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第40話 コモンスキル

「さて、勝ったのはいいが、随分ボロボロになってしまったな。 ちょっと回復してやるよ」


 そう言うとヴィーは、シェスターに近付いて両手をかざした。


「え? アニキ、まさか回復魔法まで?」


 回復魔法は四代元素のどの属性とも異なる聖属性という特殊な魔法であり、持って生まれた素質に大きく左右されるので、適性を持つ者の多くは教会機構という世界規模の組織にスカウトされる。

 教会機構とは世界各地に支部を置き、地域の人々の怪我や病の治療を一手に担う組織であり、その代表的な存在が聖女・ルミーナである。


 つまり、教会所属の者以外で回復魔法を使える者は稀なのだ。



「いや、実は俺、魔法が使えなくてね。 だから、魔法じゃなくてスキルなんだけどな」


 ヴィーの掌が白く光り輝き、シェスターの身体を包み込むと、サーベルパンサーとの戦いで受けた傷が癒えてゆく。


「本当に回復している……なのに、魔法が使えない? え? クラリス達との模擬戦で、魔法陣を使って魔法を吸収してましたよね?」


「ああ、実はあれもスキルなんだ」


 魔法を吸収する魔法は存在するが、スキルとして考えれば、そんな特殊なスキルは稀だ。

 そして、魔法を使えないヴィーが魔法を吸収する魔法陣を作り出す事は、努力と修練が必要となる後天性スキルだったとしても本来は物理的に無理だ。 魔法が使えないのだから、魔法陣を作り出す修練すら出来ないのだから。



「……という事は、あの魔法陣はコモンスキルなんですか? いや、でも回復スキルも使えるんですよね?」


 突発的に発現するスキルは特殊な物が多く、後天的な努力で身に付けるスキルよりも上位な格付けとなるが、更に稀少なスキルはコモンスキルと呼ばれる。


 そして、コモンスキルが発現する割合は全人類の二割であり、しかも目覚めるスキルは基本的に一つだけと言われている。


 シェスターが確認しだけでも、ヴィーはあらゆる魔法を吸い取る魔法陣を創り出すコモンスキル・ソーサリーサクションと、大抵の傷を治し、体力まで回復させるコモンスキル・ヒーリングパームという特殊な能力を二つ使用しているのだ。


「つまり、コモンスキルを二つも!?」


 複数のスキルを持って生まれる者はいない訳では無いのだが、割合的にコモンスキルに目覚めた者の更に一割とされ、コモンスキルに目覚めただけでも一生不自由なく生きてゆけると言われる中、更に稀有で貴重な人材として全世界で優遇される。



「……ん〜、シェスターになら話してもいいか。 これから長い付き合いになりそうだし」


 魔法が使えないにも関わらず、勇者パーティーすら凌駕する実力を持つヴィーの秘密は、彼に発現したコモンスキルに起因する。


 その事実を知るのは、“人間では”幼年期のヴィーを鍛え上げた帝王・ミゲールと、宰相・ディエゴ、教育係だったアリシアの三人のみ。

 親交を深めた勇者であるシュウトにすら告げていないのだ。


 その秘密をシェスターに伝えるのは、ヴィーなりにシェスターとの今後の関係を考えて、伝えても問題ないと判断したからだ。

 これまでは、自分の強さの源であるコモンスキルの情報を率先して外部に洩らすのは避けて来た。

 しかし、自分でも不思議な感覚だが、ヴィーはシェスターを信頼していた。


 たった二日の付き合いだが、彼の素質や闘争心は認めているし、何より打算なく自分を慕ってくれているのが嬉しかったから……ある意味チョロいのかもしれないが。


 そして最も大きな理由が、今後も相棒として付き合って行くのなら、お互いの秘密は共有していた方が良いかもしれない、そう思ったのだ。



「俺のコモンスキルは……“スキルティーチ”。 自ら体感し、その相手から教わる事で、そのスキルを習得出来るんだ」


 スキルティーチ。


 ヴィーがこのスキルに目覚めた……というより、気が付いたのは一◯歳の時、ディエゴとの訓練中だった。 ディエゴのコモンスキルを、突然ヴィーが使用したからだ。


 元々物覚えが早く、あっという間に技術を習得する飲み込みの良い奴だと思っていたディエゴは、この時気付いたのだ。 全ては、ヴィーのコモンスキルが要因だったのだと。


 スキルティーチは、相手に直接自分のスキルを教えてもらう事で、そのスキルを習得できる能力だ。 当然ながら見ただけでは習得出来ないし、まずは自分の身でそのスキルを体感する必要がある。 それが攻撃スキルだった場合、下手をすれば、その時点で死んでしまうかもしれないのだ。


 その後、スキルの理屈をしっかりと相手に教わらなければならない。

 そして、習得したスキルもオリジナルを完全にコピー出来る訳ではなく、そのスキルに対するヴィーの相性や理解度の兼ね合いがあるので、デジャブ・アイの様にスキルによってはオリジナルの劣化版にしかならない場合もある。


