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第57話 目の上のたんこぶ

「って事は、俺……ほぼほぼ死んどったんか?」


 状況を聞かされ、トラフトが青褪める。



「……なるほど、脳の芽ね。 危なかったよ……そう考えると、あの時ダイス君が僕の前に立ちはだかったのは大正解だったんだな」


「す、すみませんでした! 結果的にはそうなりましたけど、でも、反省してます」


 あの時、ダイスが邪魔をしてなければ、シェスターは心臓の核を破壊していただろう。

 そうなれば、今ここにトラフトはいなかった。


「ふぅ……まあ、結果オーライだな」


 やはりヴィーの危惧していた通り、シェスターならヒューマン型フュージョン・スライム程度なら単独でも倒せていたのだ。 たまたまダイスが邪魔をしたからこそ、ヴィーは間に合ったのだから。



「それにしても……なんか身体がおかしいわ。 手なんかビョーンって伸びそうやし」


 試しにトラフトが自分の手を伸ばす。 すると、まるでスライムだった頃の様に手が伸びたのだ。


「うえっ!? なんやこれ!?」


 そんなトラフトを見て、シェスターが仮説を立てる。


「まさか……スライムの能力をそのまま保持してるのか? だったら、トラフト君はヒューマン型フュージョン・スライム・人間? って事か? いや……なんにしても、これはとんでもない発見だぞ……」


 トラフトは、ヒューマン型フュージョン・スライムの能力を引き継いだまま、自我を取り戻した。

 つまり、戦闘力もそのまま引き継いだ事になる。


「嘘やろ……俺、人間辞めてもうたんか?」


 今のトラフトを人間と言って良いのかは誰にも判断出来なかった。


「……トラフト、生きてただけでも儲けものだと思おうぜ。 な?」


 トラフトを励まそうとするダイスだったが、トラフトは……。


「……凄え! 凄えぞ、俺!」


 自分でも分かるのだろう。 戦闘力が大幅にアップした事に。 しかも手足は自由自在に変形・伸縮するのだ。


 今のトラフトの強さは、危険度レベル7の魔獣と同等。 これからスライムの身体に慣れていけば、どれだけ強くなれるのか分からない青天井なのだから。


「肌も艶々やし、えー事だらけやん!」


「いや、艶々っていうか、テカテカだぞおまえ!?」


 強さを求め、ハイランクハンターを目指していたトラフトにとって、人間である事よりも強さの方が重要だったのだ。



「まさか、こんな事が起こるなんてな……。 これは、世界的な新発見だ。 下手したら、トラフトはマジックギルドや魔法国家・グリルドールあたりに実験体として……それは無いか。 ヴィーがいるし、僕だっている。 トラフトの身柄を渡したりはしない」


 マジックギルドは、日々魔法の探究に心血を注いでいるギルドだ。

 勿論、本拠地は魔法国家・グリルドールにあり、国をあげて魔法の更なる発展に取り組んでいる。


 スライムとなったトラフトは、そんな者達にとって恰好の実験材料になるだろう。


「勿論。 友人を実験体なんかにされてたまるか」


「でも、今回の件で、スライムに取り込まれた人間がスライムの能力を手に入れる方法が確立されたら、世界中で実験が行われるだろうな。 多分、全部失敗するだろうけど」


 肝心の脳の芽の除去だが、あれはヴィーだからこそ出来た神業だ。

 同じ様にやれる者など世界中を探してもいないだろう。


「多分……今回はうまくいったが、成功率で考えると俺でも100パーセントではないな」


 そんなヴィーですら、あれをまた再現出来るかと言われれば、絶対という自信はなかった。


 であれば、他で無駄に試されて犠牲者が出るのを防ぐために、ある程度の情報を隠蔽する必要があるなと、シェスターは考えていた。



「さて、こうしてる場合じゃない。 双子殿下はカインが連れて行ったけど、無事に帰れたか確認しないと……」


「ああ、それなら途中で見付けたぞ。 あっちでもフュージョン・スライムに襲われてたから討伐しておいた。 今頃はギルドからの応援部隊と合流してる頃だろう」


「向こうにもフュージョン・スライムが? ……おかしい。 スライムは基本的に自我が無い、ただ生きてるだけの単細胞生物だ。 それが合体し、フュージョン・スライムに進化するなんて、確率的には一◯年に一度報告されるくらいに稀なのに、それが二体も同時に?」


