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第26話 生徒会

 ヴィーがカイゼルアカデミーに中途入学して一ヶ月が経ち、いよいよ三日後には夏休みを迎える事になった。


 一年生は夏休みの初日から一週間、課外授業としてヘンリー辺境領に遠征に行く事になっていて、ソフィア達一年生の生徒達は期待と不安からソワソワしている者も多い。


 そしてヴィーも、勇者であり騎士団団長でもあるシュウトの頼みで、課外授業に付き添いとして着いて行く事になっていた。


 だが、真の目的はかつての仲間でもある魔王軍七騎将の二人が、ヘンリー辺境領のヘイル森林区にいるかもしれないとの報告を受け、騎士団と共に捜索活動を行う為だった。



 毎年、一年生の課外授業には、サポート役として三年生から五人の生徒が代表して引率する事が決まっていた。

 この五人は、学力・武力・魔力を総合した成績上位者を中心に選ばれるシステムになっていて、選ばれるという事は学生にとっては名誉であり、卒業後の進路にも影響する。


 今回はヴィーも五人のうちの一人なのだが、これはシュウトが裏で手をまわしているからの人事であり、本来であればヴィーがサポート役に選ばれるのは、学力や魔力の面で成績的に無理だった。




 ……放課後、教室では、ヴィーがいつものメンバーと駄弁っていた。


「にしても、ヴィーが一年の課外授業になあ。 確かに武力の面では文句無しやけど、学力のテストは俺よりも下やったやんか?」


「おまえより下っていう事実が、俺には辛い……」


 ヴィーは決して地頭が悪い訳ではないが、学生の勉強には縁がなかったので授業に着いて行くのがやっとだった。

 結果、たった一ヶ月では他の生徒との差を縮める事は叶わず、学力の分野では学年順位が下から数えた方が早いトラフトにすら及ばなかったのだ。



「本来ならカインがサポート役の可能性があったんだろうな。 三ヶ月休んでたのに総合成績五位とは、恐れ入るよ」


 カインは特例で特待生に復帰したが、今回のテストでは総合成績五位と、入学から常にキープしていた三位以内に及ばなかった。


「まあ、この三ヶ月は全然勉強してなかったから御の字だよ。 それに、今は皆んなのおかげで家の復興で忙しいから打診が来てても断ってたよ。 ま、今回選ばれてるヴィーの他の四人は全員生徒会メンバーだし、俺なんかと違って生粋のエリートだから、正直話題が合わないしな」


「そやな、アイツ等はエリートっちゅうか、生まれも上級貴族やし、俺らとは育った畑が違うもんな。 あ、ヴィーはこの後、生徒会室に呼ばれてるんやろ? ま、頑張りや」


 一位から四位。 つまり、今回ヴィーと行動を共にする四人になるのだが、どうやら全員生徒会メンバーにして上級貴族の出らしい。



「あ~あ、ヴィーは一週間留守やし、マルクは夏休み中は実家に帰るとか言うとるし、とりあえず一週目の依頼はいつもの三人やな」


 基本的にハンター部では、ハンター活動は月一回までと決められているが、夏休み中は一週間に一回まで依頼をこなしてもOKとなるのだ。


「いいじゃないか。 久しぶりに三人でも」


 トラフト、ダイス、カインは、入学してから常に三人で行動してきた。 ヴィーがいなければ難易度の高い依頼を受注するのは無理だが、それでも通常の依頼をこなすのは慣れたものだろう。


「ま、ヴィーがいないからギルドマスターからの特別依頼は受けれないだろうがな」


 ヴィーはそんな三人を見ながら、とっとと面倒ごとを片付けて、自分も一緒にハンター活動に参加したいと思うのだった。




 ……その後、トラフト達と別れ、ヴィーは生徒会室に来ていた。


 今日は、遠征に帯同する五人が、改めて生徒会室に集められていたのだ。



 メンバーは、内々でシュウトが直々に任命している、ヴィー・シュナイダー。

 学力試験・一一九位。 武力試験・一位。 魔力試験・最下位。 総合成績・九九位。


 生徒会副会長で、学園の剣術部門でトップの成績を誇り、有名な剣聖の孫である男子生徒、『ファン・バステール』。

 学力試験・二位。 武力試験・一位。 魔力試験・五位。 総合成績・二位。


 弓道部部長で、帝国最強のアーチャーを決める大会で好成績を収める女子生徒、『ルイ・グーリッツ』。

 学力試験・六位。 武力試験・五位。 魔力試験・五位。 総合成績・三位。


 徒手格闘部部長で、一切武器を使わない総合徒手格闘技の学生王者である男子生徒、『ライカール・フランク』。

 学力試験・一◯位。 武力試験・三位。 魔力試験・八位。 総合成績・四位。


 そして……


「五人全員で集まるのは今回が初めてね。 改めて、私はカイゼルアカデミー生徒会会長の『クラリス・レッドフォード』です。 宜しくね、シュナイダー君」


 生徒会長、クラリス・レッドフォード。

 学力試験・一位。 武力試験・六位。 魔力試験・一位。 総合成績・一位。


 三年生の総合成績トップであり、次期大賢者候補と呼ばれる程に魔法能力に長けている。


 そして、何よりも彼女の兄は、帝国騎士団団長であり勇者のシュウトだった。


(クラリスか……。 シュウトから話には聞いていたが、会うのは初めてだな。 なるほど、兄貴によく似てる)


