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第50話 ディエゴの思惑

「依頼の内容は、トーレス殿下とサーシャ殿下の魔獣討伐の護衛……つまり、子守りってこった。 ま、そんなに危険な場所に行く訳でもないし、せいぜいスライム退治程度だろうから、難易度的には高くないのだが、問題は双子殿下を狙う不埒者に対する対応だ。 これは別に現段階で双子殿下が特定の誰かに狙われてるとかではないし、もし襲われたとしてもおまえらの腕なら大丈夫だろう?」


 そう言いながら、ヤーマンはヴィーをチラリと見た。 やはり、この依頼はヴィーありきのものなのだろう。

 でなければ、次期帝王候補を学生だけに任せる訳がないのだから。



「で、でも、王族の護衛って……いくらなんでも学生の範疇ではないのでは?」


 Dランクへの昇級は魅力的だが、カインは冷静に考えて、この依頼は完全に自分達には荷が重いと思っていた。

 ……もし、双子に怪我でも負わせたら、それこそ自分達の首が飛ぶ可能性だってあるのだと。


「だから、これは依頼主……トーレス殿下の要望なんだよ。 自分の同年代の実力を知りたいからって我儘を言って、近衛騎士を困らせてるみてーでな」


(まいった……。 ミゲールさんの子ども達には極力近付かないようにしてたのに……)



「ええやないか! スライムが現れる沼地は帝都からもそんなに離れてへんし、あそこはゴブリンすら滅多に現れへん場所やで」


「それはそうだが、俺もカインの考えに賛成だな。 何か起きた時のリスクが大き過ぎる」


「そうだ。 護衛対象は王族だぞ? もし、何かあったら、俺達だけじゃなく、家族共々連帯責任を負わせられるぞ?」


 ミゲールならそんな心配はないだろうとヴィーは思っていたが、カインやダイスとは別の理由で、この依頼は断るべきだと考えていた。


「……リーダーとして、この依頼は丁重にお断りしよう。 すまない、マスター」



 ヤーマンはヴィーの実力の一端を認識している。 ヴィー程の強さがあれば、余程のトラブルでもない限り簡単な依頼なのだから、断られるのは想定外だったのだ。


「元・Aランクハンターの俺が保証する。 おまえらなら……他の三人にはすまないが、ヴィーなら、この程度の依頼は問題なく遂行出来るだろ?」


「……そうや! ヴィーがおれば簡単やろ!? なあ、この依頼、やろうや!」


 慎重なダイスとカインに反して、トラフトはこの依頼に前向き……というより、必死にこの依頼を引き受けたいと申し出た。


「そりゃ、俺らはヴィーにおんぶに抱っこみたいなもんかもしれへん。 でも、Dランクやで? 世間じゃあ一端のハンターと認められるランクや、このチャンスを逃したないねん!」


「おまえの気持ちは分かるが、家の事も考えろよ。 失敗したら、これはおまえだけの問題じゃなくなるんだぞ?」


興奮するトラフトを、カインが落ち着かせようとしたのだが……。


「おまえはええよな、カイン。 なんだかんだ爵位も取り戻せて、その上次期当主の座が確定しとるんやから。 ダイスもそうや、おまえも子爵家の長男やもんな。 次男の俺は家を継ぐ可能性は低いし、所詮男爵家や。 別の道で独立するためには、このチャンスは絶対にモノにしたいねん!」


 カインとダイスは、次期当主の座がほぼほぼ決まっているが、トラフトの家は現在二◯歳の長男が既に次期当主として父親の仕事の補佐をしている。

 自分は別の道……ハンターとして一旗上げたいという野望を持っていたトラフトにとって、学生でミドルハンターになれるのは願ってもない報酬だった。



「なあ、ヴィー。 頼むわ……この依頼、引き受けよ?」


 懇願するトラフトに、ヴィーは頭を悩ませる。


 すると……


「……すまん、ヴィー。 おまえに頼る形になるが、トラフトのために、この依頼引き受けてくれないか?」


 反対の立場だったダイスも、親友であるトラフトの切実な想いを汲み取っていた。


「俺は、あくまで反対なんだが……ヴィーならこの程度の依頼を問題なくこなせるのも確かだ。 俺は、リーダーの意見に従うよ」


 決断を迫られ、ヴィーは悩んでいた。


(……っていうか、この状況ってミゲールさんは分かってないよな? 念の為に判断を仰ぐか……)


