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第43話 死神の懺悔

 ヴィーは一瞬でガイルの目の前に移動すると、ダークマターを横凪に一閃。 ……が、これをガイルは間一髪で避けた。



「嘘だろ? テメーみてえなガキが、あのアンノウンだと!? つーか、俺より歳下だったんか!?」


 アンノウンの頃は仮面を被り、声色も低く落ち着いた喋り方に変えていたので、ガイルや他の七騎将も、アンノウンは少なくとも三◯歳前後だろうと思っていたのだ。


「そんなどうでもいい事を考えてる暇があるのか? 今、貴様の前にいるのは死神・アンノウンなんだぞ?」


 またも襲いかかるダークマターを、ガイルは背中に背負っていた棍棒で打ち逸らす。


「なんでアンノウンが……まさか、テメー裏切ったのか!?」


「裏切った? そうじゃない。 はじめから、俺はおまえらの敵だったんだよ」


 ヴィーの踵落としをガイルはなんとかガードはしたが、勢いで地面に叩きつけられた。



「嘘でしょ? なんでアンノウン様が……」


 何故、生きているのか? 何故、人間の姿なのか? であれば、何故魔王だけが死んだのか?


 様々な何故? で、シャリアは混乱していた。


「言っただろう? 俺は元々人類のスパイとして魔王軍に潜り込み、戦況を人類側に有利になる様に裏工作を行ってたのさ。 つまり、俺は最初からおまえらを騙してたんだ」


 ヴィーには最早隠している理由もなく、全てを曝け出すのが残された礼儀だと考えた。 それでも、許してもらおうなどとは思っていなかったが。


「嘘よ……嘘よっ! アンノウン様が私達を騙していたなんて!」


 シャリアの中で、アンノウンの存在は絶対だった。 接する時間が多かった分、あの魔王を凌ぐ程に。


「さあ、構えろよ、シャリア。 この距離なら、俺はおまえが瞬きする間もなくその首を跳ねれるんだぞ?」


 魔王軍で行動を共にする中で、アンノウンに対するシャリアの感情は、恐怖、尊敬、信頼、そしてそれは淡い恋心にすら変わっていた。


 そんな相手からシャリアは今、明確な殺意を向けられている。 それが信じられなかった……信じたくなかった。



「あ、貴方が本当にアンノウン様なら、しょ、証拠を見せなさい」


 ダークマターを持っている時点で充分な証拠になっていたが、それでもシャリアは聞かずにいられなかった。


「証拠か……ほら」


 ヴィーが掌に黒炎の火球を創り出す。


「私のコモンスキル・ダークファイア……。 つまり、スキルティーチ……本当に、アンノウン様なの?」


 七騎将の中でも、シャリアは最もアンノウンを信頼していた。 その流れで、自らのスキルをアンノウンに教えていたのだ。


「同じことを何度も言わせるな……とも教えたハズだが?」



「っざっけんじゃねーぞ、この裏切りもんが!!」


 復活したガイルがヴィー目掛けて飛び込んで来た。


 コモンスキル・ブリーズウェアー。 風をあらゆる形状で操るスキルだ。


 ガイルはこのスキルによって、遠近両方で高い戦闘力を誇るのだが……ヴィーは更に上を行った。


「相変わらず折角のスキルも、単細胞のおまえには宝の持ち腐れだな」


 ヴィーは一瞬にしてガイルの背後に回り、強烈な掌底を叩きこんだ。


「がはあっ!?」


「少しは頭を使え……と、何度も教えたよな?」


 ガイルは圧倒的な機動力と攻撃力を誇るが、更に上を行く能力を持つ相手には力負けしてしまう傾向があった。 しかし、スキルを巧く活用すれば幾らでも戦いようがあるのだと、ヴィーは口を酸っぱくして言って来たのだが……やはりガイルは学ぶ事無く、またも地面に叩きつけられた。



