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第64話 裏の顔

 聖騎士団・聖女専属部隊が配置に着き、聖女の泊まる宿や周辺の護衛をしている。


 それを横目に、シェスターは周囲の見張りを行っていた。


(……視線が気になるな。 だから聖騎士団とは絡みたくなかったのに)


 今回の任務は、突然騎士団長シュウトから直々に下った命令であり、相棒のヴィーが絡んだ件ではあったものの、聖騎士団と行動を共にしなければならないのは非常に気が重かった。



 聖騎士団の護衛は、流石に慣れているだけあって穴がない。

 仮に、自分が聖女の命を狙う暗殺者だったとしても……確実に失敗するだろう。


(まあ、今回は団長がヴィーとルミーナの関係を察して企んだんだろうけど、ヴィーの過去はあまり刺激しない方が良い気がするんだよな)


 ヴィーは年齢の割には達観した雰囲気がある。 それは、これまでの人生によって培われたものなのは間違いない。

 だが、時折見せる素直な部分や情に厚い部分、ちょっと世間知らずで抜けてる部分もあり、それこそが本来の姿なのだろうと思っている。


 そんなヴィーの表情に暗い影が差し込む瞬間がある。 それが、自分の過去に振れた時なのだ。


 ヴィーはきっと、アンノウンだった頃の自分のやってきた事がが許せないのだろう。 だからこそ、親しい人……妹や幼馴染は勿論、友人達にさえ、その頃の自分を知られたくないのだろう……と、シェスターは考えていた。


 周りはヴィーの功績は勇者と同等だと思ってる。 なのに、本人だけが、その頃の行為を強く恥じ、今も罪の意識に苛まれているのだろう。


(周りが無理にお節介を焼くのはヴィーのためにはならない。 少なくとも僕は、ヴィーが自分の意志で過去を乗り越えてくれるのを信じて、隣で見守るだけだ)




 ……シェスターが見張りに行ってから二時間が経過し、すっかり日も暮れて、ヴィーはなぜか風通しの良いテントの中で休んでいた。


 考えてみれば、見張りの時間を具体的に決めてなかったので、シェスターがいつ戻って来るのか分からないので、とりあえず時が過ぎるのを待っていたのだが……タイミング良くシェスターが戻って来た。


「お疲れ。 じゃあ、今度は俺が見張りに行くよ」


「いや、聖騎士団の護衛は万全みたいだし、どうせ僕らは護衛の戦力に数えられてないみたいだから、とりあえず晩飯にでも行こう。  サーモンリバーは川魚とキノコ料理が有名で、見張りの最中に良さげな店を見つけて来たんだ。 ……ああ、その前にテントを治してな」


 真面目なだけでなく、こういう余裕のある所も、流石はシェスターだとヴィーは感心する。


「魚とキノコか……ヘルシーでいいな。 じゃ、テント治したら行こうか」



 二人で風通りの良かったテントを張り直していると、聖騎士の二人組がヴィー達に近付いて来た。


「……おい帝国の新人騎士。 聖女様がお呼びだ」


 またか? と愚痴りたくなるヴィーだったが、シェスターが笑顔で応対する。


「いえ、結構です。 聖女様は我々が同世代だから面白がってるのでしょうが、それでは聖騎士団の皆様も不満でしょう。 護衛任務の邪魔になるのは心苦しい限りですし、今後の事も考えて、聖女様には丁重にお断りの言伝をお願いできませんか?」


「ほう、中々殊勝な態度じゃないか。 だが、聖女様のお言葉を我々聖騎士が断るなどという不義は出来ん。 黙って付き合ってもらうぞ」


 ヴィーとシェスターは目を見合わせ、諦めたように軽く溜息をついた。



 宿屋に入ると、聖女の部屋の前にはロバートが立っていた。


「チッ、また貴様らか。 いいか、いい気になるなよ? あくまでおまえらは聖女様の知的好奇心の対象でしかないのだ。 護衛として認められてる訳ではないのだからな?」


「勿論、承知しております。 我々はあくまでおまけ、聖騎士団の皆様の命令に従いますので」


「……チッ、相変わらずいけ好かない奴だ。 何故貴様にホーリーナイトなど……」


 シェスターとしては、いつからか聖騎士団への対応が面倒になったので、常に下から遜る様になったのだが、そのルックスも相まって、煽ってるのではと誤解されていた。


(……まあ、心の中では明確に煽ってるんだけどな)



