68.王妃様とティータイムです
ドレスのデザインが決まると、今日の用事は消化した事になる。
レティシアは長居する理由もないので、退出しようとしたのだが。
「レティシア嬢、良かったらこの後お茶はいかがかしら?」
その旨を伝える前に、王妃に呼び止められてしまった。さすがに王妃に誘われて、断れるほど非常識ではない。
「喜んで」
「ではこちらにどうぞ」
王妃に先導される。後ろをついていこうと立ち上がった時だ。
「それじゃあレティシア、また後で」
「え?」
てっきりジルベールも来るのかと思っていたのだが、レティシアに挨拶するとジルベールは先に退出した。
またとは言っていたので、帰り際くらいには顔を合わせるのだろうけれど最近の押しの強さを思えば、意外に映ってしまう。
「せっかくだから、女同士の話を楽しみましょう?」
「分かりました、王妃様」
レティシアにとっては王妃とジルベールを同時に相手にするのは荷が重かったので、それはそれでよかったと思えた。
場所を移動する。庭園の一角にある東屋。既に準備も済んでいるらしく、スイーツやお茶が準備されていた。
「さあ、座って」
「はい、失礼いたします」
王妃に促され、レティシアも椅子に腰掛ける。
それが合図の様に、使用人達が動く。お茶を淹れる音と、ふわりと広がる香りがとても良い。
目の前にカップとソーサーを置かれ、先に王妃が一口飲んだ。
レティシアを見て、微笑む王妃の美しさに見惚れつつもお茶に口を付けた。
程よい温かさ。体が水分を欲していたらしく、染み渡るようだった。
「こうして2人きりというのは初めてね」
「はい。何かの集まりが多くて、他の方もいらっしゃいましたね」
話さない訳でもないし、距離がある訳でもない。単純にタイミングが合わなかっただけだ。
「お菓子も口に合うと良いのだけれど」
「お気遣いありがとうございます」
差し出されたスコーンを口に運ぶ。
スコーンは口の中の水分が持っていかれるので、味覚を感じないレティシアにとっては食べ辛い分類に入る。
けれど、咀嚼して気が付く。しっとりしていて食べやすい。中に果物でも入れているのか、違う食感がアクセントになっている。
「とても食べやすいですね」
「ええ。わたくしも口の中が渇くのが苦手で、しっとりする様に作ってもらったの。気に入ってもらえたなら良かったわ」
「王妃様はお菓子作りの才能もあるのですね」
「わたくしは相談しただけよ。でもありがとう」
微笑み合いながら会話を繋げる。
と、王妃は少し間を空けてから、レティシアに感慨深そうに話した。
「レティシア嬢も、もうすぐ成人なのね」
「はい」
「時の流れって早いものだわ。初めてジルベールと顔を合わせた時、貴女もジルベールもまだ10歳だったのにとてもしっかりしていたわ」
「勿体無いお言葉です」
突然の褒め言葉に、驚きつつも話を聞くレティシア。
「マナーもとても良くできていて、さすがリュシリュー公爵家の娘ねと感心していたの」
「まあ」
何だか話が見えない。レティシアを褒めているのだけれど、裏の意味もありそうな気もする。
「ジルベールとはどうかしら?」
その一言で、今までの会話はこれの伏線だったかと察する。
「殿下はお忙しそうですわ。勉学にご公務にとても熱心で、素晴らしいと思います」
恐らく王妃が聞きたいのは、2人の関係値だろう。レティシアの返答は、聞かれている意味とは少しずれてしまうけれど、正直に答えられる訳もない。
それより意外に思ったのは、レティシアとジルベールの仲を詳しく知らなさそうなところだ。
何となく、不仲であることは知られていると思った。いや、さすがに使用人も周りにいたことだし、報告は上がっているだろう。
「……わたくしと陛下も、気になってはいたのですが余り根掘り葉掘り聞けないでしょう? レティシア嬢と2人きりになる機会もないものだから聞けなくて」
確かに、思春期の時に婚約者と何をしたかとか、どこまでお互い知っているかなんて聞けないと思う。親だからこそ、聞きづらい事だってあるだろう。
政略結婚であるとはいえ、親が過干渉になれば関係悪化の可能性もある。迂闊に助言も難しいかもしれない。
「殿下は素晴らしい方だと思いますわ。人の上に立つ覚悟もしっかり持っておられますし、そのために努力もされていますから」
「けれど先ほどのデリカシーのない発言。あの子、人の機微には聡いはずだけれど、それが自分絡みになるとダメみたいね」
王妃が気にしているのは、ドレスの時のジルベールの言葉だろう。まあ、他人事にしているレティシアですら、正直に言えば引いてしまった。
けれど独占欲丸出しも、それはそれで問題なので匙加減が難しい。
「あの子はレディへの対応がダメなのよね。それにしては独占欲が強くてタチが悪いわ」
「王妃様……」
多分、その原因はレティシアにもある。レティシアと距離を縮められなかったからこそ、自分自身が絡んでくると視野が狭くなるのかもしれない。
「ごめんなさいね。そのせいでレティシア嬢には迷惑をかけたでしょう?」
「いえそんな。わたくしも悪いところはありますので」
居心地が悪い。王妃のせいであって、そうではない。
亡命を目指している現在において、そのような気遣いは裏切っている事を責められるようで居心地が悪いのだ。
とはいえ、亡命すること自体裏切り行為であるので、レティシアも随分自分勝手だ。
「……レティシア嬢」
「はい」
「今更かもしれないけれど、自分を大切にしなさい。体も大切にしないと、心にも支障が出てしまうわ。逆もまた然り。だから、自分を大切にして」
「……はい」
王妃の訴えは、レティシアの心に響くものだった。
年齢も相まって、王妃に母親のようなイメージを持つ。
「そうだ、陛下もね、結構独占欲が強いのよ」
「まあそうなのですか?」
「そうなの。それで昔苦労したこともあったわ。ジルベールもあの人の血が流れているし、レティシア嬢も苦労するかもしれないわ。その時はわたくしが止めるから、呼んでちょうだい」
「ふふっわかりました」
そんな話を聞いて思わず笑ってしまうレティシア。
けれど、ジルベールが独占欲が強かったとしても、レティシアには関係ないだろう。
その矛先がレティシアに向くことはない。コレットの可能性もあるが、今の所そのような素振りは無いと思う。
レティシアは他人事のように王妃の話を聞いていた。それがまさか、本気だったなんて、気がつかなったのである。
「面白かった!」「続きが読みたい!」と思ってくだされば広告下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎をポチッとお願いします!
いいね、ブクマもとても嬉しいです。
ランキングにも参加してみています!
良かったらポチッとしていってくれるととても励みになります!




