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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第2章

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49.【幕間】贖罪のやり方とは? ④


 アマンディーヌとの会話を終えたバンジャマンは、レティシアへの贖罪のためにどうすれば良いか考える。


 だが1人で考えても良い案が思い浮かばず、自分だけで考えても仕方ないと、ジュスタン、それからジョゼフに相談する事にした。


 まずはアマンディーヌと会話したと2人に話す。


 初めは信じられないような表情をしていたジュスタンだったか、イーリス神の加護の話を思い出し、半信半疑と言った表情で言った。


「母上が……? そんな事を……」

「ああ。きっとイーリス様のご加護だろう」

「そうですか……。父上、ドミニクに言われたんです。俺はレティシアを言い訳にして逃げているだけだと。レティシアは俺以上に、努力しているんだと」

「……きっとアマンディーヌもそう思っていたんだろう。私が全ての元凶で、お前達に格差を与えたからジュスタンも歪んだ……と」


 ジュスタンは拳を握りしめて俯いている。母にすら、歪んでいると思われたこともショックだったが、レティシアへの悔恨も強く感じた。


「俺、ドミニクに言われて、レティシアに拒絶されて自分がわからなくなりました。……今まで積み上げてきたものは、何だったんだろうと考えてしまいます」

「……すまない。だが、アマンディーヌは諦めるなと言った。レティシアの態度は当然のものだから、諦めるなんて許さないと」


 バンジャマンの言葉に、ジュスタンは顔を上げる。辛そうな表情に、バンジャマンは奮い立たせる様に言う。


「ジュスタン、諦めるな。私と一緒に頑張ろう」

「父上。……はい」


 その一見見れば熱い親子愛であるが、前提があれば全く違う。ジョゼフは、2人を冷めた目で見ていた。


 もう手遅れである事は明白なのに、レティシアに負担をかけるだけだからだ。


 そしてこの2人が手を取り合う状況すら、レティシアからすれば傷つくことだ。それすら分かっていない。


 アマンディーヌの事が本当だとして、おそらく意見の相違があるだろう。


 奥方であった彼女のこともよく知るジョゼフは、アマンディーヌが言いたいことを理解できた。


 確かにバンジャマンは人の機微に疎いところがあったが、ここでもズレてしまうとは。自分の都合の良いように考えてしまうのは、まだフィルターがかかっているのだろう。


 ジョゼフはため息を吐きたいのを堪えるしかない。


 相談のために呼ばれた事はわかっているが、乗るつもりは無いため、2人が盛り上がるのを横目に気配を消していた。



 ◇◇◇



 バンジャマンとジュスタンは、話し合う内に大変な事に気がついた。


 レティシアの部屋の場所である。階は同じであるが、レティシアの部屋はバンジャマン達の部屋から離れている。しかも1番陽当たりの悪い部屋だ。


 2人は関係改善の努力をするならば、部屋を近くにした方がやり易いだろうと考えたのだ。


 その場にいたジョゼフは、頭を抱えてしまう。しかも今から準備して行動しそうな勢いだ。


「旦那様。まずお嬢様に意見を聞いた方がいいのでは?」

「何を言う。レティシアだって、私たちの思いを知れば了承するはずだ」


 駄目だこの人達。漏れそうな言葉を、ジョゼフは辛うじて飲み込んだ。


 最初から良い方向に変われる事など期待していないが、どうしてこうも自分本位なのだろうか。やる事が裏目に出すぎである。


 多少なりともレティシアの意見を尊重するならまだしも、レティシアも喜ぶだろうという勢いで進めていく。


 もう2人は違う生物だと、ジョゼフは思った。


 その後もジョゼフが留まるよう言うのも聞かず、使用人を集めてレティシアの部屋を移動させようと強硬しようとした。


 けれど驚いた事に、――ジョゼフからすれば当然のこと――レティシアはにべもなく拒絶した。


 その溝の深さに、バンジャマンとジュスタンは早くも心が折れそうになる。


 元より公爵家の人間として、持ち上げられて生きていたのだ。そう言った事に耐性がないのは当然である。


 とはいえ、所謂加害者側がダメージを大きく受けたように見せているようでいけ好かない。


