第14話 初の依頼
「よし、その依頼、引き受けよう」
難易度ランク星四、盗賊のアジト捜索の依頼。 本来であれば、学生の部活動の範疇を大きく逸脱した依頼を、ヴィーは独断で引き受けると決めた。
「なっ、ヴィー? 勝手に決めんなや!?」
当然トラウト達は驚いているが、カインはヴィーに感謝しながら頭を下げた。
「あ、ありがとう! えっと……君とは初対面だが、絶対に足手まといにはならないと誓う!」
「なら、善は急げだ。 学生に夜中まで働かせるのは気の毒だし、とっとと依頼を片付けてくれ」
ヤーマンはそう言ってヴィーに依頼書を手渡すと、さっさとギルドの二階へと去って行った。
「おいヴィー。 おまえが強いのは知ってるが、流石に星四の依頼は……」
「心配ない。 それに、ダイスもトラウトも、口では色々言ってるけど、本当は久しぶりにカインと一緒に依頼をやりたいんだろ?」
トラフトとダイスがカインを見つめる。 カインは自分が、本来ならパーティーメンバーではない上に、二人を若干拒絶する態度をとっていたので、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
すると、今まで静観していたマルクが口を開く。
「なるほど……ヴィー君の意図は分かったよ。 じゃあ、僕はちょっと調べたい事があるから、南東の林道といえばマームロ川を渡る橋があったから、そこで現地集合にしよう! じゃあ、よろしく」
マルクは有無を言わさせず、足早にギルドを出て行ってしまった。
「……仕方ない、星四の依頼か……やってやるか」
「……そやな。 いっちょ、バシッと成功させて、一気にランクアップしようやないか!」
結局、トラフトもダイスもヤーマンからの特別依頼を受諾する事にした。
__一時間後。
ヴィー達四人がマームロ川の橋で待っていると、少し遅れてマルクが駆け寄って来た。
「ごめんごめん、折角星四の依頼を受けるんだから、下調べくらいはしておきたくてさ」
肩で息をしながら、マルクは短時間で集めて来た情報を話し始めた。
「盗賊はここから林道に入って一時間程の場所によく現れるらしいんだ。 基本的に現れるのは一◯人くらいで、剣の腕が立つ者もいれば魔法を使う者もいるらしいよ。 最近では、とある商談の移動にCランクハンターのパーティーが護衛についてたにもかかわらず、全滅させられたらしい。 ……つまり、本当に学生レベルが手を出して良い依頼じゃないみたいだね」
ヴィーとしては、よくも短時間でこれだけの情報を集めて来たなと、マルクに感心していたが、トラウトとダイス、そしてカインにも緊張が走っていた。
如何に彼らが腕に自信があるとはいえ、まだ学生レベルである事は否めないのを本人達も自覚している。
なのに、Cランクのパーティーですら撃退する様な奴等が相手なのだから。
「で、その付近で盗賊がアジトにしそうな場所だと、襲撃ポイントから更に北東に進んだ場所にある洞窟が怪しいと僕は睨んでるんだ。 今回の依頼はあくまでもアジトの場所を発見する事だし、現場を確認したら速やかに撤退すれば、盗賊と交戦する事は無いと思うよ」
「マルク……おまえって、ホンマに何者なんや?」
トラフトの言葉に、ヴィー含む全員が頷く。
「言ったでしょ? 僕は、カイゼルアカデミー諜報部の部長だって。 でも、その分体力には自信がないから、万が一戦闘になっても逃げるか隠れるから、そこん所よろしくね」
そう言うとマルクは、レッツゴーと言いながら目的地に向かって歩き出していた。
「アイツ、ホンマ底知れん奴やなあ」
「ああ。 ただアカデミーで、絶対にマルクだけは敵に回したらいけないって噂があるのも納得できる」
一見するとひ弱な優しい男にしか見えないマルクだが、その実、学園でも一目置かれている存在だった。
「そんな噂が……いや、確かに情報を制する者は世界を制するなんて言葉もあるくらいだ。 ある意味、単純な戦闘力よりも膨大な情報力の方が恐ろしい場合もあるからな」
それは、戦闘力のみに秀でたヴィーには無い能力であり、マルクの事が少しだけ羨ましく思ってしまった。
……移動する事一時間、マルクの言っていた、盗賊が現れるポイントの付近まで移動して来た四人は、異変に気付いた。
「おい、あれ……」
