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第60話 犬猿の仲

 ヴィー、シャリア、トラフト、ダイスの四人は、帝都の若者が集うメインストリートにやって来ていた。


「あんまりここら辺は来ないんだけど、人が多いなぁ」


 メインストリートは帝都の中心部に位置する。


 南が正門広場、南西が貧民街、南東が宿場町、西が住宅街、北西が貴族や富裕層の住宅街、東が工業地帯、北東が富裕層向け商店街、北が王城と高位貴族の住宅街となっている。


 ヴィーの活動エリアは、カイゼルアカデミーのある北と北東の中間エリア。 ハンターズギルド第三支部がある東エリア。 王城後方の山の麓にある自宅。


 西側全般とメインストリートはほとんど未開の地だし、なんなら北エリア以外からはギルド以外ほとんど出てないといえる。



 メインストリートには比較的若い世代の人間が集まる。


 そんな場所に、ヴィーが歩いてるとなれば、人の目を引くのは仕方がなかった。


「なんか視線がウザイな……。 やっぱり俺、人混み嫌いだわ」


「なんやねんこの色男ムーブは。 おいダイス〜、やっぱり俺の友達は凡人顔のおまえだけや〜」


「誰が凡人顔だ! 案外男らしいって褒められるんだぞ? ……家族にだけど」


「まあまあ、お二人共とっても個性的な顔で素敵よ。 自信を持って」


 ヴィーがより人目を引く最大の理由が、腕に抱き付いているシャリアだった。 彼女が魔族だから……ではない。

 シャリアは現在、帽子もサングラスも着用していない。 でも、今の彼女が魔族だと見抜ける者は、殆どいないだろう。


「本当に大丈夫なのか? 俺にはいつものシャリアにしか見えないんだけど……」


 ヴィーには通用してないが、シャリアは自分自身に、肌の色が人間に近く見える幻惑魔法を掛けているのだ。


「青白い姐さんも素敵やったけど、肌色の姐さんも素敵や〜」


「くっ……俺はもう、姐さんに一生着いて行きます!」


 シャリア曰く、この幻術魔法を見破れるとしたら、人間なら勇者パーティークラスだけらしい。


 つまり、今周りからは、ただの超絶イケメンと超絶美女が腕を組んで歩いてる光景に見えているのだ。



「で……ここか……」


 辿り着いたのは、ソフィアが待っているというカフェ・ケイディ。


 今、帝都の女性に一番人気のお洒落なお店で、外観も真っ白なお城風だ。


「これ、シャリアがいて良かったかも」


 間違いなく、男三人で入るのにはかなりの勇気が必要だっただろう。


「でしょ? 私は貴方の妻なんですから、いつでも頼って下さいね、ヴィー様」


「誰が妻だ」


「くぅ〜っ、羨ましいっ!」


「くそぅ、父上、母上、なんでもっと俺をイケメンに産んでくれなかったんだ!」


 ヴィーに向けられてる笑顔にすら、トラフトとダイスは心を奪われている。


(これで、キレたら街一つ平気で焼き尽くす激情の持ち主だって知ったら、二人はビビるだろうな)



 店内に入り、待ち合わせだと告げると、店員に個室へと案内される。


 ソフィアには、トラフトとダイスに急かされて連絡した流れだったが、ヴィーとしても妹のソフィアに会えるのは純粋に嬉しい。


 逸る気持ちを抑えつつ、個室のドアを開ける。



 すると……


「あっ、先輩!」


 まるで花のような笑顔で迎えてくれるソフィア。


 だが、ヴィーの視線は、ソフィアの対面に座っていた聖女に釘付けになっていた。


(ル……ルミーナ!?)


 ルミーナもまた、ソフィアを誑かす悪魔を懲らしめようと構えていたのだが、現れた男が見覚えのある顔だったのに驚いていた。


(確か……一度王城の中庭で会った……)


 ルミーナもまた、ヴィーの事を覚えていた。


 帝都に凱旋して直ぐにも関わらず、帝王・ミゲール直々のお願いで出会った男性。

 名前も聞かなかったが、あの時のヴィーには悲壮感が漂っていて、とても儚い雰囲気を纏っていた。


 そして……ヴィーが流した一筋の涙が、とても印象に残っていた。



「貴方、確かミゲール様のお知り合いの……」


 トラフトやダイス、ソフィアの手前、あまりミゲールとも関係があるのはあまり知られたくなかったのだが……諦めた。


 相手は聖女だ。 如何にミゲールといえど、教会との関係を考えれば、自分とヴィーとの関係をルミーナに問われればある程度の情報は渡さなければならないハズなのだ。

 それでも、恐らくミゲールは余計な事は言わないだろう。 ヴィーが望まない事は、絶対にしないだろうから。


(ここで俺が誤魔化したら、またミゲールさんに嘘をつかせてしまうだろう。 なら、ある程度の情報を出さなけりゃな)


