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第78話 研究バカ

 ソフィアがパーフェクトバリアで守られ、ロバート・スライムという邪魔者はいなくなった。


 怪我も全回復したヴィーを前にし、絶体絶命のドナドーニは、それでも笑みを浮かべていた。


「嬉しいよ、アンノウン。 それでこそ君だ! 君は、常に強く、気高くなければならないんだ!」


「うるせえよ、そんな褒め言葉じゃあ、俺の妹に手を出そうとした事を許す理由にはならないぞ」


 相手は魔王軍最強だったアンノウン。 七騎将だったとしても、戦闘タイプではなかったドナドーニでは勝ち目は無い……だろうと、当人同士も思っていた。



「ボクはね、ずっとこの機会を待っていたんだよ。 研究ってのはね、実験をしてこそ、成果があるんだよ。 さあ、ボクの今の最高の研究を、最強の君で実験させてくれ!」


 ドナドーニが異空間から、ヴィーも見慣れない武器を取り出す。


「これは魔弾ランチャーといってね、魔力を込めた筒を打ち込む武器なんだ! その威力は、着弾して爆発した場所から半径三〇〇メートルのエリアを高熱の爆風が包み込むんだ! さあ、くらえー!」


 魔弾ランチャーがヴィーに向かって放たれるが、ヴィーはこれを寸分違わぬタイミングで素手で真上に受け流す。 少しでも接触による衝撃が加われば爆発する魔弾を、正確に受け流したのだ。


 受け流された魔弾は、遙か上空で爆発した。



「あら〜? 上空で爆発しても効果は半減だな〜。 流石はアンノウン、なら、次はコレ! これは魔導機関銃といってね、魔力が込められた弾丸が一分で約一〇〇〇発も発射されるんだ! しかも、一発の弾丸は普通の人間の身体を貫く威力で連射される優れものなんだ!」


 ドナドーニが機関銃を撃ち始める。


 タタタタという小気味の良い音と共に連射される弾丸だが、ヴィーは避けながらドナドーニとの間合いを詰める。


「流石はアンノウン……つーか、ボクの射撃精度が低いのが問題かな?」


「とりあえず、ぶん殴るぞ」


「あれ?」


 気が付けば目の前にいたヴィーは、ドナドーニの腹に渾身のボディーブローを叩き込んだ。



 だが、ドナドーニは三メートル程後方に吹っ飛ばされただけで踏ん張ってみせた。


「……フッフッフッ、これが、魔導衝撃吸収ベストさ! まさか、アンノウンの本気の一撃を受けてもなお、この程度のダメージで済むなんて……これは実験成功だ!」


 ドナドーニがローブをめくると、厚めの素材に魔力が込められたベストを着込んでいた。



「そして最期に! 本日のメイン……これだ!」


 ドナドーニが異空間から、腕に嵌めるタイプの武器を取り出し、装着した。


「これは今までの武器とは威力が桁違い! 多分喰らったらアンノウンでも即死だろうから覚悟しておくれ! ザ・コブラキャノンだ!」


 腕に嵌めたコブラキャノンに膨大な魔力が集中される。


 そして、光速のレーザービームが発射された。


「!?」


 ヴィーが顔を背けると、通り過ぎたレーザービームにより頬が綺麗に焼き切られた。 あと数センチズレれば、頭部は完全に消失していただろう。


(……なんだこの馬鹿げた威力の武器は?)


 今、避けれたのはギリギリだった。 これがもし連射されたら……次は避けられる自信がない。


(なら……光速には光速で……)


 ヴィーの目の色が変わる……。 そして、全身を纏うオーラが一際強くなり、溢れ出した。


 ヴィーの究極の戦闘フォーム……スキル、マッハ・レベル88。


 運動速度を大幅に上げるスキルであり、ヴィーに至っては最大レベルの88……つまり、光の速さにまで到達する速度で行動が可能となる。

 ただ、発動にはかなりのオーラを消費し、体内のオーラの総量が桁外れに多いヴィーですら、発動して一〇秒でオーラが枯渇する程。



「……よし、貯まった。 次は当てるよ〜!」


 再び、コブラキャノンが発射されるが……同じスピード軸にいるヴィーは、これを躱しながらドナドーニに接近する。

 時空が歪み、誰も目で追えない世界軸で、ヴィーはドナドーニの両腕を切断した……。



「終わりだ……このマッド・サイエンティストめ」


「ああ……全然見えなかったし気付かなかった……いつの間に、ボクの腕が……?」


 切断面から大量の血を吹き出し、ドナドーニはうつ伏せに倒れた……。



 その頃、三分以上が経過し、ソフィアのパーフェクトバリアが解除されていた。


「にぃ〜に……」


「ソフィア……俺は……おまえの兄、ヴィクトー・ハイドローズだ。 今まで黙っていて悪かった」


 ソフィアは、何も言わずにヴィーに抱き付いた。


「いいよ。 だって、またこうして助けてくれたもん……」


 ヴィーは優しくソフィアを抱きしめる。


「ごめんな……ずっと、長い間一人にさせて」


「寂しかったし、辛かったけど、ルミーナお姉様がいたから、大丈夫だったよ」



 そしてヴィーは、何故これまで姿を現さなかったのかと、何故名前を変えて現れたのかを説明した。


 父と母が既に亡くなっていると知り、ソフィアは改めてショックを受けていたし、アンノウンとして生きて来て心が病んだしまったが、記憶を取り戻した事情を知ると、笑顔で本当に良かったと言ってくれた。



