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第27話 片鱗

 ファンの木剣の切先が、ヴィーの喉元に向けられている。 だが、ヴィーはこの状況に一切焦ってはいなかった。


(これが悪党や身の程知らずのハンターならともかく、たかが学生に本気になるのは大人気ないよな……)


 内心では適当にやり過ごして帰ろうとも思ったが、この状況でやり返しもせずに帰れば、ファンは勿論、ライカールあたりは今後もヴィーを見下して来るだろう。


 そんか事でプライドが傷付く程未熟ではないが、意味もなく下に見られるのは癪に触るのも事実。

 アンノウンだった過去がバレるのは問題だが、ヴィー自身が実力を隠すつもりがなかったからこそ、武力試験でも気兼ねする事なく一位を獲得したのだから。


 残りの学生生活は短いが、それでもソフィアが平穏に過ごせる要素、後ろ盾として、ヴィーがある程度強いのだ認識されていた方が都合が良いとも考えている。


(面倒だな……どうにかコイツのプライドを傷付けないで、場を収める手はないだろうか……)


 アンノウンだった頃は、逆らう者は全て捩じ伏せて力を誇示して来たから、穏便に済ましつつ己の力を誇示する方法をヴィーはあまり知らなかった。



「フッ、ビビったのですか? さっきまでの威勢はどうしたんです?」


 尚も挑発してくるファンに、穏便に済ませたいと思っていたヴィーも段々腹が立ってきてしまった。 そう、彼は自分で思ってる程、気が長い性分ではないのだ。


「……一つ、聞いておきたいんだが、おまえは人に剣を向けるという事が、どういう事か分かってるのか?」


「貴様は会長を侮辱した。 僕は副会長としてそれを見過ごすわけにはいかない。 不本意ではありますが、己の立場を理解してもらう為に多少痛い目をみてもらうのも辞しませんが?」


「そういう事じゃない。 例え木剣であろうが剣を抜くという事は、覚悟があるのかって事だ」


 ヴィーの目が“妖しく光る”と、ファンは不思議な感覚に陥り、身体が硬直してしまった。


「なっ……身体がっ!?」


 そして次の瞬間、ヴィーに向けていたハズの木剣が、自分の腹に突き刺さっていた……。


「がはっ……なん、で?」


「言っただろう? 剣を抜くという事は相手を殺す事は勿論、自分も殺される覚悟があるのかって聞いたんだよ。 多少とか少々とか生易しい事を聞いてるんじゃない」


 ファンは生徒会副会長として、会長であるクラリスに心酔し、忠誠を誓っていた。

 自分の主君を侮辱されたから少し脅して分からせてやろうと考えただけで、ヴィーを殺す気も、自分が殺されるつもりもなかったのだ。


「まさか……こんな事って……」


 ここはアカデミーだ。 当然、命のやり取りをする場ではない。 なのに、こんな所で死ぬ事になるとは、全く予想もしてなかった。


「……分かったか? 剣を抜くという意味が」


 悔しい、それ以上に怖い。 ファンにとって目の前のヴィーが、恐ろしい悪魔に見えていた。


(僕は……なんて、恐ろしい……男に、喧嘩を売ってしまっ……たんだ……)


 意識が遠のき、目を瞑る。 ああ、自分は死ぬんだと理解しながらも、死にたくないと心で何度も願った…………。


「…………って、あれ?」


 いつまで経っても意識を失わない事を不思議に思い、ファンが目を開ける。


 ……すると、確かに腹に刺さっていたハズの木剣は自分の手の中にあり、貫かれた傷は一切なかった。



 コモンスキル・“デジャブ・アイ”。


 ヴィーがアンノウンとして魔王軍にいた頃、七騎将の一人から教わったスキルであり、対象に一◯秒間程度の幻を見せる能力だ。


 本家のデジャブ・アイは、発動時間は最大で五分だし、効果も自分の想い描いた幻を対象に仮想体験させる恐ろしいスキルだ。

 だが、ヴィーが習得したデジャブ・アイは発動時間も短く、幻の時間であっても現実の自分に出来ない現象まで見せる事は出来ない。


 今回の、ファンに突き付けられた木剣を一瞬で奪い取って腹に刺すという行動は、実際のヴィーでも実現できるから幻に出来たが、本当にやってしまったらマズイので、幻として見せるに留めたのだ。


「……な、なんで……?」


 幻ではあったが、ファンにとっては実際に起きた事と認識されている。 その時味わった感覚や感触は、しっかりと精神に刻み込まれていたから。



「おい、どうしたんだよ、ファン。 顔、真っ青だぞ?」


 突然顔を青褪め、大量の汗を流しているファンに違和感を覚えたライカールが、ファンの肩を叩く。 すると、ファンはその手を激しく弾いた。


「うわあああああっ!?」


 そして恐怖と混乱から、頭を抱えて蹲ってしまった。


 そんなファンを見下ろしながら、ヴィーは少々やり過ぎてしまった事を反省していた。


(一応事を荒立てずに状況を収めた気もするんだが……学生にはちょっと刺激が強過ぎたか)



