第15話 盗賊団アジト襲撃
「それにしても、凄かったな~ヴィー君。 だって、三人の様子を見ながらなのに、あっという間に七人の首筋に手刀を叩きこんで倒しちゃうんだから。 もう、どんだけ強いんだよ~」
獣道を進みながら、マルクは先程のヴィーの姿を自慢げに語っていた。
「なあ……本当に、ヴィーって何者なんだよ?」
カインは初対面のヴィーの、あまりにもの強さに驚いていた。
「ヴィーはこの間転校して来たんやが、俺らなんて睨まれただけで死ぬかと思わされたわ。 なあダイス?」
「ああ、睨まれた瞬間、戦おうなんて微塵も思わなかった。 軽くシメてやろうと思った自分を恨んだよ」
「ホンマやな。 それが今は一緒にパーティー組んでるんやから、分からんもんやなあ」
アカデミーではトラフトもダイスも、素行は若干よろしくないが戦闘の面では優秀な生徒である。 そんな二人は、ヴィーの転入初日でビビらされて以来、いつかはハンター部に誘えないか考えていたのだ。
「ねえ、ヴィー君は、転入する前にどこかで秘密訓練でも受けてたの?」
元・騎士団団長で現・帝王と元・副団長で現・宰相と元・師団長で現・アカデミー理事長に直々に鍛えられ、魔王軍でも七騎将と共に腕を磨いていた……などとは言える訳もなく……。
「ご想像にお任せするよ。 でも、調べようとするなよ?」
適当に流しつつも、マルクの情報収集能力がどこまでか分からない現状、釘を刺しておく必要があると考えた。
「気になるな〜……でも、ヴィー君とは友達だし、嫌がるなら絶対に調べたりしないから、安心してよ」
友達……。 その言葉だけで、ヴィーは安心してしまう自分に気が付く。
(俺、案外チョロかったんだな……)
その後、五人は特に敵に遭遇する事もなく、目的地の洞窟を視界に捉える位置までやって来た。
洞窟の入口には門番と思わしき人物が二人。
そして……
「うわ〜……これも予想してはいたけど、またまたビンゴだよ」
子どもが一人、三人の盗賊に、洞窟に連れ込まれそうになっていた。
ヴィー以外の四人が、ヴィーに視線を向ける。
「……え? なんで俺を見るんだ?」
今回の依頼は盗賊のアジトを見つけるだけでも良いのだ。
だから四人は、ヴィーがどう出るのか、指示を待っているのだろう。
ヴィーも四人の視線の意図に気がつく。
(そりゃ、依頼通りならアジトの場所をギルドに報告し、改めて星五以上の依頼として、このアジトを潰しに来るんだろう。 でも、そうなればあの子どもがどうなるかは分からないし、もしかしたら洞窟の中にはもっと多くの人が捕えられてるのかもしれない)
本来であれば、アジトを見付けた時点で依頼は達成されている。 それだけでも、学生の年代であれば難易度の高い依頼だった。
だが、ヤーマンは敢えてヴィーに、捕まえた場合の追加報酬を提示したのだ。
(それって、ギルドマスターは俺ならなんとか出来るって分かってたから言ったんだろうな)
別にヴィーとしては、アンノウンだった事が周りにバレるのは困るが、自分の実力を隠したいという訳ではない。
将来ハンターとして活動していれば、自分であれば必ずSランクに到達出来ると分かってるし、そうなるのも悪くないと思ってるのだから。
「マルクは直ぐにギルドに連絡して応援を要請して、この場で待機。 三人は俺と共に洞窟内に侵入した後、他に捕えられてる人がいないか探してくれ」
「分かったよ!」
「流石ヴィーや!」
「よーし、いっちょやってやるか!」
「了解だ、リーダー」
口にしたのはカインだけだったが、他の三人も皆、このパーティーのリーダーはヴィーだと認めていた。
それもまた、ヴィーにとっては新鮮な感情だった。
(信頼……されてるのかな? アンノウンだった頃は、どちらかというと恐れられていたからなぁ……。 これは期待に応えるしかない)
「俺が子どもを連れている三人を処理する。 皆は門番を頼む」
「「「オウ!」」」
次の瞬間、ヴィーは草むらから飛び出すと、一瞬で三人の盗賊の意識を手刀で刈り取った。
「な、何者……ぐわっ!?」
そしてトラフトとダイスが、ヴィーに気を取られた門番の二人を倒し、カインが連れられていた子どもを抱き締めた。
「もう大丈夫。 あそこの草むらにもう一人お兄ちゃんがいるから、そこに隠れててくれ。 出来るね?」
