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第28話 課外授業

 海洋都市・ヘンリー。


 ヘンリー辺境領は、シルマーリ帝国最東端に位置し、海に面した海洋都市である。 


 北側には大きな山が存在し、麓の森には多くの魔獣が棲んでいるのだが、国が管理しているため魔獣が人里に現れる危険は殆ど無い。


 山と森は纏めてヘイル森林区と呼ばれ、奥に進んで山頂に近付けば近付く程強い魔獣が棲んでいるが、国が管理しているラインまでは然程強い魔獣が棲んでいない為、浅いラインはよく騎士団の新兵や学生の訓練に使われているのだ。



 カイゼルアカデミー一年生総勢一五◯名を乗せた魔導バスが六台と、今回の郊外授業の引率を務める騎士団三◯名を乗せた騎士団専用車両は、ヘンリー辺境領最大の海洋都市・ハマーンへと向かっていた。



 バスの窓から海を眺めながら、ソフィアは感嘆の声をあげていた。


「わ~、これが海か~。 私、初めて見た」


 隣に座るソフィアの笑顔に、ヴィーも優しく微笑む。


「それにしても、まさか先輩が三年生を代表して引率してくれるなんて、ビックリしました」


「……もしかして、ソフィアは俺が着いて来て嫌だったのか?」


 不安そうに尋ねるヴィーだったが、そんな杞憂をソフィアの笑顔が吹っ飛ばした。


「嫌な訳ないですよ! 私、先輩のおかげで最近はアカデミーに通うのも楽しくなったし、本当にありがとうございました」


 ソフィア自身、ヴィーがゲロリアンとロレッタに何をしたのかまでは分かっていない。 それでも、ロレッタの雇った男達に拐われたのをヴィーに救出された。

 その後、ゲロリアンとロレッタがアカデミーを去ったのだ。 ヴィーは決して無関係では無いのではと思っていた。


「そうか。 でも、俺は何もしてないぞ?」


「またまた〜。 私を助けてくれたじゃないですか? それだけで、私は感謝してもしきれないんです」


 照れながら謙遜するヴィーに、ソフィアは心の底から感謝していた。


 そんな仲睦まじい二人の様子を、同じバスに乗っていた学生達が男女問わず悔しそうに眺めている。


 ヴィーは転校して間もないが、一部でファンクラブが出来る程の人気を誇っているし、ソフィアも虐めから解放されて徐々に人気を取り戻している。

 そんな二人が、アカデミーでも一緒にいる事が多いのだ。 何より、普段のヴィーはどんなに女子に囲まれてもクールで無表情なのに、ソフィアといる時だけは優しく微笑んでいる。


「それにしても、たまにはバスでゆっくり移動するのも良いものだな。 景色もゆっくり眺めるし」


「ですよね〜。 窓を開けると風が気持ちいいし。 ……あ、先輩、ミカン食べます?」


「いいね、いただこうかな」


 本人達は全く意識してないのだが、二人は交際してるのでは? と噂が流れているのだ。



 今回三年生の五人は、一クラスに一人ずつが引率として同行する事になっている。


 シュウトからの密命を受けているヴィーも、日中は一年生の引率として行動する予定で、それ以外の時間帯は騎士団と合流する事になっていた。


(ソフィアと一緒にいる時間を増やす為にも、今日のうちにある程度の目処は立てておきたい所だな……)


 ヴィーの考える目処とは、七騎将の二人・ガイルとシャリアが、本当にヘイル森林区に身を潜めているのかどうかをまず確認しておきたいという事。

 そして、もし二人がいたのならば、何が目的なのかをハッキリさせておきたいのだ。


(もし、アイツ等が人類に仇なすつもりなら……黙って見過ごす訳にもいかなくなる)


 ヴィーとしては、ガイルもシャリアも知らない仲ではない。 七騎将の中にはアンノウンの存在を快く思っていない者もいたが、この二人はむしろアンノウンの事を認めてくれていた方だった。


 だが、今のヴィーは二人から見ればアンノウンではなく、ただの人間なのだ。


 いっその事正体を明かすかとも考えたが、魔王が討たれたと同時に消えたアンノウンに対して、魔族の中でも意見が真っ二つに分かれているとの情報がディエゴからあった。


 魔王同様に殺されたか? もしくは、裏切って姿を眩ましたか?