「……ミゲール様には、幼少の頃よりお世話になってまして。 あの時は、多少無理を言ってルミーナ様との面会の場を設けてもらえる様にお願いしたのです」


「そうだったんですね。 でも……あの時は、なんというか……とても落ち込んでらっしゃったのに、今は楽しそうで良かったです」


 ルミーナは、あの時は今にも死にそうな顔をしていたと言おうとしたのを辛うじて止めた。

 ただ、そんな彼が今は楽しそうにしているのが、不思議なのだが少しホッとしていた。



「あの……お二人は、お知り合いなんですか?」


 いきなり二人だけの空間を作っていたヴィーとルミーナだったが、ソフィアが口を挟んだ。


「え? ああ、一度な」


「そ、そう、一度だけ、ね」


 別にやましい事はないのだが、何故かヴィーとルミーナは動揺を隠せなかった。


「あ、あらためまして、ルミーナ・フレドリクスと申します」


「……ヴィー・シュナイダーです」


 ルミーナは、ヴィという言葉を聞いた瞬間、まさかとは思ったが、やはり頭に浮かんだ少年とは別人だと知って、少しだけ残念だと思っている自分に気付いていた。


(そうよ、彼がヴィクトーな訳がない。 分かってたハズなのに……)



「おお、ルミーナちゃんやないか? でも、どうせ俺らの事なんか覚えてへんやろけど」


「あら、トラフト君とダイス君ですね? 知ってますよ、今年は同じクラスですし」


 ルミーナは考える。


 既にほぼ勘付いてはいるが、改めて。 トラフトとダイスは転校生ではない。 つまり、この銀髪の男こそが、ソフィアを誑かす転校生なのだろうと。


(まさか……あの人が転校生だったなんてね)


 あの日の面会は、時間にすればほんの一◯分程度だったが、毎日一日に何十人、何百人と接するルミーナにとっても、とても印象深い出会いだったのだ。


(……なんでこの人が、ソフィアに? 確かにソフィアは可愛いし魅力的だけど、見た感じ女を誑かすタイプには見えないし。 何か特別な理由があるのかしら……?)



 するとソフィアが、ヴィーの陰に隠れていたシャリアに気が付く。


「あ、シャリアさん! お久しぶりです!」


「……オホホ、久しぶりね、ソフィアちゃん」


 それでもシャリアはヴィーの背中に隠れて顔を見せようとしない。


 シャリアの幻惑魔法はかなり高度だ。 勇者パーティーでもなければ見破らない程に。

 なのに、目の前に勇者パーティーの聖女・ルミーナがいるのだ。


(なんでこんな所にクソ聖女がいるのよ〜! 私の幻術でも、流石に聖女にはバレるわよ!)


 シャリアは、姿さえ見せなければバレないと思っていた。


 だが……聖女の気配察知能力は異常な程に高く、シャリアから溢れ出る魔族特有の強者のオーラも隠し切れるものではなかった。



「……ヴィーさん、そちらの女性は?」


 ヴィーも、ルミーナならシャリアの正体に気付くかもしれないと思っていた。


 シャリアがただの魔族なら、ギリギリ問題なかったかもしれないが、彼女は七騎将の一人……勇者パーティーの天敵だったのだ。

 実際に戦場で対峙した経験があったかは分からなかったがが、それでもお互いの顔を認識しているからこそ、シャリアはヴィーの背中に隠れているのだから。


「彼女は知り合いです。 ソフィアとは仲が良いみたいなので連れて来たのですが……どうやら具合が悪くなったみたいで」


 ヴィーは適当な理由をつけて、シャリアを帰そうとする。


「……知り合い、ですか。 貴方が魔族の友人だと、ソフィアから聞いてましたが……」


 次の瞬間、ルミーナは戦闘モードのオーラを纏った。


「ヴィーさん、貴方騙されてますよ? その女は、魔王軍七騎将・煉獄のシャリア。 どんな魂胆で人間界に来たのかは知りませんが、この私が貴女の拙い野望をここで打ち消して差し上げます」


 ルミーナは回復・補助の専門と思われがちだが、一通り武器の扱いにも精通しているし、何より徒手格闘技においては、その分野で学生最強のライカールを秒殺するレベルなのだ。


「チッ……バレたら仕方ないわね。 この腹黒聖女が! ここで会ったのも運命ね……この場でぶっ殺してやるわ!」


 ヴィーが知らなかっただけで、二人はかつて、とある戦場で交戦した経験があった。


 その時は、お互いに決め手を欠いて決着がつかなかったのだが、互いがライバル視する関係だったのだ。



 聖なるオーラを纏うルミーナと、漆黒の炎を纏うシャリア。

 睨み合うだけで、ヴィー以外のトラフト、ダイス、ソフィアが恐怖で震え上がっている。


 このままでは、この店があっという間に崩壊してしまうだろう。



「……トラフト、ダイス、悪いんだが、ソフィアを連れて帰っててくれないか?」


「ヴィー、大丈夫なんか?」


「ああ。 ちょっと話をするだけだ。 ごめんな、ソフィア。 怖がらせちゃって」


「い、いえ、私が呼んだりしたから……」


「ソフィアは何も悪くないから。 今度埋め合わせは必ずするから、今日は帰ってくれ」


トラフトとダイスが、ソフィア連れて部屋を出て行った。



 ……相変わらず、ルミーナとシャリアは至近距離で睨み合っている。


 すると……ヴィーからアンノウンの頃の、怒りのオーラが溢れ出し、シャリアとルミーナに向けられた……。



「場所を弁えろ、シャリア。 ルミーナもだ。

 ソフィアを怖がらせる奴は、何人たりともこの俺が許さん……」


 ソフィアを怖がらせたという怒りが、シャリアとルミーナに向けられたのだ。


「す、すみませんでした、ヴィー様!」


 当然、シャリアはビビって戦闘モードを解除する。


 だが、ルミーナは……。


(この、圧倒的なオーラ……私は知っている。 こんな、絶望的なオーラを纏った男を……)


「……ア、アンノウン?」


 ルミーナは、ヴィーにアンノウンの姿を見たのだった……。



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