32.パーティーですわ!
第2章スタートです!
よろしくお願いします!
卒業式のあと、レティシアはしばらくバンジャマンとジュスタンは屋敷に帰ってこないだろうと考えた。
そもそも同日夜に行われる卒業パーティーの準備をしなければならない。
恐らくそのまま学園か王城で準備をして、パーティーにいく事だろう。
ということで一度屋敷に帰ったら、ロチルド商会に行こうと考えた。
そのまま行きたいところだが、流石に制服姿は目立ってしまうので仕方ない。
馬車に乗り込み、さっさと帰る。御者はさっさと帰ろうとするレティシアを睨みつけてきたが、どこ吹く風だ。
むしろレティシアは脅しのように
「貴方、随分な態度ね。ジョゼフに報告しようかしら」
と言えば、慌てて馬を走らせていた。
屋敷に帰っても出迎えはもちろんない。気にする事なく、自室へ行き服を着替える。
ルネが来たので、ルンルンでロチルド商会に向かった。
「お嬢様、ご機嫌ですね? 良いことありました?」
「ええ! 殿下が遂にわたくしを見限ったのよ! これで亡命へまた近づくわ!」
「その言葉だけ聞くと、全く喜べないです」
「そんなことないわ! 殿下から婚約破棄してもらえばいいのだから、計画は順調に進んでいるのよ!」
レティシアがここまで喜んでいると,ルネもつられて頬が緩む。
「じゃあロチルド商会で、じゃんじゃん稼がないとですね」
「ええ! 精が出るわ!」
「きっとクロードさんとセシルさんも喜びます」
「そうだと嬉しいわね」
◇◇◇
「それは良かったです! 今日はパーティーですね! とはいえ、平民のものなので見劣りすると思いますが」
「まあ! そんなことありません。わたくし、あまりパーティーには出ないのです。嬉しいですわ!」
クロードとセシルも喜んでくれ、従業員に手伝いを頼んでいる。
従業員も嬉しそうな表情で、他の人にも広めている。
レティシアは嬉しいやら、恥ずかしいやらだ。
「今日はどのくらいまでいられそうですか?」
「公爵達は、夜まで帰ってこないそうですよ」
「まあ、ではいつもより長くいられますわね」
セシルの問いに、ルネが答える。先にジョゼフに確認していたらしい。本当にできるメイドだ。
ルネの言葉にレティシアも、両手を合わせて嬉しそうに言った。
いくらレティシアに興味がないからと言って、屋敷を空ける時間が長いとバレてしまう可能性が高くなる。
それもあり、レティシアはロチルド商会に長居を出来なかったのだ。今日だけでも長居出来ると分かれば、嬉しくなるのは当然だ。
従業員が準備をしてくれている間、手持ち無沙汰だったのでクロードと商談の話をする。
「今度、あの領主とお会いするのはいつになるのでしょうか?」
「こまめに連絡をとらせてもらっているので、次は5日後です」
「順調なのですね」
「はい。レティシア様のおかげで、包装も気に入って頂けています。あとはもう少し夫人の好みを聞いてみる予定です」
「良かったですわ。夫人も乗り気でしょうから、良い案を出してくれるでしょう」
順調そうで良かった。もちろん、正式な商品化にならないと利益にはならないけれど、こういった地道な努力が花を咲かすのだ。
「また役立てそうなことがあったら、言ってくださいな」
「期待させて貰いますよ。……そうだ、早速相談したいことが――」
「会長。今その話をしたら、パーティーの時間がなくなります。以前言っていたものをお渡しした方が良いかと」
「ああ、そうだった。レティシア様、これを」
また仕事の話をし始めたレティシアとクロードだが、セシルが止めた。
セシルの言葉にクロードは手を叩くと、レティシアに何かを差し出す。
それは、何かの魔道具に見えた。魔道具は魔力を込めてから操作することで使うことが出来る。
丸い形のそれは、折りたたみ式で、開くと幾つかのボタンがついている。
「これは……?」
「遠い場所にいても、連絡を取ることのできる魔道具です。音声を相手に送ることが出来ます」
「まあ、早馬より便利ですわね」
「はい。開発されたばかりであまり出回っていませんが、これがあればこちらに来れなくてもある程度の意思疎通が可能です」
「そんなに高価なものをわたくしに?」
「ええ、是非。というより、先方に試して使用感を教えて欲しいと頼まれております」
「素晴らしいものを作るのですね。今のわたくしに必要なものですわ」
中々ロチルド商会に顔を出すのは難しいので、とても便利だ。
魔道具の試用も出来るというのは、レティシアも役に立てるのでそういう意味でも嬉しい。
操作方法を教えてもらう。基本的には音声のやり取りなので、操作は簡単だった。
そんな事をしているうちに、従業員が呼びに来た。パーティーの準備が終わったらしい。
「素晴らしいですわ。皆様、とても優秀なのですね」
「ええ。そのおかげで私達も、どんどんやりたいことが出来ています。皆には感謝しています。では行きましょう」
クロードに促され、レティシア達は簡素なパーティー会場へと向かった。
そこは大きめの講堂で、可愛らしく装飾までされている。テーブルには飲み物と、お菓子が乗っている。
派手さはないが、暖かい雰囲気もありレティシアは気分が高揚していく。
「社交界は参加したことがありませんので、見劣りするかも知れませんが、楽しんでください」
「とんでもありませんわ。あちらは戦場のようなものですもの。こちらの方が、わたくしは好きですわ」
