第25話 吹っ切れた笑顔
その後……アリシアは警備員を呼び、気絶したヤイーミを取り敢えず保健室に連れて行ってもらった。
そして、それからのアリシアの行動は早かった。
カイン暴行事件に絡んだ全ての卒業生に連絡を取り、事実確認を行い、今回の件を改めて教育委員会の委員長に報告。
すぐ様、臨時職員会議を開き、その場で一連の流れを報告。 ヤイーミの解雇を発表すると共に、カインに関しては停学を取り消し、更には特例として今後三ヶ月間は成績関係なく、カインの学費を免除すると決めたのだった。
学費免除に関しては否定的な意見もあったが、カインの停学になるまでの実績と、あくまで被害者だった点をアリシアがゴリ押して認めさせた。
あまりにもスムーズに、全ての決定が承認された。 ヤイーミに言っていた通り、アリシアもカインを救おうと策を練っていたのだろう。
苦しんでいたカインを見捨てたのではないかと、アリシアに不満を抱いていたヴィーも、少しだけホッとしていた。
こうして、カインの件は無事に解決したのだった。
……激動の一日を終えた翌日の朝、ヴィーは再び理事長室を訪れていた。
「……アリシアさん、昨日は言い過ぎてすみませんでした。 アリシアさんも、カインの事をちゃんと気に掛けてくれていたんですね」
ソファーに座るアリシアに、ヴィーは頭を下げた。
「いいえ、なんでもっと早くカイン君を助けてあげなかったのかと、貴方たちが思っていたのも無理はありません。 今回の件は完全にこちら側の落ち度です。 謝っても謝りきれません。 カイン君には、本来非が無いのですから」
アリシアも卒業式の日に起きた事件を不審に思っていたが、全てを目撃していたと主張するヤイーミの証言を、理由もなく否定するわけにはいかなかった。
なので、対面上は停学処分にしていたのだが、ヤイーミの人脈は想像以上に広かったらしく、その上アリシアも多忙だった為、対応が遅れて真実を解明するのに時間がかかっていた。
それでも、いざという時の根回しと計画は済んでいたので、今回ヴィーとマルクがデフール家やヤイーミの不正を暴いて糾弾してくれたのは、アリシアにとっても好都合だったのだ。
「それにしても、もうあんな良い友達が出来たのね。 母親代わりとしては、とても嬉しいわ」
「ああ、本当に。 トラフトとダイスなんて、最初はガラが悪いなとしか思ってなかったのに、カインとの関係見てたら悪い奴等じゃないって分かったし。 それにマルクも……」
「マルク君ね……。 彼は……ちょっと変わり者だけど、仲良くしておいて損はないわ」
「変わり者ねえ……。 マルクはやっぱり、ただの学生じゃないのか?」
マルクの情報取集能力、そして、昨日のデフールとの電話で垣間見えた交渉能力は、一学生の範疇を超えているとも思っていた。
「ま、いずれ分かるわよ。 それより、もう授業が始まるわよ。 早く教室に戻りなさい」
「ああ、そうだな。 じゃあ、行くよ」
ヴィーは理事長室のドアを開けて、アリシアの方へ振り返る。
「……正直、アカデミーなんて、ソフィアがいるから仕方なく通い始めたけど、今は感謝してる。 ありがとう、アリシアさん」
ソフィアとルミーナを見守りたいという理由だったが、アカデミー自体は正直面倒だと思っていた。
この九ヶ月、騎士団の臨時講師役としての生活にも慣れてきていたし、なんならハンターになって生きていくのも悪くないかもしれないと思っていたから。
でも、今は妹と一緒に学校に通い、心を許せる頼もしい友達も出来た。 死神だった頃には、考えもしなかった平穏で平和な生活が送れているのだ。
全ては、自分の背中を強引に押してくれたアリシア達のおかげなのだから。
「フフフッ、正直言うと、貴方が同年代の子たちと仲良くなれるなんて、私も思ってなかったんだけどね」
「えー? それ、ヒドイな……」
「冗談よ。 私は、貴方には学生として、精一杯楽しんで生きてほしいだけだから。 これからも、目一杯青春を謳歌しなさい。 あ、折角なんだから、恋の一つもしなさいな」
「恋ね……まあ、機会があれば考えておくよ」
青春を謳歌する……これには納得しつつも、恋については全く関心が湧かないまま、ヴィーは理事長室を後にし、教室に向かった。
……教室のドアを開ける。
「おう、ヴィー。 おっはよ〜さ~ん」
「遅かったな、ヴィー」
「おはようヴィー君! 鞄は置いてあったみたいだし、どこか行ってたんでしょ?」
トラフト、ダイス、マルクが、いつもの様にヴィーに話しかけてきた。
そして……。
「おはよう、ヴィー。 今日からよろしくな」
吹っ切れた笑顔を見せるカインが、三人と一緒にヴィーを出迎えたのだった。
昨夜、アリシアがカインの家を訪れ、改めて謝罪と、復学に際しての提案した。
既に復学の件はヴィー達とも約束していたし、カインはアリシアの提案を快く承諾したのだ。
自分に、本気で向き合ってくれた友達と一緒になら、きっと後悔の無い時間を過ごせると信じたから。
ヴィーは、カインを見ながら微笑む。
「こちらこそ、よろしくな」
学生になり、信頼し、信頼される友達と、これからの学生生活が送れることに、ヴィーは少しだけ期待するのだった。
……その後デフールは、ヴィーとマルクからダブルの脅迫を受けた事で、速やかに約束を随行した。
おかげでカインは貧民街から平民の住宅街に引っ越しが出来たし、マリーも医療教会に入院して体調も良くなった。
更にはケンとリンにもしっかりした教育を受けさせてあげる事が出来た。
だが……全ての約束を果たしたデフールに待っていたのは、騎士団からの捜査だった。
ビルバーグ家の利権を不正な方法で搾取した詐欺罪を中心に、他にも大量の不正が発覚したのだ。
その情報をリークしたのは、勿論マルクだし、ヴィーも予め騎士団に手を回していた。
つまり、ヴィーもマルクもデフールに情けをかけるつもりは一切無かったのだ。
見逃したと思わせたのは、やはりカイン達に今までの借金を償わせるための猶予でしかなかったのだ。
結果的に、デフールは子爵の爵位を剥奪され、更には複数年の禁固刑に処され、スヴェンも就職先が見つからず、なんとか知り合いの商家で下働きをするハメになったのだった。
死神のリグレット〜魔王軍最強の死神、学生になる〜
第一章 死神、学生になる
終




