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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第2章

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44/111

44.お願いする時は自分達の行動を省みてからにしてください


 次の日。レティシアはルネ以外と顔を合わせることなく、学園に向かった。


 屋敷の空気を感じるに、まだジュスタンは体調が優れないようだ。


 皆がジュスタンに夢中になっているおかげで、誰に絡まれることなく学園に来ることが出来た。


 教室に向かう途中の掲示板を見ると、今年の生徒会役員が掲載されていた。


 生徒会長:ジルベール・ラ・ド・アヴリルプランタン

 生徒会副会長:ドミニク・ド・ナミュール

 生徒会会計:マルセル・ド・ロベーヌ

 生徒会書記:コレット・フォール――


 その他にもレティシアと顔見知りが何人かいた。


(やはり生徒会は、殿下に縁があるものが選ばれましたわね。ここに、わたくしの名前はない……)


 誰もいない廊下、レティシアはクルクル回って喜びを表現する。


(一時期はどうなる事かと思いましたが、無事殿下達と距離が取れて良かったですわ! 亡命成功に、一歩一歩近づいております!)


 ジュスタンが卒業した今、学園での出来事はよっぽどのことでないとバンジャマンに報告は行かない。


 この生徒会に選ばれなかったことも、バンジャマンの耳に届くのはずっと先のことだろう。何せレティシアから話すことは絶対にないので。


 時間が経ってから知れば、バンジャマンは怒り散らかすだろう。それこそ、レティシアに対するあの気持ち悪い態度もしなくなり、また冷遇を始めるだろう。


 その方が屋敷を抜け出しやすいし、使用人達からの態度も元に戻るだろう。


 今の方がストレスなのだ。元に戻るのなら大歓迎である。向こうが怒りのあまり監禁されそうになったら、亡命計画を早めればいい。


 頼もしい仲間がいるのだ。生きてさえいれば、何とかなる。


 そう考えながら、レティシアは教室に向かった。


 早めに来ているので、教室にはまだ誰もいない。


 澄んだ空気の中、レティシアは窓側に移動する。そとを見れば、登校してくる生徒がちらほら見えている。


「……でもさすがに、周りの生徒のお喋りはうるさそうね」


 婚約者であるにも関わらず、生徒会役員に任命されていないとなれば、好奇の視線は避けられないだろう。


 特に1人、明確に蔑んで来るものをレティシアは知っている。


「せめて、わたくしの手のひらで踊ってくださいな、オデット様」


 それを利用しない手は無い。最近は大人しかったが、このことについて、嬉々として話してくるだろう。


 面倒であることは否定しないが、前に言い負かした時のように遊んでやるのもいいストレス発散になるかも知れない。



 ◇◇◇



 その日から、想定通り、レティシアは好奇の視線に晒されることになった。


 元々“人形令嬢”として悪目立ちしていたレティシアだ。今年の新入生にすら、顔を覚えられている。


 教室内は元より廊下でもレティシアが歩けば、視線が体中に刺さる。


 その不躾な視線は、けれどレティシアに痛みを与えることはなかった。


(この視線、煩いけれどマシだわ。……ええ、あの公爵家で感じている、こちらの様子を伺っている視線より何十倍もマシだわ。むしろこれは幼少期から受けてきた視線と同じだもの。慣れているわ)


 好奇の視線をぶつけてきた生徒達の中には、レティシアが全く堪えていないことに不思議そうにしている人もいた。


 大体において、悪い噂が流れた時は授業が終わればそそくさと逃げるように帰るものが多い。最初の頃、コレットを虐めていた女生徒のように。


 レティシアは早々と、逃げる様に帰宅しない。どころか、堂々と学園内を歩いている。背筋を伸ばし、凛と前を向いて。


 そうするだけで、噂は縮小してくだろう。張本人がやましいことなどありませんという態度であれば、面と向かってくる人も多くない。


 それは普通の人間の話であって、オデットはそうではない。それなのに、今日、オデットはレティシアの元には来なかった。


(オデット様、周りと同じようにわたくしに視線を送るだけなのですよね。彼女のことだから、すぐに突っ込んでくると思っていたのですが。……でも彼女、たまにすごく頭が回るのですよね。もしかしたら、わたくしがよりショックを受けるタイミングを図っていることも無きにしも非ずですわ。警戒は続けましょう)


 色々な可能性を考えながら、それの対処法も考える。これは王子妃教育でも言われてきたことだ。


 常に相手とのやり取りで、最善手を探す。思考を止めずに柔軟に対応する。これが出来るのは、王子妃教育のおかげである。


(そういえば、そろそろ王城に呼ばれるタイミングですわね。でも殿下から話が行っているでしょうし、見送られる可能性も……)


