104.無意識の本音
「何をって、それはもちろん上手に出来るか考えていましたわ。卵を割るときに殻が入らないようにとか、生地を混ぜるときにダマにならないようにとか……」
「ええ。とても大事なことですね」
そう言いつつ、コレットはレティシアがラッピングしたマフィンに視線をやる。
その目が意味ありげに細められた。
「どうして殻が入らないようにとか、失敗に通じることを気を付けていたのですか?」
コレットの質問は続く。コレットのこの質問はレティシアに何かを気が付かせたいことなのだと思い、レティシアは素直に答える。
「だって殿下に差し上げるのですから、下手なものは作れませんわ。本職の方々に敵わないのは当然ですが、失敗作を差し上げるわけにはいきませんもの」
「レティシア様、このお菓子は誰にプレゼントしますか?」
「? もちろん、殿下やセシルさん、クロードさん、ルネとジョゼフも……」
うんうんと頷くコレット。どんどん嬉しそうな雰囲気が、体からまろび出ている。
なぜ嬉しそうなのか分からず、レティシアは首を傾げる。
「レティシア様、私は確かに好きな人にお菓子をあげる日だと言いました。けれど、殿下にとはいっておりませんよ?」
「……へ?」
コレットの言葉に、レティシアは間の抜けた声を上げる。
しかしあの時の話の流れから、ジルベールにプレゼントするのは当然だと思うではないか。そんなレティシアの内心は、思いっきり表に出ていたらしい。
「まあ私が提案した時点で、殿下をしっかり意識してらっしゃったので当然ですが。けれどマフィンを作る時、常に殿下が頭の中にいたのではないですか?」
「それは……そうです……ね」
恥ずかしさがこみ上げ、思わず否定しそうになったけれど、図星にもほどがあったので結局同意する。
「渡す相手は殿下以外にもいたのに、殿下へあげるときのことばかり考えてしまう。もうこれが答えだと思いますよ」
「そ、そう……でしょうか」
「ええ。だって」
そういうとコレットは一つ、マフィンを持ち上げる。それはレティシアがジルベールに渡そうとしているもの。
優しくそれを撫でて、コレットは笑顔で言った。
「一番大きくて、見た目がきれいなものを殿下用に準備したんです。無意識に選んだそれが、好きでなくてなんなのでしょうか?」
「……え」
言われてみて、他のものと見比べる、どれも上手に出来たと思うけれど、コレットの言う通り、見栄えが一番いいものを選んでいた。
その事実に、レティシアは今まで以上に、頬に熱が集まるのを感じた。
恥ずかしすぎて湯気が出そうだ。
思わず頬を両手で挟むが、その熱さに驚いてしまう。
そんなレティシアの様子に、コレットだけでなく、セシルもにこにこしている。
「まさに恋する乙女の表情ですね」
「はい! 今まで以上に魅力的ですよ!」
「……やめてください」
その表情をみられるのが恥ずかしくて、俯いてしまう。
これは自分の視野が狭くなっていたというか、先入観に囚われていたのかもしれない。とにかく、いろんな恥ずかしい思いが沸き上がり、頬の熱は上がるばかりだ。
「レティシア様、大丈夫です。殿下のこと、ちゃんと特別に好きなんですよ。心は素直です。無意識に少しでもよく思われようと動いてしまうくらいには」
「うぅ……」
励ますようなコレットの言葉は嬉しいけれど、恥ずかしさは以前限界突破している。
ここでセシルが、さらに爆弾を放った。
「ようやく自覚出来ましたか。良かったです」
「……へ」
レティシアはとんでもない言葉を聞いた気がして、顔を上げる。
上気した頬に、潤んだ瞳。とんでもない威力だ。ここに男性がいなくて良かったかもしれない。
「段々レティシア様の殿下を見る目が、恋する目になっておりましたので、殿下の粘り勝ちかぁと複雑な思いをしておりました。それでもレティシア様本人が気が付いていない様子だったので、アドバイスもし辛くてやきもきしてましたよ」
「……う、嘘、ほ、本当に?」
「ええ。本当です」
「ぷしゅう……」
ついにレティシアはキャパシティオーバーに陥る。かろうじて気絶はしなかったものの、呆然と椅子に座り込んでしまった。
その様子を見て、コレットとセシルは。
「あらら、刺激が強すぎましたかね」
「仕方ありませんね。しばらく戻ってくるのに時間がかかるでしょうし、お茶を用意してきます。コレットさんはレティシア様を見ていてください」
「ありがとうございます」
微笑まし気に見守っていたのだった。
◇◇◇
どのくらい時間が経ったのだろうか。ふんわりとお茶の香りが鼻をくすぐり、レティシアの思考は戻ってきた。
「は……わたくし……」
「あ、戻ってきました?」
コレットが気が付いて、レティシアの顔を覗き込む。
セシルもレティシアに声をかけた。
「レティシア様、お茶飲めますか?」
「あ、はい」
「せっかくだから、先に食べてみましょう。焼きたては温かいですよ」
コレットはそう言うと、ラッピングされていない余ったマフィンを皿に並べる。
「わたくし、どのくらいぼーっとしていたのでしょうか?」
「10分くらいですよ」
思ったより長くなかったらしい。
コレットに促され、レティシアはマフィンを手に取る。
確かに温かい。仄かに甘い香りもして、そっとマフィンを口に運んで――
レティシアは大きく目を見開いた。
いつも読んでくださりありがとうございます
作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。