「ちょっと待ってくれ。 この件で、ある人の意見を聞きたいから、ちょっと連絡してみる」



 ヴィーはギルドマスター室を出て、通信板を取り出す。 相手は……


「どうした、ヴィー。 おまえから俺に連絡なんて珍しいじゃないか」


「ああ、すまない、ディエゴさん」


 本来であればミゲールに直接尋ねれば良かったのだろうが、ミゲールはヴィーの言う事をなんでも聞き過ぎな所がある。 それこそ、養子にしてくれと言ったら本当に認めそうな程に。 それがかえってミゲールに連絡を取り辛くさせていた。


「ちょっと聞きたいんだけど、トーレス殿下とサーシャ殿下の魔獣討伐の護衛依頼が第三支部のハンターズギルドに来てるんだけど……」


「ああ、その事か……。 まったく、トーレス殿下にも困ったものだ。 初めての魔獣討伐なのに、自分達の同年代の実力を知りたいからと申してな。 そんな年代は近衛騎士や騎士団にはおらぬし、どうしたもんかと悩んだ結果、駄目元でハンターズギルドに依頼を出したのだ。 ただ、ギルドの方にも、この依頼を任せられる様な同年代のハンターなどおらぬだろう? ギルドからの断りを以って、殿下には諦めてもらおうかと考えておるのだが……というか、何故御主がそれを知ってるんだ?」


「残念ながら、その依頼はギルドマスターのヤーマンから俺の元に来て、俺の友人達はすっかりやる気になっている」


「はあ!? なんで御主がハンターに!?」


 ……ヴィーは友人の誘いでハンターになり、第三支部ギルドマスターのヤーマンに気に入られて特別な依頼を受けていた事をディエゴに告げた。



「……御主、まさかこのまま、ハンターになるつもりじゃないだろうな?」


「そうだな……卒業したらそれも良いかなと思ってる。 ハンターも案外稼げるらしいし」


「バカモン!! 御主は騎士団に入るに決まってるだろうが!!」


 騎士団長のシュウトと、宰相であり騎士団名誉顧問のディエゴが、シュウトの後の騎士団長にヴィーを据える事はもう既定路線として動いていた。

 ヴィーの実力は既に騎士団では広く知られているし、この案に反対する騎士団上層部はごく一部。


 そのヴィーがハンターになるなどとは思ってもみなかったし、卒業後には騎士団に入ってくれるのを信じて疑わなかったのだ。



「い、いきなり大きな声出さないでくれよ、ビックリしたなぁ。 俺は、ハンターも選択肢の一つとして良いかなって思ってるけど、まだ決めた訳じゃないよ」


 アンノウンとして恐れられ、勇者を超える強さを身に付けたヴィーでも、久しぶりにディエゴに怒鳴られて、昔を思い出して動揺してしまった。


「いいか? 御主は絶対、ぜーったい騎士団に入るのだからな? 絶対にハンターは駄目だぞ?」


 自分が将来騎士団長に目されてるなど思いもしないヴィーは、なんでディエゴがそんなに語気を強めているのか分からなかった。



「わ、分かったよ。 とにかく、今は殿下の依頼だ。 俺、帝王の隠し子なんて噂されてたし、殿下も俺の事は認識してるみたいなんだよ。 このまま依頼を受けたら色々まずいんじゃないかなって思ってるんだけど……どう思う?」


「む〜ん…………殿下の護衛に御主ほど安心して任せられる人材がいないのも事実だしなぁ。 だが、それで王位継承権に影響が出るのも避けたい……いや、何より今回の依頼を成功させてしまうと、御主のギルドでの評価が上がってしまうではないか! いかんいかん、その依頼は断れ!」


