表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/85

第69話 告白

 ……あの後、お互い泣きながら抱き締め合っていたのだが、暫くすると、急に恥ずかしくなったのか、思わず笑い出してしまった。


 そして、ヴィーが夜に全てを話すと約束し、ルミーナは職務に戻って行ったのだ。





 __ルミーナの私室。



 夜になり、シェスターは獣王隊の面々と飲みに行くとの事で、部屋にはルミーナとヴィーの二人だけ。

 勿論、シェスターなりに二人に気を使ったからだ。


 護衛のロバートにも、聖女直々に部屋の前から外れる様に伝えてある。



「さあ、じゃあ教えて、ヴィクトー。 この一三年間、貴方に何があったのかを……」


 ヴィーはまず、自分は記憶喪失だった事をルミーナに告げた。

 魔族に襲われ、父と母を亡くし、自分は記憶を無くした。

 そんな自分を拾ってくれたのがミゲールであり、育ててくれたのがディエゴやアリシアで、厳しくもあったが愛情をもって接してくれた。

 そして、自分に発現したコモンスキル・スキルティーチ。 そのおかげか、そのせいか、魔王軍にスパイとして潜入する事になった。


 魔王軍では、己の力でナンバー2のポジションを手に入れ、七騎将の面々とは仲間の様に過ごした。

 その間、正体不明の暗殺者・死神として、魔王にとってもミゲールにとっても邪魔となる存在を暗殺などもしていた。


 そして……最終決戦において、ルミーナの自爆魔法・サクリファイスの聖なる力と、ルミーナが呟いた言葉で、記憶を少しだけ取り戻した。

 それでも、まだ生きる活力を取り戻すにはいたらなかったが、中庭でルミーナの過去を聞き、自分には妹がいると思い出した。

 それからは、妹と幼馴染……残された大切な人を守る為に、帝国に留まっていたのだと……。



「……そっか……。 やっぱり、あんなに仲の良かった家族が、ソフィアだけ置いていなくなる訳が無いとは思ってたのよ」


 ルミーナは涙を流しながらも、ヴィクトーだけは生きていてくれた事を素直に喜んでくれた。


「それにしても、私がヴィクトーの記憶を蘇らせたなんてね。 フフフ、これも運命かしら?」


「……そうかもな。 もしあの時、ルミーナが俺の名を呟かなかったら……俺は今、生きていなかったかもしれない」


 あの日……ヴィーは裏切りの代償として、七騎将に命を委ねる覚悟をしていたから。


「なんか……恥ずかしいわね。 それに、あの時は人生で二人目というか、最後に抱き付く男の人が敵のアンノウンだなんてと思うと、我ながら悲しくて……でも、結局アンノウンはヴィクトーだったし、さっきも……つまり、一人にしか抱き付いてなかったのか。 うん」


 どこか満足げに笑みを浮かべるルミーナを見て、ヴィーはなんでもっと早く打ち明けなかったのだろうと後悔していた。


(周りも皆、真実を打ち明けた方が良いって言ってたけど、本当にその通りだった。 結局俺自身に勇気が無かっただけなんだな。 過去の呪縛は、俺自身が作り出したものだったのかもしれない)



「それで、ソフィアには? 私としては、帝国に帰ったら直ぐに打ち明けるべきだと思うけど……ってゆーか、打ち明けないと怒るから」


「分かってるけど……なんか今更言い辛いというか……」


「ねえ、ヴィクトー。 ソフィアがどれだけ貴方を……お兄ちゃんの事を想っていたか知ってる? そのお兄ちゃんが生きてるんだって、私は早く教えてあげたい。 なんなら、今直ぐ通信板で!」


「いや、直接言うよ! でも……なあ……」


 今更ながら、言うなら初見のタイミングだったと思うが、その頃はまだ呪縛の影響があったのだから無理もない。


「大丈夫、私も付き添ってあげるから。 ソフィアはもう、私にとっても大事な大事な妹なんだから」


(多分、ソフィアはヴィーの事を、異性として意識してるわ。 今なら傷も浅い……それよりも、ヴィクトーが生きていた喜びが勝るハズ)



