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第58話 究極生物(仮)

 双子殿下護衛の依頼を無事に終えた翌日、ヴィーは、トラフトと、その付き添いのダイスを自宅に呼んでいた。 カインは家の用事、マルクは相変わらず実家の領地に帰っている。


 トラフトがスライム化したのだが、魔獣の事は魔族であるガイルとシャリアの方が詳しいかもしれないと考えたからだ。



「おわ……ホンマに魔族や…… つーか、お姉様、むっちゃ綺麗や……」


「俺も初めて見た……本当に肌が白いんだな。 それが、美しさを引き立ててる。 カインも来れば良かったのにな」


 トラフトとダイスは、初めて見る魔族に……というより、シャリアの美しさに心を奪われていた。



「あら、見る目のあるボウヤ達ね。 でも残念、私の身も心もヴィー様のものなの。 手に入れたければ、ヴィー様より強くなってからにしてくれる?」


 シャリアが挑発的な眼差しで、ヴィーの腕に絡みつく。


「冗談は顔だけにしろよ、シャリア。 誰が俺のものなんだ?」


 そんなシャリアを冷たくあしらうヴィー。 いつもの光景である。


「……なあダイス、俺、今日ほどヴィーが憎いと思ったのは初めてや」


「同感だ。 絶対に負けると分かってるが、それでも一発ぶん殴ってやりたい」



 トラフトとダイスから放たれる怨念の籠った眼差しに困りつつ、ヴィーが本題を切り出した。


「……さてと、このトラフトだが、ヒューマン型フュージョン・スライムに取り込まれたんだが、指揮系統を担っていた芽を除去した事で、スライムの特性を残したまま自我を取り戻したんだ。 これって、魔族の間では知られている現象なのか?」


「いえ……芽がある事は知られてましたが、残念ながら芽だけの除去に成功した例はありませんね。 脳を傷付けずに芽だけを除去するのはかなり高度な技術・集中力・速度が必要とされるので。 例えるなら、上空一万メートルから鳥の卵を落として、かけうどんのどんぶりに乗せるくらい……って、“アイツ”も言ってました。 それを一発で成功させるとは、流石はヴィー様」


 魔族の間では、芽の存在は知られていたが、正確に除去すればトラフトの様な力を得られる事までは、実例が無いから知られてなかった。


 そして、上空一万メートルの例えは、公式の例えだったのかもしれない。


「そういや、“アイツ”もスライムの研究してたな……。 でも、こんな化け物みたいな奴を量産できるんだったら苦労しねーよ」


 アイツとは、ヴィーにも心当たりがあった。


 七騎将の一人で、あらゆる魔獣や科学を研究する男だった。



「それより、なんでそんな依頼があったんならこの俺様を誘わねーんだよ? 俺様の方がシェスターより遥かに役に立ったってーのに」


 ガイルは先日の依頼の件を聞き、ヴィーが自分を代役に選んでくれなかった事に拗ねていた。


「おまえが行ってたら全部台無しだっただろうが。 それに、護衛の相手は王族だぞ? おまえは魔族としてもう少し立場を考えろ」


 仮に、代役がシェスターではなくガイルだったら?


