59.ジョゼフの家に行く事になりました
ジョゼフの家。ジョゼフは住み込みという形で公爵家に仕えているが、ちゃんと家はある。
そもそも公爵家の執事長になる程の人間なのだ。元々しっかりした家の出なのである。
そう言えば、亡命の計画を話した時にそろそろ引退を家族に勧められていると言っていた。
公爵家に仕えていると、どうしても家庭は後回しにされてしまう。それが貴族として珍しくない事とはいえ、一緒に過ごしたいから、家族はジョゼフにそろそろ帰って来て欲しいと言っていたのだろう。
「けれどわたくしが居候すれば、ご家族に迷惑がかかるわ。それに、どんな噂が立つことか……」
公爵家の長女が来るとなれば、神経を使うだろう。レティシアが気にしなくても、相手はどうしても気を遣うことはクロード達で理解している。
どうせもう後数ヶ月で亡命するのだし、と考えてジョゼフはレティシアについて来る気だと思い出した。
「問題ありません。先に家族に説明していますので」
「早いわね……。ねぇ、ジョゼフ。ご家族に亡命の事は話しているのかしら? ご家族の事も考えたら――」
「……本当に、お嬢様は……」
ジョゼフがレティシアの言葉を遮って、手をぎゅっと握り直す。
「ジョゼフ?」
「お嬢様、貴女はご自分を蔑ろにし過ぎです。こんな状況なのに、何故私の家族の心配をするのですか」
「だって……」
ジョゼフだって家族がいるではないか。レティシアの都合にジョゼフを付き合わせて、家族が寂しい思いをしたら意味がない。
レティシアは、誰かを犠牲にして幸せになりたいわけではない。
そう思うのだが、ジョゼフはその健気さが逆に悼ましく写った。
「ええ、お嬢様の考えることは分かります。なので、もう手続きを済ましていました。今からでも、お嬢様は私の家に行けます」
「事後承諾じゃない……」
仕事が早いというか何というか。
「公爵にも許可はもぎ取っております」
「……それじゃあお言葉に甘えようかしら」
根回しは完璧だと言われれば、レティシアはもう断れない。
ジョゼフからしたら、レティシアから行きたいと言わせた方がレティシアの為になると思っていた。しかし想像以上にレティシアが、自分も蔑ろにするので強行突破せざるを得なかったわけだ。
「お嬢様はまだ動くのは辛いでしょう。本当は今すぐにでもお連れしたいのですが、流石に体調悪化の可能性もあります。もう少し回復してからにしましょう」
「……そう言えば学園は?」
少しずつ思考が戻ってきた。学園はこの1週間休んでしまったのは仕方ないが、あまり欠席を長くしたくない。
「暫く休みましょう。というより、行ける状態でもないでしょう?」
「それはそうだけれど……。オデット様とわたくしの処遇もあるでしょう?」
そうだ。オデットの事も気になるし、自分の処遇も気になる。何せ嘘とは言え、自白したのだから何かしら処罰されると思ったのだが。
「今は考えなくて良いですよ。ただでさえストレスが溜まっているんです」
ジョゼフにそう言われてしまえば、何も言えなくなってしまう。
無言になった頃に、ルネが温かなポタージュを運んできた。
「お嬢様、どうぞ」
「ありがとう」
膝の上にトレーを置いて、簡易なテーブルのようにする。ほこほこと湯気を立てているポタージュ。
スプーンを入れれば、トロリと満たされる。
口に入れると、そのとろみがゆっくり口に広がる。嚥下すれば、その通りが温かくなるのを、感じた。
味は分からないけれど、その感覚が心地良くてレティシアは息を吐く。
「お嬢様、ゆっくり食べてくださいね。その間にジョゼフさんから話を聞いておきますから」
「ええ」
ルネに言われ、レティシアはポタージュを食べる事に集中する。
2人の話をぼんやり聞きながら、ゆっくり時間をかけて平らげた。
スプーンをトレーに置いて2人を見ると、ちょうど話が終わったらしい。
ルネがにっこり笑いながら、片付ける。
「良かったです。お嬢様、ここにいたら本当に悪化しますから。早く動けるくらいに回復すると良いですね」
「ええ」
「私も許可が出たので、ご一緒できます」
「仕事が本当に早いわ」
外堀埋められている感じだ。
体が温まったからか、睡魔がレティシアを襲う。
うつらうつら舟を漕いでいると、ルネがそっとベッドに横にならせてくれた。
「ゆっくり休んでください。今のお嬢様には、それが1番必要です」
「ええ……あり……がとう」
眠気に抗うことなく、辛うじてお礼を言うと意識を手放した。
◇◇◇
レティシアはそれから1週間程、寝ては食事をするということを繰り返した。
体がどうにも重く、お腹が満たされるとすぐに眠くなってしまう。
けれどそのおかげか、体は順調に回復した。
まだ精神的ダメージが大きいので以前ほどではないが、それでも動けるようになった。
時折医者も来て、レティシアの様子を診る。
医者がレティシアの部屋に来た時、驚いてしまったレティシアだ。何せ風邪を引いても、医者は積極的に呼ばれなかった。
診察の後、ジョゼフの家に行けると判断されたので、ジョゼフとルネが直ぐに準備を始めた。
次の日には行けるようになったので、本当に仕事が早い。あっという間に、ジョゼフの家に行く事になった。
少ない荷物を持って馬車に乗り込む。3人でジョゼフの家に向かう。
見送りに、バンジャマンとジュスタンは来なかった。
今、レティシアが2人と接触すれば、また悪化してしまうかも知れないという医者の見解だ。
レティシアは、バンジャマン達のことはあれからあまり考えていない。
いや、頭に過ぎることはあるが、直ぐにモヤがかかるように消えていくのだ。
きっとレティシアの自己防衛なのだろう。
この後どうするかなんて、全く考えられないまま、流れてゆく外の景色を眺めていた。
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