51.殿下はやはり素晴らしい方です
生徒会が平民と貴族の壁を無くそうとしているのは、本当だったらしい。
オデット以外にも、その話をしている生徒は大勢いたのだ。連日、彼方此方でそれに関する意見が交わされている。
「何か良い案がないか、殿下達も意見箱を設置するそうですわ」
「例えば成績順でクラス分けなどどうだろう」
「平民如きが貴族と同列になんて、ちょっと流石に……」
「別の問題も出てくるぞ。これでバカな者が調子に乗ったらどうする?」
「そうならないように、何かしら必要だろう」
……とまあ、このようにとても活発に議論されている。どの意見も、貴重で有意義なものだ。
この国が王政である限り、完全な身分の壁は無くならない。それは誰しも分かっていることだ。
この学園で身分差を取り払いましょうと動いたとしても、卒業後はどうしても身分差を感じることはあるだろう。
だからと言って、全て身分で片付けることを今の国王は良しとしていない。
ジルベールも陛下と同じ考えなのもあって、今回の事を進めているのだろう。
(とても難しい問題ですわ。ですがこれの下地が出来た時、殿下は脚光を浴びるでしょう。もしかしてコレット様のこともあるけれど、王太子になるための最終試験とかあるのでしょうか? 弟君も優秀ですし、ここで絶対的な地位が必要とか)
そんな風に思いを馳せているレティシアだが、今回のことには一切干渉するつもりはない。
理由は単純。ここでジルベール達の計画に反対した方が、亡命計画を進めやすいと判断したからだ。
ジルベール達がまだ本格的に動いていないので、レティシアも傍観の体をしているが、後々反対派に回ろうと考えている。
(生徒会に入っていないことで、より価値観の違いが見せつけやすくなりましたわ。それにちょうど良い存在もいることですしね)
レティシアの視線の先には、嫌悪に顔を歪ませたオデットがいる。
どう考えても反対派に回ることにするだろう。そのオデットといれば、自然とレティシアも反対派に数えられることになる。
レティシアの望んでいる方向に、事は進んでいる。
そんな風に考えながら、レティシアはオデットに声をかけた。
「オデット様、せっかくの可愛いお顔が台無しですわ」
「っレティシア様はこのままでも良いんですかぁ? このままじゃ特待生に良いようにされてしまいますわぁ」
「生徒会ではないわたくし達では、今は出来ることはありませんもの。感情的に動いては、勝てる勝負も勝てませんわ」
「うう、でも……」
オデットは悔しそうな顔をしている。目が早く潰そうと言っているのを、気がつかないフリをした。
(そう、そのままフラストレーションを溜めてくださいな。予想外の暴走させるつもりはありませんが、貴女に暴れてもらうのが、わたくしにとって都合が良いのですから)
◇◇◇
それから本格的に動き出したジルベールはただ意見を募集することだけでなく、平民と貴族の壁がなくなることのメリットを演説するようになった。
平民が被害を受けないように、けれど貴族の矜持も失われないような絶妙なラインを示している。
それにより最初は反対の意を示していた生徒達も、徐々にジルベール達につくようになる。
(さすがは殿下ですわ。人心掌握術が完璧です。こんな短期間で味方を増やすなんて、そうそう出来ることではありませんわ。やはり国のトップに立つに相応しいお方、何としてでも殿下に汚名をきせずに亡命したいものですわ)
早いもので、生徒会が動き出してから数ヶ月経っている。その間にどんどん支持者を増やしていくジルベールには感嘆するほかない。
そんな中でもオデットは反対派の中心として動いている。自ずとレティシアも、オデットの後ろ盾として見られるようになっていた。
ちなみにだが、レティシアはこの間、学園では殆ど何もしていない。ただオデットの言葉に耳を傾け、微笑んでいただけである。それなのに、反対派のボスとして扱われているのだから、最早笑うしかない。
(こんな何もしていないのに、反対派の皆様に祭り上げられることなんてある意味凄いわ。そこはオデット様だと思うのだけれど、きっと爵位の関係上わたくしを上にしているのね)
