表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/85

第67話 獣王

 翌朝。


 早朝から、ルミーナと医療団による、獣人達の治療が始まった。


 この日のためにサファリ大陸中からサバンナ王国教会に集まった獣人は一◯◯万人を超えていたが、流石にその人数を診る事はできないので、中でも重病や重症の患者を一〇◯◯人選び、一週間かけて治療を行う流れだ。


 最終決戦が終わった後、ルミーナは聖女として、この活動を全世界で行なっているのだ。



 相変わらず護衛から外れているヴィーとシェスターは、すっかり仲良くなった獣王隊の面々と立ち話をしていた。


「おいヴィー、おまえ、二日酔いとか知らねーのか?」


 昨晩飲み比べでヴィーに敗れたダンが、二日酔いで苦しそうにしている。


「ああ。 残念ながら、俺は酒に酔えない体質みたいだ」


「あれだけ飲んで酔わないって、もはやアルコールを体内で完全分解してるとしか思えないよ」


 実は下戸なシェスターからすれば、酒に強いのは羨ましいのだが、酔いたい時に酔えないのはそれはそれで勿体ないなとも思っていた。



 するとそこへ、ロバートがやって来た。 後ろには数名の聖騎士を引き連れ、その中にはマイダナもいる。


「オイ、貴様ら……昨日は随分ナメた事してくれたみたいだな」


 ロバートは開口一番、ヴィーとシェスターに文句を言ってきたのだ。


「ナメた真似? はて、なんの事ですかね?」


 シェスターは、惚ける……というより、別に怒られるいわれはないと思っていたのだが。


「貴様ら、獣人と結託して我ら聖騎士に恥をかかせたのだろう!? ふざけおって!」


 ヴィーとシェスターはチラリとマイダナを見る。 マイダナは少し気まずそうだが、それでも悪巧みをした者の嫌な笑みを浮かべている。


「オイ聖騎士のオッチャン。 俺ら獣人が何をしたって?」


 ここで、ロバートの言葉に不満を覚えたダンが割り込んで来た。


「フン、御主、聞けば獣王隊の序列一一位だそうではないか。 そんな奴が、身分を隠して若手の聖騎士を痛めつけるとは……獣人とは随分野蛮な種族だな」


 マイダナは昨晩の件をロバートに報告する際、自分の非が露呈するのを恐れて、偽りの報告を上げたのだろう。


「なんだとテメー、獣人を侮辱すんのか!?」


「貴様らが先に仕掛けて来たのだろうが! 歓迎会と称して我等誇り高き聖騎士団を貶めおって!」


 一触即発のムードが漂う中、ヴィーはシェスターの肩に手を置いた。


「出番だぞ、相棒」


「……最近厄介事の処理を全部僕に任せてないかい?」


 言いながらも、シェスター自身がロバートの横暴にいい加減腹が立っていた。



「ロバート隊長。 僕はあくまで中立の立場で、昨日見聞きした現場の話をしますが、そもそも獣王隊の歓待を煩わしそうにし、その上見下す態度を取っていたのは騎士団の方ですよ? 流れ的に獣王隊と聖騎士団が険悪なムードになってしまったのは、主に聖騎士団側の責任かと」


「なんだと~? 貴様、いい加減なことを……」


「しかも! こちらの獣王隊のダン君は、場を穏便に済ませようとお互いが代表者を出して一対一の徒手格闘でケリを着けようと提案したのです。 それにマイダナが自信満々で応じ、あっけなく敗れ去ったにもかかわらず、騎士の命である剣まで抜いたのです」


