66.好きで痩せた訳ではないのですが……
誤字報告助かっております。
確認していても抜けるのは不思議ですね…
王家の馬車は凄い。走り出して割と直ぐに、レティシアは感心していた。
色々な馬車に乗って気がついたが、ほとんど揺れていない。音も静かでとても快適だ。
座席も程よい硬さで疲れにくい。触り心地までバッチリだ。
公爵家の馬車も快適だったけれど、王家の物に比べたらまだ改良の余地はありそうだ。
しばらくそれを楽しんでいると、ジルベールが話しかけてきた。
「何だか珍しそうにしているけれど、どうしたんだい?」
「……公爵家の馬車と結構違うものだなと思いまして」
「そうかな? レティシアもこの馬車に乗るのは初めてではないだろう? 急にどうしたんだい?」
「そうなのですが、改めて比べたら思ったんです」
いつも固い会話ばかりしていた2人だが、今日は今までで1番スムーズな会話が出来ている。
これですら、スムーズとは。自分で考えて、少し悲しくなってしまった。
「王家は最高級のものを使うからね。公爵家もそうだろうけれど、意外と違いが出るものなんだね」
「ええ。気にしなければ大きな差ではないと思うのですが、比べたら違いますわ」
ジルベールも言葉が柔らかくなっている。お互いギスギスした雰囲気がないのも、スムーズな会話出来ている要因だろう。
「ところでどうして今回は、わたくしとドレス選びをしようと思ったのですか?」
「前に言っただろう? もう少し距離を縮めたいと。ドレス選びなんて、お互いの好みを知る良い機会だと思わないかな?」
「それも一理ありますわね。けれど殿下の選ぶものは、センスが良いので文句はありませんが?」
「けれどレティシアの好みも知っておきたいんだ」
「……そうですか」
好みを知りたいなんて、そんな甘い顔をしながら言わないで欲しい。
レティシアは思わぬ攻撃に、反応が少し遅れた。いや実際は攻撃ではないのだが、謎のダメージを受けた気分だ。
きっと今までの仮面を被った表情と違うからだ。何故今そんな表情を作れるんだ。レティシアの心の中は、困惑で一色である。
「それに陛下と王妃にも最近会っていないだろう? そろそろ卒業の準備で忙しくなるし、今のうちにとも思ったんだよ」
「まあ。お気遣いありがとうございます」
いえ、亡命を考えると罪悪感に苛まれるので、是非遠慮したいです。なんて言葉を正直に言うわけにもいかないので、心の中でだけ反論しておくに留める。
その後もポツポツ世間話をしながら、馬車は王城に向かって行った。
◇◇◇
王城の一室には既にデザイナーと王妃が待っていた。
ドレスを作るのに、デザイナーがいるのはわかる。けれど王妃までいるなんて、レティシアは聞いていない。知らずの内に緊張で手が汗ばんでいた。
それでも骨の髄まで叩き込まれたマナーが、無意識にレティシアを動かす。
「栄光ある王妃様にご挨拶申しあげます」
「ありがとう。楽にして頂戴」
一分の隙もないカーテシーを披露したレティシアに、満足気に頷いている王妃を見て、ホッと胸を撫で下ろした、
「レティシア嬢、よく来たわね。体調は大丈夫かしら?」
「はい。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「変わった事があったら直ぐに言って頂戴。じゃあ先に、今日の目的を済ませてしまいましょうか」
「よろしくお願いいたします」
その言葉と同時に、ジルベールは一旦退出した。一番にやることといえば採寸だからである。
いくら婚約者といえど、許されることではない。
テキパキと採寸していくと、デザイナーは少し困ったような顔をした。
「どうかされましたか?」
「……いえ、その」
レティシアの質問に、言葉を詰まらせている。特に体などには、問題ないと思っているが何かあったのだろうか?
そう考えていると、王妃が代わりに口を開いた。
「レティシア嬢……貴女、いくら何でも痩せすぎよ。もう少し肥えた方が良いわ。健康的な意味でも」
「……申し訳ありません」
貴族令嬢とは、厳しい食事管理もあるため、基本的に痩せている人が多い。けれどレティシアのそれは、体型に厳しい王妃の目にも異様に映ってしまったようだ。
(まあ、色々あって、最近は痩せ気味だものね)
これでもジョゼフの家に居候を始めたばかりより、体重は増えている。けれどもっと大きく見れば、全体的にも今は痩せている状態である。
1番健康的だったのは、ロチルド商会で初めてレティシアが携わった商談が成功した時か。
「たしかに今は痩せているのが良いと言われているけれど、貴女の場合は痩せすぎだわ。このままだとまた倒れてしまうわよ」
「申し訳ありません。これでも少し戻ってきているのですが」
「もう、ジルベールったら、こんなレティシア嬢の状態に気が付かなかったのかしら?」
王妃から息子への文句が出てきて、レティシアは慌てて弁明する。
「い、いえ。制服の上からではそんなにわからないと思いますわ。それに、殿方ですし」
「ええ。確かに服に隠れるとはいえ、けれどわたくしは貴女が部屋に入ってきてからも、その細さが気になっていたのよ。全く、もう少し、淑女への気遣いを……」
王妃がプリプリ怒り始めて、段々怒りのボルテージが上がってきているのを感じ、これはまずいのでは? と慌て始めたレティシア。
そんな中、デザイナーが声を上げた。
「王妃様、お言葉ですが、殿方だからこそ言えないこともあると思います。このような仕事をしておりますと、殿方が女性の体型に口をだして空気が悪くなることは珍しいことではありません」
「……それもそうね。デリカシーが無いと言われても仕方ないわ」
ふう、と息を吐きながら怒りを治めた王妃に、レティシアもホッと息を吐いた。
デザイナーに目を向けると、ニコッと笑ってくれた。
どうやらレティシアのことも助けてくれたらしい。なんて仕事が出来る人だ、とレティシアは感心した。
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