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第63話 出発

 __帝都カイゼル教会



 帝都北東エリアにそびえる教会の屋外広場には、今日からサファリ大陸に渡る、聖女率いる医師団が一◯名と、その護衛を務める聖騎士団・聖女専属部隊二◯名。 そこにプラスで、帝国騎士団から二名。


 総勢三三名が、出発を控えて整列していた。



「これから私達は海を渡り、サファリ大陸サバンナ王国へ向かいます。 長い旅になると思いますが、皆様の献身的な働きに期待します。 そしてこの旅に向かう皆様に神の御加護を」


 聖騎士団の全員が跪き、聖女の言葉に頭を下げている。


 ヴィーとシェスターは、少し離れた場所で、その様子を眺めていた。


 シェスターの衣装は、白を基調として青のラインが入っている帝国騎士団の制服。

 ヴィーの衣装は、黒を基調として赤のラインが入っている帝国騎士団の制服に寄せたオリジナルだ。


「聖女か……もう、神様みたいな扱いなんだな」


「そうだな。 教皇に匹敵する教会のシンボルみたいな扱いだし。 とにかく、僕らはなるだけ関わらない様にするんだろ?」


「ああ。 願わくば、この遠征中は聖女の半径五メートル以内には近付かないのがベストだ」


 今回帝国騎士団から派遣された二人は、あくまでおまけだ。

 基本的には聖女の周りには聖騎士団がガッチリ護衛に着いてるし、二人がその輪に入ろうとしても煙たがれるだけだろう。



 すると、一人の聖騎士が二人に向かって歩いてくるのが見えた。


「げっ、ロバートだ」


 常に聖女の傍で専属の護衛をしているのが、聖女専属部隊の隊長・『ロバート・クリスティアーノ』。 中年の色気が漂うルックスだけでなく、聖騎士団全体でもトップクラスの実力者である。


「……彼、僕の事を目の敵にしてる節があるから、あんまり近付きたくないんだよな」


「ん〜、なんかプライド高そうだな。 なんか用かな?」



 ロバートは二人の前で止まった。 その表情は、既に不満気だった。


「帝国騎士団から派遣されたシェスターとヴィーだな? 私はルミーナ様の専属聖騎士、ロバートだ。 今回の護衛任務でも隊長を務めている。 くれぐれも、この私に無断で勝手な行動はとらない様に」


「了解してますよ、ロバート様。 我々はただのおまけですから。 弁えています」


 高圧的な態度のロバートに対して、シェスターは下手に出る。

 余計な事をしても揉め事が増えるだけだと知っているから。


「……ふん、どこの馬の骨かも分からぬ奴と、裏切り者か。 まったく、勇者殿も余計な事をして下さる。 とにかく、余計な事は一切するな? 何があっても剣は腰にぶら下げておけ」


 それだけ告げると、ロバートはさっさと持ち場へと戻って行った。


「……馬の骨って。 随分な言われ様だ」


「僕なんて、何もしてないのに裏切り者だぞ? ま、隊長のお墨付きも貰ったし、僕らは気楽に観光でも楽しもう」


「観光って……一応聖女の護衛だぞ? 離れた場所からでも、念の為気を抜かない方が良いだろ?」


「まあ……程々にね。 あのロバート、ムカつくけど実力は確かだ。 多分、今の僕でも一対一なら勝てないだろう。 それに、聖女専属部隊だけあって、他の聖騎士もそれなりの実力者が揃ってるんだ。 余程の事が起こらない限り、僕らの出番は無いよ」


「シェスター、一つ忠告しておく。 シュウトからの厄介事で、余程の事が起こらなかった事は一度も無いんだ」


「……なるほど、肝に免じておくよ」



 すると、またもロバートがやって来た。 今度は、かなり怒りを堪えた表情で。


「……ルミーナ様がお呼びだ。 移動中は同じ馬車に乗れとの命令だ」


 ルミーナは、専属護衛を差し置いて、ヴィーとシェスターを自分の傍にと命じたのだ。

 ほんの数分前にあれだけ粋がったロバートは赤っ恥である。


「……な?」


「……ははは、団長の厄介事か」



 自分達を睨む聖騎士の間を通り、ルミーナの馬車に辿り着く。


「失礼します」


「あら、貴方がシェスター様ですね? ホーリーナイトを持ちながら、聖騎士ではなく帝国騎士を選んだという」


 ルミーナの言葉に、ロバートを初めとした全ての聖騎士がシェスターを睨んでいた。


「た、たまたまですよ」


「たまたま? 何を仰るんですか。 ホーリーナイトなんて貴重なコモンスキル、聖騎士団でも持ってる人がいないのに」


 ロバートを初めとした全ての聖騎士のシェスターを睨む視線が鋭くなる。


 ルミーナは満面の笑みで悪気なく会話してる様に見えるが、ヴィーには分かっていた。 これは、わざとだと。


(……シャリアも言ってたな、ルミーナには裏表があるって。 確かに、この表情は幼い頃の記憶にある……思い切り作り笑いの時に使う笑顔だ)



「……で、お久しぶりね、ヴィー。 あ、三日前“プライベート”で会ったから、久しぶりでもないか?」


 聖女とプライベート……と聞き、ロバートを初めとした全ての聖騎士のヴィーを睨む視線が、最早殺気すら纏っていた。


(コイツ……裏の顔全開じゃねーか!?)


