラストスパート、最後まで見守っていただけたら幸いです!

 ドレス選びが終わり、いつも通りの日常が戻ってきた。


 学園生活も残り僅か。皆は卒業後の準備で慌ただしい。そのため何か事件が起こるといったことはなく、至って平和で普通な学園生活となっている。

 

 レティシアも亡命の最終調整をしていたので、学園では目立つことなく過ごしていた。


 ただ最近、とても気になっていることがある。

 それはジルベールのことだ。


 自惚れでは無く、確実にこちらに対する悪感情が少なくなっているのだ。


 学園では話しかけてくることは無いけれど、時折視線を感じる。振り返っても視線は合わないが、窓ガラス越しにレティシアを見ていると気がついた時は本当に驚いた。


 何を考えているか分からないので、不気味に感じてしまう。


 とはいえ直接的に何かあるわけでも無い。レティシアもジルベールに対して行動を起こすことは出来なかった。


 それ以外はレティシアの周りは静かだった。



 ◇◇◇

 


 不安になりつつも時はあっという間に流れるもので、卒業式前日になった。

 

 ジョゼフの家で前祝いをしてくれることになった。

 最近会えていなかった、クロードとセシルも来てくれてたのでとても楽しい。


 笑っている皆がいる。賑やかで、それでいて穏やかな時間だ。


「レティシア様、早いですがご卒業おめでとうございます」

「ありがとうございます。明日から忙しくなりますわ」

「ここまで頑張りましたね」

「はい。これからが本番ではありますが、ここまで来れて良かったです」


 クロードとセシルに祝われ、心がフワフワしてくる。

 喜びと、感傷だろうか。悪いものではないけれど、落ち着かない。


「ええ。本当に。何度もリュシリュー公爵家を社会的に抹殺しかけましたが、レティシア様が生きておられて良かったです」

「待って、不穏な単語が聞こえたわ」

「気のせいですよ、レティシア様。さあ、こちらをどうぞ」


 セシルの発言に色々聞きたくなったけれど、クロードに飲み物を差し出されて、それとなく止められる。


 まあこうしているのだから、大事にはなっていないだろう。本当に抹殺したら、一応まだリュシリュー公爵家に籍のあるレティシアにも何か報告がありそうだ。


 クロードがジュースを飲みながら――恐らく明日成人のレティシアのためにお酒を控えている――言った。


「レティシア様。今更聞くまでも無いと思いますが、亡命することに迷いはありませんか?」

「ええ。わたくし自身は全く迷いはありませんわ。……ただ」

「ただ?」

「殿下の様子が気になりますの。何と言うか、わたくしに対して思ったより嫌悪感が無いというか。その状態ではきっと婚約破棄には出来ないと思いますの。そうすると殿下の心労が心配ですわ」


 レティシアの言葉に、クロードは顎に手をやりながら質問する。


「レティシア様は婚約破棄を望んでいましたね。けれどこの際です。もうそれは抜きにしても良いのでは? レティシア様はまだ療養が必要でしょう。自分第一にしないと、またぶり返すことも考えられます」

「それはそうかもしれないけれど」

「仮に、殿下がレティシア様と婚約破棄したくないって言われたら、どうしたいですか?」


 レティシアは考える。前のジルベールだったら、喜んで破棄してくれたと思う。けれど今のジルベールはどうなのだろうか。


「どうしたい……。明確な答えが出ませんわ。一番のストレス源と距離を置けている今は、比較的平和ですもの」

「以前は切羽詰まっていることもあり、亡命一択だったと?」

「そうですわ。あの家と完全に縁を切りたかったですし。けれど殿下の婚約者でいるには、やはりリュシリュー公爵家との関わりは避けられませんし、そう考えると嫌ですね」

「では家のつながりが無くなればどうでしょうか?」

「……まあそれなら、ということになりますか。結局、家の繋がりが切れれば何でも……って、もう亡命先も準備が終わっているのでしょう? このたらればはやめましょう。協力してもらっている皆様に申し訳が立ちません」

「そうですね。このくらいにしておきましょう」


 クロードは優しく微笑んだ。


「あ、すいません。ちょっと席を外します。仕事の対応を忘れていました」

「まあ、大丈夫ですか?」

「ええ。魔道具でのやり取りで事足りますので」


 そう言うとクロードは席を外す。


「レティシア様、こちら食べられますか?」

「はい。ありがとうございます」


 セシルが差し出してきたのは、食べやすそうなリゾット。舌触りが滑らかだけれど、飲み込みづらいとかは無く食べやすかった。


「また食べられるようになってきましたね。良かったです」

「心配していただき、ありがとうございます。ようやく体重も戻ってきました」

「ええ。顔色も良くなって……本当に、もう無理しないでください」

「も、もちろんですわ! だから泣かないでください」


 目が潤んでいるセシルに、慌ててハンカチを差し出す。


 そのハンカチを差し出した手を力強く握られて驚く。


「本当にレティシア様はお優しい。どうか、その優しさを自分に向けてください。そうでないと……私が今度は倒れそうです」

「わ、分かっていますわ。セシルさんが倒れないようにします」


 レティシアにとって恐ろしいことを言われて、空いている手で宥めるように背中を摩る。


 その様子を少し離れて見ていた、ジョゼフとルネ。それからクラリスの姿もあった。


「……どうなるのでしょうか?」

「私はお嬢様が幸せに生きるのであれば、どこへでも付いていきます」

「けれど殿下を嫌っているわけではなさそうですし……これは」


 クラリス、ルネ、ジョゼフとレティシアの幸せを願っている。


 どうか、彼女が素直に明日を乗り越えられますように、と祈った。

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