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第47話 勇者と七騎将

「……それで、なんで魔王軍七騎将・暴風のガイルが、こんなにボロボロなんだ?」


 騎士団の作戦会議テントでは、到着したシュウトの背後にオルテガとレビン、目の前には左からシェスター、ヴィー、シャリア、ガイルが並んでいた。


 そして、何故かボロボロになったガイルを見て、シャウトはヴィーをジトリと睨むのだった。



「気にするな、少々お仕置きが必要だっただけだ」


「お仕置きってなあ! さっきからテメーとシャリアのせいで、俺じゃなかったら三回とも死んでっからな!」


 シェスターはガイルを見ながら、一度目はヴィーの加減無しボディーブロー、二度目はシャリアの黒炎、三度目はヴィー下からのスアッパーストレート……確かに自分なら三回死んでるなと想像して身震いしていた。



「……おいヴィー。 魔族の、しかも七騎将が亡命するなんて国を左右するかもしれん難題と聞いてな、これでも俺は職務を中断してまで駆け付けて来たんだぞ。 それなのに、なんだこの緩んだ空気は」


 相手は魔王軍七騎将の二人。 その二人が、帝国に亡命するというデリケートな問題に、シュウトも緊張した面持ちで会合に望んだのだが……。


「……なんか、スマン」


 ある意味、人類と魔族の今後が懸かっているにも関わらず、どこか緊張感の無いガイルとシャリアに、なぜかヴィーが申し訳なさを感じてシュウトに頭を下げた。



「……まあいい。 で、二人が亡命したいというのは本当なのか?」


「ええ。 知ってるとは思うけど、今魔界は戦後の方針で揉めてるわ。 私とガイルは元・七騎将の中では中立派だったのだけど、色々と面倒事に発展しそうだったので逃げて来たのよね」


「ま、今思えばそれもこれも、この場にいる勇者と死神のせいなんだけどな」


 ガイルの愚痴に、シュウトとヴィーは視線を合わせる。 そして、ヴィーはオルテガとレビンに視線を向けた後、再びシュウトに向かって視線で頷いた。


 ヴィーがアンノウンだったのは、オルテガやレビンには伝えていない事実。

 シェスターには話してしまったが、それでもあまり知られない方がいい情報だと、ヴィーとシュウトは意思を統一した。


「悪いが、オルテガとレビン、シェスターは席を外してくれ」


 シュウトが三人に退席を言い渡す。


 騎士団に於いて上からの命令は絶対である。 オルテガとレビンは、何故自分達が……とも言わずに、命令に従ってテントから出て行った。


 そして、同じ様にシェスターも出て行こうとしたのだが、ヴィーが止めた。


「実は、シェスターは既に俺の正体を知っている。 今後も俺の相棒として何かと協力してもらうつもりだから、同席してもらった方がいいかも」


「シェスターとおまえが相棒? いつの間にそんな関係になったんだよ……フハハ、こりゃ将来の騎士団は安泰だな」


 シュウトの思惑は、いずれ自分の後継者としてヴィーを騎士団長とし、その補佐として有望な若手を副団長にと考えていた。

 シェスターはその候補の一人として考えていたのだが、まさか上からの押し付けではなく、ヴィーとシェスターが互いの判断で相棒となっていたのは、シュウトにとっては喜ばしい事でしかなかった。


「す、すみません! 自分は直ぐに出て行きますので……」


 だが、そんなシュウトの思惑など知りもしないシェスターは、シュウトの命令に背く行為を良しとはしなかった。

 ヴィーとは大分打ち解けたとはいえ、本来なら新人騎士にとって騎士団長であるシュウトは遥か雲の上の存在だ。 ヴィーが止めたとはいえ、命令に背くなど以ての外だった。


「あ〜、命令を撤回する。 いいからこの場にいろ、シェスター」


「ハ、ハイ!」



 こうして、シュウトと、シェスター、ヴィー、シャリア、ガイルの五人が向かい合った。


「さて、話を戻そう。 ヴィーがアンノウンだったと知っている者は、この場にいる者の他にはミゲール帝王と宰相のディエゴさん、そしてカイゼルアカデミー理事長のアリシアさんのみだ。 アンノウンの知名度は然程高くは無かったが、それでも知る者からすれば魔王の右腕であり、死神して恐れられた存在だ。 バレれば今後のヴィーの生活に支障が出るのは明確だから、他言無用で頼む」