 クラリスは絹の様に美しい金髪を腰まで伸ばし、白く透き通った肌の美少女だった。


 成績もさる事ながら、兄譲りのカリスマ性を持ち合わせ、生徒会長としてアカデミーのトップに君臨している。



 ここで、緩い癖毛の赤髪で、眼鏡を掛けた長身のファンが、不満気な表情でヴィーに意見した。


「……君が僕と並んで武力試験の一位か。 でも、他の成績はお世辞にも優秀とはいえない。 総合五位のカインならともかく、何故この転校生が引率メンバーに選ばれたのか理解出来ませんね。 今回選ばれたメンバーは三学年のトップ……つまり、アカデミーの代表なのに」


 学力試験は学科のペーパーテスト。 武力試験は攻撃の最大出力・命中率・手数の実技。 魔力試験は、魔力の容量、練度、最大出力。


 ヴィーは学力の成績が悪いのは当然として、魔力に関しては最下位……つまり、ヴィーは“通常”だと魔法がほとんど使えないのだ。


 武力だけは全ての課題を余裕でクリアしたので一位をとる事が出来た。 だが、課題は上限の点数が決まっているので、同じく全課題を満点でクリアしたファンも、同率一位となっているのだ。


 それでも、例年は総合一位から五位がこの遠征の引率に選ばれているので、総合五位のカインではなく総合九九位のヴィーが選抜されたのは、ファンを含め他のメンバーにとって些か疑問な人選ではあった。


「確かに私達はまだヴィー君に関してはファンと同率で武力試験一位という情報しかありません。 ですが、ヴィー君を推薦したのは騎士団本部です。 私達がどうこう出来る問題ではありません」


 クラリスの騎士団からの推薦という言葉に、他の三人は驚きを隠せなかった。


 帝国騎士団へは、毎年帝国中から五◯名程の新卒者が新入団員として入団するが、あまりの過酷な訓練に、一年後に残っているのは半数に満たない。


 それだけ、高校生と騎士団員との力の差は歴然であり、それが団長のシュウトや師団長クラスとなれば、もう雲の上の存在なのだ。


 そんな騎士団からの推薦を受けた男。


 ……ファン達にとって、ヴィーが何故選ばれたのか分からない謎の男から、騎士団が選んだ武力を誇る謎の男へと見る目が変わる。



「へぇ〜、顔が良い転校生が来たって聞いてはいたけど、アンタ、強いんだ」


 褐色の肌にドレッドヘア、健康的な美少女のルイが、まるで値踏みする様にヴィーを見る。


「ケッ、こんか優男が? どうせ騎士団にコネでもあるだけだろ?」


 ルイと同じく褐色肌で、筋骨隆々の大男ライカールは、己の力瘤を誇示しながらヴィーを挑発した。


 そんな挑戦的な態度にも、ヴィーは全く動じない。 頭の中は、早く帰りたい一心だったから。


(面倒だな。 俺も好きで選ばれたんじゃないんだけど……)


「不満があるのなら騎士団に直接言いなさい。 それに、合宿で私達は同じ目的を全うするためのチームになるのだから、馴れ合えとは言わないけど、お互い最低限の敬意を払いなさい」


 クラリスの一言に、他の三人は渋々ながらも黙って頷いた。



「さて、今回私達の役割は、あくまで想定外の状況が起こった場合のみ、速やかに問題を排除する事です。 過度な干渉は一年生の成長を妨げてしまいますからね」


 実際は、今回ヴィーが引率に選ばれたのはシュウトによる計画であり、ヴィーが正当な理由で課外授業に参加する為のカモフラージュでしかなかった。


(現地に着いたら俺は、夜間は基本的に騎士団に合流して行動しなければならない。 クラリスとも、シュウトの妹だからといって別に仲良くなりたいとも思わないし……顔合わせも済んだし帰るか)



「分かった。 それじゃあ俺は帰らせてもらうから、後は宜しく」


 立ち上がり、部屋を出ようとするヴィー。 だが、それをファンが止めた。


「なっ……まだ会長の話が途中だろう?」


「顔合わせは済んだだろう? そこの会長の言う通り、俺は馴れ合う気もないし、向こうでは騎士団から直接依頼を受ける事になっているから、別に話し合う事もないだろう?」


「テメェ、ちょっと騎士団から選ばれたからって調子に乗んじゃねえぞ? そもそも、テメェが騎士団から選ばれたのだって、強ええからかどうかだって分かんねえ。 試験は所詮試験なんだからな」


 実力至上主義であるライカールもまた、ヴィーに声を荒げる。


「ちょっと、ファンもライもいい加減にしなよ。 別に帰りたいなら帰らせたっていいじゃん」


 だがルイは、そんな二人を若干冷めた態度で見ている。



 すると、クラリスもまた、ヴィーに問いかけた。


「貴方が現地では騎士団に帯同する事は聞いているわ。 ただ……私は、個人的に貴方には聞きたい事があるのだけれど……」


(シュウトは俺の事をクラリスに話しているんだろうか? 例え話していたとしても、俺がアンノウンだった事は勿論、具体的な戦闘力までは伝えてないだろう。 なんにしても、あのシュウトの妹だ。 深入りしたら碌なことにならない気がするな……)


「悪いが、俺の方から話す事はない。 この後用事があるから、帰らせてもら……」


 突然、ファンが木剣を抜き、切っ先をヴィーに向けた。


「貴様……会長を蔑ろにするとは、いい度胸じゃないか」


 本来なら学生に武器の所持は許可されていないのだが、生徒会役員及び風紀委員の生徒にだけは、校則で木剣の帯同が許可されている。


 冷淡に、ヴィーに凄むファンだったが……。


(……木剣とはいえ、この俺に剣を向けるとは……おまえの方こそ、いい度胸してるけどな)


 ヴィーは無表情のまま……この場をどう収めようかと考えていた。

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