 もし、二人が後者の説を信じてるとすれば、ヴィーがアンノウンだとバレた瞬間に戦闘が始まってしまうだろう。


(普段から人前では仮面を着けてたから素顔は割れてないとはいえ、俺としてはこちらの都合で知った仲の二人を殺すの避けたい……)



 そんな事を考えているうちに、一向は今回の拠点となるハマーンの臨海施設へと到着した。


 施設は海沿いに建設されていながら、課外授業の現場であるヘイル森林区まで徒歩三十分程。 最大五〇〇人が寝泊まりできる保養所もあり、生徒を含む学園関係者はここに宿泊する。

 ちなみに騎士団は、施設から数分のキャンプ場にテントを張って拠点を設営している。


 朝に帝都カイゼルを出て、現在は夕刻。 学生はこれから夕御飯となり、その後のミーティングで明日の準備や説明を受けた後に、初日の日程が終了となっている。


 ヴィーはミーティング終了後には騎士団に合流する予定だ。



 夕食……広めの食堂では、一年生はクラスごとに食事をしているが、引率の三年生五人は、同じテーブルで食事を取っていた。


 気まずい空気が漂う中、ヴィーは黙々とハマーンの海鮮料理を口に運んでいた。


(旨い……これが本場の……産地採れたての海鮮料理ってやつか)


 副会長のファンは、未だにヴィーへの恐怖が残っているのか、テーブルの隅でブルブル震えてるし、弓矢使いのルイはそんなファンに呆れている。

 格闘家のライカールはヴィーの実力にまだ懐疑的だし、なによりもこの場で最も剣呑とした雰囲気を作り出しているクラリスは、無表情ながらチラチラとヴィーを睨んでいた。


(クラリス……もしかして何か仕掛けて来る気だろうか? 面倒事は避けたい所なんだが、先ずはシュウトからの依頼を片付けて、それから話しでもしよう)



 ……ミーティングが終わり、ソフィアが友人達と仲良くしているのを確認してから、ヴィーは騎士団の野営キャンプへと移動した。


「よう、ヴィー! 漸く来たか!」


 ヴィーが騎士団の作戦会議用テントに入ると、居の一番に声を掛けて来たのは、今回の遠征部隊の総責任者である帝国騎士団第三師団長の『オルテガ・バンビーノ』だった。


 オルテガは騎士団でも実働部隊としては最年長者となる三十九歳で、シュウトも信頼を寄せている大先輩でもある。

 ヴィーともシュウトを通じて知り合い良好な関係を築いているが、当然、ヴィーがアンノウンだった事は知らない。



「久しぶりだな、オルテガさん。 相変わらず声が大きいけど」


「ガハハハハッ、声が大きく無きゃ、戦場で指示が聞えんだろう? おまえは相変わらず表情が硬いな。 もっと笑っときゃ、女にもモテんのにな!」


「余計なお世話だよ」


 ヴィーとオルテガのやり取りは、二人の関係を知っている者ならいつもの事なのだが、団歴の短いものからすれば、自分達の上司である師団長に対して、学生の身分で馴れ馴れしいヴィーは、生意気にしか映らなかった。



 今回の任務には、シルマーリ王国騎士団の本部からオルテガ師団長率いる第三師団一〇〇名と、ハマーン支部から一〇〇名の計二〇〇名が参加し、協力で昼と夜に分かれてヘンリー森林区の探索を行う予定だ。



「じゃあおまえ等、今日のこれからの日程を伝えておく! これから五班に分かれてヘイル森林区のレベル3のラインを越えてレベル4のエリアにて元・魔王軍七騎将の捜索を行う。 尚、発見した際は、交戦せずに必ず報告をする事!」


 ヘイル森林区は危険度レベルのラインが存在し、奥に進めが進む程に危険度レベルが上がる。

 通常はレベル4からは許可がなければ入れない規則になっていて、レベル4以降は主に騎士団の訓練として利用されている。

 そして、学生からすればレベル3も充分危険なので、今回の課外授業もレベル2までの区域で行われる予定だ。


「で、今更紹介するのもなんだが、今回の作戦にはこのヴィーが参加してくれる。 ヴィーには単独で動いてもらうが、コイツから何らかの要望があった際には、俺からの命令だと思って最優先にする様に!」


 ヴィーの実力を知っている者は頷いているが、そうでない者……主に、新米騎士として一年の訓練を終えて、今季から配属されたばかりの新人騎士からすれば、自分達よりも若い学生である謎の男に従わなければいけない理由が理解できなかった。

 地獄の新米訓練を終えて師団に配属されたばかりの新人達は、誰もが同世代のエリートであり、学生に劣るなど思ってもないのだから。



「師団長、何故、学生である彼にそんな権限を与えるのですか?」


 そんな新人達の一人、『シェスター・レイモンド』は、不満気な表情で手を挙げ、オルテガに意見するのだった。

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