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第76話 死神再来

 __帝都・ヴィーの家。



 転移で家の庭に移動して来ると、何故かシャリアとガイルが庭に出ていた。


 そして、足元には黒装束の男が倒れている。


「なんだよ、ヴィーか。 驚かせんなよ」


「おかえりなさいませ、ヴィー様。 随分急なお帰りですね」


 突然巨大なオーラが現れたので、二人も驚いたのだ。



「緊急事態でな。 ところで、そいつは?」


「ああ、なんかヴィーの家に忍び込もうとしてたからとっちめといた」


 とっちめといた……というより、男は既に瀕死の状態で気を失っていた。


 やれやれと思いながらも、ヴィーは倒れた男を回復させ、胸元を探る。 すると、便箋を見つけた。


 すぐに手紙を確かめると、そこには……


“妹は預かった。 返して欲しくば、ニシコリー峠まで、一人で来い”


 ……と書いてあった。


 黒装束の男は災難な事に、この手紙をヴィーの家に置きに来て、そこで七騎将の二人と出くわしてしまったのだろう。



「……なにやら物騒だな。 何かあったのか?」


「ソフィアが拐われた。 主犯は聖騎士団のロバートという男だが……恐らく何者かがバックにいる。 そいつは、俺がアンノウンだと知って尚、俺に喧嘩を売って来た奴だ……」


 ヴィーの言葉に、二人は考えを巡らせる……。


「ソフィアちゃんを誘拐だ? ……許せねえ」


「まさか、魔族ですか?」


「畜生! アンノウンに喧嘩売るなんて、多分七騎将の誰かだろうが……」


 ヴィーがアンノウンだと知っているという事は、アンノウンの強さを知っているのだ。

 にも関わらず、ソフィアを誘拐するという手を打って来た。

 それだけの度胸と実力がある者と考えれば、おのずと七騎将の誰かかもしれないという考えに至るのは必然だった。



「七騎将の中でヴィー様に最後まで反抗的だったのは三人……その誰かかしら?」


「いや、アンノウンが裏切り者だったと知れば、全員が恨みを抱いてもおかしくねえ。 となると、誰が黒幕なのか予想するのは厄介だな、こりゃ」


 七騎将はそれぞれ能力も違うし思想も違う。 行動パターンも違うし、誰が真犯人かは予想し辛かった。


「この状況で誰が真犯人か決めつけるのはかえって良くない。 誰が相手でも対処できる様に余計な想像はしないで乗り込むつもりだ」


「ふ〜ん、それで、ヴィー様は手紙の指示通り、お一人で行くんですか?」


 シャリアが手紙を読みながらヴィーに問い掛ける。


「ああ、これは俺が招いた事だ。 ソフィアは、必ず助け出す」


「そうですか……なら、私達はこの家で、ヴィー様とソフィアちゃんが帰るのを待ちます」


「おいヴィー、俺も連れてけ! ソフィアちゃんを拐った相手は七騎将なんだろ? 誰が来てんのか知らねえけど、絶対に許せねえ!」


「おまえらが隠密を得意とするタイプなら協力をお願いしてたかもしれないが、残念ながら違うだろ」


 残念ながら、シャリアもガイルも七騎将の中では広範囲攻撃に長けた殲滅タイプだったので、隠密行動は苦手な方だった。


 敵はヴィーが一人で来る事を望んでいる。 もし約束を破れば、ソフィアの命が危ないと考えると、騎士団に報告するのも悪手だといえた。



「じゃあ、早速待ち合わせの場所に行って来る。 朝方までに戻らなければ、すぐにシュウトに連絡してくれ」


「承知しました。 ご武運を、ヴィー様」


「絶対にソフィアちゃんを救い出せよ! それに……オメーが死んだら、俺の今後の未来がスムーズにいかなくなる可能性もあるんだから、せいぜい死ぬなよ」


「ああ。 死ぬつもりなんて、もうこれっぽっちも無いよ」


 そしてヴィーは異空間から懐かしの黒仮面を取り出し、装着する。


「わあ、お懐かしい……。 よくお似合いです」


「その姿を見ると、なんか背中がゾワっとするぜ」


 今回の主犯ロバートと黒幕の何者かは、既にヴィーがアンノウンだと知っている。 だが、高確率で多人数で待ち構えていると考え、素顔を隠す判断をしたのだ。


 そして、ヴィーはサイレントステルスを発動して、ニシコリー峠に向かって地面を蹴った……。



 ニシコリー峠は、帝都から一〇キロ程離れた場所になる。 ヴィーならば、全速力で飛んで行けば五分ほどで到着する事が可能な距離だ。


(……数が多いな……)


 既にニシコリー峠に到着したヴィーは、サイレントステルスを発動したまま現場の様子を伺っていた。


 平地に、黒装束の男達が二〇名……恐らく、裏社会の人間だろう。

 そして、少し高みにロバートと、その周りを守るように騎士崩れの用心棒らしき男達が一〇名。


 ヴィーの見立てだと、黒装束の中にはハイランクハンターに匹敵する者が半数以上いるし、ロバートの周りにいる用心棒は全員AかBランクハンターのレベルに達している。

 相手がヴィーでなければ、かなりの戦力を揃えたと言える。


(……ソフィア……)


