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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第2章

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64.ルネは隠し事が下手だそうです

誤字報告ありがとうございます


 久しぶりの学園生活は味気ないものだった。


 平和と言えばいいか。


 元々レティシアは、オデット以外とほとんど関わりがなかったので仕方ない。


 けれど寂しいと思う事はなかった。オデットの、あのあまったるい猫撫で声が聞こえない。それだけでとても快適だった。


 そんなこんなで、お一人様を満喫している。


 ジルベールも朝以降、関わってくることがなかったので、身構えつつも安心した。


 放課後もジルベールは生徒会があるので、レティシアを送ることができなかった。その事に安堵してしまったのは隠すしかない。


 朝と同じように、馬車でマルクが迎えにきてくれて、平穏に終わることが出来たのだった。


 ジョゼフの家に戻ると、ルネが出迎えてくれる。


「お嬢様、お帰りなさい」

「ただいま戻りました」


 すっと手を伸ばされるので、自然とルネに荷物を渡す。何も言われずとも、リュシリュー公爵家の使用人達に対するように疑問に思うことはない。


 ルネを心から信頼出来ている証と思うと、レティシアは嬉しかった。


「久しぶりの学園は、いかがでしたか?」

「とても平和だったわ。……あ、でも殿下がドレスの準備をしたいと仰られて驚いたわ」

「殿下がドレス、ですか?」

「ええ。珍しいわよね。ドレスなんて相談したことも、されたこともないのに。わざわざ王城でなんて仰るのよ? どういう風の吹き回しかしら?」

「……」

「それでね、お金も時間も勿体無いし、体調が悪いことにして断ろうかと……ルネ?」


 返事が無くなったのに気がついて隣に目を向けると、ルネは何とも言えない表情で黙り込んでいる。


 レティシアが名前を呼ぶと、体を大きく震わせて大袈裟に反応した。


「は、はい! 何でしょうか⁉︎」

「……ねぇ、この間から変よ? 何かあったの?」

「いいえ! 何もありません!」


 必死に否定するが故に、逆に疑いを深めていくレティシア。


「……もしかして、公爵達に脅されていたりする? そんなの許さないわ。隠さずに言って」

「ちちち、違います! 旦那様は関係ありません!」

「じゃあ何? ルネ、何か隠してるもの。わたくしの為だとしても、貴女がそんなに狼狽えるなんてよっぽどだわ」

「本当に大丈夫です!」


 ルネはブンブン首を横に振って、必死に否定している。


 けれどレティシアからすれば、それは悪手だ。疑いがどんどん深くなる。


 しかしこのまま問い詰めても、ルネは口を割らないだろう。ここは攻め口を変えるしかない。


 レティシアは眉を下げて、声を震わせた。


「そうよね……。わたくし最近ルネに頼りっぱなしだものね。……おまけに体調まで崩して。これじゃあルネはわたくしを頼るなんて、到底無理な話よね。ごめんなさい」

「そ、そんな! 違います! お嬢様、私はお嬢様にお仕えすることが出来て幸せなのです。本当です」


 掛かった。レティシアは心の中でニヤッと笑う。申し訳ないと言う気持ちも少なからずあるが、わかりやすく隠すのがいけない。


 コレット関連で図らずも演技力の磨かれた、レティシアのそれは迫真だった。


 ルネの罪悪感をざっくり抉り、オロオロしている様子を見ながらレティシアは続ける。


「けれど、わたくしには言えない事なのでしょう……? わたくしはルネに頼ることを教えて貰ったのに、ルネはわたくしを頼ってはくれないのね」

「お、お嬢様……」


 ルネが顔を歪ませ、泣きそうな表情になる。


 流石にやりすぎかな、と思いつつもここまでして言わないのは予想外だ。


 それほどまでにレティシアに言えないことは何だろう。


 これ以上押しても無理だなと判断して、引こうとした時だ。


「お嬢様、申し訳ありません」


 突然第3者の声が聞こえた。ここでレティシアをお嬢様と呼ぶのは2人しかいない。


「ジョゼフさん」

「ルネ、だから言ったんですよ。貴女は隠し事に向いていないのですから、少しお嬢様と距離を取った方がいいと」

「で、でも」

「それでお嬢様に心労をかけては元も子もないでしょう」

「うっ……」


 ルネはぐうの音も出ないようだ。


 ジョゼフはレティシアに向き合っていった。


「お嬢様、実はジルベール殿下からドレスの件について話があったのです」

「え? ルネとジョゼフに?」


 ジルベールはルネとジョゼフと親しいことなんて、知らない筈だ。


 首を傾げていると、ジョゼフは笑った。


「いいえ。旦那様にです。卒業パーティーのドレスはこちらで用意するから、心配しないで欲しいと言っていたそうです」

「まあ。今までももしかして、そうだったのかしら?」

「そうでございます。ジルベール殿下が用意される場合には、旦那様に確認されていたものですから」


 レティシアは昔のことを思い返し、確かに言われてみればバンジャマンとジルベールは、ドレスを買うタイミングが重なっていなかったことを思い出した。


「そうだったのね。それにしてもルネはなぜ、そんなに挙動不審なのかしら? いつものことなのでしょう?」

「お嬢様、ルネがお嬢様付きになったのはつい最近でしょう?」

「そうだったわ。それまでルネも酷いことされていたものね」


 納得するレティシア。


 ところでルネがレティシア付きになったというが、バンジャマンから正式に言われているわけではない。


 あくまでジョゼフが認めたので、ルネはレティシアにべったりというわけだ。


「ごめんなさいね、ルネ。けれどそのくらいなら話しても良かったのに」

「申し訳ありません、お嬢様。私があまり口外するなと言ってしまったもので」

「いいえ。それでそのドレスの件なのだけれど、わたくしは殿下からドレスを頂くのは申し訳ないから辞退しようと思うの。体調不良を理由にしても大丈夫かしら?」

「お嬢様、それは男の矜持が……」

「ああ……」


 そうだ。王侯貴族は見栄というものがあった。


 捨てる気満々なので頭から抜けていた。ということは避けて通れないと。


 レティシアは項垂れるしかなかった。

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― 新着の感想 ―
逃げれる時に逃げておくべきでした、レティシア嬢。 でもなぁ、6年もの間婚約者だったのになーんにも気が付かず、アルカイックスマイルで歩み寄りもしなかった男だからなあ。顔が好みでも、ストレス負けするレティ…
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