第18話 友達
__翌日の放課後。
ヴィー、トラフト、ダイス、そしてマルクの四人は、アカデミー内ハンター部の部室に集まっていた。
一つ咳ばらいをし、マルクが報告を始める。
「早速だけど、昨日あの後、カイン君は真っ直ぐ家に帰らず、“デンブル金融”に立ち寄ったみたい。 で、デンブル金融で何をしてたのか探った所、昨日の依頼の報酬一六〇万ギルを全部返済に充てたみたい」
マルク以外の三人は、一体どうやったらそんな事を探れるのか疑問に思ったが、敢えてツッコまずにマルクの報告を聞く。
「で、更に調べた所、カイン君の家ではデンブル金融から多額の借金をしてるみたいなんだ。 しかも、利息が一〇日で一割増しの契約で」
一〇日で一割増しとなれば、例えば一〇〇万ギルを借りた場合、返済しなければ一〇日後には一一〇万ギルになり、借りる側としては非常に厳しい金利となる。
「元々カイン君は子爵家だったんだよね。 だから、トラフト君とダイス君とは、昔から仲が良かったんでしょ?」
「そうや。 でも、一二歳の時、カインの親父さんが仕事中の事故で亡くなったんや。 それから、カインの生活が変わったんや」
「確か、カインの親父さんが亡くなった後、何故か爵位も取り上げられたらしい。 理由はカインも教えてくれなかったけど、それでも頑張ってカイゼルアカデミーでも特待生を維持してたのに……」
「カイン君の家が没落した理由……。 結局借金の大元は、カイン君のお父さんが亡くなった後、なんとか家を維持しようとして詐欺に遭って出来た借金だったみたい。 その際に爵位を剥奪されたんだ」
時系列に並べると、カインの父が事故死する、母は子爵家を守るために詐欺に遭ってしまう、結果的に莫大な借金を背負った上に家を維持する事が出来ず爵位を剥奪されてしまった。
「……その後は、お母さんが頑張って働いてなんとか利息分だけは返済期限を守ってはいたみたいなんだけど、利子が利子なだけに元金が殆ど減らず、一年前にお母さんが過労で倒れちゃったんだ」
「……ちょい待ち、一年前っちゅーと、確かスヴェンの野郎がカインにちょっかい出し始めた頃やな」
「うん、カイン君が借金の事を知ったのもその頃だったみたい。 でもその頃には、借金は結構な金額になってたんだろうね」
「そんな事、カインは俺達に教えてくれなかった」
トラフト、ダイス、カインの三人は、ついこの間までいつも一緒にいたのだ。
比較的不真面目なトラフトとダイスとは異なり、カインは学年を代表する優等生だった。
「俺は……そんな事情も知らずカインに、そんなに勉強ばっかせんと遊びに行こうなんて誘ってた……なのに、アイツ、俺たちに付き合ってくれてたよな?」
「ああ、カインの家が大変なのは知っていたが、そこまでとは思ってなかったし、何よりアイツはそんな苦労を俺たちに見せなかった」
涙ぐむ二人を見ながら、友達という存在を知ったヴィーは、改めて考える。
カインはきっと、トラフトとダイスには哀れんで欲しくなかったんだろう。 だから、二人には自分の境遇を言わなかったし、それがカインのプライドだったのかもしれないと。
「……で、デンブル金融は、デフール子爵が経営する会社なんだ。 多分、スヴェンがカイン君に絡みだしたのも、借金が関係してると思われるんだ」
「あの野郎……汚え商売でカインを追い詰めた上に、更に暴行事件まで!」
カインの境遇に怒りを露わにするダイス、そしてトラフト。
「でも、スヴェンの家だって慈善事業じゃなく商売で金融業を営んでるんだから、借金を返せなくなったのカイン君のお母さん……その息子のカイン君を目の敵にしたのはギリギリ……極々ギリギリだけど道理が通ってるとも言える」
「なんやと!? マルク、おめえはそんな薄情な奴なんか!?」
トラフトがマルクを攻めてるが、金を貸したのに返さないから嫌がらせをした……という事だと、確かに一定の理由にはなるのかもしれない。
「ごめん、……でも、ここからは僕も絶対に許せない、スヴェンは完全にアウトなんだ。 卒業式の事件、あれはトラフト君達の予想通り、全てスヴェンの……デフール家の策略だったんだ。 怪我をしたスヴェンの慰謝料及びカイン君を訴えないという示談金代わりに、カイン君のお母さんに更に一○○○万ギルの借金を承認させたんだ」
「なんやと!? い、一○○○万!? そんなん、一〇日で一○○万も増えたら、到底借金なんか返せんやろが!」
昨日も、カインは高報酬の依頼に目の色を変えて、パーティーに加えてくれと頭を下げていた。 全ては高額の借金を返済しなければならないからであり、そう考えれば、学校に通ってる暇などある訳もない。
「アイツ……だから早くハンターランクを上げて、高難易度の依頼を受けたかったんだな」
ダイスは、昨日のカインの態度はおかしいと感じていたのだ。
カインは、頼りがいがあり、一本筋の通った男だったのだ。 決して金にがめつく、無暗に友達を遠ざける男などではなかったと。
マルクの報告を聞き、ヴィーは自分に何が出来るか考える。
まず、始まりは父親が早くに死んでしまった事。 これにより、カインの母親が詐欺に遭って家が没落したのが全てだ。
そして、その時の借金が高利貸しだったのも致命的だった。
だがその後は、スヴェンにもデフール家にも、カイン一家を陥れる悪意を感じた。
何故デフール家は、敢えて貧しいカイン一家を執拗に追い込むのか?