カインが子どもに優しく告げると、子どもは小さく頷き、マルクの方へと走っていった。
「じゃあ、行くぞ」
ヴィーを先頭に、四人が洞窟へと侵入する。
洞窟内は然程入り組んでる訳でもなく、一定の間隔で松明が壁にかけられているので視界も悪くない。
「な、なんだてめえらぶはっ!?」
目に入る盗賊をヴィーが一撃でしとめながら進むと、道が二手に分かれていた。
分岐点で立ち止まり、ヴィーは精神を集中させる。
「……皆は右へ進んでくれ。 多分、捕らえられている人と、その見張りが五名。 心配しなくても、見張りは全員さっき戦った奴らよりは弱いハズだ」
ヴィーは自分が盗賊のボスだったと考えた時、自分の周りには精鋭を置き、外で馬車や人を襲う方にも比較的手練れの人員を配置するだろうと考える。 そして、攫った人間は牢屋にでも閉じ込めてるのだから、最も使えない人員を配置するだろうと。
「俺は左……おそらく盗賊のボスがいるから、それを処理しに行く。 じゃあ、頼んだぞ!」
「「「オウッ!」」」
三人のヴィーに対する信頼度は、もはや揺るぎないものとなっていた。 一人でボスを倒しに行くのか? などという問いかけをするまでもない程に。
その後も出くわした盗賊を一撃でしとめつつ、ヴィーは広間……盗賊のボスの下まで辿り着いた。
「なんだ? 騒がしいと思ったら、まだガキじゃねえか?」
盗賊のボスは、帽子を被った長髪、鍛え上げられた上半身を露わにし、妙に長い口髭と細く鋭い眼光の男だった。
「アンタが盗賊のボスか?」
ヴィクトーの問いかけに、ボスの後ろに控えていた盗賊が答える。
「おいガキ! この方は、我がウェイ盗賊団のボス・『ロン』様だ! かつてはAランクのハンターだったんだぞ!」
この場にいる盗賊団の人員は、ボスであるロンを中心に一五人。 ついでに、捕らえられたであろうドレスを着させられた女性が、ロンの隣で怯えている。
(あの女性を人質にされたら厄介だな……)
体術のみであれば、如何にヴィーが素早く動いても、ロン以外の一四人を倒すのに五秒は必要だった。
(仕方ない。 仮にこの場で俺がどんなスキルを使おうが正体がバレる心配も無いし、別に力を隠す必要もない)
「オイ小僧。 貴様、ここまで来たと言う事はそれなりの実力者なんだろう? どうだ? 俺様の部下にならんか?」
ロンの態度は、自分の実力が決してヴィーに劣らないと信じているからこその余裕が垣間見える。
「部下ね……俺は、自分より弱い奴の部下になる趣味は無い」
ミゲール達は部下というより師匠や家族という立ち位置だったので、過去、ヴィーが部下になったのは、魔王軍潜入直後の魔王・ハーデスのみ。
つまり、これまで自分が明らかに勝てない相手だと思ったのが、初遭遇した頃のハーデスのみだったのだ。
「ガハハッ! 面白い小僧だな! なら、ちょっと実力を見てやろうか。 オイ」
ロンの合図で、五人の盗賊がヴィーを囲んだ。
「こいつらも元はBランクとCランクのハンターだった。 こいつら相手に一分立ってられたら、改めて部下にしてやろう」
「はぁ……話が通じないのか? 俺は、おまえの部下になるつもりは無いんだよ」
五人の盗賊から殺気が溢れ出す。 ロンの思惑とは異なり、彼等は生意気なヴィーを生かすつもりは無いのだろう。
「殺気か……つまり、自分達も死ぬ覚悟があるってことだよな?」
「ガハハッ! 面白い事を言う。 盗賊に身を落とした時点で、俺様達に惜しむ命などな……い?」
気が付けば、ロンの目の前にヴィーがいた。
ロンは瞬発的にヴィーに蹴りを繰り出すも、ヴィーはロンの攻撃を掻い潜り、隣にいた女性を担ぐと、その場を離脱した。
「て、てめぇ……」
ロンは漸く、自分がヴィーの力を見誤った事に気が付く。
「なるほど、元・Aランクハンターってのは聞いたけど、ヤーマン程じゃないんだな」
五人の部下がヴィーを囲み、自分は高みの見物をしているというロンの油断。
それを見逃さなかったヴィーは、五人の部下には目もくれずにロンを狙った。
だが、虚を突かれたロンは、焦ってはいたが即座に反撃を繰り出して来た。
だから予定を変更して、まずは人質にされたら困る女性を助けたのだ。
(これで弊害はなくなった。 トラフト達も気になるし、一気にしとめるか)




