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第77話 やっと会えた

 ヴィーは、怯えるソフィアを見て、最早ロバートの命を奪う事に躊躇など感じていなかった。


 だが、違うのだ。


 ソフィアが怯えていたのは、あまりにも強過ぎて、存在そのものが暴力と化したアンノウンの姿にだったのだ。


(これが……私の兄?)


 薄らと残る記憶の中のヴィクトーは、とても優しい人だったハズ。 そんな兄をソフィアも、にぃ〜にと呼んで愛していた。


 少なくとも、こんな悪魔の様なオーラを漂わせた人では無かった。

 少なくとも、憧れのヴィー先輩は、こんな残虐な人では無かった……と。



「おのれ……おのれえええっ! こうなったらぁ、この私が直々に貴様を殺してやる!」


 ロバートが怒りや恐れがごちゃ混ぜになった表情で叫ぶ。


「貴様ごときが、この俺を殺せる訳がないだろう?」


「うるさいうるさいうるさい! 私は力を得たのだ! ……悪魔に魂を売ってな!」


 ロバートが胸元から注射器を取り出し、自分の首に刺した。


「うごごごげげげげっ……」


 みるみるうちに、ロバートの身体がグニャグニャになり、巨大化した。


(まさか……これは!?)


 それは、トラフトがスライムに取り込まれた時に類似していた。



「ぎゃっはー!! 最っ高に、ハイってやつだ!」


 興奮したロバート……ロバート・スライムは自らの人差し指で、自らのこめかみを刺している。 そしてその傷は、一瞬のうちに再生していた。


 ヴィーの中で、黒幕の正体が分かってきた。


(“アイツ”がスライムの研究をしてたって、ガイルが言っていたな……でも、何故アイツが?)



「ウリイイィィィ! 死ねえ、アンノウン!」


 ロバート・スライムの鋭い斬撃がヴィーを襲うも、これを躱わす。


 言い方は悪いが、あのトラフトでもスライム化して大幅にアップした戦闘力はかなりのものだった。


 ロバートは元々、シェスターが自分と同等と評価する程の実力者であり、そんな実力者がスライム化したとなれば、その戦闘力はどれだけのものか……少なくとも、魔獣の危険度レベルに例えるならレベル9を超えるだろう。



「チッ、面倒だな……」


 ヴィーとしても、ここまでの強敵となれば、あらゆるスキルを駆使しなければならないだろう。

 でも、すぐ傍にソフィアがいるのだ。 派手な攻撃は出来ないし、なにより自分が誰かを殺す姿を見られたくないという感情もあった。


「逃げろ、ソフィア!」


 そう促すが、ソフィアは恐怖で動けない。


「ウリイイィィィ、よそ見とは余裕だな!」


 振り下ろされる斬撃。 その余波でさえ、後ろにいるソフィアを真っ二つにするに充分な威力。

 よって、ヴィーは避けずにダークマターで受け止めた。


(ぐっ……重い!)


 ロバート・スライムの剣が、ヴィーを押し潰そうとする。


「調子に乗るな!」


 ヴィーがロバート・スライムの腹に前蹴りを入れるが、その前蹴りは腹にめり込み、一瞬身動きが取れなくなった。


「貧弱だなぁ!」


 そこへ、ロバート・スライムの触手がヴィーの脇腹を殴打する。

 ヴィーは衝撃で五メートル程吹っ飛ばされた所で踏ん張った。


(くっ、まさか俺が攻撃を受けるとは)


 近くにソフィアがいる限り、どうしても力をセーブせざるを得ない状況……それを、ロバート・スライムは見逃さなかった。



「如何に死神といえど、妹の身は心配と見える。 クックック、なら、こうしてやる!」


 ロバート・スライムの無数の触手がソフィアを襲う。 これを、ヴィーは瞬時に移動して斬り飛ばした。


「調子に乗るなと言っただろう?」


 続け様、ヴィーがダークマターを一閃。 その衝撃波で、ロバート・スライムは上半身が切断された。


「あがっ……!?」


 そして間髪入れずにロバート・スライムの全身を八つ裂きに切断するが……。


(コイツ……核だけは守ったか。 だが、無駄だ!)


 辛うじて核を守っていたロバート・スライムだが、八つ裂きにされた今、核を守る手段は残っていなかった。


「トドメだ!」


 ヴィーがロバート・スライムの核を破壊しようとした瞬間……背後から、強大なオーラが現れた……。



「久しぶりだねぇ、アンノウン。 ボクの事、覚えてるかい?」


 振り向けばそこには、深緑のフード付きのローブを羽織った、青白い肌の女がソフィアの背後に立っていた。


「……やはりおまえか……『ドナドーニ』」



『ドクター・ドナドーニ』。


 元・魔王軍七騎将の一人にして、マッド・サイエンティストとして、魔王軍のあらゆる兵器開発に着手していた女。


 魔法と化学を混合させた様々な兵器を用いた戦法と生物兵器を駆使して、人々の村を幾つも壊滅させた恐ろしい女だ。


 だが、ドナドーニはアンノウンとは比較的良好な関係を築いていた一人だった。


 となれば、考えられるのは一つ……裏切り者への私怨。


「聞いたよ、アンノウン。 君、人間のスパイだったんだって? それを聞いた時は驚いたよ〜」


「……謝罪ならしよう。 だがその前に、その子を離せ」


 ドナドーニが不気味な笑みを浮かべる。


「謝罪なんかいらないよ〜。 ただ、ボクは戦争を利用していろんな実験をしていたからさ〜。 君が裏切ってくれたせいで、実験の場が少なくなっちゃったのは残念だけどね〜」


