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第71話 真の強者

 圧倒的なスピードとアクロバティックな体捌きで攻めるハヤブサと、堅実に防ぎ、合間に反撃するシェスター。


 互いが本気となった二人の戦いは、観客席が息を呑んで静まる程に、研ぎ澄まされた攻防が続いていた。



 二人の対戦を見ていたアマンダも、思わず舌を巻いている。


「ほう……やるわね、あの若者。 ハヤブサと互角にやり合えるなんて」


 そんなアマンダの隣では、ロバートが歯軋りをしていた。

 ロバートとしては、この場でシェスターに恥をかかせてやりたかったのに、シェスターが想像以上に善戦しているのだから。


 そしてヴィーは……。


(ホーリーナイトはそんなに長持ちしないハズ。 今の所互角に見えて地力で上回るハヤブサが優勢だし、この状況をどう打開する?)



 シェスターも、その現状を理解していた。


(強いな、やっぱり。 全然隙を見せないし、攻撃パターンも多彩過ぎて読みキレないし……)


 このままでは負ける。 その言葉が頭をよぎっていた。


 元々シェスターが才能に溢れる騎士だったのは、彼を知る者だったら全員が口を揃えて肯定するだろう。

 それでも今は、彼自身がこれまでの自分を否定しつつある。


 それが、相棒であるヴィーの存在だ。


 ヴィー自身は、既にシェスターを相棒として頼りにしている。 ただそれは、戦闘面以外の部分で……それが、シェスターには我慢できないのだ。


 真の相棒ならば、ヴィーがピンチになった時に助けられるだけの力が欲しい。 そう、強く願っているからこそ、シェスターは急激に成長を遂げているのだ。


 このままではジリ貧なのは分かっている。 かつての、正攻法の剣を磨いていた自分だったなら、状況を打開する策など思い付かなかっただろう。


 だが、今は……。



 ハヤブサの攻撃が、シェスターの盾を弾き飛ばした。


 ガラ空きの胴体に、ハヤブサは一気に双剣を叩き込むべく懐に飛び込んで来た。


「ジャックスポットだ」


 ハヤブサの双剣がシェスターの胴体を斬り裂く……が、シェスターもまた、グランドクラスを放つ。


「それはこちらも同じだ!」


 横と縦の斬撃が、ハヤブサを斬り裂いた。



 敢えて盾を弾かせ、自ら隙を差し出した。 その瞬間を狙ったのだ。


「肉を切らせて骨を断ったか……。 み、見事だ若者よ……」


「……いや、骨を切らせて骨を断っただけさ」


 かつてのシェスターなら、こんな捨て身の戦法は思い付かなかっただろう。

 でも今は、勝つためなら多少の犠牲も厭わない、泥臭さがある。


 それこそが、ヴィーに少しでも早く近付くための手段だと知っているから。


(でもこれじゃあ、まだ相棒と胸を張って言えないな……)


 お互いがダウンして、気を失った。


 ハヤブサとシェスターの勝負は、相討ちで幕を閉じたのだった。



 闘技場には割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こっていた。


「やるなあ! あのハヤブサと相討ちとは! よし、あのシェスターという若者を獣王の権限により、ハヤブサと同率の獣王隊序列三位に任命する!」


 歓声が、獣王の宣言を歓迎していた。


 強さが強さの獣人の世界で、シェスターはしっかりと実力を認められたのだ。



「……ふぅ、よく頑張ったな、シェスター」


「やるわね、シェスター様。 流石は貴方の相棒ね、ヴィクトー」


 気が付けば、シェスターが座っていた席にルミーナが移動していた。


「ああ。 でも、最近は戦闘面でもどんどん成長していて、このままだと俺が勝ってる点が無くなってしまうのが不安だ」


「フフフッ、そうね。 ヴィクトーは色々抜けてる部分もあるから」


「……なんだと? 俺のどこが抜けてるって言うんだ?」


 二人にそんな気はないのだが、ただイチャイチャしてる様にしか見えてないロバートは、怒りで気がどうにかなりそうだった。


 恥をかかせようとしたシェスターが、まさか序列三位と互角に戦い、想いを寄せるルミーナがヴィーとイチャイチャしている。

 それは、ロバートにとって許容できるものではなかった。


(……落ち着け、この腰巾着野郎め、直ぐに地獄へ落としてやる!)



「いや〜、久々に興奮したわ。 もうお腹いっぱいなんだけど……もう一試合、分かってるわね、ライガー」


「承知」


 獣王隊序列第二位・ライガー。


 大剣を自在に操る強固な肉体をもち、アマンダとの獣王決定戦でも緊迫の戦いを演じた猛者だ。


「これより、第三試合を始める! 我が獣王隊が誇る戦士の中の戦士! 序列第二位、雷獣・ライガー!」


 観客席から、ライガーライガーの大コール。 それこそが、彼が如何に強く、人気があるのかを証明していた。


「対するは、シルマーリ帝国騎士団・剣術指南役、ヴィー!」


「ヴィクトー、頑張ってね!」


「そうだな。 相棒が目を覚ましたら、戦闘面はまだまだ俺の方が上だって教えてやらないといけないから」



 ライガーコールの中、ライガーとヴィーが闘技場で向かい合う。


「理由は教えてくれなかったが、おまえには一切手を抜くなとの獣王からの命令でな。 悪いが、手加減はせぬ」


「俺に手加減? ……久しぶりに聞いたな」



「それでは……はじめ!!」


 アマンダの号令と共に、ライガーが構える。 対するヴィーは、武器を持っていなかった。


「得物は?」


「ああ、俺はこれでいい」


 言いながら、両の拳を合わせる。


(下手に武器を持つと、うっかり致命傷を与えちゃいそうだから)