(借金は借金だし、返す義務はある。 でも、一〇日で一割なんて高利貸しは、双方の合意が無ければ明らかな違法だ。 そこを確認する必要があるし、それに……その後の事件については、どんな理由があろうとも、デフール家に酌量の余地は……ない)
ヴィーの表情が、仮面の内側に隠れていた、冷徹なものへと変わる。
「皆、俺から提案がある。 明日、カインを、必ず学園の理事長室に連れて来てくれ。 そこで、全ての決着をつけ、カインの特待生制度を取り戻してやる」
「でも、カインの様子だとアカデミーに来る気もないみたいやったやんか! 俺だって、そんな見え見えの茶番で主犯扱いされて停学喰らったら、そんな所に行きたくもなくなるわ!」
「そうだ。 しかも、カインの夢は騎士団に入る事で、その為に必死で特待生を維持してたんだ。 なのに、それが駄目になった今、カインにアカデミーに来る理由なんかもう無いだろ?」
「理由なら……ある」
トラフトとダイスが怒りのまま感情を言葉にするが、ヴィーはハッキリと言い切る。
「友達がいる……。 それだけで、学校に来る理由には、なる」
ヴィー自身、これまで友達が出来た事は無かった。 それは、生きるか死ぬかの世界で戦っていたからなのだが……恐らく、大人になってから出来る友達と、学生の時に出来る友達は違うと感じたのだ。
「俺達は皆、あと一年もしない内にアカデミーを卒業し、社会に出る。 そうなれば、地位や名誉、金、仕事、色んな要因で、友人関係にも少なからず変化が起こるだろうし、大人になってから出来る友達には少なからず打算も生まれると思う。 だからこそ、学生の内ならそんな要因に影響されない、平等で対等で……最高な友人関係が築けると、俺はおまえ達に教えてもらった。 だから、カインにとってはおまえらがいるだけで、このアカデミーに来る意味はある」
いつになく饒舌に語るヴィーの言葉は、他の三人に上手く伝わっただろうか? 彼の意見は、既に大人の社会を知っているからこその意見だったから。
でも、一つだけ、確実に伝わった事があった……。
「……へっ、なにクサイ事言うてんねん、ヴィー。 それに、おまえら、やないやろ? おまえも含めて俺らがおるんやから、カインにはアカデミーに来てもらわなアカンな」
「だな。 まったく、ヴィーがこんなアツイ奴だとは思ってなかったけど、俺は嫌いじゃないぜ」
「ふふふっ! そうだよね、僕らは友達なんだから、友達が困ってる時は互いに助け合い、楽しい時は笑い合い、悲しい時は励まし合う。 余計な事は考えないで、とにかく今を楽しまなきゃ!」
ヴィーが、トラフトやダイスやマルク、そしてカインの事も友達だと思っている事。
そして、彼等もヴィーを友達だと思ってる事。
それは、ヴィーにとっても初めての感情だったが、とても満たされた気持ちになっていた。
「よし……じゃあ今回の俺達のパーティーの依頼は、カインをアカデミーに復学させる事だ」
「そやな! で、リーダー。 難易度は星ナンボや?」
「そうだな……他の奴等なら星一◯でも足りないだろうが、俺達なら星一の簡単な依頼だ」
「はっはっは! 違いない! じゃあ、こんな簡単な依頼なら、とっとと終わしてやろうぜ!」
「よ〜し、僕もあらゆる情報網を駆使してサポートするよ!」
こうして、ヴィー、トラフト、ダイス、マルクのパーティーは、緊急依頼・“カイン復学作戦”を開始するのだった。




