第51話 シャムロックの考察
__ハンターズギルド第三支部。
ハンターズギルド第三支部の外では、今回の依頼を受注したトラフト達三人とギルド職員が総出で、トーレス殿下とサーシャ殿下の到着を待っていた。
「なんか、緊張して来たな……」
「落ち着けよダイス。 こういうのは冷静さを失ったら駄目なんだから」
緊張するダイスを、カインが落ち着かせる。
「……冷静、冷静、冷静……アカン、やっぱ緊張するわ」
「トラフト……おまえが無理言って受けた依頼なんだから、そんなんじゃヴィーに申し訳が立たないぞ」
今回の依頼を最も懇願したトラフトは、この依頼を無事に終えればDランクハンターに昇級出来るという緊張から、やや入れ込み気味だった。
「それにしても、ヴィーの相棒って誰なのかな。 まだ来てないけど、このままだと殿下達の方が早く来てしまうかもしれないぞ」
あたりを見回すカインだったが、見覚えのある顔が歩いて来るのを見つけて、咄嗟に頭を下げた。
「あ、シェスター先輩! お久しぶりです!」
「よう、確か……カインだったか? 一年生の時に特待生を維持してたから覚えてるよ」
現れたのはシェスターだった。
今回は騎士団の鎧ではなく、動き易い軽装鎧だ。
カインは成績優秀な特待生だったので、シェスターも覚えていたのだ。
「今日は騎士団はお休みですか?」
アカデミー史上でも有数のカリスマ生徒会長だったシェスターの事は、カインは勿論、接した事はなかったがトラフトとダイスも知ってるし、騎士団に入団したのも知っていた。
「ん? まさか、ヴィーから話は聞いてないのか? はぁ……相変わらず戦闘面以外では言葉が足りないみたいだな」
「まさか……ヴィーの相棒って、シェスター先輩なんですか!?」
「ああ、今日は宜しくな。 本来なら騎士団員がハンターの仕事に肩入れするなんて滅多にないんだが、ヴィーとは一応相棒として付き合いがあってね」
ヴィーの相棒がまさかのシェスターだった事実に、三人は驚くと共に、何度目かとなるヴィーって何者なんだという疑問が大きくなっていた。
「まあ、今回僕はあくまで付き添い程度だから、基本は君達だけで頑張ってくれよ?」
「ハイ! まさかシェスター先輩がヴィーの相棒で助っ人とは……」
そんな会話をしていると、遠目に馬車が見えてくる。
そして、馬車がハンターズギルド第三支部の前に止まると、帝国王位継承権第一位・トーレスと、第四位・サーシャの、双子の兄妹が降りて来た。
トーレスは黄金の髪と、まだ幼さは残るが端正な顔付きで、父であるミゲールに似た威厳を纏っている。
サーシャも黄金の長い髪で、どこか儚さを感じさせる大人しい美少女だった。
「両殿下に敬礼!」
ヤーマンの号令で、ギルド職員全員が片膝を着いて頭を下げる当然、シェスターやトラフト達も。
「顔を上げてくれ。 今日は無理を言ってすまなかった。 それで、今日僕たちに帯同してくれるハンターは……御主らか?」
トーレスはトラフト達を見る。 ……そして、少し不満気な表情を浮かべた。
「僕は同年代と言ったハズだけど……御主ら、明らかに歳上だよな?」
「申し訳ございません、殿下。 騎士団は勿論、ハンターズにも殿下と同年代で、殿下の身の安全を守れる人材はおりませんゆえ、この者たちが護衛を担当致します」
ヤーマンが事情を説明するが、やはりトーレスの表情は優れない。
「僕は同年代とお願いしたハズだが? でなければ、今の自分がどれだけ強いのか分からないではないか」
トーレスとトラフト達は年齢が三歳、シェスターに至っては五歳も違う。
この年代の一年の成長率は大きい。 アカデミー中等部最高学年のトーレスと高等部最高学年のトラフト達では、その成長具合には大きな差が出ているハズなのだ。
その後も我儘を言うトーレスに、ヤーマンが必死に弁明していると、強大なオーラを纏った男が従者の女性を伴ってやって来た。
「これはトーレス殿下、サーシャ殿下。 改めてご挨拶させていただきます。 私はハンターズギルド・グランドマスターの『ケビン・シャムロック』と申します。 以後お見知り置きを」
やって来たのはハンターの頂点、ケビンだった。
その身に纏うオーラに、トラフト達は勿論、シェスターやヤーマンも圧倒されている。
「おお、御主が伝説のハンター・ケビン・シャムロックか。 して、シャムロック。 此度の不始末は、どう説明をするつもりだ?」
ケビンを見て尚、トーレスの我儘は治らない。
「説明させていただきます。 ハンターは規則として、余程の実績を上げない限り学生はEランクまでしか昇級出来ない規則を設けております。 これは、若い世代が無茶をして大きな怪我や死亡するリスクを回避するための処置であり、ですので殿下と同年代……または近しい年代のハンターは、数自体も少ないですし全員Fランクなのです。 流石にFランクのハンターを殿下の護衛をさせるのは酷ですので、限りなくDランクに近しいレベルの学生ハンターに護衛に就かせていただきました。 どうか、ご了承を」
