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死神のリグレット~魔王軍最強の死神、学生になる~  作者: Tonkye
第一章 死神、学生になる
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第20話 説得

「ふう、旨かった! 昨日はパーティーに参加させてもらった上に、今日は晩飯まで作ってくれて。 ……なのに、俺は……」


 カインが深く頭を下げる。 昨日、再会した際の態度を反省してるのだろう。


「気にするな。 俺が勝手にやった事だからな。 ただ、さっきトラフトも言ったが、頼みがあるんだ。 明日、一回だけアカデミーに来てくれないか?」


 ダイスの言葉に、カインの表情が曇った。



 家だと母親のマリーが気にするかもしれないので、三人は外に出て、適当なベンチに座って会話をはじめた。


「……おまえらには在学中も、そして昨日と今日も、本当にお世話になった。 でも、俺はもう、アカデミー側には退学届を出したんだ」


 既に退学届を出している……。 だが、トラフトとダイスはその事実を知っていた。


(それも把握済みや)


 実は、マルクの調べだとカインの退学願は、まだ受理されてないのだという。 ヴィーいわく、理事長のアリシアの意向だろうと。



「残念やが、おまえの退学届けは受理されてへんぞ」


「え? 確かに、担任の『ヤイーミ』先生に渡したハズだぞ?」


 ヤイーミとは、昨年までカインの担任だった男である。


 ヤイーミの家も子爵家だ。 そして、彼は明確に平民を見下している。


 アリシアも理事長とはいえ、出は平民の家だ。 だから、ヤイーミはアリシアをも見下しているらしい。

 勿論、相手は理事長なのだから、決定的なラインを越えるつもりはないようだが。



「どうやらおまえの退学届は、アリシア理事長が預かっとるらしいで。 で、俺がここへ来たのは、明日おまえに理事長室まで来てもらうためや」


 カインの夢は騎士団に入る事だった。


 アカデミーで優秀な成績を残せば、例え庶民の出だとしても、騎士団はカインを受け入れるだろう。

 だが、停学になり、特待生でもなくなった事で、その夢は潰えた。

 今更アカデミーに通う理由はなくなったのだと、カインは諦めているハズ。


 ならば、友達として自分達がすべき事は、カインにまだ夢の灯火は消えてないんだと伝える事だった。



「実は……少し騎士団入団の条件を調べて来たんや。 魔王を打倒し、平和な世の中になった事で、今はもう騎士団は一般の入団テストは一切行ってへん。 だからおまえは、アカデミーで優秀な成績を残す事が、騎士団への唯一の道だと信じてたんやろ?」


 一年前までは、魔王軍との戦争や他国との紛争があったから、騎士団へ入団するハードルは今程高くはなかった。


 だが、今は世界的に平和な時代になった。 だから騎士団に入団出来るのは、アカデミーで優秀な成績を納めた者か、あとは貴族のコネくらいだろう。


「……そうだよ。 特待生でもなくなった俺には、学費を払う金すらない。 もし仮に、アカデミーに通った所で、そんなの時間の無駄でしかない」


「今まではそうだったかもしれないが……今、マルクとヴィーも動いてくれている。 アイツ等なら、きっとおまえが特待生に戻れる様にしてくれるハズだ」


 カインも、マルクが情報通なのは知っていたし、ヴィーに関しては一日しか一緒にいた事がないが、只者ではない事は理解している。

 それでも、彼等はあくまで学生だ。 学生の力で自分の処遇が覆るなどとは思えなかった。



「気持ちはありがたい。 けど、その気持ちだけで充分だ。 下手したら、おまえたちまで処分されるかもしれないじゃないか」


「心配いらん。 そしたら、俺らもおまえと一緒にハンターになるだけや。 元々、俺の卒業後の第一志望はハンターやったからな。 遅いか早いかの違いや」


「そうだな。 それに、これはヴィーが言ってた事なんだが……」


 ダイスは、ヴィーが言っていた、アカデミーに行く意味を伝えた。


 かけがえのない時間を、かけがえのない友達と過ごせる素晴らしさを。



「……バカバカしい……友達? そんなので飯が食えたら苦労しないんだ! おまえらに何が分かる? 借金まみれで、返せども返せども借金は減らず、毎日食うにも困る生活なんだぞ?」


