第38話 相棒
「ガハハッ! 中々お似合いのコンビじゃねーか!」
騎士団の作戦会議用テントでは、ヴィーの後方に従者の様に付き従っているシェスターを見て、師団長であるオルテガが爆笑していた。
「……勘弁してくれよ、オルテガさん」
「馬鹿野郎、おまえの報告が嘘だって事は見抜いてんだ。 この遠征が終わるまでは責任もって面倒見やがれ」
テントの中にいるのは、笑ってるディエゴ、困ってるヴィー、恐縮しているシェスター、そして不満気な表情の副師団長・レビンの四人だけ。
王国騎士団の女性騎士では最強と言われるレビンが、眼鏡をクイっと上げながら、シェスターを睨む。
「貴様の罪が許されたと思うなよ、シェスター。 貴様は、師団長の甘さとヴィーの情けでクビを免れただけだからな」
「ハイ! 重々承知してます!」
シェスターは、アカデミーの生徒達を相手していた時の余裕が嘘だったかの様に緊張した面持ちだ。
「……本部に帰ったらしっかり罰を受けてもらうからな。 じゃあ、私達は三人で話があるから、おまえは出てろ」
「ハイ! 失礼しました!」
シェスターがテントから出て行ったのを確認すると、レビンは溜息をついた。
「ふぅ……。 ヴィー、シェスターを救ってくれた事、改めて副師団長として礼を言わせてもらうわ」
たった今までシェスターを説教していた態度が一変し、レビンはヴィーに頭を下げた。
「師団長として、俺からも礼を言うぞ。 もしおまえが奴を庇ってくれなかったら、軍の規律により、シェスターには厳罰を与えなきゃなんねー所だった」
師団長と副師団長の態度から、やはりシェスターは将来を嘱望されている人材なのだと理解する。
「シェスターは素質はあったけど、常にトップで居続けた事で変にプライドが高い所があったのよ。 それが、歳下であるヴィーにあんなにも従順になるとは……私も想像してなかったわ」
「そうだな。 シェスターがおまえと行動を共にしてるのは、実はアイツ自身が直訴した事なんだぜ。 あのプライドの塊がそんな事言うもんだから、俺も面白そうだと思ってよお」
自分がヴィーの元へ来たのを、シェスターはオルテガの命令だと言っていたが、どうやら違った様だ。
「ま、これでおまえが鍛えてくれたら、シェスターは将来騎士団に欠かせない存在になる可能性もある。 この遠征の間だけでも、嫌じゃなけりゃあ傍に置いてくれねえか?」
欠かせない存在……つまり、少なくとも師団長より上のポジションである。
(……確かに、才能もあるし頭も良い。 オルテガさん達は、シェスター先輩の将来の為に俺を利用しようって魂胆だな)
「先輩には今日一日で借りが出来たし、実際かなりの素質があります。 ……まあ、気が向いた時だけで良いなら面倒見ますけど、知っての通り俺の訓練は地獄なんで、先輩が嫌になって騎士団を辞めるなんて言い出しても恨まないで下さいね?」
「ガハハッ! そん時ゃそん時だ! 大体、そんなヤワな奴なら次期“騎士団副団長”にだなんて言わねーよ!」
(副団長? なるほど、シュウトのサポートをさせるつもりか。 にしてはちょっと年齢が若い気もするけど……先輩、かなり見込まれてるんだな)
ヴィーとしても、アンノウンとして魔王軍にいた頃から、出来の良い部下は嫌いではなかった。
(何気にシェスター先輩は優秀だし、今日もかなり助けられた。 今後も傍に居てもらうと助かるかもな)
「でも、今日の俺の探索にシェスター先輩を同行させるのはやめた方が良いと思いますよ? 昨日は途中で中断になったので今日は一気に山頂まで行くつもりだし、流石に危険過ぎるから」
魔王軍七騎将。 その一人ひとりが勇者パーティーに匹敵する実力の持ち主であり、今回捜索しているガイルとシャリアも例外ではない。
才能があるからこそ、こんな所で死にでもすれば騎士団としても大きな損失となる。 正直、ジェイド・ドラゴンに苦戦してる様では話にもならないのだから。
「ん〜、確かに相手が本当に魔王軍七騎将なら、俺達でも手に余るからな……。 だが、おまえもこういう死線を何度も潜り抜けたからこそ、今のおまえがあるんじゃねえのか、ヴィー」
ヴィーは先程シェスターに言った事を思い出す。
……シェスターも自分の様になれると、ただ、それには一〇〇回位は死ぬ覚悟が必要だと、そう言ったのを。
シェスターの事は、オルテガ達の思惑を知ったのもそうだが、元々今日の御礼に鍛えてやるつもりはあった。
(なら、今回の任務は好都合かもしれないな。 ただ、本当に死ぬ覚悟が必要だから、一応本人に確認してからだけど)
「分かりました。 とりあえず先輩の意思を確認して、着いてくる気があるなら連れて行ってみますよ」
「アイツが拒否すると思うか? じゃあ、気を付けて行ってこい」
オルテガ達との話を終えてテントを出ると、そこにはシェスターが背筋を伸ばしてヴィー待ち構えていた。
「お疲れ様です、師匠」
「先輩、いい加減師匠はやめて欲しいんですけどね……」
「そうですか……なら、アニキとお呼びしましょう」