「で、デタラメいうな! わ、私はコイツ等の挑発に乗ってしまっただけだ!」


 マイダナが慌てて言い訳をする。


 だが……ロバートの突き刺す様な目が、マイダナを睨んでいた。


「……今の話は真実か?」


「え…………ハイ。 でも、コイツ等がぶはっ!?」


 マイダナの顔面に、ロバートの拳がめり込んだ。


「我々の剣は、聖女様に捧げた剣だ! どんなに挑発されようが、関係のない場所で抜いていいものではない!!」


 聖騎士・聖女専属護衛隊たる吟持を見せたロバートを、ヴィーは少しだけ見直していた。



「チッ……ダン殿、ウチの若いのが迷惑をかけた。 すまぬ」


 ロバートがダンに頭を下げる。 だが、すぐ様顔を上げ、シェスターを睨んだ。


「だが、貴様らは別だ。 どうせマイダナが恥をかくのが分かっていて、黙って見てたんだろう?」


「難癖ですか? ロバート殿、そもそも僕達を除け者にしてるのは貴方がたでしょう? なのに、こんな時だけ責任転嫁するのは騎士として如何なものなんでしょうね?」


 シェスターがロバートに言い返す。 確かにマイダナが恥をかくのを予想した上で静観していたのは事実なのだが。


「なんだと? たかが帝国騎士団の新人騎士風情が! この聖騎士団隊長の私に口答えをするなど、一◯年早いわ!」


「……たかが? 貴方は今、帝国騎士団をたかがと言いましたよね?」


 シェスターも連日の嫌がらせにより、かなり腹が立っていたのはヴィーも知っている。

 だが、このままシェスターとロバートが喧嘩にでもなったら、ルミーナにも迷惑がかかるのは必須。


「シェスター。 らしくないな、別に聖騎士なんて大した強くないんだから、何を言われたって気にするなって」


 ヴィーはあくまで、シェスターを宥めるためだけに今の言葉をチョイスしたのだが、ロバートはこめかみに青筋を浮かせて顔を真っ赤にして震えている。


「……ヴィー、おまえって案外天然で煽るよな」


「は? 煽る? いや、なんで?」


 そして、聖騎士が大して強くないと言われたロバートは、遂に爆発した。


「舐めた口を聞きおって!! 大体貴様はなんなのだ!? 所詮シェスターの腰巾着だろうが! 虎の威を借りて調子に乗るな!!」


(ああ……やっぱり俺は腰巾着に見えるのか……。 でもまあ、俺がしゃしゃり出ると今回みたいに絶対に話が拗れるみたいだしな……何故かは分からないけど)



「フッ、ヴィーが僕の腰巾着? ロバート殿、そんな目しか持ってないんなら、アンタの底が知れるぞ」


「きっ、貴様〜! けっ、決闘だ! 騎士の礼儀に則って、貴様らに決闘を申し込む!」


 騎士同士の決闘とは、基本的に絶対に断ってはならない暗黙のルールが存在し、もし断れば未来永劫逃亡騎士と蔑まされるのだ。



「決闘? 正気ですか? 隊長のアンタが負けたらどうするんですか? ルミーナ様の顔にも泥を塗るだろうし、そもそも先ほどは自分の剣は聖女に捧げたとか言っておいて、自分が他で剣を抜こうとしてるとか、頭大丈夫ですか?」


 最早遠慮する事なく煽りに煽るシェスター。


「ぐぎっ……聖騎士を侮辱するはすなわち、聖女様を侮辱したも同義! 私は、聖女様のために貴様らを倒すのだ!」


「いや、なんでそう思った? それ、絶対にルミーナは喜ばないだろ?」


 必死に大義名分を考えたロバートに、今度はヴィーの天然が炸裂する。


「せ、聖女様を呼び捨てに……貴様は万死に値する! 決闘だ!」


「決闘決闘ってうるさいなぁ……そもそもおまえ、覚悟があるのか?」


 ヴィーが言う覚悟といえば、一つしかない。


 それは……命を懸ける覚悟。


「いいだろう、この決闘に騎士の名誉を懸けようじゃないか!」


「そうじゃないんだよなぁ……」


 騎士の名誉と命では、ヴィーの中では大きく異なる定義だった。



 するとそこへ、明らかに強者のオーラを纏った獣人達がやって来た……。


「随分騒がしいじゃない。 ダン、説明しな」


 先頭を歩く獣人……。 ダン同様、ライオンの様な立髪で、引き締まった身体と、合成ですかと思わず聞きたくなるような胸……つまり、美しく凛々しい女性だった。


「ハ、ハイ! 昨晩、聖騎士団との歓迎会の先で一悶着ありまして……で、この聖騎士が我々に難癖を付けて来たのです。 幸い誤解は解けましたが、何やら身内で揉め始めまして……」


「ハッハッハ、聖騎士団の面々は大人しい子猫ちゃんばかりだと思ったおったが、中々面白いわね」


 ヴィーは、ロバートが子猫と呼ばれた事に反論するのかと思ったが……ロバートは獣人の女性に頭を下げた。


「これは、大変お騒がせして申し訳ございませんでした」


 ロバートの表情は、明らかに女性に対してビビっている印象を受ける。



「なあ、シェスター。 ロバートが頭を下げるって、この女性はもしかして……」


「僕も初めて見るけど……でも、このお方が獣王隊序列一位、獣王・『アマンダ・クルーガー』様だ」


 獣王隊序列一位……。 つまり、獣人族の頂点・獣王。


 ヴィーはアンノウンだった頃、一応獣王隊の序列上位の者は調べていたが、現・獣王が誰になったかは知らなかった。


 当時の序列上位者の顔までは覚えていない。 だが、ある程度の情報は頭に入っていた。 だから思い出したのだ。


 その名前……苗字を聞いて、自らの過去の罪、苦い記憶が蘇った……。



 アマンダ・クルーガーは、前・獣王で『アレキサンダー・クルーガー』の娘。


(……そう、俺が殺した獣王、アレキサンダー・クルーガーの娘か……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