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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第2章

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47.【幕間】贖罪のやり方とは? ②


 顔を青くさせている侍女長。震えていないのは、せめてもの矜持か。


 ジルベールはそんな侍女長の様子を気にすることなく、微笑みながら続けた。


「おかしいじゃあないかい? 先ほどレティシアは部屋じゃないかと貴女は言ったね? そもそも部屋にいないだけで、そんなに真っ青になる理由はない。となれば、レティシアはそもそも帰ってきていなんじゃないのかな?」

「そ、それは……」

「じゃあ、質問を変えよう。今日、レティシアが帰ってきた時、どんな様子だった?」

「い、いつも通りです……」

「いつも通りとはどんな感じなんだい? もっと詳しく教えてくれないかな?」


 答えられないだろう。だって、そもそもレティシアのいつも通りを知らないのだから。


 そして自分達を守るためのその言葉が、皮肉にも自分達を追い詰めることになった。


 バンジャマンもジュスタンも、何も言えない。

 

 ジルベールが口を開いた時、馬車の音が聞こえた。


 馬車を使うのは基本的に公爵家の人間だけ。それから導き出される答えを、ジルベールは容赦なく突きつける。


「おや、レティシアが丁度帰ってきたみたいだね。さて、私は使用人に騙されていたと言うことで良いのかな?」

「っ」


 侍女長の体が、遂に震え始める。


「ああ、大丈夫。怒ってなどいないさ。こんな仕事のできない使用人を公爵家が雇っていたのかと、驚いているだけだよ」


 雇い主の家族の行き先さえ知らないなんて、職務怠慢も良いところだとまるで歌うように言うジルベールだが、それが返って恐ろしく、公爵家の関係者は揃って体感温度が下がっていく。


 そこでバンジャマンは、このままではレティシアが出迎えられないことに気がつく。その様子をジルベールに見られるのは、あまりに具合が悪い。


 ジルベールが侍女長に質問した内容から、いや、王家の影の報告内容から、レティシアが普段出迎えすら受けてないことは知られていると分かっていても、実際のその様子を見られる訳にはいかない。

 

「おい、レティシアを出迎えるんだ」


 バンジャマンは慌てたように、その場にいる使用人全員に通達する。


 第一王子がいる場所で、文句を言うわけにもいかない使用人達は慌てて出迎えに行った。


 けれど、それだけで誤魔化せるはずもない。冷静でない頭は、これが悪手だということに気がつくことが出来なかった。


 レティシアが現れた時、その表情は懐疑に満ちた表情をしていた。その表情をジルベールが見ていないわけがない。


 ジルベールがいることに気がついたレティシアは、すぐさま仮面を被ったが、その直前の表情で察せられてしまう。


 尚且つ悪かったのは、メイドが面倒臭いという表情を隠さないまま、レティシアに接したことだ。その様子にジルベールの空気が重くなる。


 このままではまずいと感じたバンジャマンは、慌ててそのメイドに言いつけた。“余計なことはするな”と。


 これ以上、ジルベールを怒らせる訳にはいかないし、誤魔化しようものなら本当にこの公爵家が危ぶまれる。


 その意味で言ったつもりだった。


 しかし、レティシアの部屋へ連れていくよう言われたメイドは、あろうことか客室をレティシアの部屋と偽った。


 レティシアの部屋ではない。いや、本来であればレティシアの自室になったであろう客室に連れて行ったのだ。


 その後、メイドにキツく言ったが、納得しているような雰囲気はなく、むしろなぜそんなことを言われているのだと不思議がっている節すらあったのだ。


 本当にレティシアに対する敬意がカケラも感じられない。その悍ましさを目の当たりにした。


 客室から出てきたジルベールは帰り際、レティシアに聞こえない声でバンジャマンに言った。


「随分、君のところの使用人は質が悪いようだ。私の方で教育係でも貸そうか? ああ、でもレティシアは誰も必要ないと言っていたから意味ないかな」

「⁉︎」


 ジルベールの言葉にバンジャマンはドッと汗をかく。


 どこまで話したのだろう。レティシアは今までされてきたことを話したのだろうか。


 聞きたいけれど、恐怖のあまり聞くことは出来ない。


 そのままジルベールは帰って行った。



 ◇◇◇



 過去の事を思い出していたバンジャマンは、ノックの音に現実に戻る。


 入室を促すと、入ってきたのはジュスタンだ。


「……父上。レティシアのドレスの件、結果がわかりました」


 ジュスタンの手には、書類が握られている。


 書類を受け取り、中身を確認する。思ったより厚いその量に、レティシアの言葉が本当であった事を理解する。


 本当に幼少の頃から、ドレスは売られ続けていたのだ。


「犯人は?」

「この者たちです。レティシアのドレスを売った後、娼館や賭博に行っていたことも裏が取れています」

「そうか。では使用人を玄関ホールへ集めろ。その者たちには、公爵家の所有物を売ったとして厳重に処罰せねばならん。それに、同じことをしたらどうなるか、見せしめる必要がある」