 考えていると、下校時間を知らせる音が鳴る。


 少しでも屋敷にいる時間を短くするために学園にいたが、さすがに帰るしかない。


 それでもギリギリまでゆっくり歩き、馬車に乗り込んで帰ることにした。


 御者は何も話しかけてこないが、いつもより馬車のスピードが出ている気がする。


(きっとアイツの体調がまだ思わしくないのね。御者もわたくしよりアイツのお見舞いをしたいから、さっさと帰ろうとしているとかありそうね。何もすることはないでしょうから、邪魔になりそうだけれど)


 だったら少しでも帰宅時間を遅らせたのは、意趣返しとしても良かったかも知れない。


 どう体調が悪いか、レティシアにとって知ったことではないのだし。


(アイツに皆の注目が集まっているのは、わたくしにとって都合が良いわ。それにしても、随分心配なのね。わたくしが風邪を引いた時は――)


 物思いに耽っていると、馬車が止まる。帰りたくないが仕方ない。ため息を吐いて、レティシアは馬車から降りた。


 玄関ホールに出れば、使用人が出迎える。今までと同じにしてほしいと言っているのに、出迎えてくる彼らには辟易してしまう。


 どうせ、レティシアへの罪悪感より、バンジャマンが怖くてと言ったところだろう。どこまでも、自分達のためでしかない。


 それもレティシアの機嫌を伺うように、遠慮がちに接してくるのだから面倒だ。


 無視をするのも労力がいるので、本当に迷惑だ。このくらいで許せるほど優しくも甘くもない。


 冷遇されてきたのと同じ時間以上をかけても、許せる日は来ないだろう。


 これみよがしにため息を吐く。それでも彼らが退散しないと分かっているので、さっさと自室へ行こうとしたその時だ。


「お、お嬢様。お待ちください」

「……何か?」


 表情を無くし“人形令嬢”として、不躾に声をかけてきたメイドに向き合う。このメイドはジルベールが来た時に、荷物を持ったメイドか。あの時の不遜な態度は鳴りを潜めているが、猫を被っているだけだろうと判断する。


 レティシアの迫力にたじろいでいたが、思い切ったように言ってきた。


「じゅ、ジュスタン様のお見舞いに行って欲しいのです」

「お見舞い? わたくしが?」

「は、はい! ジュスタン様はお嬢様に会いたがっておられます」

「それは公子からの命令でしょうか?」


 レティシアから怒気が発せられていることに気がついていないのか、メイドは捲し立てる。


「そうではありませんが、倒れる少し前からお嬢様のことを気にしておられます。なので――」

「命令でないなら、わたくしがお見舞いに行く義務はありませんわ。話はそれだけでしょうか?」

「え?」


 ポカンと口を開けた間抜けな姿を見て、レティシアは話が終わったと立ち去ろうとする。


「ま、待ってください! お嬢様はジュスタン様が心配ではないのですか⁉︎」

「……本当、イラつくわね」


 ボソリと言い、そのメイドを睨みつける。


 ヒッと短く悲鳴をあげているメイドに、口を開こうとした時だ。


「お嬢様、おかえりなさいませ」

「ジョゼフ! ただいま戻りましたわ」


 良いタイミングでジョゼフが来てくれた。“人形令嬢”の仮面を彼方へ投げ捨て、にっこり笑いながらジョゼフに挨拶する。


 あまりのレティシアの態度の変わりように、周りの使用人全員が驚いている。


 ジョゼフは、そこにいる使用人全員を見渡した。それに顔色を悪くして、全員が視線を逸らす。


「……お嬢様、申し訳ありません。私の教育が足りないようで、また不快な思いをさせてしまいました」

「ジョゼフが謝ることはないわ。悪いのは自分の感情のままに、愚かにも行動したもの達でしょう? たかが一介のメイドがわたくしに命令するなんて、身の程知らずにも程があるもの」

「ち、ちがっ! 私は」

「黙りなさい」


 ジョゼフの常とは違う低い声に、メイドは黙り込む。


「私は言ったはずです。お嬢様が嫌がっていることはしないようにと。出迎えもあなた方がする必要はありません。それにジュスタン様の事も、お嬢様が会いたくないのですよ。それを無理に会わせようなど、烏滸がましい」

「ですが、ジュスタン様はお嬢様のせいで――」

「これ以上、言いたいことがあるのでしたら、代わりに貴女の首が飛ぶと思いなさい」

「っ」


 実質の解雇通告に、メイドは黙り込む。


 そしてレティシアを睨んできた。


「はあ。行きましょう、ジョゼフ。彼女と話している時間が勿体無いわ」

「ええ」

「それにしても公子は大層人望がありますのね。わたくしが幼い頃風邪をひいて寝込んだ時は誰もお見舞いに来なかったわ。なのに何故、子供でもないのにお見舞いに行く必要があるのかしら」

「っ」


 その言葉で過去のことを思い出したのだろう。


 一転して顔を青くした使用人達を置いて、レティシアはようやく抜け出すことが出来た。

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