 ディエゴの脳裏に浮かんでいたのは、ハンターズギルド総本部グランドマスター、『ケビン・シャムロック』だった。


 ケビンはハンターズギルドの頂点にして現役のSランクハンターであると同時に、年齢はディエゴと同じ四五歳で、ディエゴとはアカデミー時代からのライバルであり犬猿の仲でもあった。


 なによりケビンは、欲しいと思ったものは、どんな物でも人でも、どんな手段を用いても手に入れる主義であり、もしヴィーの実力が知られればどうなるかは火を見るより明らか。


 となれば、ヴィーのギルドでの評価が上がるのは、ディエゴにとっては絶対に避けなければならない事体だった。



「とにかく! 今回の依頼は絶対に断れ! いいか、絶対にだ!」


 そう言ってディエゴは電話を切った。


 ……まさかここまで強く反対されるとは思ってなかったヴィーも少し面食らってしまったが、双子殿下とのことを考えると、これで断らざるを得なくなったと心の中で安心していた。



 ギルドマスター室に戻り、改めて今回の依頼を断ろうとしたのだが……。


「ヴィー。 俺は今回、例えおまえが断っても、この依頼を受けるで」


 トラフトは、絶対に依頼を受けると決心していたのだった。


 その意思自体は、ヴィーも尊重してやりたい。 だが、如何せん説明できない裏事情が複雑過ぎた。


「そうか……。 悪いが、俺は今回はパスさせてもらう。 どうしても逆らえない恩人の頼みなんでな」


 ディエゴはヴィーにとって、ミゲールよりも多くの時間を共にした兄貴ともいえる存在だし、そんなディエゴがあそこまで釘を刺すのだから、逆らうのは義に反すると思っていた。


「おーい、ヴィーが参加しないとなると、流石に俺もこの依頼をおまえらに託す訳にはいかねーんだがなぁ。 何かあったら俺の首まで飛んじまうし」


 やはり、ヤーマンはこの依頼をヴィーありきと考えており、そのヴィーが参加しない以上認める訳にはいかなかったのだ。


「そんな……頼むよマスター! 護衛っつたってスライムしか出ない安全地帯なんだろ? 俺でも大丈夫だって!」


「だがなぁ……例えば、一流の暗殺者が現れたらどうする? 少なくともAランクのハンターでもいなければ殿下を守り切るのは難しいんだぞ」


 ヤーマンの反論に、トラフトは何も言えずに俯いてしまった。


 そんなトラフトを見て、ヴィーはなんとか出来ないかと考える。



「……そうだ、なら、騎士団から一人だけ助っ人を招いてはどうでしょう? 年齢は俺達の二つ上ですが、ちょうど良い人材がいるんですよ」


 トーレスの要望は同年代との事だったが、ヴィー達ですら三歳差である。 なら、“五歳差”ぐらいは許容範囲ではないかと考えたのだ。


「殿下の要望はあくまで同年代なんだがなぁ……。 それに、ハンターズギルドの依頼に、プライドの御高い騎士様が協力してくれるとは思えないんだが……」


「大丈夫です。 まだ新人騎士ですが、実力的には、ハンターに例えると既にAランクには相当する人材ですし、彼なら騎士団としてではなく、俺の相棒として協力してくれるハズです」


 ヴィーの相棒と聞いて、トラフト達はアカデミーの生徒だろうかと考えたが、年齢的に違うので皆目見当がつかない。


「それでいいかな? トラフト。 ダイスとカインも」


「ああ! ホンマはヴィーが協力してくれたらありがたいけど、余程の理由があるんやろ? なら、その相棒さんにお願いさせてくれ!」


「ヴィーの相棒か……気になるが、実力は間違いなさそうだな。 是非お願いする!」


「スマンな、ヴィー。 リーダーの決定に背いてしまって……」


 三人とも、ヴィーの提案を受ける様だ。



「へえー、期待のルーキーの相棒か……なら仕方ねえ、今回だけ特別に認めてやる。 だが、絶対に失敗は許されないからな」



 ……こうして、ヴィーのゴリ押しで、依頼を受注する事になったのだった。

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