「失礼します」


 シェスターに続き、ヴィーもルミーナの部屋に入る。


「お待ちしておりました。 晩御飯はまだでしょう? ご一緒しましょう。 この街はお魚と山の物が名物なんですよ」


 満面の笑みで二人を迎えるルミーナ。


 後方からロバートの歯軋りが聞こえてきたが、ヴィーは知らないフリをする。



 ルミーナの部屋は、この宿屋で最も広い部屋であり、本来なら食事は食堂でいただくのだが、特別に部屋に運び込まれていた。


「さ、座って食べましょう」


「いえ、我々は護衛という任務のために遠征に帯同している身。 聖女様とディナーを共にしたとなれば、他の聖騎士の皆様との軋轢が生まれますので、ご容赦ください」


 礼儀正しく断りを入れるシェスターだったが、ヴィーは既に座っていた。


「あ……すまん、俺も遠慮する」


 慌てて立ち上がり、シェスターの隣に並ぶ。 そんなヴィーに、シェスターは思わず笑みを浮かべてしまった。


(鬼の様に強いのに、こういう世間知らずというか、幼い所がまた、かわいい奴なんだよな)



「私が良いと言ってるのに、誰が文句を言うと? ねえ、ロバート。 貴方は、私が彼らとご飯を一緒に食べたら不満?」


「いえ! 我ら聖騎士は、聖女様に従うのみ。 不満など、ある訳がありません」


「……だそうですよ、シェスター様。 さ、食べましょう。 ああ、ロバートは持ち場に戻ってね」


「はっ! ……覚えとけよ、新人騎士」


 帰り際、ルミーナには聞こえない様にシェスターの耳元で囁いて、ロバートは部屋を出て行った。



 結局、二人は席に座り、食事を共にする事になった。


「お、うまい」


 ヴィーは、モグモグとサーモンリバー名物の焼きサーモンを頬張っている。


 一方でシェスターは、食事には一切手を付けず、ルミーナとヴィーが食事を終えるのを待っていた。


「……あの、シェスター様。 あんまり見られると非常に食べ辛いのですが?」


 そんなシェスターの様子に気付き、ヴィーは自分も慌てて食事を止めた。


「……ルミーナ様、我々の立場も考えて下さい。 我々はあくまで帝国の騎士です。 あくまで、帝国に剣を捧げた騎士であり、貴女に剣を捧げたつもりはありません。 それに、僕は少々聖騎士の皆さんから嫌われてますし、こうも特別扱いされては任務にも支障をきたします」


 本来のシェスターなら、聖女に対してこんな不敬な話はしない。

 だが今回は、ルミーナがこれ以上ヴィーに接近しない様に敢えて釘を刺したのだ。


 シェスターの忠告を受けたルミーナの表情が沈んでいく……。 そして遂には、涙まで浮かべていた。


「そんな……私はただ、いつも周りには歳上の方しかいなくて、久しぶりに同年代の方と接する機会を楽しみたいと思っていただけなのに……」


「ル、ルミーナ様? あの……いや、僕はただ、公私混同は良くないと……」


 流石のシェスターも、聖女を泣かせてしまった事に動揺してしまった。



 だが、ヴィーは……。


「どうせ嘘泣きだろ? 魔族の友人が言ってましたよ? 聖女には絶対に裏の顔があるって」


 ルミーナの涙が嘘泣きだと、サラッと指摘したのだ。


「………………はぁ、つまんない。 もう少し、清楚な聖女を演じてあげようと思ってたのに」


 途端にルミーナの態度が変わる……。


 シャリアの言った通り、ルミーナは普段は聖女の仮面を被ってたのだろう。


「そんなに警戒しないでよ。 無理にヴィーの過去を聞いたりしないって。 ただ、本当にいつもオジサンしか近くにいないからさ、いる時位若い子と一緒にいたいだけ」


(……いずれは必ず調べるけど、今はまず信頼を得ないとね)