 シェスターは、今回の件に人為的なものを感じ始めていた。


「……となると、目的は双子殿下……もしくは片方の暗殺も考えられるな」


「そうだね。 恐らくは、次期帝王に最も近いトーレスか……。 これは帝王にも報告しておかないと」


「それなら、帰ってからディエゴさんに俺から伝えておくよ。 話したい事もあるし」


「任せるよ。 僕には、宰相であり騎士団名誉顧問に気軽に連絡が取れる術は無いからね」



「すげー! すげーぞダイス! 見ろよ、腕が一◯メートルも伸びる!」


「いや、羨ましくねーから! そこまでして強くなりたくねーから!」


「ワッハッハ! 俺は、人間を辞めたぞ、ダイスゥー!」


 なんだかんだじゃれ合っている二人を眺めながら、シェスターは一安心していた。


「……なんにしても、トラフト君が助かって良かったよ。 結局最後は君の手を借りてしまったのが癪だけどね」


「まあ……無理を言ってシェスターを同行させたのは俺だしな。 本当、助かったよ」


 そしてヴィーは、はしゃぐトラフトと呆れるダイスにも頭を下げた。


「皆、今回の件は、本当にすまなかった。 一応パーティーのリーダーとして、無責任だった」


「何言うてんねん、ヴィー。 今回の依頼は、俺が無理言って引き受けたもんやないか。 そりゃ、死にそうになったけど……おかげで凄え能力身に付けたし、御の字や!」


「そうだぞ、ヴィー。 おまえは何にも悪くない。 悪いのは、我儘言って依頼を受けて、その上勝手にスライムに取り込まれたコイツなんだから。 大体、フュージョン・スライムを見つけた時点で報告してれば、シェスター先輩が簡単に処理してくれてたのに」


「何言うてんねん! それがあったからこそ、俺は強大な力を手に入れたんやで? なんから、今ならヴィーにだって勝てそうやわ!」


 ヴィーに勝つのは絶対に無理だが、それでも最終的に誰も死なずに済んだ事に、全員が素直に喜んでいた。



 こうして、双子殿下の護衛依頼は、無事に終了したのだった……。




 __その頃、カイン達はギルドからの応援部隊と合流し、帝都に向かって馬車に揺られていた。


「トラフト……大丈夫だろうか?」


 トーレスはまだ気絶しているが、サーシャは微笑みながらカインに応えた。


「一応解決策は授けましたが、多分無理でしょうね。 だって、脳の芽を除去するには、上空……」


「それなら、多分大丈夫ですよ。 だって、ヴィーですから」


 サーシャから、一瞬だけ笑顔が消える……。


「あの方は……どういう人なんですか?」


 すぐに笑みを作り、サーシャは疑問をぶつける。


 父・ミゲールが特別に目をかけ、一部では隠し子とまで噂されている謎の男が、一体何者なのかを。


「……失礼ながら、私では計りかねます。 ただ一つ言えるのは、強い。 少なくとも、学生の範疇には収まらない程に」


 カインはヴィーをそう評した。 本当は学生どころか、最早人間の範疇を超えてるのだが。


 サーシャが拳を強く握る。


 本人は強く否定していたが、もしヴィーが本当に隠し子だったら……王位の継承権を欲っしたとしたら、“自分”にとって最大のライバルになり得る存在だと、危機感を抱いたから。



「そうですか……。 なら、帝都に着く頃には結果が分かるでしょう。 貴方の信じる友人が、果たして上空一万メートルからかけうどんにピンポイントで卵を落とせたかどうかが」


 そう言って、サーシャは窓の外を見て、口を閉ざした。


(……“私が用意したスライムを”、あんなにも簡単に倒す男……。 厄介ね……)


 単細胞生物であるスライムを強制的に攻撃的にし、フュージョンを促す秘薬。


 これを、裏ルートで二つ入手したサーシャは、王位継承権のライバルである双子の兄を亡き者にしようとしたのだ。


 だからこそ、脳の芽の事を知っていたし、除去の方法も知っていた。 そして、それが不可能だと思っていたから、すんなりとヴィーに教えたのだ。


 だが、それによって現れたのは、より強力なライバルだった。


(単細胞には単細胞を……完璧な作戦だったのに)


 蔑む目で、気絶しているトーレスを見下ろす。


 最大のライバルと思っていた兄が、より強力なライバルの出現により、ただの雑魚にしか見えなくなっていた。



 ……こうして、帝都に着いたサーシャは、ヴィーがトラフトを救ったとの報告を受ける。


 サーシャの中で、ヴィーの存在が一際大きな目の上のたんこぶになったのだった……。



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