 そして、教わるとはつまり、相手との信頼関係が必要になる。


 ヴィーは五歳の時に両親を失い、ミゲールに拾われた。 そこから、ミゲールとディエゴに鍛え上げられる中で、当時の騎士団ツートップであった彼らの、コモンスキルも含めた全てのスキルを習得。

 更には、ミゲールが極秘裏に手を回して服役中の囚人を呼び出し、あらゆるスキルを習得させた。


 より強くなる為……引いてはいずれ魔王・アレキサンダーを倒す為に、スパイとして魔王軍に潜り込み、七騎将や他の魔族のスキルを習得した事で、コモンスキルを含めたあらゆるスキルを、合計すると現在までに四八個を手に入れている。


 その力があったからこそ、ヴィーは魔王の懐刀、魔王軍最強のアンノウンになれたのだ。



「……とまあ、俺のスキルは相手のスキルを自分のものに出来るんだ。 ただ、その為には相手との信頼関係を結ぶ必要があるし、信頼を得る為に何度か死にかけたけどな」


 自分の幼少期や、アンノウンだった事などは敢えて言わなかった。 もっとも、このまま相棒としてより深い信頼関係を築いてゆく事ができたのなら、いずれは告げる日も来るかも知れない。

 だが今は、コモンスキル・スキルティーチの内容だけを、簡潔にシェスターに告げた。


「……反則ですね、そのスキル」


「でも、教わるって言うのが曖昧で、例えば魔法を吸収する魔法陣みたいなスキルは理論を自分の中で完璧に理解しないといけないし、攻撃スキルの類いは実際に体験しないと習得出来ないから、その度死にかけたよ」


 信頼を得る為に死にかけ、スキルを教わる度に死にかけた。 ヴィーの言う一◯◯回は死ぬ覚悟とは、全て自分の経験から基づいた言葉だったのだ。



「俺のコモンスキルを聞いてガッカリしたか?」


 全てはスキルティーチのおかげで今の強さを身に付けたのだと言えばそれまでだ。

 ヴィー自身は、新たなスキルを習得する為に幾度となく死にかけたのだから、決してスキルティーチにだけ頼って今の自分があるのではないと思ってはいるが、人間ではミゲールとディエゴとアリシア以外の人に話したのは初めてだったし、シェスターが自分の事をチートスキル頼りじゃないかと幻滅してもおかしくはないのかなと思った。


「……確かに凄いスキルです。 でも、決して楽してスキルを習得できる訳じゃないのは理解できます。 スキルを手に入れる度に強力な攻撃スキルをまともに喰らってたんだから、下手すりゃ本当に死んでたかもしれないですし」


 ヴィーの懸念は杞憂に終わる。 シェスターは、スキルティーチのチート性能ではなく、実際にヴィーが体験して来たであろう苦難を理解してくれたから。


「それに、コモンスキルに関しては流石に無理だろうけど、後天的に身に付ける事の出来るスキルなら、努力次第で誰にでも、幾つでも習得する事は出来るんだ。 だから、僕はこれからも己の研鑽をやめません。 そして、いつか必ずアニキに相応しい相棒になってみせます」


 そう言って目を輝かせるシェスターは、ヴィーにはとても眩しく見えた。


 人の信頼を得るというのは、簡単な事ではない。 元々人付き合いが得意ではなかったヴィーなら尚更。


 では、どうやって信頼を得て来たか? 詐称、虚言、策略……本来の性格を全て殺し、あらゆる手で相手を凋落して来た。

 強くなるために、ヴィーは自分を殺して来たのだ。 その結果が、冷徹・冷血・冷酷と魔王軍で恐れられたアンノウンを創り上げたのだが、それと同時に本当の自分との乖離に悩み、心を病んでしまったのだ。

 アンノウンでも死神でもなく、ヴィーとなった今でこそ、もう相手を欺く行動は不必要だと、素の自分でいられるようにはなったが。


 シェスターはこれからも己の信念に従い、真っ直ぐに成長していくだろう。 それが、少しだけ羨ましく感じてしまった。



「……その意気だ。 シェスターなら、必ず強くなれるよ……」


 俺が強くしてやる……そう誓いながらも、ヴィーは言葉にするのを止めた。


 今は実力差があり過ぎるが、シェスターとは上下の関係ではなく、いずれは本当の相棒になりたいと考えていたから。


 もう嘘はいらない。 ……魔王打倒という命題を果たし、大切な人達とも再会した。

 友達も出来て、元の穏やかな心を取り戻しつつある。 それが、現在のヴィー・シュナイダーなのだから。



「お、ルビー・ドラゴンだ。 ほら、出番だぞ、シェスター」


「うげっ!? ……分かりました、シェスター、逝きます!!」


 こうして、自らの手でシェスターを死にかけさせて鍛え上げるのもまた、現在のヴィー・シュナイダーだった。

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