「なに? 話には聞いていたが、それが本当ならば、僕と同年代は皆、Fランク程度の実力しか無いというのか? なんとも、頼りないな……これでは、僕の相手になる同年代はいないという事か……国の未来が心配になってきたな」
少なくとも、自分の実力はFランクではないと判断しているのだろう。
皮肉ではなく、自惚れでもなく、真面目な表情で国の未来を憂うトーレス。
「お兄様……そろそろ……」
「ん? そうだな。 まあ良い、早速魔獣討伐に向かうとしよう。 護衛の者ども、宜しく頼むぞ」
ここまで一言も発せず、柔らかい笑みを浮かべていたサーシャに促され、トーレスが護衛の四人に声を掛ける。
「ハイ、お任せください」
カインを中心に、全員が頭を下げた。
今回、リーダーのヴィーが不参加という事で、代理でカインがリーダーを務めている。
トラフトは、喋り出したら殿下に対しても不敬な口を聞いてしまいそうだし、ダイスはあまり前面に出たがらないからの消去法だったが、カインは特性的にリーダーを充分務められる能力は備えている。
双子が乗り込んだ馬車の後方、もう一台の馬車に四人が乗り込もうとすると、ケビンが話しかけて来た。
「君達、今回の任務は絶対に失敗は許されない。 我がハンターズギルドの威信がかかってるのだ、つまり、君達がハンターズギルドの代表として頑張ってくれよ」
伝説のSランクハンター・ケビン・シャムロック。
双子殿下も含めて大物が集まったこの場に於いても、一際強烈なオーラを放っている。
トラフトやダイスはケビンに声を掛けられて固まってしまった。
ハンター界の頂点であり、多くの若者にとって、勇者にも劣らない憧れの的なのだから。
「ところで……第三支部には、剣豪・ヤーマンが認める期待のルーキーがいると聞いたのだが、誰の事だ?」
ケビンが四人をジッと見つめる。 そして、シェスターの肩に手を置いた。
「なるほど、確かにこれは逸材だな。 君、名前は?」
「私は今回臨時でこのパーティーに加入しましたシェスターと申します。 そして、申し訳ございません。 私はあくまで、帝国騎士団の団員です」
「……騎士団? 何故騎士団が……なら、期待のルーキーとは?」
ケビンが怪訝な表情でヤーマンを睨んだ。
「す、すみません、実は、そいつは今回どうしてもこの依頼を受けられないというので、代わりにその騎士が助っ人で加入してるんです」
「……どういう事だ? 俺は、おまえが自信たっぷりに、第三支部に凄まじい新人がいるからと言う言葉を信じて、この件を任せたのだぞ? それが、何故騎士団などに手を借りる状況になってるのだ?」
ケビンの刺す様な視線には、剣豪・ヤーマンも冷や汗をかいている。
態度からも分かるように、ケビンはあまり騎士団をよく思っていないのだ。 それは、犬猿の仲であるディエゴの影響も少なからずあったのだが。
「いや〜、俺もまさか断られるとは思ってなかったんですよ。 どうやら、恩人とやらにこの依頼は絶対断れと言われたらしくて……」
「この依頼をこなせば特例でDランクに上がれるのに、断れと? ……つまり、その恩人って奴は、そのルーキーがハンターズギルドで出世するのを望んでないのか……」
そう呟きながら、ケビンはシェスターを見る。
(そして、コイツは騎士団。 新人騎士と言ったが、俺の見立てだと今の段階でも恐らくAランクにギリギリ手が届くレベルだ。 騎士団でもかなりの有望株だろう。 そんな有望株を代理に使うという事は……)
ケビンがニヤリと口角を上げる。
たったそれだけの情報で、期待のルーキー……ヴィーの背後に騎士団の上層部……それどころか、騎士団長のシュウトかそれ以上の人物がいるのではないかと考えたのだ。
(絶対にあの野郎だな……。 自分が目を付けた奴が俺に奪われるのを恐れて、ルーキーをこの依頼から外したんだ。 そして、恐れてるという事は、そのルーキーはまだ、卒業後の進路を騎士団に確定してない?)
ケビンがヤーマンの肩を組み、他に聞こえないように告げる。
「おい、ヤーマン。 そのルーキー、Aランクに上げてやれ」
「はあ? いくらケビンさんでも、流石にそれじゃ体面ってもんが……」
「これはグランドマスターの特例だ! とにかく、そのルーキーをAランクに上げてやり、無理矢理本人の了承を得るんだ。 そしたら、もうそのルーキーはウチのものだ」
ハンターズギルドと他の団体には明確な決まり事が何個かあり、その一つが、Aランク以上のハンターはいかなる組織・団体も引き抜いてはならないというルールである。
これは、ギルドにとってAランク以上のハンターの希少性と必要性が非常に高いからの措置であり、過去には、トレジャーズギルドとハンターズギルドの間で同様の出来事があり、両組織の血で血を洗う抗争にまで発展した問題もあったのだ。
つまり、例えばヴィーがヤーマンからAランクに昇級させると言われて、本人がそれを了承してしまうと、他の組織……騎士団には絶対に入団出来なくなってしまうのだ。
(クックック、ディエゴめ! そんな有望株を、この俺が簡単に手渡すと思うなよ? 絶対に俺が手に入れてやるからな!)