ちなみにジルベールがこれから仲を深めたいと言った割には、この数ヶ月、2人きりになったことはない。口先だけだったのか知らないが、レティシアにとってはありがたいことである。
またジルベール達が関わってこないおかげで、ロチルド商会の方に労力を割くことが出来た。そのお陰で、もう亡命の準備も佳境を迎えている。
オデットの望まない方向に進んでいっているせいか、最近余裕がないのがよく分かった。元来、人にチヤホヤされないと気が済まない性格である。それに加え、コレットが段々と皆に支持されるようになった。
レティシアとしては、特待生でジルベール、レティシアに次ぐ成績の持ち主であるコレットの正当な評価だと思っている。
しかしオデットはそれが許せないのだろう。よく爪を噛んでいる。
そしてそろそろ、ジルベール派とレティシア派の戦いは決着がつきそうだ。
その原因はオデットである。自分がチヤホヤされない状況、そして反対派の人数が減り、コレットが注目を浴びているのがよほど憎いのだろう。
その感情を増幅させる為に、レティシアはあまり動かずにいたのだ。待っているだけで、オデットはどんどん追い詰められていく。
2年生の時のように、コレットを虐めてストレス発散は出来ない。今やいろんな生徒がコレットの周りにいることで守られているのだ。
レティシアが虐める必要はほとんどなくなったので、そこだけは諸手を挙げて喜んだ。
そしてフラストレーションが頂点に達しそうな頃、オデットはレティシアに詰め寄ってきた。
ここは特別教室。レティシアとオデットしかいない。
「レティシア様っ。このままではいけませんわ! 良いかげんどうにかしないと、あの特待生が!」
「そう言われましても、オデット様。もう反対派も多くありませんわ。やはり、殿下の人脈には勝てないのです」
「そんなっ! 諦めるのですか⁉︎ もう最近ではあの特待生が、殿下の婚約者に相応しいとまで言われているんですよ⁉︎」
「……ええ、知っておりますわ。わたくし、殿下の為に努力してきました。それがこうなってしまうとは……」
悲しげな表情をするレティシアに、オデットは猫撫で声を出す。
「ひどいですよねぇ。レティシアさまぁ、このオデットに良い案があるのですぅ」
「良い案、ですか?」
急にいつも通りの話し方になったオデット。内心でレティシアは、ちゃんと喋れるんだと感心してしまっていたが故に、落胆してしまう。
「はい! あの生意気な特待生を堕として、レティシア様がまた返り咲くのですぅ」
「まあ」
「どうか、このオデットに任せてくださいませんかぁ?」
「どのような案なのでしょうか?」
「簡単ですぅ。暴漢に襲わせましょう! そうすれば傷物になった平民なんて、直ぐに終わりですよぉ」
やっぱり短絡的だった。予測していた答えの一つだったので、特に驚くことはない。
けれど表情は驚いて、口元に手を当てる。
「そんな、女性にそんなことをするなんて……」
「ここで引いたら、特待生の思うつぼですよぉ! あ、暴漢の手配は任せてください! レティシア様のためですからぁ」
「オデット様……」
オデットは醜悪な笑みを一瞬見せた後、甘ったるい笑顔を見せて教室から出ていった。
ここで止めなければ、コレットは暴漢に襲われる。
(ま、ロチルド商会に聞いて、ある程度の目星はついていますわ。後はオデット様が依頼をしたら、わたくしが動く番ですわね)
面白いように、オデットはレティシアの思った通りに動いてくれている。
レティシアが凄いのではなく、オデットがあまりに単純すぎるせいである。
(噂で聞く限りでは、コレット様と殿下はそんな勘違いされるような仲ではなさそうですわ。何せ接触は生徒会室だけで、他の生徒会員もいる状態。教室ではそんな絡みはなし。なのにそう言ってくるオデット様はよほど色眼鏡で見ているのか、わたくしを追い詰めるための嘘かどちらかですわね)
とにかく、オデットの依頼先を確認しようと、レティシアはロチルド商会に行く日程のすり合わせをした。
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