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死神のリグレット~魔王軍最強の死神、学生になる~  作者: Tonkye
第一章 死神、学生になる
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第2話 予想外の再会

 昼休みとなり、これまで授業の合間毎に女子生徒に囲まれつつも無自覚の無表情でスルーして来たので、女子生徒達も今回は様子見をしている中、隣の席の男子生徒がオドオドしながらもヴィーに声を掛けて来た。


「や、やあ、シュナイダー君。 僕は『マルク・バリエンテ』、隣の席になったのも何かの縁だし、これから宜しく頼むよ」


 マルクは黒髪で、メガネを掛けたひ弱なイメージの生徒だ。


「ああ、こちらこそヨロシク」


 初めて男子生徒に声を掛けてもらったからか、ヴィーも安心して笑みを浮かべた。


(正直、女の子に話し掛けられても何て返せばいいのか分からないし)


 マルクにしても、ヴィーは眉目秀麗な上にどこか冷めた雰囲気の漂う転校生だったので、話しかけるのに相当の勇気が必要だった。

 だからこそ、昼休憩まで話し掛ける事が出来ずにいたのだ。



「ところでシュナイダー君、昼食は食堂かい? なんなら案内するから一緒にどう?」


「一緒にか? 助かるよ。 なんせ一人暮らしなもので、弁当を作ってくれる人もいないんだ」


 ヴィーは現在、幼少期を過ごしたあの家で一人暮らしをしていた


 マルクはヴィーの言葉に聞き耳を立てている女子を見なかった事にして、会話を続ける。


「えー? シュナイダー君、一人暮らしなの? なら、なんで寮に入らなかったの?」


 あの家は王城に併設した騎士団の本部にも、このカイゼルアカデミーにも、徒歩で三◯分はかかるのだが、ヴィーなら軽く走って五分で到着するので都合が良かったのだ。


「まあ、家はここからそう遠くないし、結局一人暮らしだから慣れない場所よりも慣れた場所の方が落ち着くんだ」


「そっか〜。 でも、その歳で一人暮らしも大変そうだね。 僕には妹がいるけど、これがまた可愛くてね〜……」


 ヴィーも、本当は妹がいる。 そして、同じくこのアカデミーに通う一年生なのだが、正体を明かしてないばかりか、まだ会って話した事もない。


 ミゲールや周りからは、自分が兄だと名乗り出れば、きっと妹も喜んでくれるハズだと説得されたが、それでもまだ自分には会う資格がないと頑なに正体を隠している。


 それでも、一◯年以上も離れて過ごしていた妹を常に少しでも傍で守りたい想いは本物だし、その為にも、どの様に妹とファーストコンタクトを取るか考えていた。



 誇らしげに妹の事を語るマルクを見ながら、いつの日か自分もこうやって妹の自慢ができる日が来るのだろうかと考えつつ、これまでのぎこちない笑みとは違う、優しさに満ちた笑顔を浮かべていた。


 それを見て、何故かマルクはヴィーが自分の妹を狙っているのかもと勘違いしてしまった。


「シュナイダー君、言っておくけど、妹には絶対に手を出さないでね? いや、シュナイダー君みたいなイケメンと付き合ったら、妹が全女子生徒に妬まれて虐められちゃう危険性があるから」


「え? 心配しないでくれ、とりあえず現状は恋愛に興味はないから」


 言いながら、ふと頭の中でルミーナの顔が浮かんだ。


 記憶を取り戻し、過去にルミーナに恋心を抱いていたのは思い出したが、それが今も恋愛感情として存在するのかと言われれば、明確に否定できた。


(ただ、守ってやりたいとは思ってるけど)


 初恋の相手であり、本来の自分を知ってくれている存在として、妹と共にルミーナは守ってあげたい対象なのは間違いないのだが。



 会話がひと段落し、食堂に向かうべく二人が立ち上がると、突然マルクの表情が固まる。

 その視線の先には、ヴィーの事を良く思っていないトラフトとダイスが立っていた。


「よー、転校生。 ちょっと付き合うてや」


「……」


 トラフトとは対照的に大柄でガッシリした体格のダイスが、無言でヴィーの肩に手を置く。


「すまないが、マルク君と約束があるんだ」


 萎縮して黙ってしまったマルクをよそに、ヴィーは無表情のままダイスの申し出を断る。


「いいから付き合えや。 そんなに時間はかからへんから」


 今度はトラフトがヴィーに凄んでくる。


 そんなに時間はかからない。 その言葉を、ヴィーは自分なりに解釈する。


(……確かに、“どんな展開になろう”と、そんなに時間はかからないか)