「……さ、とりあえず馬車にお乗り下さい。 お話はそれからにしましょう」


 ヴィーもまた、ポーカーフェイスでルミーナを馬車に促す。


 ルミーナは少しだけ面白くなさそうに舌打ちしたが、その仕草すらロバートを初めとした全ての聖騎士にとって、天使の様に可愛い仕草に写っていた。


(……ルミーナ、何か魂胆があるのかもしれない。 気を引き締めよう)



 三人が馬車に乗り込むと、聖女専属部隊もそれぞれ隊列を組み、いよいよ出発の時を迎えたのだった。


 ここから、途中の街で一泊し、明日は港町に一泊、翌朝に船で海を渡り、サファリ大陸に到着する予定である。



 移動が始まって五分。 ヴィーとシェスターは窓の外を眺め、口を開こうとしない。


 そんな二人を見て、ルミーナは頬を膨らませた。


「……あの、折角同じ馬車に乗ってるんですし、何かお話でもしましょうよ」


 ヴィーは、先ほどの嫌がらせの時にも思ったが、ルミーナの態度が出会った頃より軟化……馴れ馴れしくなったと感じていた。


「……ねえ? ヴィー、どうして無視するのよ?」


 遂には言葉使いすら取り繕わなくなった。


「……は〜、折角ソフィアの子どもの頃のお話でもしようかと思ったのに……」


「お暑くありませんか、聖女様。 なんなら窓を開けましょう」


 ソフィアの話しと聞いて、ヴィーは即座に反応してしまった。


「おい、ヴィー?」


 シェスターが小声でヴィーを制する。


(はっ!? しまった……)



「ほ〜ら、やっぱり無視してたのね。 もう、折角同年代でひとつ馬車の中にいるんだから、もっと気楽にしてよ」


「ぐむっ……」


「ルミーナ様。 同年代と言われましても、僕らはあくまで護衛です。 職務を放棄して気楽になど出来ませんよ」


「だってさ……いつもは移動中はロバートと二人っきりなのよ? 献身的に護衛を務めてくれてるから感謝はしてるけど、年代が違うから話も合わないし、なのにチラチラ色目使って来るしで、もう勘弁してよ」


 世界各地を訪問しているルミーナにとって、移動はかなりの時間を要する。

 そんな、長い時間をロバートと過ごすのが、非常に苦痛だったのだ。


「だからといって、あくまで我々は職務中です。 ご理解下さい」


 シェスターは、ルミーナがヴィーと話をしたがっているのを察し、会話を打ち切ろうとしていた。


「シェスター様は案外ガードが堅いんですね。 流石、教会からの熱烈なスカウトを無視しただけありますね」


「……お褒めに預かり光栄です」


 何を言っても態度を崩さないシェスターに、ルミーナは感心したが、それでは話が終わってしまう。



 今回、この二人をわざわざ自分と同じ馬車に乗せたのは、同年代と一緒にいたいのも本音ではあるが、やはりヴィーの事をもっと知りたかったからだ。


 彼がどんな人間なのか? 先日は聞けなかった過去は? そして……何者なのか?


 ヴィーがヴィクトーだという望みは限りなく低いのは百も承知だ。 それならそれで、ヴィーがヴィクトーではないという、決定的な証拠が欲しいのだ。


(シェスターから何かを聞き出すのは難しいわね……。 ヴィーの方も、ソフィアを餌にしたら最初は食い付いたけど、それ以降はだんまりか……)


 その後もルミーナはあれこれ二人に質問するが、ヴィーはほとんど答えずに反応すら示さない。

 代わりに、シェスターが淡々と可もなく不可もない返答をするのみ。


 ……どう会話を切り出そうか?


 そんな事を考えているうちに、馬車はあっという間に本日の宿泊地である村、サーモンリバーに辿り着いていた。



 馬車を降りる。 宿泊施設には聖女を含めた医療従事者一◯名と、護衛が一◯名。 残りの護衛は、宿屋の周辺の見張り。

 街の中の広場に野営テントを設置し、見張りはそれぞれ交代制で仮眠を取る事になっている。


 馬車を降りたヴィーとシェスターは、ルミーナに一礼すると野営テントの設営に向かってしまった。


(流石に宿屋の護衛まであの二人にしたら、ロバートが文句言って来そうだし……今日は諦めて、また明日策を考えよう)



 野営テントを組み立てながら、シェスターが聖女の様子についてヴィーに話し掛ける。


「やっぱりヴィーの事が気になってるみたいだな」


「そうだな。 ただ単にヴィーという人間を知りたいのか、それともヴィクトーについて知りたいのかは判別出来ないが、何にしても今日の調子で頼む」


「まさかあの聖女に塩対応する日が来るとはな……。 一応勇者パーティーの一員で英雄なんだから、あまり邪険にして恨みを買うと大変なんだがなぁ」


 ちなみに、ヴィーとシェスターには二人用の仮設テントが手渡されている。



「よ〜し、全員集合」


 聖騎士たちに集合の号令が掛けられる。


 二人もすぐに集合場所に集まると、本日の見張りのスケジュール用紙が渡された。


「……僕たちの名前が無いね」


「どうやら相当俺達が邪魔みたいだな」


「どうする? 一応僕らだって勇者である帝国騎士団長から直々の命令を下されてるんだから、抗議する権利はあると思うが」


「ん〜……いや、やめとこう。 俺たちは俺たちで自由にさせてもらった方が動きやすいし、なんらかの気配を察知できる様に、少しだけアンテナを張っておこう」


「了解。 じゃあ、最初は僕が適当に見回りするから、ヴィーはテントの設営よろしく」


 そう言うと、シェスターは見回りに行ってしまった。



 残ったのは、半分しか組み立てられていないテント。


「……あれ? 俺、テント一人で組み立てるの?」


 シェスターとしては、骨組みは終わってるのであとは一人でも出来るかと考えての事だったが、残念ながらヴィーはテント未経験なので途方に暮れたのだった。

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