「勿論、この事が魔族に知られれば、確実にヴィー様は命を狙われる。 将来の妻として、そんな事はさせないわ」


「つーか、んな事を魔族に知られたら、裏切り者のアンノウン諸共人間界を滅ぼすって、穏健派まで戦争推進派に合流して新たな戦争の火種になる可能性だってあるかもしれねーし、誰にも言わねーよ」


「勿論、自分も絶対に他言しません。 今はもうアンノウンではなく、相棒であり、師匠でもあり、後輩でもあるヴィー・シュナイダーですから」


 三人全員が、ヴィーがアンノウンだと他には言わないと誓ってくれたのを、ヴィーは内心で感謝していた。 少なくとも今はまだ、このままの生活を送れるのだから。



「さて、亡命するにしても……おまえらは人間界で何かしたい事とかあるのか?」


 シュウトが改めて表情を引き締める。


「俺は何不自由なく暮らして、たまにストレス発散できりゃそれでいい。 オメーら相手でも、魔獣相手でも構わないぜ」


「まあ、私も穏やかに暮らしたいわね。 亡命するからといって、奴隷の様に扱われるのはムカつくし……そうだ、折角だからヴィー様の傍で色々とサポートしたいわね。 こう見えて私、家事はが得意なんですよ?」


 シュウトとしては、以外にも二人の要望は平和的なものだった。

 だからこそ、そこになにか裏があるのではと勘繰ったのだが……。


「疑いたくなるのは分かるが、コイツらの言う事は信じてもいいぞ。 昔から、難しい事を考えられる奴等じゃなかったから」


 そこに、ヴィーがフォローを入れたのだが、ガイルは不満だった様だ。


「おいアンノ……ヴィー! それじゃあ俺達が馬鹿みてーじゃねえか!」


「ん? 事実だろう?」


「まあ、私達は確かに策略を用いるタイプじゃありませんけど、これでも色々と考えてるんですよ? 例えば、どうやったらヴィー様を誘惑出来るかとか……」


 シャリアが話を脱線しそうになったので、シュウトがそれを遮る。


「わかったわかった、信じるよ。 おまえたちが人類に仇なすつもりが無いと言うんなら、俺としても亡命の件は前向きに検討させてもらう。 ただ……暫くの間は監視が必要ではあるがな」


 騎士団長としては、如何にガイルとシャリアに敵意が無いとはいえ、元・七騎将を亡命させて野放しにする訳にはいかないのだろう。


 その上、監視を付けるにも、この二人が本気で暴れたとしたら、それを止められる人間など数える程しかいないのだ。



「ん〜……当面は騎士団の宿舎で寝泊まりしてもらうのが一番問題無いのかもしれないが……」


「は? 帝国騎士団の奴等と一緒に生活するなんて、俺は御免だね。 アンタらとは幾度となく刃を交えた仲だし、魔族に恨みをもつ奴も少なくねーだろ。 下手に難癖つけられたら命の保証はしねーぞ? 勿論アンタらのな」


