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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第2章

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61.ジョゼフとクラリス


 レティシアが療養に集中して、また時間が経った。


 その間にジョゼフの妻、クラリスと話す機会があった。


 クラリスは綺麗な白髪を結い上げてある、目元のシワすら美しいと思えるような女性だった。


 とても気配り上手で、距離の詰め方が絶妙だ。


「レティシア様、今日は私とお庭を散歩しませんか? とても良い天気です」

「喜んで」


 ゆっくり庭を歩く。暖かい日差しと風がレティシアの髪を梳く。心地よかった。


「とても気持ちいいですね。花もとても綺麗で、癒されますわ」

「ええ。レティシア様のために、庭の手入れに力をいれております。気に入っていただけて何よりです」


 レティシアは心地よさに身を委ねていると、今まで聞きづらかったことを聞けた。


「クラリス様は、ジョゼフが亡命すると聞いて、どう思いましたか?」

「あの人らしいと思いました」


 それは力強い言葉だった。迷いの一切感じられない言葉。


「実はレティシア様の話は時折聞いておりました。私に相談を何度もされたものです。なので勝手ながら、レティシア様のことは孫のように思っております」

「それは、とても嬉しいですわ」


 ここに来てからの距離の取り方を踏まえると納得できる。

 

 レティシアが知らないところでも、気にかけてくれる人がいると良いうのは心強いものだった。


「亡命の話も聞いた時、むしろあの人がついていかないなんて言ったら、お尻を叩くところでしたもの」

「まあ!」


 優しげな雰囲気があるクラリスから、思いもよらない言葉が出て驚くレティシア。


「レティシア様、私たちに負い目があるようですが、どうかご自分の思うままに生きてくださいね。私はあの人の忠誠心の高さに惚れたのです。確かに初めの頃は、すれ違うことも多くて寂しい思いをしたこともあります。けれど、あの人はちゃんと私達も愛してくれていますよ」

「……引退を勧めたと聞きましたわ。その後、ご家族で過ごしたかったのでは?」

「ええ。そのつもりでした。それは否定しません。けれど、何も()()()でなくても良いのです。私達があの人の所へ行けば良いのですから」


 その言葉からは誤魔化している様子は一切ない。ジョゼフとの時間を取りたかったと否定されなかったけれど、続いた言葉にレティシアは驚いた。


 クラリスはレティシアを見て、微笑んだ。


「思えば、それが良いのかもしれません。だってあの人から仕事を取り上げたら、何をしたら良いのかわからなくなると思いますの。何せずっと仕事一筋だったのですから。引退したら一気に老けて魅力激減になりそうですもの」


 その言葉に、ジョセフとクラリスは支え合っているように見えて、実際はクラリスが尻にしいていることが判明した。


 頼り甲斐のあるジョゼフが、家では妻に頭が上がらない様子を想像して、笑ってしまう。


「やっと笑いましたね。良かった」

「あ……」

「ここに来てから、愛想笑い以外なかったものですから。良かったです、本当に」

「クラリス様達のおかげですわ」


 レティシアも久しぶりに心から笑ったことで、軽くなった感じがした。


 きっとやきもきすることもあっただろうに、辛抱強く接してくれて感謝しかない。


「ジョゼフや、ルネさん、それからクロードさん達にもお知らせしましょうね。きっとお祭り騒ぎになるわ」

「それは……ちょっと、一旦冷静になって欲しいですわ」


 本当に、比喩なくお祭りになるだろう。嬉しいけれど恥ずかしいので、少しだけ遠慮してくれるとありがたい。


「それは難しいでしょうね。皆さん、レティシア様のことが大好きですから」


 その後、報告を聞いたルネ、ジョゼフだけでなく、クロード達まですっ飛んできて喜んでくれていた。


 そしてクラリスの言う通り、お祭り騒ぎとなったのだった。



 ◇◇◇



 それから、レティシアは医師の判断もあり、学園に行くことが認められた。


 もちろん、このジョゼフの家からの通学できる。


 学園に行けるとなったのは、レティシアの体調だけではない。学園もレティシアの噂が下火になっているからだ。


 その状態であれば、レティシアが登校したところで大きな騒ぎにはならないだろうと判断した。


「とはいえ、わたくしが登校したら、色んな噂が飛び交うことは必至よね」

「……それが貴族というものですから。大丈夫ですか?」

「わたくしのストレスの大半、いえ全部リュシリュー公爵家よ? 大丈夫だわ」


 今は就寝前の準備をしているところだ。とはいえ、ルネと談笑しているだけなのだが。


「ルネは何か聞いてる? 学園のこととか」

「最近お嬢様にべったりだったので、情報収集のお話をすっかり忘れていました。申し訳ありません」

「いえ、それは感謝しているわ。大丈夫よ」


 けれどその話をした途端、ルネの雰囲気が変化した。


 何か隠し事をしているような気がする。


「……ルネ、何か隠している?」

「へえっ⁉︎ あ、いや! そのっ」


 ストレートに聞けば、ルネは大袈裟なくらい反応した。これはもうクロである。


「学園のことなら話して欲しいわ。何も知らないまま行くのは、対処しづらいもの」

「い、いえ。学園は関係あると言えばありますし、ないと言えばないです」

「どっちなの?」


 おろおろしているルネに、問い詰めようか悩む。


「も、申し訳ありません。う、上からの指示で、黙秘します!」

「上から?」

「上からです!」


 てっきりバンジャマン達の指示かと思ったが、そうだとしたら逆にルネは教えてくれる。


 仔細まで言わなくとも、それとなく匂わせてくれるのだ。


 となるとジョゼフか。それにしても様子がおかしい。こんなに不安げな様子は見せないだろう。


 けれどそれ以上の上が分からず、気の毒になったので、追求するのを諦めた。


「とりあえず。ルネに不利益があるのなら、言ってね。わたくしにできることならなんでもするわ」

「うう。申し訳ありません」

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― 新着の感想 ―
え?ルネの反応が不穏。公爵じゃないとしたら殿下かその上の国王夫妻に丸め込まれた?
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