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第70話 交流戦

 翌朝……。


 シェスターが夜遅くに酔っ払って帰って来たので、このタイミングでシェスターに、ルミーナに全てを打ち明けた事を報告していた。


「……良かったな、ヴィー」


 シェスターは嬉しそうにヴィーの肩に手を置くと、そのままトイレにダッシュし、二日酔いで嘔吐していた。



 ……しばらく時間が経ち、今日も護衛からは外れているため、二人は適当に広場のベンチに座っている。


「はぁ〜気持ち悪い。 だから酒なんか飲みたくなかったんだ」


「おかしいと思ってたんだ。 飲めないくせに自分で飲みに行くって言うから」


「そのおかげで、ルミーナと二人だけの時間を過ごせたんだろ? 感謝してくれ」


 ヴィーも、シェスターが気を使ってくれた事は理解してるし、感謝もしていた。


「だからって、こんなになるまで飲むとはなぁ」


「アイツらが僕を、ヴィーの代わりに酔い潰そうとしてガンガン飲ませたんだよ!」


 信頼できる相棒との何気ないやり取りも、不思議と昨日までより晴れやかな心で接している事を、ヴィーは実感していた。



「シェスター。 ところで、獣人達の様子がおかしくないか?」


「ああん? ……アイツらも昨日飲み過ぎたんだろ」


 至る所で警備していた獣王隊の面々が、慌ただしくどこかに移動し始めている。


 すると、二人の下へダンがやって来た。


「よう、二人とも。 ……ププッ、まだ二日酔いなのか、シェスター」


「うるざいよ、なんでおまえらはあんなに飲んだのにピンピンしてるんだよ?」


「ハハハーッ! 俺達獣人に二日酔いなどという言葉はないんだ!」


 実際は獣人も二日酔いはするし、ダンも昨日はかなり酔っ払っていたが、それでも人間に比べると遥かに早くアルコールが抜けるのは事実だ。



「なあ、ダン。 何かあったのか? 獣人達が慌ただしくしてるけど」


「お、そうだ! 実はな、獣王隊序列上位の三人と、聖騎士団の代表三人が、交流も兼ねて模擬戦する事になったらしいんだ。 おかげで俺達もてんやわんやよ」


 模擬戦とはいえ、花より団子、団子より喧嘩の獣人族にとって、最高の楽しみなのだそうだ。


 今回の交流戦は、珍しく獣王直々にアナウンスされた事もあり、序列戦が行われているスタジアムには既に数万人の獣人達が観戦に集まっているらしいのだ。



「で、獣王様から、おまえら二人も連れて来いって言われてさ」


「獣王が?」


 嫌な予感がした。 ひょっとしたら、自分が死神だとバレたのかもしれないと。


「おまえらって聖騎士団じゃなくて帝国騎士団だろ? 勇者・シュウトに、おまえらを通じて獣王隊の強さを見せ付けたいらしいんだ。 あの人は根っからの戦闘狂だからな〜。 さ、行くぜ!」


 バレてはいないのかもしれない。 そもそも、バレる要素がまだ無いハズなのだから。


 それでも、ヴィーの不安は消える事はなかった。



 ……交流戦が行われるスタジアムは、観客席収容人数一〇万人、獣王からの通達を聞いて来た獣人達で超満員になっている。

 闘技場は円型で、最長一○○メートル、地面は硬めの土の上に薄っすらと砂が敷かれていた。


 ヴィーとシェスターが通されたのは、観客席中央部の貴賓席。

 既に、真ん中の玉座には獣王・アマンダが座っており、その両サイドには熊型の獣人で獣王隊序列二位・『ライガー』と、鷹型の獣人で序列三位『ハヤブサ』、奥からルミーナとロバートが座っていた。