「……分かった、付き合おう。 ただし、三分だ。 それ以上はマルク君を待たせてしまう事になるから」


 トラフトとダイスから放たれる敵意に、ヴィーは気付いている。 その上で、今後の為にも三分だけなら付き合ってやろうと決めた。


「いいねぇ。 ほや行こうや」


「ああ。 じゃあマルク君、先に食堂に行って待っててくれるか?」


「あ……うん、わかったよ」


 ダイスに馴れ馴れしく肩を組まれ、教室を出て行くヴィーの後ろ姿を、マルクは何も出来ずに見送る事しか出来なかった……。




 ヴィーが連れて来られたのは、校舎裏の人気のない場所。 ……ここでなら、多少の物音や悲鳴なら気付かれないだろう。


「それで、用件は? ここまでの移動で既に二分経過してるんだが」


「……舐めてんのか?」


 ヴィーの言葉を挑発と捉えたダイスが、ヴィーの胸倉を掴む。


「オメー、転校生やからって、ち〜と調子こいてへんか?」


 ヴィーの鼻先まで顔を近づけて凄むトラフト。


(…………ふう、これがイジメってやつか)


 端から見れば、イケメン転校生を不良二人が妬み、転校早々シメられる図……なのだが、ヴィーにとってはちょっとしたイタズラ程度にしか思ってない。


 己の胸元を掴んだトラフトの手首を捻り、あっという間に制圧すると、トラフトは悲痛の声を漏らした。


「いででででっ!?」


「……!?」


 飛びかかろうとしたダイスに、ヴィーが少しだけ殺気を込めた視線を送る。 すると、ダイスは顔を真っ青にして固まってしまった。



「……用は済んだだろ? マルク君が待ってるから、俺はもう行くぞ」


 ダイスは勢いよく頷く。 一瞬で、ヴィーには敵わないと悟ったのだ。


 それはトラフトも同様で、もうヴィーに逆らう気はなかった。



「……あ、よく考えたら俺、学食の場所がイマイチ分からないんだ。 案内だけでもしてくれると助かるんだけど……」


 内心は、もうヴィーから一刻も早く距離を置きたい二人だったが、断ったらどうなるかを想像して苦笑いを作る。


「わ、分かった。 案内するわ」


 トラフトの声は震えていたが、ヴィーは笑みを浮かべる。


「ああ、助かるよ」


 ヴィーからは既に殺気が消え、穏やか表情を浮かべている。


 それでも、二人はヴィーに絡んでしまった事を心底後悔していた……。



 食堂までの移動の間、ヴィーは折角なのでトラフトとダイスに色々と質問をしてみた。


「なあ、このアカデミーで、一番影響力の強い生徒はなんていう名前なんだ?」


 どんな組織でも、その中でトップの人材を知っておいて損はない。


「そうやな……影響力というたら、やっぱ聖女のルミーナちゃんやろな。 なにせ、勇者パーティーの一員で英雄やし」


「いや、ルミーナは除外で。 それ以外では?」


「ん〜、権力で言うたら、多分生徒会のメンバーやろな。 会長はあの勇者・シュウトの妹やし、総合成績も一年の頃からトップの座を譲った事は無い優等生や」


 シュウトの妹がこのアカデミー通っていて、しかも同級生だというのは、シュウト本人からも聞いている。

 その妹が会長とは、やはり勇者の妹も優秀なんだなと感心した。


「で、一番強いのは……やっぱ生徒会のメンバーやろな。 特に副会長は既に騎士団からスカウトされとるっちゅー話やで」


 ヴィーは九ヶ月間、騎士団の臨時講師を務め、ベテランからルーキーまでのある程度のレベルは把握していた。

 学生で騎士団からスカウトされているとなれば、中々の実力者だろうと感心する。


「あと、嫌な奴やけど無駄に幅効かせ取る奴もいるわ。 特に二年には伯爵や侯爵の子息もおるし、アイツら歳下のクセに生意気やねん」


 基本的に、このカイゼルアカデミーの生徒のうち半分が貴族の家系である。 ちなみに、トラフトも男爵家の次男、ダイスは子爵家の長男であり、一応は貴族の出身である。


 帝国随一の名門校であり、学費も公立のアカデミーと比べれば驚く程に高いのだが、それでも卒業後の就職先は引く手数多なので、多少無理をしてでもカイゼルアカデミーに入学したい生徒や、させたい親が多いのだ。


 本来なら平民は高い学費がネックになるのだが、アリシアが理事長になり、平民であっても優秀な生徒には学費の一部を免除し、更にその中でも格段に優秀な生徒には特待生枠として全額学費免除の制度を設けた事で、近年は急激に平民の生徒数が増加している。