 ……護衛の双子殿下を敬う事もなく、トラフトがスライムに取り込まれてもお構いなしに瞬殺していただろうし、考えるまでもなく依頼はメチャクチャになっていただろう。


 ……結局、その後も目新しい事は分からないまま。 トラフトの事は念の為にディエゴに報告する事にして、あとは騎士団に任せる事になった。



「ほな、遊びにでも行こうや、ヴィー」


「外で会う時はいつもギルドばかりだったからな。 たまには街にでも繰り出そうぜ」


 用は済んだのだが、夏休みという事もあり暇を持て余してるトラフトとダイスは、ヴィーを誘って遊びに行く算段をしていたのだ。


「楽しそー。 私もお邪魔していいかしら?」


「お姉様なら大歓迎です! なあ、ダイス!」


「も、もちろん! なんなら、俺がエスコート……」


「何言うてんねん! お姉様は俺が面倒見んねん!」


「はあ!? ここは俺に任せろよ!」


 言い争う二人を、シャリアは女王様のごとく高みから見下ろしている。


「フフフッ、モテるってのも考えものだわ。 ね、ヴィー様」


「知るか。 大体おまえらは留守番だ。 ただでさえ、魔族が普通に街を歩いてたら皆驚くだろうが」


「だからってよ〜。 流石にこう引きこもってばっかだと、身体が鈍って敵わんぜ」


 ミゲールが帰ってくるまで、取り敢えず自宅待機を命じられているガイルとシャリアは、とにかく暇だったのだ。



「そーだ。 なら、ソフィアちゃんも呼びましょうよ! あれから会ってないし、将来私の妹になるんだかあだっ!?」


 シャリアにヴィーの拳骨が落とされる。 当然、トラフトとダイスは、ソフィアがヴィーの妹だと知らないのだから。


「ソフィアちゃんか〜。 可愛いよなぁ……でも、あの子も結局ヴィー目当てやし」


「……おいトラフト。 そのスライムの力でヴィーを倒せ。 俺が許す」


「おいおい、何言ってんだよ。 ソフィアだって暇じゃないんだ……」


 考えてみれば、帝都に帰って来てからソフィアに会ってないのだ。 考えれば考える程、妹に会いたい兄の想いが大きくなってくる。


「ちょっと、連絡してみようかな……」


「待てい! ヴィーよ、勝負や! 今の俺がどこまで通用するか、試させてくれや!」


「よし! なら俺は審判をしてやる!」


 盛り上がるトラフトとダイスを見て、ガイルは呆れを通り越して哀れみの眼差しを送っていた。


「馬鹿だな、コイツら……」


 魔王軍最強の男に喧嘩を売るなど、自殺行為にしか思えなかったから。


 ヴィーとしても、トラフトがどれだけスライムの力で強くなったのかは興味があった。

 ディエゴに報告する際にも、スライム化が人体にどれ程の影響をもたらすかは貴重な情報にもなるから。


「面白いな……じゃあ、一戦交えるか」


 そして、個人的にもギルドでチームを組む仲間のレベルアップは、ヴィーとしても大歓迎だ。


(実際に戦ってみて俺が気付いた点を伝えれば、トラフトはもしかしたら将来的にSランクにも手が届く可能性もあるし)



 ヴィーが幼い頃から住み暮らしたこの場所は、家屋の前にかなり広いスペースがある。

 この場所で、ミゲールやディエゴ、アリシアからの訓練を地道にこなして来たのだ。


「さ〜て、相手はヴィーやし、本気で行かせてもらうで!」


「望む所だ」


 トラフトが両手を剣に変える。 元々機動力重視の双剣による戦闘スタイルだったが、ベースはそのままらしい。


 鋭い踏み込みから、双剣による手数の多さで猛攻を仕掛けるが、ヴィーは最小限の動きで躱し続ける。


(確かに前とは比べ物にならないくらいにスピードが上がってる。 相乗効果で、一撃の威力も上がってるだろう)


「流石ヴィーやな……そう簡単に当たらんか。 なら!」


 トラフトの左右の腕が裂け、合計四本の剣となってヴィーに斬りかかる。


(もうここまでの応用を実行できるのか!?)


 ヴィーが一旦後方に間合いをとる。 それは、元・魔王軍七騎将のガイルを驚かせる展開だった。


(あのアンノウンが下がらされた!? あのスライム野郎、やるじゃねえか)



「どんどん行くでー!」


 調子の上がって来たトラフトは、伸縮自在の手足と自慢の機動力でヴィーを攻め立てる。

 ヴィーもまた、一見防戦一方に見えるが、トラフトの動き一つひとつをじっくりと観察していた。


(トラフトがスライムの身体を手に入れて、何がどこまで出来て、何が出来ないのか……大体分かった。 そろそろ終わらせるか)


「ほな、必殺技行くでー! トラフト百烈剣!」


 トラフトの腕が、まるで阿修羅の様に六本に増え、それぞれ剣の形になった。

 そして、六本の腕で無数の突きを放ったのだ。


「ぅおあーーたたたたたたたたたたっ!」


 弾幕の様な剣の乱突をヴィーは全て避ける、避ける、避ける……そして、トラフトの腹に掌底を放つと、トラフトは身体をくの字にして立ち止まった。


「うっ……なんや、身体の中が沸いとる!?」


 ヴィーの掌底は肉体の外部ではなく、内部を破壊する。

 通常の人間なら内臓が破裂し、地獄の苦しみを味わうのだが……トラフトに痛みは無かった。 だが、腹の中がまるでボコボコと沸くような熱さを感じていた。


「なんやねん、この感覚……ぶほっ!?」


 戸惑うトラフトの側頭部にビンタを喰らわす。


 常人なら脳が揺れて気絶する衝撃だが、やはりトラフトは意識を失っていない。


(……スライム人間か……ちょっと危険だが、試させてもらうか)