「来たか、帝国の騎士よ。 さあ、座ってくれ」


 アマンダに促され、ヴィーとシェスターは手前の二席に座る。 奥で、席順に不満があるルミーナが恨めしそうに見つめているのは見ないフリをして。



「いくら僕等を経由して団長に獣王隊を売り込みたいからといって、流石に僕等にこの席は場違いな気がするなぁ」


「そうだな……」


 ヴィーとしては、やはりアマンダの胸の内が気になって仕方がなかった。

 シュウト云々はただの理由付けで、本当の目的は自分にあるのではないかと。


 それでも、昨日ルミーナと話した通り、自分から敢えて問題を大きくする気はない。



 観客席も満員となり、交流戦の開始を今か今かと待ち望む空気が闘技場を包み込むのを察したアマンダが立ち上がる。


「皆の者、先ずは、この国の民のために海を渡って来た聖女・ルミーナ殿を讃えよ!」


 風属性の魔法を駆使して闘技場全体によく通る声でアマンダが叫ぶと、ルミーナもその場で立ち上がり、一礼する。

 瞬間沸き起こる大歓声。 サファリ大陸に於いても聖女の人気の高さが伺える。


「そして、今日は聖女殿が護衛として連れて来た騎士達と、我が獣王隊の猛者達が、己の武を以って交流を深める事になった!」


 またも湧き上がる大歓声。 獣王のカリスマ性も去る事ながら、やはり獣王という最強の称号が獣人達の魂を震わすのだろう。



「今回行われるのは三試合! 先ずは、聖騎士団聖女専属部隊若手のホープ、マイダナ! 対するは、我が獣王隊序列一一位、ダン!」


 アマンダの口からダンの名がコールされた瞬間、割れんばかりの大歓声が巻き起こった。


「アイツ、序列上位が交流戦に出るみたいな事言ってたけど、自分が出るのかよ」


「でもまあ、一一位は一応上位とも言えるし、とりあえず注目しようか」


 闘技場には、やる気満々のダンと、やや緊張気味のマイダナ。

 マイダナは完全に闘技場の雰囲気に飲まれている。


「かわいそうに、ただでさえ実力差があるのに」


「このマッチメイクを組んだのが誰かは知らないけど、残酷な事をするね……」


 言いながら、シェスターはロバートに視線を送る。

 だが、ロバートは無表情のまま、シェスターを睨み返した。



「それでは、はじめ!!」


 アマンダの号令で、交流戦第一試合が始まった。


 先日の酒場で対峙した時と同じ、マイダナは剣を構え、ダンは鉤爪を装着している。



「こうなったら腹を括るしかない……前回は不覚をとったが、今回はマグレは起きんぞ!」


「ん〜、正直、オメーじゃ燃えねーんだが、仕方ねえな」


 …………結果、特に大きな波乱もなくマイダナはダンに、全身を死なない程度に斬り刻まれてしまった……。



「あ〜あ、やっぱりこうなったか」


「……だな。 部下がこうなると分かっていながら……いや、もしかしたら分かってなかったのかな?」


 またシェスターはわざとらしくロバートに向かって呟く。

 ロバートはまた無表情だったが、こめかみに青筋が浮き出ていた。


「それにしても、あのマイダナって奴は、あれでも聖騎士団の聖女部隊の若手の中では強い方なんだろ? 他に誰が出れるんだよ」


「どうなのかな? 三戦全敗、しかも惨敗となれば、聖騎士団としても面子が丸潰れになるハズなのに……そもそもが無謀な交流戦じゃないんですか? ……ロバート殿」


 シェスターが、今度は明確にロバートに問い掛けた。


「私はこの交流戦を、若手に機会を与える場と考えてるのでな。 若手にな」


 ロバートの含みのある言い方に、シェスターはロバートが何か企んでる事だけ感じ取っていたのだが……。



「続いて第二試合は、獣王隊が誇るスピードスター、序列三位・ハヤブサ!」


 ダンの時の倍近い程に大きな歓声が沸き起こる。


「対するは、シルマーリ帝国騎士団のホープ、シェスター!!」


「は? アマンダ様、一体何を?」


 突然自分の名前を呼ばれ、シェスターは意味が分からなかったのだが、ロバートが笑みを浮かべているのを見て、嵌められた事に気が付いた。


「どうした、シェスター殿。 怖気付いたのか?」


「……ふぅ、僕は意外と気は長い方だと思ってるんだけど……あとで覚えてろよ、ロバート」


 本気でキレそうになるのを抑え込み、シェスターは立ち上がる。 ロバートの事は必ずぶっ殺すと心に決めて。



「シェスター……突然で驚いてるだろうが、落ち着いて戦えよ」


 相手は、獣王隊序列三位。 ヴィーも、落ち着けば絶対に勝てるとは言い切れない相手だった。


「序列三位か……これは手強そうだな。 多分次はヴィーの番だろうし、僕もアッサリ負けて恥ずかしい思いをするのはごめんだ」



 ハヤブサとシェスター。 互いが来賓席から闘技場へと移動する。


「それでは、はじめ!!」


 シェスターは剣と盾。 ハヤブサは短刀による二刀流。


(スピードスターって言うくらいだから、余程速いんだろうけど……)


 ハヤブサが高速ステップでシェスターの視覚を撹乱する。


(へ〜速いわ。 でも……)


 ハヤブサがシェスターの背後から、短刀を振り下ろすが、シェスターは反応して盾で弾き飛ばした。


(この程度なら、トラフトスライムの方が早かった!)


 そして、剣でハヤブサの肩を斬り裂いた。



 観客席がどよめく。 序列三位のハヤブサが、攻撃を受けたのだから。


「……やるな、若者よ。 君は先程の小僧とは次元が違うようだ」


「そうかい? 一応年齢は一緒なんだけどね」


「同じ歳でも、才能と努力によって実力には大きな差が生まれるのは必然。 君は、強い戦士だな」


「お褒めに預かり光栄です」


 軽口を叩きながらも、シェスターは一切油断してなかった。 ハヤブサから溢れるオーラは、間違いなく強者のものだったから。


(今のはハヤブサが油断していただけ。 本来の実力なら、僕よりハヤブサの方が一段上だろうから)



 互いが構え直す。


 張り詰めた空気が闘技場を支配していた。


「せあっ!」


 ハヤブサが一気に間合いを詰める。 そして、双剣による連続攻撃がシェスターを襲う。

 シェスターはその全てを盾で防御するも、完全に防戦一方になる。


(速い! トラフトスライムよりも! でも、あの時の経験が活きてる!)


 トラフトスライムも、ハヤブサと同じ双剣によるスピードタイプだった。

 ただ、本気になったハヤブサは、スピードもパワーも一枚上だ。



 攻撃に転じる隙を与えないハヤブサの連続攻撃。 だが、同じ展開は既にトラフトスライム戦で経験している。

 猛攻を受けながらも、しっかりとハヤブサの攻撃パターンや癖を見つけ、一瞬のスキをついて盾でバッシュした。


「あんまり聖騎士達の前で使いたくなかったけど……ホーリーナイト発動!」


 シェスターから一際強大なオーラが溢れ出す。


「ほう、凄いな若者よ。 だが、それでこそ、この序列三位の相手に相応しい」


「序列三位に手も足も出ないようじゃ、相棒には相応しくないんでね!」

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