 勿論、平民でも実家が商売や会社経営、会社の役員などをして裕福な家庭もあれば、中流家庭だがかなり無理をして学費を捻出している家庭もある。


 ちなみにルミーナは、当然聖女として特待生枠に認定されており全額免除だし、ヴィーの妹も平民ながら成績が優秀だから一部の学費は免除されている。


 そしてヴィーなのだが、一部の教師にしか公にはされていないが、表向きは勇者であるシュウトが騎士団長として後見人となり、全額免除の特待生枠として入学していた。


 ミゲールの政策により、かつてより貴族の権力が弱くなったのは確かだが、やはりまだまだ貴族制度の階級社会の面が強いのだ。



「なるほどなるほど、情報ありがとう」


 どうせならアカデミーでの生活を有意義に進めたいと思っていたヴィーにとって、トラフトからの情報はそれなりに得るものがあった。


「ええて、さっきイチャモンつけてもうたお詫びや。 今後ともよろしゅうな、ヴィー」


「こちらこそ宜しく、トラフト」


 そう言って握手をする二人のやりとりを見ながらダイスは、無口な自分と異なるトラフトのコミニュケーション能力の高さに改めて驚いていた。


「ダイスも、さっきは睨んで悪かった」


 すると、ヴィーはダイスにも握手を求めた。


「え? あ、ああ……さっきは俺もすまなかった」


「なんやヴィー、おまえって、スカしてるかと思っとったけど、案外社交的なんやな」


「……スカしてるつもりは無かったんだが、いきなり女子に囲まれて困ってたんだ。 変に相手しちゃうとキリがないし、頑張って無表情を貫いてたのが悪かったのかな?」


「なんや、そんだけの顔しとるのに、女慣れしとらんのか? カカカ、ダイスと一緒やな」


「……おまえだって彼女いない歴=年齢だろうが」


「はあ? 何言うてんねん、俺はこれでも歳上からは案外モテるんやぞ!」


 くだらないやり取りだが、ヴィーからすれば初めての同年代との交流は、どこか新鮮で楽しくもあった。



 そうこうしているうちに、三人は食堂に辿り着く。


 名門校だけあって、食堂はかなり広くて綺麗な造りだった。


「さて、マルク君は……」


「あ、シュナイダー君!」


 入口付近で待っていたマルクが、自ら声を掛けて来た。


「すまん、待たせた」


「全然! でも……これはどういう状況なの?」


 ヴィーの隣に笑顔で並ぶトラフトとダイスを見て、マルクがヴィーの耳元で囁く。


「ああ、案外話したらいい奴らだったから、一緒に昼飯をする事になったんだ? もしかして、マルク君にとって迷惑だったかな?」


 ヴィーもまた、マルクの耳元で囁いたのだが……。


「何コソコソやってんねん? 俺らはヴィーと友達になったんや。 飯くらい一緒に食うのは普通やろ?」


「そ、そうなんだ……なんか意外だなぁ」


「意外とはなんや? ま、ヴィーの友達は俺らの友達や。 今まであんま喋った事なかったけど、これから宜しくな、マルク」



 そんな会話をしていると食堂内で揉め事が起きており、野次馬が集まっていた。


「……むっ!? 事件の香りがする!」


 すると、マルクは急に目の色を変えて、野次馬の集まっている方へと走りだした。

 それは、どこかオドオドしているマルクからは想像出来ない、過敏な動きだった。


「……ええか、ヴィー。 一応言うておくが、悪い奴ちゃうねんけど、マルクには気ぃ付けた方がええで」


「マルク君が……?」


「ああ。 アイツ、アカデミー一の情報通やから。 逆に、困った事や知りたい事があれば、マルクに聞けば大抵のことは解決すると評判なんやけどな」


 あのマルクにそんな特技があったとはと驚くと共に、下手に距離が近いと自分の正体もバレてしまわないかと考え、一応警戒しようと気を引き締めた。



「まぁ、なんにしても揉め事は祭りの花言うし、俺らも見に行こうや」


 流されるままトラフトに着いて行くと、数人の男女が、一人の女子生徒を取り囲んでいた。


 その光景を見て、瞬時にヴィーの血の気が引いた。


 男女に囲まれて、床に座っている少女。


 頭から液体をかけられ、服もずぶ濡れになっている。


「……これは、どういう事だ?」


 今にも泣きそうな顔で俯くその少女は、ヴィクトーの妹の、『ソフィア・ハイドローズ』だったのだ……。


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