「これからは……堂々と、おまえの兄として傍にいても良いかな?」


「……もちろん! ルミーナお姉様も喜んでくれるだろうし。 お姉様、ずっとにぃ〜にが生きてるって信じてたんだから。 だから、優しくしてあげなきゃダメだよ?」


「分かってるけど……どうもルミーナと話してると気兼ねなく話せるから、ちょっと言い合いになったりするんだよな」


「そっか……そういえば、子どもの頃もよく言い合いになってたっけ? でも、結局すぐに仲直りしてたもんね」


 先輩としてではなく、実の兄としてソフィアと接する事が出来たヴィーは、真実を伝えて心底良かったと思えたと同時に、過去の後悔もきっと乗り越えて生きていけると心に誓うのだった……。



「いや〜、コブラキャノンは威力は申し分ないけど、やっぱり発動に時間がかかるのが玉に瑕だったな〜。 それにしても……やっぱり実験は実に面白い! 今回の実験も良いデータが取れたよ! やっぱりボクの研究にはアンノウンという最高の実験体が欠かせないな!」


 突然、倒れたままのドナドーニが、満足そうに喜んでいた。


「……実験だと? おまえ、実際に俺を殺そうとしてたじゃねえか」


「そりゃそうさ! 殺す気でやらなきゃ実験にならないだろ? いつもそうだったじゃないか?」


 ドナドーニがアンノウンと良好な関係だった理由……それが、本気で殺そうとしても絶対殺せないアンノウンが、ドナドーニの研究を試す実験体として最適だったからだ。



「おまえなぁ……つまり、今回の件は全て、おまえの研究を実験するための行動だったっていうのか? おまえ、実際にロバートを拐かして俺を殺そうとしてたんじゃないのかよ?」


「いや〜、あれは強制的にヒューマン・スライムを作り出す実験さ〜。 でも、アンノウンが妹ちゃんを気にして本気が出せないみたいだったから、ちょっと荒療治を試みただけさ〜。 あれ、いや、まさかホントにボクが君や君の妹ちゃんを意味もなく殺そうとしてたなんて思ってないよね? 僕たちの関係って、そんな浅く無いよね??」


 ヴィーとしては、本気でドナドーニが自分達を殺そうとしてると思ったのだが……ドナドーニの目は、本気で実験を行いたいが為に敢えて行動を起こしたと思っているのが分かる程に純粋だった。


「……状況を考えろよ。 おまえが裏切り者の俺に対して復讐しようと思ってもおかしく無い状況だったし、大体おまえの目はいつもガンギマリしてるから、本気がどうかの判別なんかできるか」


「いたっ!? 痛ったいな〜」


 ヴィーがドナドーニを小突く。


 だが、ドナドーニの言葉に嘘はないと判断したヴィーは、斬った腕を元通りに治してやった。



「大体、なんでロバートとおまえが繋がってたんだよ?」


「ボクは彼と直接繋がってた訳じゃないよ。 ただ、獣人族とは昔から独自の繋がりがあってね。 そことロバートも繋がってて、ボクの所に君の話が流れて来たって訳さ」


 つまり今回の件は、ドナドーニと繋がっている獣人がアンノウンとロバートの情報を流し、実験のチャンスと考えたドナドーニが裏で手を回してロバートの脱獄を企てた。

 そして、ロバートでスライム化の実験をし、アンノウンと激突させたのだった。



「じゃあ……他の七騎将には……」


「ああ、言ってないよ。 アイツら、今だに戦争するとかしないとか面倒くさいし。 ボクの他に中立派だったガイルとシャリアもいなくなっちゃうし、中々研究が捗らなくて困ってたんだよ」


 ヴィーは、ガイルとシャリアもたまにドナドーニの実験に付き合わされていたのを思い出す。


(この研究馬鹿なら、実験のためなら何でもするのを思い出したわ)



「そうか……。 それで、おまえはこれからどうするんだ? また魔界に戻るのか?」


 流石に今回のはやり過ぎたと感じてはいたが、ドナドーニ自身が悪い意味で自覚が無い人物だと知っているヴィーは、これ以上追及するのを諦めた。


「魔界には良い実験体がいなくてねぇ……そうだ! ボクをアンノウンの家で匿ってよ! 自慢じゃないけど、ボクの研究って結構世界平和の為にも役立つと思わない?」


 確かにドナドーニは研究者として優秀だ。 兵器だけでなく、たまに平和に役立ちそうな物も発明する。


 ……だが、あくまでマッド・サイエンティストであるドナドーニを、果たして帝国が受け入れるだろうか?



「……はぁ、まあ、ちょっと拍子抜けしたけど、とりあえず一度ウチに来ればいい。 懐かしい顔もいるしな」


「ホントかい? やった〜、流石はアンノウン! 唯一無二の僕の実験体!」


「おまえ……実験体呼ばわりされて喜ぶ奴なんていないからな?」


 ドナドーニとしては、最大級の賛辞なのだが……残念ながら普通の人間には決して褒め言葉ではなかった。



「えっと……にぃ〜に?」


 状況について行けず、ソフィアはキョトンとしていた。


「あ……ソフィア。 その……なんかコイツ、敵意があった訳じゃなかったみたいなんで、とりあえずもう危険はないから、安心してくれ」


「ごめんね〜妹ちゃん。 ちょっと利用させててもらっちゃって。 でも偉大なる研究には、時に心を鬼にする時があるんだ。 分かってね……いたっ」


 再びヴィーがドナドーニを小突く。


「今度俺の妹に変な事したら、本当に殺すからな?」


「は〜い! じゃ、早くヴィーの家に帰ろう!」



 その後……、ヴィーがシュウトに連絡してことの顛末を説明すると……。


「また七騎将が増えるのか? しかも、あのマッド・サイエンティストのドナドーニだと? ……ヴィー、また貸し一つな」


 またシュウトに借りを作ってしまった事に、ヴィーは頭を抱えるのだった。

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