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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第2章

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50.わたくし、演技が上手い様です


 ジュスタンが倒れて暫く経過したが、あれ以来屋敷の方でも平和が訪れた。


 レティシアはジュスタンがバンジャマンにお見舞いの内容を報告するかと思っていたが、意外にも誰にも話していないらしい。


 バンジャマンからの呼び出しもなければ、使用人達の態度が悪い方向に変わることもない。


 今までだったら、間違いなくジュスタンはバンジャマンに事実を誇張して言いつけ、レティシアが叱責されるのを楽しんでいたのに。


 体調が回復し、ベットから起き上がれるようになっても、それは変わらなかった。


 それを鑑みれば、確かにジュスタンは変わろうとしているのだろう。さしものレティシアも、そこは認める事ができた。


 だからといって、『赦す』かと言うと絶対有り得ないのだが。そのままレティシアのことは、諦めて欲しいと願うばかりだ。


 ジュスタンの顔色は良くないが、後継者教育に精を出しているらしい。ジョゼフが近況として教えてくれた。


 ジョゼフはこれまでの流れで、ある程度レティシアに情報を流しておいたほうが逆にレティシアの負担も減るとわかったらしい。レティシアも対処しやすくなることに気がついたので、定期的にジョゼフやルネから情報を聞いている。


 あれ以来、ジュスタンもレティシアのところに来てはいない。バンジャマンも必死こいてレティシアと接触しようとはしなかった。


 ただどうしても同じ屋敷に住んでいれば、すれ違うことはある。それでも挨拶だけして終われるのだから、とても楽だ。


 正味今が一番、屋敷内が平和まである。


 学園でも、皆変化した環境に慣れるのに必死なのだろう。チラチラ視線を感じることはあれど、何かされる、言われると言ったことはない。実際、授業の難易度もグッと上がった印象だ。


 そんな状態がしばらく続いた。しかし、生きていれば状況は変化していくものだ。



 ◇◇◇



 その情報は、オデットからもたらされた。


 いつもの様に猫撫で声で、レティシアに噂話を持ち込んでくる。


「レティシアさまぁ。大変な事を聞きましたのぉ」

「まあ、大変な事とは何ですか?」

「実は生徒会の中での話なのですがぁ、あの特待生が色々相談しているらしいんですぅ」

「色々相談……? どのようなことでしょうか?」


 オデットは生徒会ではない。どこから情報を仕入れたのだろうと、レティシアは純粋な疑問を感じる。


 けれど先に噂を聞いた方が動きやすいだろうと判断し、オデットに続きを促す。


 ちなみにその生徒会メンバーは席を外している。学園を取りまとめる立場だ。忙しいのだろうとレティシアは思った。


「それがなんと、この学園での貴族と平民の壁を無くそうとしたいそうなんですぅ。何とも図々しいですよねぇ。生徒会に入ったからといって、調子に乗っていると思いませんかぁ?」

「まあ、そんなことが」


 レティシアは驚いた風を装いつつ、コレットの考えについて推測する。


(きっとご自分の境遇を考えてのことでしょうね。生徒会に入ったことで、目に見えてのいじめもなくなりましたわ。それどころか、同じ平民の生徒の羨望も集めていると聞きます。コレット様のことですから、後輩が同じ目に合わないようにとも考えておられるのでしょう。ああっなんて慈悲深いコレット様……! 素晴らしいですわ)