「はい、父上」

「それから、その場にレティシアも呼ぶぞ」


 問題はその呼ぶ者を誰にするかだ。ジルベールの時に見たように、恐らくレティシアに対する態度は誰も彼も変わらないだろう。


 そうなると、レティシアが素直に来るかも怪しい。


 そこまで考えてふと1人のメイドの存在を思い出した。


「確かルネというメイドがいる。その者をまずここに呼ぶ」

「旦那様」

「なんだジョゼフ」


 早速行動に移ろうとしたバンジャマンとジュスタンに、ずっと控えていたジョゼフが声をかける。


「何のために、そのような事をするのでしょうか?」

「決まっているだろう。このリュシリュー公爵家を敵に回したらどうなるか、教えてやらねばならん。それにレティシアの誤解を解かねば」

「誤解、とは?」


 バンジャマンはジョゼフの顔を見ないまま、淡々と答えていく。


 ジョゼフは優秀な男だ。先代の頃からリュシリュー公爵家に仕え、バンジャマンにとってはもう1人の父親のような存在であった。


 今質問されていることも、これから良いように準備するためのものだろうと、都合の良いように考えていた。


 そう、まだバンジャマンは、ジョゼフに見捨てられていることなど、気がついていなかったのだ。


「まさかドレスのことを私に何も言わないなんてな。もっと早く言っていれば、こんなことにもならなかった。この一件の誤解が解ければ、レティシアとの関係も良くなるだろう」

「……その程度で、ですか?」

「何を言う。令嬢にとってドレスは言わば武器だ。戦道具を取り上げられてることは、屈辱的な事だろう」


 ジョゼフの声のトーンが変わったが、バンジャマンは気が付かない。


 善は急げと言わんばかりに、直ぐに行動を始める。


 そして玄関ホールに集まった使用人達。特に犯人である使用人は特別に見えるように立たせた。


 これから地獄を見るとも知らずに、呑気なものだ。とバンジャマンは内心せせら笑う。


 遅れてレティシアがやって来る。


 これで断罪すれば、レティシアも許してくれる。そう信じていたバンジャマンは、レティシアの口から出た言葉に目を剥いた。


 まるで嬉しそうではなく、それどころか茶番を疑われる始末。


(何故だ? なぜレティシアは喜ばない? ドレスが戻ってこないからか?)


 しかしレティシアの次の言葉で、バンジャマンは驚愕する。


「わたくしのサイズも調べずに購入するので、大きかったり、小さかったり。ああ、デザインもわたくしに似合わないものばかりですから、てっきり、売るためだと思っておりました」


 侮蔑を含んだ言葉は、バンジャマンに深く刺さった。


 確かにドレスを選んだ事はなかった。そもそも良し悪しがよく分からないから、使用人に丸投げしていた。


 ドレスのデザインも何も、バンジャマンは関わっていなかった。だから、売られているのも気づかなかった。


 レティシアの目は、表情は全てバンジャマンを拒絶するもの。


 そこではたと気がつく。


(レティシア……何故公爵と呼ぶ?)


 その他人行儀な呼び名に、背中に冷たいものが流れる。


 そういえばジュスタンのことも公子と呼んでいる。


 レティシアのその態度は、まるで家族ではないと言われているようだった。


 陛下の言葉が思い浮かぶ。


『関係改善ができない場合――』


(それはだめだ。全てが壊れてしまう。何とか、レティシアと関係を改善せねば)


 そうしないとリュシリュー公爵家の未来が無い。


 焦るばかりで、何も答えられないバンジャマン達を置いてレティシアは去っていった。


 喜ぶどころか、意味がわからない、勝手にしろと突き放されたのだ。


 バンジャマンは、これからどうすればレティシアが許してくれるか、必死に考えるのだった。


 その前提が間違っている事に、まだ気が付かない。

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