 全てを話し、ヴィーの心はかつてない程にスッキリしていた。


 それはルミーナも同じ。


 ルミーナも聖女としての公務に追われ、人間らしい人生を諦めていた節があった。

 でも、ずっと……ずっと好きだった幼馴染と再会出来たのだ。


 これからの人生を思い、かつてない程に未来が明るく見えていた。



 ここで、ルミーナは気になる事をヴィーに尋ねた。


「ところで、さっきはなんでまた表情が沈んでたの?」


「……ああ。 俺が死神として暗殺者だった頃に唯一、悪人じゃなかったかもしれないターゲットがいたんだ。 それが、前・獣王のアレキサンダー……現・獣王のアマンダの親父さ」


「なるほどね……アマンダ様に会って、父親を殺してしまった罪の意識が蘇ってしまったのね」


「ああ。 ……正直、俺が父を殺した死神だとアマンダにバレたら、俺はどうすればいいのか分からない」


「……ヴィクトーはどうしたいの?」


「……昔の俺なら、甘んじて命を捧げだろう。 でも今は……生きたい。 謝って済む問題じゃないけど、例え許してくれなくても、それでも、謝りたい」


「そう……そうよね。 でも、アンノウン……死神の存在は、世界的にも不明な部分が多いわ。 勇者パーティーに協力した事は秘蔵されてるし、ただ魔王軍の切り札だという事しか伝わっていないから。 そんなアンノウンが実在して、しかも正体が貴方だと知られれば……ミゲール様が創ろうとしている世界にとっても大きな影響を与えるわ。 だから……アンノウンがヴィクトーだという事実は絶対に知られてはいけない」


 もし、アンノウンが実在し、それがヴィーだと知られれば……。


 まず、魔王亡き後、新たな脅威として世界を不安にさせるだろう。

 そして、そのアンノウンが学生で、しかもミゲールが送り出したスパイだと知られれば、人類のみならず、現在友好関係を結ぼうとしている魔族との関係も拗れるだろう。

 また、アンノウンの正体がヴィーだと知られれば、もう彼には平穏な生活を送る事は叶わないかもしれない……。


 平等で平和な世界を創りあげようとしているミゲールにとっても、新たな人生を生きようとしているヴィー自身にとっても、そして……そんなヴィーを想う家族や友人達も、誰も幸せにならない選択だと、ルミーナは考える。



「……そうか。 俺はやはり、秘蔵されるべき存在なんだな……」


「そういう意味じゃない! 貴方の行動は他の誰も成し得なかった事よ。 ただ……世の中はそれを理解しようとしない人達もいる、それが人だもの。 でも、私は……ソフィアも、ミゲール様もディエゴ様もアリシア様も、シュウト様もシェスター様も、トラフト君やダイス君、他にも貴方と出会った人達は皆、貴方の事が大好きで、幸せになってもらいたいと思ってるの! それだけじゃダメ?」


「……分かってる、ルミーナに打ち明けてから、凄く心の靄が晴れたっていうか……もう、過去の呪縛に囚われるのはやめる努力をしようと思ってるんだ。 ありがとうな」


 これまでは、過去を思い出すだけで心が沈んでいた。 だが今は、自分でも嘘の様に、過去の後悔に打ち勝とうとする意欲が湧いていた。


「……よろしい! それでこそヴィクトーよ。 じゃあ、今度は私とソフィアが、あの後どうやって生きてきたかを教えてあげるわ」


「!? よろしく頼む!」


「……なんか、私の事よりソフィアの事となると目の色が変わるの、ちょっと面白くないんですけど?」


「え? いや、そんな事はないぞ? ただ、ソフィアは妹だしな……」


「……分かってるわよ。 ヴィクトーは、昔も今もシスコンなのは変わってないみたいね」


「シスコン……この、俺が?」



 その後も二人は、楽しみながら過去の話やこれからの話で盛り上がったのだった……。




 ……その頃、ロバートは護衛を外され、自室で待機していたのだが……。


「あの腰巾着が……アンノウンだと?」


 ルミーナの自室に“盗聴石”を仕込んでいたロバートは、二人の会話を全て聞いていたのだ。


(アンノウン……噂程度にしか聞いた事はないが、魔王の懐刀と呼ばれてたとか……それが、帝国のスパイだったと?)