 ドナドーニにとって、戦争の勝敗など二の次だった。 ただ、自分の研究さえ出来れば、それで良かったのだから。



「ところでこの子、君の妹なんだって? いや〜、まさかあのアンノウンに妹がいて、しかも妹を守るために、こんなにも四苦八苦するとはね〜。 あの、死神と呼ばれた男が……ヒッヒッヒ」


 ソフィアの身体を、ドナドーニの魔力で創られたロープが縛り付ける。


「うぐっ……く、くるしぃ……」


「ソフィアを離せ! さもなければ、殺すぞ!」


「お〜怖いなぁ。 でも、あの頃のアンノウンはもっと怖かった。 少なくとも、人質を取られたとしても、そんなに動揺して隙なんて一切見せなかったしね」


 背後から、再生したロバート・スライムがヴィーに襲い掛かる。


 そして……無数の触手が、ヴィーの身体を貫いていた。



「!?」


 ソフィアは、アンノウンが恐ろしかった。 それでも、彼が自分を救おうとしてくれている事だけは理解できていた。 そして、それが恐らく死んだと思っていた兄だという事も……。


「がはっ……ドナドーニ……ソフィアを、離せ」


 血反吐を吐くヴィーを、ドナドーニは蔑む様に眺める。


「あ〜あ、ザマァないねぇ、アンノウン。 冷徹・冷血・冷酷と呼ばれた君が、まさか妹一人でこんなにも甘ちゃんになっちゃうとは……」


「ひ、人の心を取り戻しただけだ……」


「ふ〜ん、なんか、呆気なかったなぁ。 ボク、仮面の下の君がどんな顔をしてるかずっと興味があったんだ。 最期に、素顔を拝んでから殺してやるよ」


 ドナドーニの手が、ヴィーの黒仮面に触れる。


 そして……現れた素顔に、ソフィアは涙が止まらなくなった。


「せん……ぱい……」


 それは、いつも優しかった先輩の、ヴィーだった。


「ソフィア……ごめん。 ずっと、言えなくて……」


 申し訳なさそうに呟くヴィー。


 ソフィアは、自分の兄に対して様々な葛藤を抱いていた。 それは、恨みであり、悲しみであり、寂しさ。 今となっては、負の感情の方が勝っていたのだ。


 だが、自分の為に傷付き、こんな状況でも自分に謝っているヴィーに、ソフィアは負の感情を抱いていた自分を恥じた。


 兄はこれまで、どんなに辛い思いをしてきたんだろう?

 置いてけぼりにされて、自分だけが悲劇に苦しんでいたと思っていた時も、兄はそれ以上の苦しみを、悲しみを背負っていたのではないかと。



「……にぃ〜に……にぃ〜に、ごめんなさい、私……」


 ヴィーの手が、ソフィアの頬に触れる。


「ようやく……ソフィアに会えた」


 そして、いつもの優しい表情を浮かべた。 それは、ソフィアの記憶の中の、優しかったにぃ〜にの笑顔だった。



「感動の再会を楽しんでくれたかい? 最期にそれくらいはさせてあげようって思ったボクって、優しいだろ?」


 ヴィーが、笑みを浮かべながらドナドーニを睨み付ける。


「ああ、ありがとうな。 おかげで、ソフィアに触れる事が出来た」


 ここまで、ロバート・スライムやドナドーニによって、ソフィアに触れるチャンスがなかった。


「これで……貴様らを殺す事に集中出来そうだ」


 ヴィーの掌が眩く光り、次の瞬間、オーラで出来た強固なバリアがソフィアを包み込んだ。


 コモンスキル・パーフェクトバリア。


 そのバリアは約三分間、例えヴィーが本気で攻撃しても傷一つ付かない、まさに完璧な防壁となる。

 ただ、このスキルは対象に触れなければ発動出来ないし、範囲も人一人分という欠点もあった。


 だからこそヴィーは、ソフィアに触れられるチャンスを伺っていたのだ。



「……最期にもう一度言うぞ……調子に、乗るなあっ!」


 ヴィーを中心に強大なオーラが爆発する。


「わおっ!」


 ドナドーニは咄嗟に飛び退いて回避したが、ロバート・スライムはモロに爆発に巻き込まれ、身体が爆散した。


「こ、この私が……!?」


 そして、宙に飛び散った核を、ヴィーはピンポイントで叩き斬る。


 ロバート・スライムは、完全に消滅してしまったのだった……。



 ヒーリング・パームで自分を回復させたヴィーが、ドナドーニを睨み付ける。


「さあ、これからはおまえのお望み通り、本来のアンノウンの姿を思い出させてやろう」

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