 レティシアだって、見せてないだけで、彼らよりずっとずっと傷ついてきたのだ。


 執務室に戻って意気消沈する2人に呆れていると、バンジャマンがいきなりジョゼフを見た。余りの勢いに、思わずジョゼフは仰け反ってしまう。


「ジョゼフ……私達はどうすればいいんだ? どうすればレティシアに赦して貰える?」

「その思いを持っている限り、不可能です」


 遂にジョゼフから本音が溢れる。その言葉に、2人ともビシリと固まった。


 言うつもりなかったけれど、言ってしまったものは仕方ない。


 声も出ない2人に、ジョゼフは勢いのまま言葉を重ねる。


「そもそも、なぜお嬢様が赦さないといけないのでしょうか?」

「え」

「謝罪したら必ず赦さないといけないのですか? だったらこの国に司法などと言う機関は必要ありませんよね? 何故司法があるとお思いですか?」

「それは、犯した罪の贖罪を……」


 そこまで言って、バンジャマンは黙り込む。ジョゼフの言いたい事が伝わったようだ。


「その通りでございます。旦那様やジュスタン様が今行っているのは、贖罪に見せかけた、自己満足のアピールです。私は聞きました。“お嬢様の意見を聞いた方が良い”と。旦那様、そこでお嬢様なら喜んでくれると思っているのがおかしいのです。そもそもお嬢様が何をしたら喜ぶかなんて、ご存知ないでしょう? それなのに、分かったような口ぶりでお嬢様を語って。お嬢様の人格を勝手に決めているのと同義です。結局、旦那様の言うことを聞くお人形になることを、お嬢様に強要しているのです。それで思い通りの反応がなかったからショックを受けるなど、勘違い甚だしいですよ」


 滔々とバンジャマンを責め立てるジョゼフ。その勢いと内容に、バンジャマンとジュスタンの表情はどんどん暗くなっていく。


「旦那様とジュスタン様が今やっていることは、全て間違いです。むしろ悪手でしかないです」


 そのトドメの言葉に、遂に2人は撃沈した。反論の余地もない、ただただ自分の愚かしさを呪うしかない。


「では、どうすれば……」

「ジュスタン様、もう成人されたでしょう。それくらいご自身で考えてください」

「ぐっ」

「……と言いたいところですが、今までのことを考えるとヒントくらいは教えて差し上げないと、お嬢様が不憫ですね」


 その一言に2人の表情が、喜びとショックを映し出す。


「良いですか。そもそも赦してもらうなんて考えてはいけません。そんな甘い考えは今すぐ捨ててください」

「なっそれではアマンディーヌとの約束が――」

「奥様はそう言う意味で仰っていないはずです。これから生涯をかけて、贖罪に生きると言うことです。それは自己満足ではなく、お嬢様にその姿勢を見せ続けること。何があっても味方であり続けることです」

「……」

「そもそも、加害者が赦してもらうためにアレコレしても、被害者は重荷になるだけです。これで赦さないと、酷いことが起きるんじゃないかとか、周りの目が気になり出します。必要なのは、お嬢様に対する誠実な態度だけです。それを生涯やり続けても、赦してもらえない覚悟が必要です」


 バンジャマンは真剣に考え始めている。腐っても公爵家当主と、宰相を兼任している男だ。ヒントを与えれば、考えることは出来る。


 アマンディーヌがいた頃も、こうしてすれ違うたびにジョゼフは助言していたな、と急に思い出す。その時もこの様な表情をしていたり


 まあ家族に対しては、下衆の一言なのだが。あの頃を思い出したのだろうか。


「そうか。私は、そんなことにも気がつかない馬鹿者だったのだな。……ジョゼフの言う通りだ」


 ジョゼフは内心でホッと息を吐く。激昂でもされたら、改善の余地なしと、早々にレティシアを亡命させるところだった。


 これで暫く暴走は止まるだろう。


 問題は――


「……」


 黙り込んでしまったジュスタンか。


 暗い顔のまま、ブツブツ何かを言っている。確かに成人したとはいえ、まだひよっこの段階。


 のしかかるものはバンジャマンと同じ重さでも、それに耐えれるかはまた別の話である。


 今度はバンジャマンではなく、ジュスタンでレティシアはストレスを感じそうだ。


 あの美しく、我慢強い少女のストレスが少しでも軽くなるように、ジョゼフはバンジャマンとジュスタンの監視を強化することを決めたのだった。

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