 途中から妄想がはいってきているが、レティシアはそんな内心を出すことなくオデットとの会話を続ける。


「具体的な話は聞いていますか?」

「それがぁ、何かまでは決まっていないそうなんですぅ。それでも問題だと思いませんかぁ?」


 具体的な話まで分かれば、もう少しこちらの行動も考えられるのだが。とレティシアは考え込む。


「それにしてもぉ。殿下の考えにも驚きましたよぉ。普通だったら、レティシア様が生徒会副会長ではありませんかぁ? それなのに、特待生を任命するなんてぇ」

「……」


 その言葉にレティシアは、そっと視線を下げる。もちろん、ショックを受けているように見せているだけの演技だ。


 レティシアの態度にまんまと騙され、オデットは都合よく解釈する。


「大丈夫ですよぉ、レティシアさまぁ。私がついておりますぅ。特待生なんて、レティシア様が動けばすぐに潰せますよぉ」

「……殿下には殿下のお考えがあるのでしょう。わたくしが何か言える立場ではありませんわ」

「えぇ⁉︎ だって婚約者ですよぉ⁉︎ それなのに、レティシア様より特待生をとっているんですよぉ⁉︎」


 貴族令嬢らしく、しおらしい態度を見せるレティシアに、オデットはさらにレティシアの自尊心を刺激する言葉を放つ。


 こういうところは本当に、頭の回転が早いなと思うレティシア。けれど感心している場合ではない。


「……わたくしは……」

「レティシアさまぁ。あの特待生の下にいて良いんですかぁ? このままだと、殿下も……」

「っ。少し1人にしてくださいませ。失礼します」

「あ! レティシアさまぁ!」


 余裕がない表情でレティシアは椅子から立ちあがると、そのまま教室から出る。


 出る瞬間にコッソリとオデットを見れば、その表情は嬉しそうに歪んでいた。


 予想通りの反応を見せたオデットに、レティシアはうまく演技が出来たようだとホッとする。オデットには追い詰められているように、その他の生徒からは凛とした姿勢を崩さないようにする。そうすれば多少の煩わしさからは逃れられるだろう。


 態度の違いに不審に思われる可能性もあるが、オデットからすればレティシアが素の自分を見せていると都合よく解釈できるだろう。


 その他の生徒は関わりがないので、こちらに来させなければ良い。


(とりあえずこれで良いですわ。いきなり殿下達に反論するのも、断罪の時期が早まってしまうでしょうし。あの場に殿下達がいたら、あんなしおらしい態度だと罪悪感を与えてしまうかも知れません。いなくて良かったですわ)


 タイミングが良いというより、オデットが人目を選んで話しかけたと言うべきだろう。話し出すと視野が狭くなる彼女だが、多少は周りを見る事はできる。


 ただこれではコレット達の恋愛模様は見れなさそうだと、落胆する。きっとこれからもイベントは起こるだろうけれど、大部分は生徒会室で起きそうな予感だ。


 これまでだって、イベントの場所が違うことは多々あったのだから。


(とても残念ですわ……。屋敷も学園も娯楽がない今、コレット様の恋愛イベントを見るのが一番の癒しでしたのに。ああっコレット様は誰を選ぶのでしょう! 性格上では殿下のルートは可能性が低いでしょうが、わたくしがいなくなった後、誰が殿下を支えるのでしょうか。殿下の婚約者になり得る令嬢はほとんど婚約が決まっていますし、コレット様以外当てはまる人がいませんわ。ああ、でも、コレット様には本当に好きな人と結ばれて欲しいですし、ここで殿下を願うのは違いますわ。ええ、殿下の婚約者は何も、国内にいなくとも国外で探せば見合う方がいるはず……)


 どんどん妄想が膨らんでいく。最近はバンジャマン達のせいで、妄想する余裕がなかったのでその分反動で、妄想が広がってしまっている気がする。


 これ以上はレティシアが考えても、動かしようがないことなので一旦思考を止める。


(はあ……この状態でわたくしが出来ることと言えば、亡命の準備を進めることと、コレット様達の行動に注意するくらいですわ。……あら? この流れ、最初の頃とずっと変わっていないですわ。けれどコレット様達の行動は多少のズレはあれど、わたくしの望んだ通りに進んでいるのですから、これはこれで良いでしょう)


 結局行動自体は変わらないが、時と物事は動いているのだ。



 ◇◇◇



 次の日から、オデットが執拗に絡んでくるようになった。


 レティシアの演技に騙され、自分が一番レティシアの懐に潜り込めていると勘違いしているらしい。


 レティシアは自分の演技を自画自賛したくなった。その反面、オデットがうざったく感じてしまうが、作戦が上手くいっているのであれば我慢も出来る。


 オデットはレティシアの味方のふりをしながら、時折棘を刺してくる。


 本当の味方とはどのような関係か、身をもって知っているレティシアからすれば、オデットの味方のふりの拙さが分かってしまうのが笑えてしまう。


 この程度でレティシアの懐に入り込めていると思えるオデットこそ、本当の味方とはどのようなものか知らないのだろう。


 いっそオデットが哀れだった。

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