 そして、ロバートの後方に、目隠しをされたソフィアがいた。


(待ってろよ……ソフィア……)




 __数分前。



 ソフィアは、教会でのボランティアを終え、買い物に出かけている間に何者かに攫われてしまった。


 ほんの数ヶ月前にもロレッタの雇った売人に攫われ、今回で二回目だが、前回以上に恐怖を感じていた。 それは、今回は頼りになる先輩・ヴィーが、ルミーナの護衛としてサファリ大陸に行ってるからだ。


 あの時は、心のどこかでヴィーが助けに来てくれると信じていて、本当に助けてくれた。 あの出来事をきっかけに、ソフィアはヴィーを強く意識するようになった。

 自分自身、これが初恋というものなんだろうと思ってはいたが、少しだけ違う気もしていた。 ヴィーと一緒にいると、ドキドキするというよりも、とても安心するという感情の方が大きかったから。


 遠い、遠い昔の記憶で、ソフィアはその感覚を知っていた。 でも、思い出せないまま時が過ぎていたのだ。



 そして……目を覆われていたまま、自分を攫ったであろう人物の口から、衝撃的な真実を聞かされた……。


「恨むのなら、貴様の兄貴を恨むのだな……」


 兄……ヴィクトーは、まだ物心が付くか付かないかの頃、両親と共に突然自分の前からいなくなってしまった。 子ども心に、猛烈に寂しくて悲しかった記憶だけは今も残っていた。


 そんな自分が立ち直れたのは、姉と慕うルミーナのおかげだ。


 ルミーナは事あるごとにソフィアに言い聞かせてくれた。 両親と兄は、何らかの理由で会いに来れないだけで、必ずどこかで生きていて、いつかソフィアを迎えに来てくれると。


 そんな事、ありえないとソフィア自身も分かっていたし、もし生きていたとすれば、なんで自分だけを置いていなくなってしまったのかと憎んでしまう自分がいた。

 だから、むしろ家族はもう死んだんだと、そう思うようにしていたのだ。


(……その兄が、生きている?)



 思わず、ソフィアはその男に問いかけた。


「兄が……兄が生きてるのですか?」


 すると、男は少し溜息を吐き……


「ああ、知らないんだったな。 ならば、自分の目で確かめてみるがいい。 おまえの兄貴が、一人でおまえを助けにここにやって来るのをな」



 そうして、男は目を覆っていた布を解いた。 目の前には、屈強な男たちが自分を守るようにして陣形を組んでいた。


 ソフィアにだって分かる。 こんな所に一人でやって来たら、間違いなく殺されると。


 兄……そう聞いて、一人だけ思い浮かんだ人物がいた。


 彼は突然自分の前に現れて、自分を救ってくれた。 そして、いつも自分に優しい笑みを向けてくれた……。


 もし、彼が本当に自分の兄だったら? ……はたして、自分は彼を許せるだろうか?


 生きていたのに……しかも、すぐ傍にいたのに、正体を隠していたのだ……。


 分からなかった。 だが、少なくとも、ここには来ないで欲しいと思っていた。 来れば、いかに彼が強いとはいえ、絶対に殺されてしまうと思ったから。



 ……その時、ソフィアの目の前に立っていたロバートに、“思念”が送られ来た。


「……来たぞ! 全員構えろ!」


 男たちがにわかに殺気立つ。


 すると、広場に陣取っていた黒装束の男達の半分が、斬撃により足を切断されていた。


 ロバートの脳裏に、あの時の恐怖が浮かび上がる。


「……その子を返してもらうぞ、ロバート」


 黒いマントを羽織り、黒い仮面を着けた男……ヴィーが、ロバートを指差す。


「き、来おったな死神ぃ! 動けば、この女がどうなっても知らぬぞ!」


 ソフィアの首筋に、ロバートの剣が添えられる。


 それでもソフィアは、剣を目の前にしているにもかかわらず、突然現れた黒い仮面の男に釘付けだった。


(あの人が……私の兄? ……違う、先輩じゃない。 先輩は、あんなに冷たい雰囲気の人じゃない)


 自分の記憶の中のヴィーと、目の前にいる死神と呼ばれた男は、その身に纏うオーラの温度が全然違ったのだ。



「さあ、行け! 如何に死神といえど、これだけの実力者が相手では……はあ!?」


 ヴィーが、凄まじいスピードで次々と黒装束の腕や脚を斬り跳ねながらこちらに近付いて来る。


「なっ……お、おまえらもかかれっ!」


 ロバートの号令で、騎士崩れの用心棒もヴィーに立ち向かって行ったが、全員容易く身体の一部を斬り落とされた。


 ……あっという間に、残るはロバート一人になっていたのだった。



 怯えるソフィアを目にして、仮面の下のヴィーの表情は、アンノウンだった頃同様の、冷徹・冷血・冷酷な死神の表情に変わっていた。


「ロバート……貴様が誰の妹に手を出したのか……その命を以て分からせてやる……」

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