 舐められてると捉えてもおかしくないヴィーの言動だったが、ライガーは表情を崩さない。


「御免」


 そして、鋭い踏み込みから大剣を振り下ろして来た。



 大剣が地面をくり抜く。 ……が、その場からヴィーは姿を消していた。


「何!? どこだ?」


 完全にヴィーを見失ったライガーが辺りを見渡す。


「ここだ!」


 次の瞬間、ライガーの脳天に真上から降りて来たヴィーの踵落としが炸裂し、ライガーの頭が地面にめり込んだ。



 静まり返る会場……。


 何が起こったのか、何が起きてるのか、観客も誰も理解していない。


 ただ一人、アマンダを除いては。


「……死神か……期待以上ね」



 決着が着いたと確信しているヴィーは、アマンダによる決着の合図を待っていたが、次の瞬間、背後からライガーが襲いかかって来た。


「不死身かよ?」


 大剣をまるで木の枝のごとく振り回すライガー。


 だが、ヴィーには当たらない。 余裕を持って躱しながら、合間に打撃をヒットさせる。


 だが、効いた素振りを見せないライガーに、ヴィーは一旦間合いをとった。


(硬いな……流石は序列二位。 攻撃の威力も加味すると、シュウトとまではいかないが帝国騎士団でもトップクラスの実力はある)



「ぬおおおっ、くらえっ、雷獣絶空剣!」


 遠い距離からの斬撃が、電撃の衝撃波となってヴィーを襲う。 これをヴィーはジャンプで躱した


「同じ手は喰わぬ!」


 今度は宙にいるヴィーを視界に収め、再び電撃絶空剣を放つが、ヴィーは足元にオーラの土台を作って宙を駆ける。

 そして、一気に間合いを詰め、リバーブローを打ち込んだ。


「ぐほぉっ……」


 あのライガーの巨体がくの字になる様を見て、誰もが唖然としている。


「さて、これを喰らっても起き上がって来れたら、正式に不死身認定してやる」


 そして、側頭部に綺麗なハイキックが炸裂すると、ライガーは糸の切れた人形の様にストンと膝を着き、仰向けに倒れてしまった……。


「……うん、完全に気絶してるな」


 ヴィーは今度こそ勝利を確信し、アマンダの方を見た。 早く終わらせろという意味を込めて。



「それまで! 勝者・ヴィー!」


 勝者がコールされても、観客は静まり返ったまま。

 戦闘部族である獣人をして、ヴィーの強さは理解の範疇を越えていたのだ。



 試合を終え、ヴィーはシェスターが心配だったので医務室へ行こうとすると……。


「流石だ、ヴィー……いや、死神! 我が父・獣王・アレキサンダーを屠った者よ!」


 アマンダから飛び出した衝撃の発言に、ヴィーは自分の予感が当たっていた事に気付いた。


(……でも、どうして俺が死神だと分かったんだ? ルミーナが言う訳が無いし……)


 来賓席を見れば、ルミーナも驚愕している。 ……だが、その隣では、ロバートが嫌な笑みを浮かべていた。


(アイツか……。 昨日の会話を聞いていたか? だが、護衛からは外れていたハズ……とすると、盗聴か)


 盗聴は、防ぐのが難しい上に卑劣な行為として、各国の首脳陣が意見を統一して、世界的に違法として定められている。


(……なるほど、全ては仕組まれてたって訳か……)


 ヴィーは今回の遠征の間に、ロバートから相当な恨みを買ってしまったんだろうなと考える。


(原因は主にルミーナか。 アイツ、ルミーナを崇拝するだけでなく、好意まで持ってたんだな)



 アマンダの言葉の意味が理解できていない観客席がザワつき始める。


「皆の者聞け! この男こそ、偉大なる我が父、先代獣王を屠った男……死神と呼ばれる暗殺者だ!」


 一瞬の静寂……そして溢れ返る怒号。


 会場全体は最早、ヴィーに対する罵詈雑言で包まれていた。



 そんな空気を変えようと、ルミーナはアマンダに事情を説明しようとするが……。


「そんな……獣王様! 彼は……」


「聖女様、目をお覚まし下さい。 奴は卑劣な暗殺者なのですぞ? もし、あの男と聖女様が親しい間柄だと世間に知られれば、聖女様だけでなく教会の信用が失墜する恐れもあるのです」


 ロバートは、まるで自分が正義だとばかりにルミーナに訴えかけた。


 そこで、ルミーナはヴィーと同じ結論に辿り着く。


「……ロバート、貴方、まさか私の部屋に盗聴石を……」


「常に聖女様をお護りするのが私の役目。 その為なら、私は悪魔にだって魂を売る覚悟があるのです。 だから、あんな男ではなく私と……ぐばっ!?」


 ロバートにルミーナの渾身の右フックがめり込む。


「っざけんな! 何が魂を売るだ!? アンタのやった事は国際法で定められた立派な犯罪よ!」


 唖然とするロバートを睨み付け、ルミーナは再びアマンダに弁明しようとするが……。


「御主ら人間の内輪揉めなど、私にはどうでもいい。 私にとって……我ら獣人にとって、最も大切なのは、強さだ。 あの男が父を殺したというのなら、それが姑息な手段を用いった暗殺だったのか、それともあの男自身が真の強者だったのか……フッフッフッ、どうやら後者だったみたいだが、それなら尚更確かめたい。 この、獣王自身の手でな!」


 とりつく島もない雰囲気を漂わせるアマンダに、ルミーナは何も言えなかった。



「皆の者、聞けい! これより、この獣王が直々に、この男を成敗してくれる!」


 アマンダが来賓席から大きくジャンプし、ヴィーの目の前に着地する。


 同時に湧き上がる大歓声。


 獣人達の象徴、獣王アマンダが、闘技場に降り立ったのだ。



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