貴族の社交界は、楽しむことももちろんあるが、基本的には腹の探り合いだ。
仕草一つ、言葉一つで立場が決まってしまう。気を抜くことは出来ない。ドレスや装飾品も、闘う為の言わば武器だ。
「そう言って頂けて、嬉しいです。お菓子は時間がなかったので既製品しか用意出来ませんでしたので、無理して食べなくても大丈夫です」
「お気遣いありがとうございます。……なにかお菓子の開発でもしているのですか?」
「はい、ルネさんがメヤの実をお菓子や料理に使えないかと相談してきたので、色々試しているんです。こちらは商品化の予定はないですが」
「ルネが?」
セシルの言葉に、レティシアは思わずルネを見る。
ルネは少し恥ずかしそうにしながら言った。
「いえ、その。お嬢様の為に、もう少し何か良い方法が無いかなと思いまして。けれどメヤの実はそんな流通していませんし、難しいかなと思っていたのですが」
「レティシア様が少しでも健康になれるよう、私も工夫したいので」
「……ありがとうございます。……とても嬉しいですわ」
ここまでレティシアを思ってくれるなんて、感動のあまり声が出ない。震えそうになるのを抑えながら、お礼を言う。
「でも良かったですよ。レティシア様、最初の頃より顔色も良くなりましたし、お化粧薄くなりましたね」
「会長。貴方は女性への対応がなっておりません。それは褒め言葉ですか? レティシア様に喧嘩売ってます?」
「え? いや、喧嘩は売ってないぞ。褒め言葉だ」
「それが純粋な褒め言葉なら、1から女性の扱いについて学び直した方がいいです」
クロードとセシルが言い合っている横で、レティシアは以前より化粧にかける時間が少なくなったことを自覚した。
以前はとれない隈を隠すために、念入りに化粧していたが、言われてみれば格段にコンシーラーの量が減っている。
「まあ、言われて気がつきましたわ。通りで最近朝の準備が早く終わるなと思ってました」
「え、お嬢様気がついていなかったんですか?」
「もう作業みたいなものだから、気にしていなかったの。そう言えば、夜も以前より寝つきが良くなりましたわ」
「まさかの無自覚⁉︎」
レティシアの言葉に、ルネは心底驚いた顔をしている。
言い合いをしていたクロードとセシルも、レティシアの発言に驚いていた。
「レティシア様、さすがに鈍すぎではありませんか?」
「ええ、自分でも思いますわ。なぜ気が付かなったのでしょう」
クロードの言葉に頷くレティシア。けれどクロードはまたセシルに怒られている。
「だから、言葉を選んでください! レティシア様が寛大だから問題になっていませんが、見た目に触れるのはタブーですよ。なぜ貴方は商談の時は有能なのに、女性の時は――」
「すまなかった、セシル。私が悪かったから、今はよそう。せっかくのパーティーだろう」
「ま、まあ。わたくしも気がつけて良かったですから、そのくらいに」
クロードとレティシアがセシルを止める。まだ言い足りないようだったが、他でもないレティシアが気にしていないので渋々引き下がった。
パーティーは今まで出席したどのパーティーより楽しかった。
今までは基本的にジルベールの婚約者として出席していたため、気を抜くことが出来なかったので、それも当然かもしれない。
相変わらず味はわからないが、それでもクロードやセシル、ルネと食べるひと時はレティシアにとって格別なものだった。
こんなに笑いながら誰かといたのは、初めてかも知れない。
そう考えると、確かに記憶が戻る前のレティシアは“人形令嬢”だったのだろう。
その時に合わせた表情を意図的に作っていた。別にそれは悪いことではない。そのおかげでスムーズに話ができたり、思わぬ関係ができたりした。
それでも、心から楽しめるという点では、何よりの宝物だった。
時間はあっという間に進み、気がつけばジュスタンの卒業パーティーも終わる時間だ。
そろそろ帰らないと、万が一出かけていることがバレたら面倒臭い。
「本当に楽しかったですわ。わたくしのために、ありがとうございます」
「楽しんでいただけたら何よりです」
「ふふっ。亡命が成功したら、もっと盛大にやりましょうか」
「嬉しいですわ! 是非!」
お礼をいえば、クロードとセシルも嬉しそうに返してくれた。セシルは当たり前に亡命した後のことも話してくれる。
時折、形容し難い不安に襲われる時、レティシアはセシルとクロードを思い出す。2人の言葉を思い出すと、不思議と不安は無くなるのでとても心強い。
「お片付けもお任せしてしまってすいません」
「気にしないでください。つい、盛り上がってしまいましたし、何なら従業員だけで二次会をしそうな勢いなので」
ルネも手伝おうとしたけれど、時間がない。けれど、皆気にすることはないと言ってくれる。
レティシアはそのやり取りをみて
(そうだわ。パーティーには片付けもあるんですわ。当たり前に片付いていたから、忘れていました。こういうことも、亡命したら自分自身でやることになるのですし、注意しないとですわね)
心の中で決意した。
ルネがレティシアに向き直り、言った。
「ふふっ。今度は二次会も参加したいですね、お嬢様」
「ええ。それじゃあ、あとはよろしくお願いします」
「はい、ではまた」
2人に見送られ、少し急ぎながらレティシアとルネは帰宅した。
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