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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第2章

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55/94

55.うまくいったはず……ですよね?


 ジルベールに連れてこられたのは、生徒会室だった。


 既にコレット、ドミニク、マルセルもいる。ジルベールは授業の終わりとほぼ同時に声をかけてきたのに、随分早いなとレティシアは思った。


「レティシア。座ってほしい」


 当然のように椅子に導かれる。ジルベールは椅子を引いてレティシアをエスコートした。


 それは淑女として叩き込まれたこと。レティシアも自然に椅子に座る。


「すまないね。教室で話せば、要らぬ憶測も増えると思ったから」

「かまいませんわ。それで、なんのご用でしょうか?」

「それはさすがに苦しいことは分かっているだろう?」


 まあ、オデットのあの発言の真意を確認するためだろう。


 レティシアはイーリスの祝福の自分を思い出す。


(……きっと、ここでわたくしは何も知らない。と言うことを期待しているのでしょう。それはイーリスの祝福の彼らも同じだったのですから。けれどわたくしがやることは、イーリスの祝福同じ。つまり、彼らの期待に応えないことです)


 状況としてはマルセルルートに酷似している。けれど場所が違うし、聞いてくる人物も違う。


 マルセルルートでは、人目があるところでレティシアは問いただされた。いつまで経っても何も言わない、否定も肯定もしないレティシアにマルセルとコレットは、絶望したのだ。


(沈黙は、冤罪と分かりきっているときにするものでもないでしょう。少なくともわたくしはそう思います。……殿下達もそうでしょう。やましいことがあるから何も言わないと受け取られることを、わたくしは望みますわ)


 自分の方針を固めていると、ジルベールもレティシアの向かいに座る。そのあとに、コレット達が座った。


 状態としてはレティシアに対して、4人が対面で座っている状態。どんな圧迫面接だとレティシアはどこか他人事のように思った。


「それで、ブローニュ嬢のことだけれど。今朝のブローニュ嬢の最後の言葉、実際はどうなんだい?」

「……」


 ジルベールの問いに、レティシアは答えない。ただ静かにジルベールを見つめるだけ。


 その瞳には、なんの感情も乗せない。


 ジルベールは黙秘するレティシアに、質問を変えた。


「近衛兵から早馬でブローニュ嬢のことを聞いたんだ。まだレティシアが黒幕だって騒ぎ立てている。何か思うところはあるだろう?」

「……」


 マルセルルートと酷似しているが、やはり相手がジルベールとなると少々やり辛い。


 何せ先ほどからジルベールの言葉に、何か裏を感じてしまうのだ。


(何でしょう、この言いようのない寒気のようなものは。オデット様の言葉を信じているようには見えません。それどころか、”そんな事するわけないだろう“という圧を感じる気がしますわ)


 チラリとレティシアは視線を走らせる。するとどうだろう。コレットもドミニクもマルセルも、まるで何か祈るような表情をしている。


 それはレティシアが黒幕だと信じたくないと言うような感じではなく、まるで――


「レティシア? 何か言ってくれないと、何もわからないよ?」


 ジルベールの言葉に、思考に集中していたことに気がつく。


 さすがに無言のままでは解放されないと悟り、レティシアは口を開いた。


「……殿下、その質問は愚問ではないでしょうか?」

「どうして?」

「ここにわたくしを呼んだ時点で、答えは出ているのでしょう?」

「そんなことはない。私はレティシアの言葉を聞きたいんだ」


 そういえばマルセルルートでは、マルセル達の疑心暗鬼がレティシアに伝わってしまって、レティシアも弁明を諦めたのだった。


 今回はどうだろう。多少の疑いの気持ちがわかれば、レティシアも動きやすいのだが、いかんせんジルベールの思考が読めない。


 今までの出来事を振り返れば、レティシアをジルベールは信用していないと判断出来ただろう。


 それなのに何だろうこの違和感は。


 ジルベールの目は、凪いでいるようで、激情を閉じ込めているようで。


 レティシアの背中にゾクリとしたものが走る。


「……オデット様の取り調べが終われば自ずと分かることでしょう? そもそも、そう言ったことに殿下は干渉出来ないのでは? それなのに言う必要はあるのでしょうか?」


 レティシアの言葉に、コレット達は絶望的な表情を浮かべる。その反応を見て、レティシアは上手く切り返せたと光明を得た。


 きっとコレット達は、レティシアが黒幕だと思い込んだだろう。


 それでも未だ違和感を感じているのは、目の前にいるジルベールのせいだ。


 笑みが深くなるのと反比例して、部屋の温度が下がっている気がする。


 思わずゴクリ、と喉を鳴らすレティシア。


 沈黙を破ったのは、ドミニクだった。


「……殿下、時間切れです」

「延長で」

「無理なことは分かっているでしょう」

「……」


 ジルベールの笑顔は崩れない。それでもドミニクの言葉に、否は唱えなかった。

 

(殿下はこの後ご公務でもあるのかしら? お忙しいのにわたくしのために時間を割くなんて……)


 ジルベールはゆっくり瞬きをすると、レティシアに言った。


「分かったよ。今日はこの辺で。レティシア、わざわざありがとう」

「……いいえ。では失礼いたします」


 レティシアはジルベールにカーテシーをすると、生徒会室から退出した。


 動悸のする胸を押さえながら、帰り支度をして馬車へ向かう。


 幸いにも生徒達はおらず、静かに歩く事が出来て煩わしさはなかった。


 馬車に乗り込んで、1人の空間になると大きく息を吐いた。知らずのうちに体に力が入ってたのか、どっと疲れが押し寄せてきた。


(上手くいきましたわよね? それにしてはなんだか殿下の様子が思ったものと違いましたが。コレット様達の反応を見る限り、上手く言っていると思うのですが。何でしょうこの胸騒ぎは)


 一難去ってまた一難。オデットのことは想像通りだったはずなのに、焦燥感に駆られるレティシアだった。

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