第48話 話題の中心
カイゼルアカデミー一学年特別課外授業は最終日を迎えた。
当初の予定とは異なり、ヘイル森林区での魔獣討伐は、安全が確認された四日目からとなり、一年生はその多くが初めてとなる魔獣との戦闘を体験する事となった。
勿論、三年生の五人もそれぞれ引率係として帯同していたが、騎士団による大規模討伐の影響もあり、一切のトラブルも起きず、授業の課程を終えた。
そして迎えた最終日は、夏休み期間という事もあり、自由時間となっていた。
生徒達は思い思いに、海洋都市ハマーンの街に繰り出し、ショッピングを楽しみ、食を楽しみ、海水浴を楽しんでいた。
シュウトは今回の亡命の件をミゲールに報告すべく、帝都にトンボ帰りしたが、他の騎士団員は当初の任務を終え、帰り支度を終えた後は、本部とハマーン支部との合同で打ち上げと称し、昼間から酒を酌み交わす予定だ。
一応未成年のヴィーは、騎士団の打ち上げには合流せず……。
「はぁ……本当なら今頃ソフィアと買い物でもしてる頃だったのに」
ガイル、シャリア、シェスターと共に、ハマーンの海鮮レストランに来ていた。
「んなしけた事言ってんじゃねーよ、ヴィー。 おっ! このスシって料理、めちゃうめー!」
「私だって、本当はヴィー様と二人きりでデートでもと思ってたのに……」
「僕はあまり酒が好きじゃないから、ヴィーと行動を共に出来て好都合だけどね」
ヴィーとしては、どこに行ってもこの三人が着いて来るので、ソフィアに迷惑をかけないように距離を置いていた。
ソフィアも、すっかり気心の知れた友人が出来たみたいだが、そんな友人達にとって魔族であるガイルとシャリア、先輩であり現役騎士団員のシェスター、他の三年生四人を軽く捩じ伏せたヴィーの存在はプレッシャーにしかならないだろうから。
「あれ? ヴィーじゃん!」
すると、そこへクラリス達三年生を引き連れたルイがやって来て、ヴィーに声をかけて来た。
「よう、おまえらも食事か?」
「そう! ハマーンっていったら海鮮だもんね〜」
陽気なルイは、ヴィーにも魔族の二人にも気兼ねする事なく、隣のテーブルに腰を下ろした。
ただ、ファンとライカールは魔族の二人に警戒心を抱いてるし、クラリスもどこか表情が優れない様子。
「そういえばクラリス、シュウ……騎士団長とは会えたのか?」
兄妹の会話をしている時のクラリスが気になったヴィーは、余計なお世話と思いつつも、シュウトに帰る前に一度くらいはクラリスと会ってやれと忠告しておいたのだ。
「……もしかして、貴方が兄に? ……まあ、一応……数分でしたけど、頑張れと励ましていただきましたが」
そう言って、少し照れながら、クラリスも隣のテーブルに座った。
(この様子だと、兄妹間に確執がある訳では無いんだな。 それにしても、たまにしか会えない可愛い妹に数分しか会っていかないとは……)
すると、二人の会話を聞いていたガイルが口を挟んで来た。
「なに? もしかしてこの娘、シュウトの妹? ……なあ、ヴィー。 今度、義理の兄になるかもしれない勇者様に手土産でも持って行きたいんだが、何がいいと思う?」
なんとガイルは、ソフィアに続きクラリスにも一目惚れしてしまったようだ。
「なっ……魔族の分際でクラリス様に恋慕するなど、許さんぞ!」
そこに、自称・クラリスの騎士であるファンが、クラリスを庇う様にしてガイルを睨み付けた。
「ああん? 分際? 随分面白え事言うじゃねえか、この小僧」
一瞬で空気が張り詰める。
おどけて見えても、ガイルは元・魔王軍七騎将であり、その強さは世界でも最強クラスなのだ。
そんなガイルに睨み返され、ファンは一瞬で固まってしまったのだが……。
「クッ……こ、殺すなら殺せ! ただ……クラリス様だけは命にかえても……」
「かえても、どうすんだ?」
次の瞬間、ガイルは鋭い爪をファンの喉元に突き付けていた。
「……ガイル、調子に乗り過ぎだ」
張り詰めた空気を振り払う様に、ヴィーが冷静に立ち上がり、場を収める。
「貴方も落ち着きなさい、ファン。 大体、もう戦争は終わったのです。 これからは、魔族とも共存する世界になるのですから」
クラリスもまた、冷静にファンを取り静めた。
「チッ、命拾いしたなぁ、小僧。 それより、勇者の妹さん、貴女は美しいだけでなく、優しい心を持っている。 どうかこの俺と、一足早く人類と魔族との友好関係を……あだっ」
「調子に乗るなと言ってるだろうが」
懲りずにクラリスを口説こうとしたガイルにヴィーが拳骨を落とした。
結局、クラリス達四人は、ヴィーの隣のテーブルで食事をする事になった。