 アンノウン……ヴィーの存在が恐ろしくもあったが、それ以上にルミーナとの関係を危惧していた。


(しかも、あの有名な暗殺者・死神もあの小僧だったと……。 そんな奴と聖女が近しい関係だなどと世に知られれば、教会の権威は失墜するやもしれぬ……)


 面白くなかった。 自分を差し置いて聖女の傍にいて、親し気に会話をし、今など……声色からでも、ルミーナがヴィーに対して親愛の感情を込めているのが分かるのだ。 それは、いつも傍で護衛していたロバートだからこそ気付いた変化だった。


(この私には、聖女様はあんな感情を向けてくれたことは無い……。 あの小僧~)


 最初は、シェスターの腰巾着としか思ってなかった。 だが今はヴィーこそが、教会にとって、聖騎士団にとって、そして聖女にとっての害悪だとハッキリ断定していた。



 消さなければ……。 そうは思っても、相手は魔王軍最強と噂され、世界最強の暗殺者と呼ばれた男なのだ。 当然、ロバート一人の力では相手にもならないのは容易に想像できた。


(……そうだ、死神は獣王・アレキサンダーを暗殺したと言っていたな。 それをアマンダに教えてやれば……)




 ロバートは直ぐにアマンダの元を訪れる。


「聖騎士団聖女専属部隊隊長・ロバートだ。 アマンダ様に緊急の報告がある」


 そう告げて、トレーニングルームに通してもらうと、アマンダは日課の訓練で汗を流していた。


「よう、隊長殿ではないか。 また揉め事じゃないだろうな?」


「至急、獣王様にお伝えしたい情報がございまして」


「それ、飯と喧嘩と訓練よりも重要な事?」


 実は、訓練を邪魔された事がアマンダには不満だったらしい。

 だが、獣王の威圧に圧倒されながらも、ロバートは口を開く。


「ハイ、とても重要な事です。 アマンダ様は、御父上である前・獣王様とは、とても仲が良かったと聞いております。 御父上が亡くなった時も、とても悲しんでらしたとか」


「そうだな……。 あまりに突然の事だったし、あの強かった父上がまさか暗殺されてしまうとは……我が獣人族最大の失態であり、娘としてあれ程の屈辱はなかった」


「心中お察しします。 その、御父上を暗殺したのが、死神と呼ばれる暗殺者だとは?」


「……噂程度にな。 調べれば、世界最強の暗殺者だとか?」


「……そうです。 そして、私はその死神の正体を知っています」


 アマンダの目の色が変わる。


「……世迷いごとではあるまいな? もし、嘘であれば……貴様の首を捻じ切ってやるぞ?」


「ほ、本当です! そして、その死神は……正体を隠し、今この時も、このサバンナ王国に来ているのです」


 己の父、前・獣王アレキサンダーを殺した者が、サバンナ王国にいる……。


 怒り、悲しみ……そして期待と緊張、様々な感情がアマンダの心を支配する。



「……言え。 死神は……誰だ?」


「……ヴィー・シュナイダー。 今回派遣された帝国騎士の一人で……あの、魔王軍最強と噂された、アンノウンの正体です」



 ロバートにとって、獣人もまた気に食わない存在だった。 馬鹿なくせに偉そうな、強さにしか価値観を見いだせない下等種族だと。


(いい機会だ……邪魔な奴らは、全員まとめて共倒れさせてやる! そして、私は聖女様……ルミーナと結ばれるのだ……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