「いってぇ? いや、痛ないな……なんやこの感覚? ビンタもなんか、打たれた場所が波打った感覚っちゅーか……」


 ヴィーは異空間からナイフを取り出し、トラフトの手首を掴んだ。


「悪いんだが、ちょっと指を貸してくれ」


「へ?」


 次の瞬間、トラフトの指を一本切断した。


「んのおおおおお……ん? 痛くない!?」


 痛みが無いどころか、あっという間に切断面から指が再生したのだ。


「は、生えた!?」


 驚くトラフトを他所に、ヴィーは複雑な心境だった。


(トラフトは強くなった事を純粋に喜んでるが……やはりこれはもう、人間じゃない)



 意見を貰おうと、シャリアとガイルを見る。


「……スライム・ヒューマンね……」


「うん、とりま、人間じゃあねえな」


 二人とも同意見というか、なんとも言えない表情を浮かべていた。



「なあトラフト、もう気付いてると思うが、おまえはもう人間じゃないかもしれない。 でも、俺は変わらずおまえを友人だと思ってるし、その……」


 先日シェスターとも話したが、今のトラフトは一部の人間からすれば、格好の実験材料になるだろう。 例え、国家予算を注ぎ込んでも惜しく無い程の。


 ヴィーが考えただけで、人間のスライム化には幾つもの利点がある。


 先ず、その再生能力。 恐らく、心臓……核を破壊されない限り、手をもがれようが足をもがれようが再生するだろう。 ただ、頭部を破壊された場合は分からない……多分再生するのだろうが、しばらくは行動不能になるかもしれない。


 次に、強さ。 トラフトに関して言えば、ヴィーの感覚だと人間だった頃と比べて単純に五倍は強くなっている。 身体能力が上がっているのは勿論、スライムとしての利点を最大限活かした場合の計算だが。


 そして、ほぼ不老不死。 生物である限り、いずれは死ぬ。 でも、スライムは分裂を繰り返す事によって増殖し、半永久的な寿命を誇る。

 分裂に関してはトラフトの意思でコントロール出来るかも知れないが、本人が望めば永遠に分裂を繰り返して生き永らえる事も可能かも知れない。


 最後に、これは利点ではなく、ありとあらゆる生物の命題ともいえる行為が、トラフトからは失われた可能性があるのだ。


 それは、生殖機能だ。


 性行為自体は可能だろうが、恐らくトラフトはもう、子どもを作るのは不可能だろう。

 これは、ベースが単細胞生物であるスライムの特色でもあるからだ。



(トラフトを実験体になど絶対にさせるつもりは無いが……あまりにも不透明な部分が多くて、研究しなければならない気もするな……)


 そうなると、やはり魔法国家・グリルドールで一度調べてもらうという選択肢が出てくる。

 グリルドールは魔法や化学の研究において、他国の追随を許さない知識と技術を誇っている。


(でも……あの国は研究のためなら手段を選ばないからな……)


 グリルドールでの研究目的は、より良い未来の創造なのだ。 その実現のためには人の命が軽くなる。 それは、国の法律もそうなっているのだ。

 この部分での意見の食い違いから、シルマーリ帝国とグリルドールは長年揉めて来た歴史がある。


(なんにしても……この件はミゲールさんにも関わってもらって、国で対応する問題だな……)



「フフフッ、ハハハッ! 俺は、不死身や! 究極生物になったんや! 生物の頂点には天敵などおらぬことを教えてやるぞ、ヴィー!!」


 友人の変化を純粋に心配していたヴィーに対して、人の気も知らずに能天気に突っ込んで来たトラフトにイラッとしたヴィーは、ちょっと本気で顔面を殴ってしまい、トラフトの頭部を破裂させてしまった。


「あっ……でも、大丈夫……だよな?」


 ……結果は、ヴィーの予想通り、トラフトの頭部は三分後にはしっかり再生していた。


 ただ、殴られた記憶は失っていたが……。




死神のリグレット〜魔王軍最強の死神、学生になる〜


第二章 相棒



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