 ヴィーとファン以外は、一体何が起こったのか理解出来ていない。 当然、アカデミートップのクラリスでさえも。


「何を……シュナイダー君、今、一体何をしたんですか?」


 警戒心を強めた視線で問い掛けるクラリスに、ヴィーはどう答えるか迷う。


「まあ……ちょっと睨んだだけだ……。 じゃあ、俺は失礼する」


 巧い言い訳を見つける事も出来ず、ヴィーはそそくさと生徒会室を後にした……。



 残された四人、ファンはまだ震えているもののヴィーがいなくなった事を確認して少しだけ落ち着きを取り戻しているし、ルイとライカールに関しては未だに状況が掴めてない。


 そしてクラリスは……間違いなく、ヴィーがファンに何らかのアクションを起こしたのだと確信していたが、それでも何をしたのかまでは理解出来ていなかった。


 魔法の分野では天才と呼ばれるクラリスは、精神系の魔法にも精通している。 だが、今回ヴィーが使ったデジャブ・アイは魔法ではなく、スキル……しかもコモンスキルだ。


 スキルとは生まれ持った才能が主ではあるが、適性があれば努力次第で習得する事も可能な能力である。

 空間に漂う魔素を取り込み、四大元素を具現化して発生させる魔法とは原理が異なるのだ。


 対象に幻を視せる効果の魔法など存在しない。 しかも、デジャブ・アイは魔王軍七騎将の一人が生まれ持ったスキルであり、世界広しと云えど彼女にしか使えない能力だった。


 ならば何故、ヴィーが使えるのか? それは偏に、彼がまだ幼い頃にミゲールを驚愕させたコモンスキルが要因となっていて、何よりも彼の強さの源はそのスキルにあった。



 クラリスは事前に今回の件を、兄であるシュウトに問いただしていた。 何故、騎士団……いや、勇者である兄が、学生であるヴィーを推薦したのかを。


(あの、御兄様が認めた男……。 あの、自分にしか興味がなく、他人の事を絶対に褒めない、あの御兄様が)


 妹であるクラリスから見た兄のシュウトは常に自信に満ち溢れ、どんな時でもどんなコミュニティーでも、気が付けば常に中心にいる存在だった。

 その上有言実行で、頑固なまでに一度決めた事は貫徹する……自慢の兄だった。


 だが、実は大の負けず嫌いであり、勇者パーティーの仲間で闘神と言われるリョウとも、どちらが強いか未だに張り合ってるくらいで、滅多に他人を認める事は無い。


 だが、ヴィーの事を語るシュウトに、クラリスは言葉を失ったのだ。


「アイツには過度に干渉せず、全て自由にやらせろ。 それがおまえら学生のためだし、なによりこれは騎士団団長としての命令だ」


 シュウトの言葉から伝わる感覚……それは、勇者パーティーのリョウよりも、あのマサートよりも、同級生でただ一人クラリスがライバルと認めるルミーナよりも強い、ヴィーに対する絶対の信頼感だった。



「か……会長、アイツは危険です」


 なんとか落ち着きを取り戻したものの、まだ顔が青褪めているファンが、ヴィーは危険だとクラリスに告げる。


「……ファン、貴方達二人の間に、一体何が起きたのですか?」


「あ……ありのまま、今僕の身に起こった事をお話しします。 僕は剣先をアイツに向けましたよね? でも、気が付いたら僕の剣は奴に奪われ、僕の腹に突き刺さってたのです! そして、気が付けばその剣はまた僕の手元に戻ってた……。 正直、何を言ってるのか分からないと思いますが、僕も何をされたのか分からないんです……。 今でも頭がどうにかなりそうです。 催眠術だとか、目にも止まらぬスピードだとか、そんなもんじゃ無い……。 もっと、恐ろしいものの片鱗を味わったんです……」


 ある意味催眠術みたいなものではあるのだが、誰もがファンの言葉を理解出来ず、生徒会室には沈黙が訪れた……。



「精神系の魔法……でもないのよね?  実際、私達は誰も貴方の腹に剣が突き刺さっている現場を目撃していない。 ただ、睨み合っていただけ……」


 クラリスも最初は精神系の魔法かもしれないと思ったが、ヴィーの成績表を見て違うと判断した。

 なぜなら、ヴィーは魔法に対しての適性が殆ど無い……初級魔法ですら発動できないのだから。



 クラリスの背筋に、冷たいものが走った。 


 シュウトの言葉と相まって、彼女の中でヴィーの存在が、理解不能で巨大なものへと変わっていくのだった。



「ヴィー・シュナイダー……。 ……絶対に正体を暴いてみせますわ……」


 むしろ、クラリスのヴィクトーへの関心は更に強まった。 なにより、彼女は兄譲りの、極度の負けず嫌いだったから……。

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