「いや、アニキの方が嫌なんだけど。 大体、先輩はアカデミーでも有名人だったんだから、畏まられると悪目立ちしちゃうんで、ヴィーで良いですよ」
「それは諦めて下さい。 何より、僕如きが畏まる程度で、周囲の師匠への評価が上がるのであれば御の字ですし」
ヴィーとしては際限なく評価が上がるのを避けたいのだが、今後も何かと傍にいる事が多くなりそうなシェスターの立場を考えれば、自分が凡人を演じるのはシェスターの立場を下げる事にも繋がるだろうと考える。
(面倒だなぁ、本当に。 でも、乗り掛かった船だし、シェスター先輩はなにかと力になってくれそうだし)
先日のゲロリアンの件でも、ヴィーは騎士団団長であるシュウトに助けを求めたが、シュウトに頼み事をすればそれ以上の厄介事を押し付けられるのは今回も含めて過去にもあった。
だが、シェスターならそんな見返りも無く、力になってくれそうだという打算もある。
(なんだかんだ、俺は自分が一般常識に欠けてるのは自覚してるから、先輩の存在は助かる。 でも、様付けで呼ばれるのもなぁ……)
「……なら、今後は俺に対して敬称は一切禁止にする。 代わりに、俺はおまえに敬語は使わず、シェスターと呼ぶ。 それが嫌なら……おまえは破門にする」
「は、破門!?」
別に弟子入りした訳でも無いので破門もなにも無いのだが、ヴィーの思惑通りシェスターには効果があった様だ。
「ぐぬぬぬっ……分かりました。 今後とも宜しくお願いします、ヴィ、ヴィー……やっぱダメだ! 僕なんかが師匠を呼び捨てなんて!」
「だったら破門だぞ? いいのか?」
言いながらも、ヴィー自身、打算的な観点からも今さらシェスターとの関係を切るつもりは無い。
「ぐむっ……ぜ、善処しますが、少々時間がかかると思いますのでご了承下さい」
苦渋の決断をしたシェスターに、ヴィーはもう面倒なのでこれ以上言うのを諦める。
だが、一応先輩であるシェスターと上下関係を結ぶのには気が引けたので……
「……ん〜、じゃあこれから俺達は、そうだな……相棒だな。 相棒として、宜しく頼む」
「相棒? ……僕なんかじゃまだまだ師匠の相棒には相応しくないんでしょうけど、いつか必ず本当の相棒になれる様に頑張ってみせますよ!」
相棒など烏滸がましいと思いつつも、シェスターはヴィーから相棒と呼ばれた事に、魂が震える程に興奮していた。
そしてヴィーも、自分に今まで相棒という存在がいなかったことに気が付く。
アカデミーに通うようになって、気の置けない友達は出来た。 でも、彼らとは対等な関係でいたいとは思っているが、自分の過去を伝える気はない。
そしてシュウトは、相棒と呼ぶには立場が違い過ぎるし、どちらかと言うとシュウトの良いように使われてしまっている部分もある。
お互いの裏も表も知っていて、利害関係も込みの信頼関係が築ける間柄。 それが、相棒なのではないかと考えた時、今までの自分にはそんな存在はいなかった。
「よし、なら早速訓練だ。 おまえの事はオルテガさんとレビンさんからみっちりしごいてくれと言われてるから、今日は俺と一緒に森林区最深部……レベル8エリアに行ってもらう」
「レベル8か……いいでしょう。 昨日は不甲斐ない姿を見せてしまいましたが、今日で挽回してみせますよ」
「さっきも言ったが、俺はこれまで何度も死にそうになる経験をして来た。 おまえにとって、今回がその初体験だ……気を引き締めて行くぞ」
「……ハイ! 望む所です!」
こうして、ヴィーはシェスターと共に、ヘンリー森林区レベル8エリアへと向かうのだった。
……一方テント内ではオルテガどレビンが、案外上手くやってるヴィーとシェスターの話をして笑みを浮かべていた。
「中々相性が良いみたいですね、あの二人。 もしかしたら、本当に将来の騎士団を担う事になるかもしれませんね」
「だな。 シュウト団長から、シェスターなら将来ヴィーを支える存在になれるかもしれないから鍛え上げてくれと言われていたが、この分だと本当にそうなりそうだな」
騎士団長のシュウトや宰相のディエゴをはじめとした現在の騎士団の上層部は、ヴィーが卒業後は騎士団に入る事を決定事項として考えていた。
ヴィー自身は別にそんなつもりは無いし、なんなら卒業後はハンターとして活動するのも悪くないと思っているのだが……そんな事をシュウトとディエゴが知れば、あらゆる手を使ってヴィーを騎士団に引っ張り込むだろう。
なぜなら、シュウトは将来的にヴィーに次期騎士団団長を継がせたいと考えているのだから。
そのヴィーをサポートする人材として、複数の若手有望騎士に目を付けていたのだが、その中でも最も若く、ヴィーとも歳の近いシェスターを副団長の第一候補として考えていたのだ。
「まったく、昨日の件はイレギュラーだったが、不幸中の幸いってやつだったな」
「ええ、あのプライドの塊だったシェスターが、昨日の件をきっかけにすっかりヴィーに惚れ込んでますからね」
そう言って笑いながら、二人は騎士団の未来に想いを馳せるのだった。