「それにしても〜、ヴィーってホントに何者なの? こちらの魔族さん、めちゃくちゃ強いよね? なのに、まるで子分みたいに扱ってさ」
コミュ力が高いというか、怖いもの知らずというか、ルイは魔族を前にしても動じていない。
「おい小娘、誰が子分だと? ……まぁ、君も可愛いから許したやるが、俺は子分などではないぞ」
「可愛い? ありがとーお兄さん! いつもクラリスと一緒にいるから、私の事を可愛いなんて言う人珍しいのに」
言いながら、ルイは嬉しそうにガイルの腕に抱き付く。 ガイルもまんざらでもいい様子で、デレデレしている。
「ルイ、はしたないわよ。 もうちょっと淑女としての……」
「いいじゃない、クラリスは堅いのよ。 たまには私みたいに心の赴くままに行動すればいいのよ。 例えば……ヴィー君に抱き付くとか?」
「なっ!? なななな、何言ってるのよ!?」
ルイの冗談に、クラリスは動揺を隠せずアタフタしてしまった。
「あら〜? 勇者の妹ちゃんもヴィー様を? でもざんね〜ん。 ヴィー様は私の未来の旦那様なんだから」
そう言って、今度はシャリアがヴィーの腕に抱き付いた。
「おい、シャリア。 冗談はよせ」
「冗談なんかじゃありませんよ? 私の気持ちは知ってらっしゃるでしょう?」
「なっ……旦那様……」
クラリスは顔を真っ赤にして硬直してしまった。
「あ、先輩」
そこへ、友達と一緒自由時間を楽しんでいたソフィアがやって来た。
「あ、ソフィア」
「ぎゃ!? ……ひどい、ヴィー様」
瞬時にシャリアを押し退け、ヴィーはソフィアを笑顔で迎えた。
「ソフィアはランチか?」
「ハイ。 やっぱりハマーンまで来たら海鮮を食べないとって、“お姉様”も言ってたので」
お姉様……。 つまり、聖女・ルミーナの事だろう。
その言葉に疑問を抱いたシャリアが、小声でヴィーに尋ねる。
「お姉様? ……ヴィー様、もう一人妹さんか、それともお姉様がいらっしゃるのですか?」
「いや……多分、聖女・ルミーナの事だと思う。 ソフィアとルミーナは幼馴染なんだ」
「聖女!? あのクソアマが……あ、オホン。 つまり……聖女はヴィー様とも幼馴染だと?」
「ん〜、そこは複雑なんだが、今度説明する」
ヴィーは、ガイルとシャリアには記憶を失っていた事、そして、最終決戦にて記憶を取り戻した事までは伝えていない。
だから、ルミーナが幼馴染だとしても、ルミーナはその事実を知らないし、今後も言うつもりもない。
「なるほど……あのクソ聖女がライバルか……これは手強そうね」
ブツブツと呟いてるシャリアを気にしないようにして、ヴィーはソフィア達を、もう一つの隣のテーブルに促す。
すると、ソフィアの友達が興奮しながらヴィーに聞いてきた。
「あの〜、先輩とソフィアって、付き合ってるんですか?」
「そうそう、ソフィアは違うって言うんですけど、普段の二人を見てると……」
「「ねー!」」
まさか、自分とソフィアにそんな噂がたってるのを初めて知ったヴィーも、内心では激しく動揺してしまった。
「ちょっと、『マイ』ちゃん、『リリム』ちゃん!」
ソフィアも焦って友達……マイとリリムを怒るが……。
「違う違う。 ソフィアはあくまで可愛い後輩だ」
即座に否定したヴィーだったが、なぜかソフィアは少し残念そうな表情を浮かべる。
「そ、そうよ。 先輩はあくまで、尊敬する先輩なんだから……」
(それにしても、まさか俺とソフィアがそんな風に思われてるとは……。 これからは距離感を間違えず接しなければ……でも、そうなるとソフィアとの時間が減るし……くそっ、どうすりゃいいんだ!?)
明確にシスコンの兆候があるヴィーが動揺を隠し切れずに頭を抱えていると、マイとリリムは、ニヤニヤと笑みを浮かべながらヴィーとソフィアを交互に見つめていた。
「てめぇヴィー! まさか、禁断のガフッ!?」
よからぬ事を叫びそうになったガイルの脳天にヴィーのチョップが炸裂する。 おそらく、ダイヤモンドの塊すら叩き割る威力の手刀を。
「……シュナイダー君、彼女がいたんですね……」
そして、少しだけ考え込むクラリス。
「なるほど、妹ちゃんもライバルなのか……」
ブツブツと呟くシャリア。
そんな光景を、シェスターは微笑みながら眺めていた。
彼もまた、子どもの頃からモテまくってきた人生だ。 そんな自分がいるのに、今は女子の話題の中心に自分ではなくヴィーがいる。
(うん……青春だなぁ。 今を楽しめよ、ヴィー)
長い間ヴィーが辛い人生を送ってきた事を知っているシェスターは、ヴィーが楽しい青春を送ってくれる事を願い、応援しているのだった。




