101.わたくしの気持ちは……
今年最後の投稿です!
ありがとうございました!
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「え、ど、どうしてですか?」
レティシアの声は震えている。その根源にあるものは何だろうか。
「今のレティシアは、私がいることで決断を鈍らせていると思うんだ。現に私は王になるべき、もっと相応しい人がいるって言っているだろう? 評価してくれるのは、とても嬉しい。けれどそれが足かせになっていると思うんだ」
「足かせだなんて……」
レティシアはただ、ジルベールの力を信じているだけなのに。
「レティシア、君の人生は君だけのものだ。今は思考の坩堝にはまっているんだと思う。一緒にいれない理由を作っているように、私には見える」
「……!」
その一言は、レティシアの心を暴くのに覿面だった。
そう、レティシアは逃げているだけなのだ。
それでジルベールだけでなく、多くの人たちを巻き込んでいる。
自己嫌悪に苛まれそうになった時、ジルベールは手を握る力を強めた。
「レティシア、大丈夫だよ。それが悪いと言っているんじゃない。自信がない時に、無理やりやれば失敗するのは当然だ。マナーだって、最初は上手くいかなくて失敗ばかりでも、練習を重ねることで自信がついて出来るようになるだろう。それと同じだ。レティシアは、初めて自分で決断しようとしている。怖くて逃げようとするのは当然だ。それは人間にとって、至極当たり前な感情なんだ」
「殿下……」
ジルベールは目元を和らげ、優しく微笑んでいる。昔のように、上っ面だけで目は笑っていないように見えるなんてことはない。
「最初に言った通り、私たちは1年やそこらで決断してほしいとは思っていない。レティシアが一番望む答えを出せるまで、何年でも待つつもりだよ」
そっとレティシアの手の甲を撫でる。
「もちろん、レティシアの決断の中心が私になってしまうのも、当然だ。だってそれを決めるんだからね。だからこそ私の存在がプレッシャーになっていると思うんだ。私は腐っても王族。他の貴族との結婚とも訳が違う。私達だけの問題ではないのは、避けようのない事実だ」
「……はい」
「だから少しだけ、間を置く。その間に王族や貴族から離れてみるのもいいかもしれない」
「……怖いです」
「何が怖いんだい?」
レティシアは再び声を震わせる。けれど言いようのない恐怖が、足元からじわじわとレティシアを侵食してくるのだ。
「分かりません。……殿下、いなくなったり……しませんか?」
「しないよ。絶対に」
「何故、そう言い切れるのです? 昔はそんな素振りありませんでした。殿下こそ、わたくしに囚われているのではありませんか?」
「……」
レティシアの揺れる瞳を見たジルベールは、本当ならまだ言うつもりのなかった言葉を言わないといけないという思いに駆られる。
この言葉を言えば、レティシアを絶対に縛りつけてしまう。
本当はレティシアを縛りたいわけではない。けれどそれは、ここまで不安そうにしているレティシアを無視してまで黙ることだろうか。
レティシアの心は、ジルベールの言葉を欲しがっている。それがレティシアを縛るものだとしても、それがないとレティシアは決断出来ないのだろう。
ジルベールは意を決して、レティシアに言った。
「囚われているのなら、本望だよ。私は……レティシアが好きだから」
「あ……」
その言葉はジルベールから初めて聞いたものだった。
その瞬間に、レティシアの恐怖心は嘘のように引いていく。
その言葉こそ、レティシアが心の奥底で欲していたものだった。
ジルベールに愛されたかったのだ。だから努力してきた。
それがもう期待できる状態ではないと分かり、諦めたのだ。
諦めたのに、ジルベールが手を差し伸べてくれるのが、苦しくて嬉しくて。
自分の心が分かると、また震えが戻ってくる。
レティシアの冷えた手を、ジルベールは温めるように包み込む。
「レティシアに言ったら余計な負担になると思っていたんだ。けれど私はレティシアが好きだよ。好きだからこそ、私の手を取ってほしいと思っている」
「わたくし……」
「私は何があっても、レティシアを嫌いになることはないよ。信じられないかもしれないけれど、初めて会った頃から好きだった。私が未熟なせいで、伝えられなかった。すまない」
「わ、私も……そう、でした」
そうか。レティシアは、いやきっとジルベールもだろう。お互いへの好意を伝えていなかったのに、ようやく気が付いたのだ。
「……私、は」
その言葉を言おうとするのに、喉に何かが詰まったように出てこない。
何度か試みて、ついに唇を噛んでしまう。
ジルベールはそっとレティシアの髪を撫でる。
「ゆっくりでいいよ。私はレティシアが言えるようになるまで、待ってる」
「……もうし――いえ、ありがとうございます。確かに、考える時間が欲しいですわ」
ここで謝るのは違うと感じ、レティシアは留まった。
ジルベールは微笑んだまま、今までで一番優しい声で言った。
「うん、分かった。大丈夫になったら、手紙を書いて欲しい。そうしたらまた来るよ」
「はい……」
そのままジルベールは帰っていった。
迎えにきたマルセルは、レティシアを心配そうに見たけれどジルベールに何か言われていた。
レティシアは、纏まらない心のまま、誰にこの気持ちを聞いてもらおうかと思う。
1人では無理だ。誰かに話を聞いてほしい。
これはセシルやクロードではない。ルネとジョゼフも違う気がする。
「コレット様……」
レティシアは気が付いたら、手紙を認め始めていた。
いつも読んでくださりありがとうございます
作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。