 やはり、カインの意志は変わらない。 むしろ、現実を直視させられた事で、声を荒げてしまった。


 だが、二人にはマルクからのとっておきのアドバイスがあった。



「ふぅ……おまえ、そんな事言って、これ以上特待生を維持するのが辛くなっただけなんじゃないのか?」


「俺が? 俺が、どんだけ努力してたと思ってんだ!?」


「知っとるで。 大変そうやったもんな~。 だから嫌になったんちゃうん?」


「違う! 俺は……」


「せやったら、また特待生になって、努力すりゃええやんか?」


 敢えて挑発を交えたトラフトにダイスと、カインの言い合いを、通行人が不安そうに眺めている。



 これ以上言い争うのは悪手と察したダイスが、最後の質問を口にする。


「……分かった。 なら、最後に聞かせてくれ。 おまえの夢はなんだ?」


 答えは既に知っている。 カインは騎士になりたいんだと、何度も聞いて来たのだから。


 カインは唇を噛み締め、絞り出す様に呟いた。


「俺の夢は……騎士団に入って、家族を楽にさせてやる事だった。 でも、今はもう、別の道を探すしかないだろう?」


 そう絞り出すと、カインは項垂れてしまった。


 だが、トラフトが更に追い討ちをかける。


「別の道? どんな道だ? 自分の夢を諦めてまで見つけた別の道ってのは?」


「……このまま、ハンターとして活動するしかないだろ」


「あ? 騎士団が駄目だからハンターだと? ハンターは俺の夢やぞ? 舐めてるんか?」


「舐めてなんかない!」


「夢は騎士団やったんやろ? やっぱり舐めてるやん」


 騎士団とハンター。 共に戦闘面での実力を必要とされる職業だが、実際は必要な能力が大きく異なる。


 規律、礼節、団体行動が必須の騎士団に対し、ハンターには規律や礼節など不必要だし、むしろ邪魔になる場合が多い。

 その上、団体行動といっても四〜五人のパーティーがせいぜいで、必要とされる役割も多岐にわたる。


 勿論、才能のある者、頭の良い者であれば、どちらにも対応出来るかもしれない。 だが、カインの様に騎士団に入れなかったからハンターになったという新人は多いが、一年後に何らかの理由でハンターを引退している確率は三割にも達する。


「俺は、武学だって学年トップクラスだったと思ってるし、ハンターの仕事だって、もうすぐDランクだ!」


「おまえみたいなペーペーのハンターなんて、所詮探し物や素材集め程度だろう? 見た所、パーティー組むような仲間も俺ら以外おらんみたいやし」


 図星だったのか、カインは悔しそうに押し黙る。



 そして……ダイスがトドメを刺しにかかる。


「意固地になって、新たな可能性をみすみす見過ごしてしまうなんざ、バカのやる事だ。 おまえの夢が絶対に叶えたいと思える夢だったなら、どんな小さな可能性でも縋り付きたいと思わないのか?」


「俺は……今までだって、精一杯頑張って来たんだ。 働きながら勉強して、なんとか上位の成績をキープして来た。 なのに、貧乏だからって理由だけで絡まれ、担任には正当な評価もされず、終いには俺が悪者にされたんだ。 これ以上、どうすりゃいいってんだ!?」


「……だったら強くなれよ。 俺たちは絶対におまえに可能性を作ってやる。 あとは、おまえが一歩、前に進むだけだ」


「俺は……もういい。 大体、学費も払えない。 もう、いいんだ」


 カインは、ガックリと項垂れた。



 トラフトとダイスにしても、カインの気持ちは痛い程よく分かるし、キツイ事を言わねばならなかったので胸が痛かった。 全ては、マルクの指示通りに、カインを煽っただけなのだから。


 もしカインがすんなり説得に応じなければ、敢えて煽って感情を吐き出させる事。 カインの様なタイプは、きっと物事を自己完結するタイプだろう。 だからまずは本音を晒させ、そしてまた煽るのだと。


「そんなに退学したいんならもう止めへん。 せやけど、退学届けはまだ受理されてないんや。 やから明日の放課後、退学させて下さいって直接出向いて理事長にお願いしろや。 担任がどうだったかなんざ知らん。 苦労しておまえを学校に残してやりたいと奔走しとるヴィーやマルクに対する感謝の気持ちがあるんならな」


 そう言うと、トラフトとダイスは立ち上がり、去っていく。


 カインは何か言いたそうにしていたが、結局言葉が出て来なかった……。



 帰路の途中、トラフトとダイスは、今の会話が間違ってなかったか確認していた。


「なんか言い過ぎた気がすんねんけど、あれで良かったんかなあ?」


「確かに言い過ぎた気はするが、カインのリアクション、マルクの言った通りの反応だったし、あとはカインを信じて、明日を待つしかねえだろう」

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