 かなり素の表情になったルミーナだったが、それでも本心はヴィーの正体を探る気満々だった。



 すると、シェスターも観念した様に態度を崩す。


「……分かった。 ただ、三人の時だけですよ? ただでさえ聖騎士連中がウザイんだから」


「あら? アカデミーのカリスマだったシェスター先輩も、ウザイなんて言葉使うのね」


「僕は常に、その場その場で最適な立ち回りをしてるだけさ。 本心を隠して我慢するのは性に合わないけど、それで痛い目も見てるからね」


 ヘンリー森林区でのシェスターの暴走は、本人にとっても黒歴史となっている。

 ただ、それがなければ今のヴィーとの関係が無かったと考えると、絶対に必要な出来事だったとも思っているのだが。


「ふ〜ん。 ところで、シェスター先輩とヴィーは、どうやって知り合ったの? もしかして、随分前から知り合いだったとか?」


 シェスターとヴィーは目を見合わせる。 そして、ヴィーが軽く頷いた。


「……僕はこれでも同世代では常にトップの成績だったから、自分より優れた奴はいないと自惚れてたんだよ。 で、ヴィーと出会って、二◯年間のプライドが粉々にされたんだよ」


「へ〜。 まあ、この間私とあの性悪魔女の間に割って入って来た時に……というより、アンノウンなんだから只者じゃないって分かってはいたけど……それでも、あのシェスター先輩のプライドが粉々になった出来事なら是非知りたいわね。 ま、言いたくないみたいだから聞かないでおくわ」


「察してくれてありがとう」


 ルミーナとシェスターの間で、会話が淡々と繰り広げられる。


 その様子を、ヴィーは黙って聴きながら、キノコ料理を食べていた。



「で、ヴィーってソフィアの事、ホントはどう思ってるの? 恋愛感情ではないのはなんとなく分かってるけど……それだと、ソフィアに構う理由がないのよね。 貴女、別に彼女が欲しいって感じでもないし」


「……この間も言ったが、偶然通りかかった所でソフィアがトラブルに巻き込まれてたから……まあ、それがキッカケで仲良くなっただけだ」


「ふ〜ん。 ……それだけで、ソフィアを虐めていたゲロリアンとロレッタを破滅に追い込むのは、ちょっとやり過ぎじゃないかしら?」


 ソフィアが虐められたと聞き、自分もゲロリアンとロレッタを地獄に落とそうと思っていたルミーナだからこそ感じた違和感。

 はたして、偶然出会っただけの少女を……もしくは、どれだけソフィアが好みのタイプの異性だとしても、虐めていた相手の人生を破滅させるなど、そこまでやるだろうか?


 しかもヴィーは、たった三日でそれを実行に移したのだ。 余程の理由もなく、そのスピードで他人の人生をメチャクチャにする奴がいるとしたら、そんなのはサイコパスくらいのものだ。


 つまり……ヴィーは以前からソフィアを知っており、しかもルミーナと同様に、ソフィアに対して深い感情があったとしか思えないのだ。


(過去を直接聞く気はない。 でも……私は知りたい。 貴方が……何者なのかを)



「……確かに、ソフィアとアイツらの関係だけを見ればやり過ぎかもしれないな。 でも、実は違う側面があるんだ。 ロレッタの家のドゥワンゴ商会は、悪質な経営で帝王や騎士団も目を付けていた。 だから、それを機に、騎士団のシュウトが主導で潰しただけで、俺はきっかけを作ったぢけだし、ゲロリアンに関しては完全にとばっちりだ」


「……ふ〜ん、なら、国の考えとして、元々ドゥワンゴ商会を潰すつもりだった訳か」


 ヴィーの説明は、一応筋が通っている。


 強いて言うならば、何故ヴィー……アンノウンが、帝王・ミゲールと、そして騎士団長・シュウトと繋がっているのか?

 それが分かれば全てのパズルのピースが合致する気はしていたが、先日のヴィーの反応……あの表情を見た後では、ルミーナも聞くに聞けずにいた。



「……分かったわ。 ま、今日の所はここまでにしましょうか。 どうせ明日も一緒の馬車だし」


「え? 明日も?」


「勘弁して下さい、ルミーナ様。 もう僕、ロバートの態度がムカついて仕方ないんですよ」



 結局、次の日も三人は同じ馬車で移動する事になり、ロバートのみならず全聖騎士から怨みを買う事になったのだった。


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