 ヴィーはガイルを地面に叩き落して、再びシャリアに向き直る。


「覚悟を決めろ、シャリア。 俺を殺すつもりがないのなら、おまえが死ぬだけだぞ」


「ううう……うわあああああああっ!!」


 混乱し過ぎたシャリアは、至近距離から巨大な黒炎をヴィーに向かって放つ。


「近距離でこんな攻撃する馬鹿がいるか!」


 ヴィーとシャリアの距離は五メートル程しかなかった。 対してシャリアの放った黒炎は、二階建ての家一軒を飲み込む程の大きさと勢いを伴っていた。

 仮に、ヴィーにまともに直撃すれば、自分もまた爆発に巻き込まれて同等のダメージを負っていただろう……が、ソーサリーサクションによって黒炎は全て吸い込まれてしまった。



「ソーサリーサクションまで……やっぱり、貴方はアンノウン様なんですね……」


「……そうだ。 分かったんなら、本気で来い。 今みたいな無謀な攻撃じゃ俺は倒せないってことぐらいは覚えてるだろ?」


「……御冗談を。 どんなに私が本気を出そうが、アンノウン様に敵う訳がありません」


 そう言って目を伏せると、シャリアは焼け野原となった山頂部にゆっくりと着地した。



「諦めるのか? 七騎将ともあろう者が、情けないな」


 ヴィーも着地し、戦意を喪失してしまったシャリアに発破をかけるが、様子は変わらない。


 すると、ダメージで身を屈めながら、ガイルが起き上がった。


「ふざけやがって……説明しろ! なんで、なんで俺達を裏切った!」


 ガイルはまだ闘志を失っていない。 ただ……自分ではヴィーに勝てないであろうことも認識していた。 だから、最後に疑問をぶつけたのだ。


「……いいだろう、教えてやる。 俺がなぜ、魔王軍に潜入したのかを……」



 ヴィーがスパイとして魔王軍に潜り込んだのは、主にミゲールやディエゴからの指令だったからで、特に魔族に恨みがあった訳ではなかった。

 むしろ、アンノウンとしての三年間で、魔族も人間も変わらないのだと知る事ができた。


 その負い目から、ヴィーは二人に全てを告げる事にした……。



「……本当に、最初から、俺達を騙してたって訳か? スパイとして」


 ガイルの言葉に、ヴィーは小さく頷いた。


 最終決戦の前日、裏工作で七騎将を戦線離脱する事にした際、ヴィーには……魔王を倒した後、全てを白状し、七騎将に生死を委ねる覚悟があった。 それが、裏切りの代償だと。


 だが、聖女・ルミーナの捨て身の攻撃によって記憶を取り戻したヴィーは、死ぬ前に本来の自分の事をどうしても知りたくなった。 その後は、ひっそりと旅に出て野垂れ死ぬつもりだった。

 だが、妹が生きていると知り、大切だった幼馴染の存在を知り、自分が、今までの分までソフィアとルミーナを守らなければと決意したのだ。


 どんなに負い目があろうとも、ヴィーには生きる理由が出来てしまった。 その為には、同じ釜の飯を食った仲間でさえも、殺す覚悟を……


「俺がおまえらに最も多く伝えた教えを、改めて告げるぞ。 ……自分より強い奴に遭ったら……逃げろ。 生きてさえいれば、いずれチャンスはやってくる。 今のおまえ等じゃ俺には勝てない。 だから、今直ぐ魔界に帰れ、そして……俺の事を言いたければ、他の七騎将の奴らに言えばいい」


 ……覚悟を、持てなかった。


 アンノウンの頃であれば、そんな感情に左右される事は無かっただろう。 でも、ヴィー・シュナイダーには……ヴィクトー・ハイドローズには、この九ヶ月間で大切な家族と多くの仲間ができた。