 シュウトとしても、ガイルの言っている事は懸念すべき事項だった。


 確かに戦争は終わった。 だが、ガイルとシャリアは元・七騎将として、幾度となく騎士団と交戦したのだ。 当然、現役騎士の中には、仲間を殺された者もいる。

 今後、ミゲールやシュウトがどれだけ魔族と友好関係を結びたいと思っていても、感情面で全員に納得してもらうには、もう少し時間がかかるだろう。



「気持ちは分かるんだが、おまえら二人を放置する訳にはいかないんだ。 俺が四六時中見てる訳にはいかないし……」


 騎士団長の職務は、言うまでもなく過密だ。

 帝王含む国の要職の護衛、国の防衛、治安維持と多岐に渡り、その総責任者が騎士団長であるシュウトなのだから。



 するとここで、シャリアがヴィーの腕に抱きついて、口を開く。


「なら、私達の監査役はヴィー様にしましょう! ヴィー様なら私達がもし暴れても止める事が出来ますし、学生なんだから時間もあるでしょうし」


 いきなり自分に面倒事が転がり込んで来たヴィーは、瞬時にシャリアの要望を却下しようとしたのだが……口を開く前に、シュウトが満面の笑みで手を叩いた。


「そりゃあいい! うん、むしろそれしかない! ヴィー、元々二人はおまえの部下みたいなもんなんだろう? だったら、おまえが責任を以って、二人の面倒を見たらいいじゃないか!」


 ヴィーは瞬時に察した。 これはまた、シュウトに面倒事を押し付けられようとしている事を。


「ふ、ふざけるな! なんで俺が……それに、俺は今、一人で暮らしてるんだぞ? 日中は学生だし、二人の面倒を見るほど暇じゃない!」


「なにも一日中監視しろとは言わねーよ。 ただ、要所要所で気に掛けてくれりゃあそれでいい。 おまえがこの二人の後継人になってくれれば、帝王だって文句は言わないだろうしな」


 自分の意としない速度で勝手に物事を決めて行く。 しかも、ヴィーが断れない事情も交えて。


 それが、いつもの面倒事をヴィーに押し付けるシュウトのやり方だった。



「ガイル、おまえだって、俺と一緒なんて嫌だろう?」


 シュウトとシャリアには何を言っても無駄だと感じたヴィーが、ガイルに助け舟を求める。


「ん〜、俺は別にいいぜ。 困った事があった時にヴィーが傍にいりゃあ、何かと便利だしよう」


「ちょ、ちょっと待てよ。 俺ん家はおまえら二人を招き入れる程広くないし」


「その件なら心配するな。 実はこちらに向かう前に、おまえの住居を増築する手配は済ませてきた」


「ぞ、増築だと?」


「ああ、あそこは人目からは隔離されてるし、厄介ごとを隠すのには最適だろ? もしかしたらと思って、三人で住んでも問題ないくらいの増築を頼んでおいたんだ。 遠征から帰る頃には完成してるだろう」


 ……シュウトは、ヴィーは卒業後は騎士団に入り、将来は自分の跡を継がせたい人材だと告げ、出来れば今のうちにから騎士団本部がある王城の近くに居を構えて欲しいと考えていたのだが、ヴィーにとって今住んでいる場所は幼少期から過ごした思い出の場所だ。

 それに、あの場所は少し特殊で、一般人は立ち入れないように規制されている。

 もし、魔族の二人を住まわせるとしたら、あの場所ほど適した場所はないと、初めから計算していたのだ。



「……でだ、ガイルとシャリアには、今のヴィーが住んでる建物の両隣りに新たな建物を増築するから、ヴィーは時折二人の様子を覗いてくれりゃあいい」


 ここでヴィー気付く。 やはりシュウトは最初から、ガイルとシャリアを自分に押し付けるつもりだったのだと。


「シュウト……おまえって奴は……」


 ヴィーは憤りを抱きつつも、シュウトの策略に呆れるしかなかった。

 実際、元・七騎将である二人の面倒を見るのに、自分以外に適した存在はいないのだから。


 ヴィーが考えているであろう事もお見通しとばかりに、シュウトは微笑んでいた。


 改めて、ヴィーはシュウトにだけは、余計な借りを作っては駄目だと骨身に染みらせる事になったのだ。

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