 全ての人にも、自分と同じように大切な人がいる事を知った事で、容易く人を殺す事が出来なくなってしまったのかもしれない。


 そして……七騎将もまた、ヴィーにとってはかけがえのない仲間だったと、改めて気付いたのだ。



「……何故? 私たちがアンノウン様の存命を魔族に伝えれば、魔族は……特に七騎将の面々は貴方を許しはしませんよ? だから、生きては帰さないと言ったのでしょう?」


「うるさい。 俺の気が変わらないうちに、とっとと消えろ」


 ヴィーから刺すような視線を向けられても、ガイルは怯まなかった。


「……ハッ、死神と恐れられたアンノウンが、随分と甘くなったもんだな。 この状況で俺達を生かすとか……どんだけヒヨってんだよテメー!」


 ガイルがヴィーの胸倉を掴むが、ヴィーは抵抗しなかった。


「オイ、なんとか言えよ! 冷徹・冷血・冷酷と畏れられ、俺達を……七騎将を従えてた死神・アンノウンは、そんなに情けねえ奴だったのかよ!」


 一切抵抗せずガイルに殴られ、ヴィーは尻餅を着く。


「や、やめなさいガイル!」


「うっせえ! 上等だ……抵抗する気が無いんなら、俺がこの手でテメーを殺してやんよ!」


 ガイルが貫手に風を纏わせ、ヴィーに飛び掛かる……が、目の前に飛び込んで来た盾に防がれた。



「……話は全て聞かせてもらった。 ヴィーは僕の相棒だ……ヴィーを殺そうとするのなら、まずは僕を殺してみろ」


 山頂から転げ落ちたシェスターだったが、大きな怪我も無く山頂に戻って来ており、あまりのレベルの違いに戦闘に参加出来ずにいた。


 そして、ヴィーの告白を聞いた……。


 アンノウンの存在自体は知らなかったが、ヴィーがスパイとして魔王軍に潜り込み、魔王の打倒に一役買ったのは理解出来た。


 だからこそ、ヴィーの危機に飛び出し、全ての力を振り絞ってなんとかガイルの攻撃を受け止めたのだ。



「ああ? 雑魚が……テメー如きがアンノウンの相棒だと? 笑わせんな!」


 ガイルがシェスターを払いのけようとするが、シェスターは盾で堪える。


「今はまだ頼りない相棒だがな、いずれ相応しい相棒になってみせるのさ。 邪魔をするな!」


 そして、ホーリーナイトを同時に発動。 己の持てる力を全て込めたグランドクロスを繰り出すが、ガイルにはアッサリと避けられてしまった。


「その程度で? その程度の雑魚が、アンノウンの相棒を名乗るんじゃねえっ!」


 ガイルの蹴りを盾で防いだものの、シェスターは大きく吹っ飛ばされてしまった。



 それでも、シェスターの目は死んでいなかった。 ゆっくりと起き上がり、再びヴィーの前に立った。


「ぐっ……仲間ってのはな、仲間が苦しんでる時には、必ず手を差し出す者だ。 おまえには聞こえないか? ヴィーの心の懺悔が」


「ああ? 反省すりゃ全て許されるとでも思ってんのか雑魚コラ! アンノウンが決戦前に俺達を負傷させたおかげで、俺達は決戦にはまともに参加すら出来なかったんだ。 なあアンノウン、テメーのせいで何人の同胞が死んだと思ってんだ!」


 ヴィーは何も言わなかった。 だが、代わりにシェスターが口を開く。


「僕は……最終決戦になど参加する資格もなかった男だ。 だが、今後の為にと最終決戦の記録は隈なく調べさせてもらった。 思うに、ヴィーは……魔王軍にスパイとして潜入し、最終決戦にも大きく関わっていたのだとしたら……確かにおまえらを裏切っていたのかもしれない。 だが、そのおかげで、おまえらは今も生きているんじゃないのか?」



 シェスターの言葉に、ガイルとシャリアは理解に苦しみ、そしてヴィーは……改めて、シェスターの見識の深さに驚くのだった。

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