「わちゃあ~……可能性としては考えてたけど、ビンゴだ~」
ダイスが現場の方を指し、マルクが額に手を置く。
そこには、今現在、商家らしき馬車が盗賊に襲われている光景があった。
「ヒャッハー! 死にたくなかったら大人しく積み荷を渡しな!」
盗賊らしき男たちにより、護衛であろうハンターが次々と倒されていく。
このままだと、護衛も含めた全員が盗賊によって殺されてしまうだろう。
(やれやれ……。 盗賊に出くわす事無く依頼を達成出来たら御の字だったんだが、こうなったら交戦は避けられないか)
ヴィーは盗賊一〇人の動きをじっくり見て、実力を把握する。
(一〇人中七人は、トラフト達では手に負えないレベルだな。 だが、あとの三人ならギリギリ倒せるかもしれない。 カインの実力は分からないが、トラフトとダイスと同レベルなら……)
「トラフト、おまえはあのモヒカンを。 ダイスはハゲを。 カインはトンガリヘッドを頼む」
「え? 他は……?」
突然指示を出したヴィーをカインが不思議そうに見るが、トラフトとダイスは直ぐ様行動に移した。
「カイン! ヴィーの事は気にせんでええから、俺らは言われた相手だけ死んでも倒すで!」
そして、戦闘が始まった。
護衛のハンターは負傷こそしているが、商人を含めてまだ死者は出ていない様子。
「うらあああっ! Eランクハンター舐めたらアカンでえっ!」
トラフトは、双剣の手数で相手を圧倒する戦闘スタイルだ。 こちらが攻勢の内は良いのだが、守勢に回ると一転して危機に陥る。
「ヒャッハー! 汚物は消毒だああ!」
相手のモヒカンも多数で勝負するタイプ。 同じく手数勝負のトラフトからすると実力が拮抗する相手であれば、守勢に回るのは避けられない。
「やるしかないか……行くぞ!」
ダイスは頑強な身体を活かし、両手剣で荒々しく戦う戦闘スタイルだ。 リーチと威力で自分の間合いを保ち、果敢に攻めている内は良いのだが、間合いをコントロールされると途端に苦しくなる。
「ガキが! たかがEランクが!」
相手のハゲの得物は槍。 長剣よりも広い間合いで、ダイスは空間を支配されてしまっている。
カインは、片手剣と盾で攻守のバランス良く戦うスタイル。 どんな相手でも対応可能だが、同じスタイルの格上相手だと厳しい状況となる。
「へけけっ! ぽっくんの相手では無いでしゅね!」
トンガリヘッドは童顔だが経験値でカインを大きく上回っていた。
それでも、カインの動きは学生としてはトップレベルだと、ヴィーは感じていた。
三人ともが劣勢を強いられている。 ヴィーは、敢えて三人それぞれに似たタイプを相手する様に指示したのだが……。
(やはり学生には荷が重かったか。 でも、決して実力が劣ってる訳じゃない。 足りないのは……経験だ)
「三人とも、相手を替えろ。 トラフトはハゲ、ダイスはトンガリ、カインはモヒカンだ!」
必死の三人から返事は無い。 だが……声を掛け合わずとも、三人はピッタリ息の合った動きでヴィーの指示に従い、互いの相手をチェンジした。
ハゲの槍を躱し、一気に間合いを詰めるトラフトのスピードに、ハゲは面食らった。
「なんや? 逃げられると思うたらアカンで!」
「なっ、ぐぎゃあっ!」
トラフトはハゲの懐に潜り込み、一気に素早い連撃でハゲを斬り伏せた。
「どおおっせええい!」
「しぇぎゃぴいいいっ!?」
ダイスの容赦ない攻撃が、トンガリを盾を弾き飛ばす。 そして、勢いそのままトンガリを両手剣で薙ぎ払った。
「隙アリッ!」
素早いモヒカンの攻撃をしっかりと盾で防ぎながら、隙を見付けて一撃。
「あべ……し……」
カインは、一瞬の隙を見逃さず、モヒカンの腹を貫いた。
三人それぞれが、盗賊を一人ずつ撃破してみせたのだ。
「やった……やったで!」
「ああ、俺達、やったんだな!」
「流石だな、トラフト、ダイス。 ……さっきはおまえらのことを遊びだなんて言ってすまなかった」
共に死線を潜り抜けた事で、三人は絆を取り戻した様だ。
だが、喜びも束の間、三人は、盗賊の残り七人をヴィーが一人で相手している事を思い出す。
「そや、ヴィーは……ええ~?」
「さ、流石だな……」
「……トラフト、ダイス、あのヴィーって……何者なんだ?」
ヴィーの足元には、既に倒された七人の盗賊が転がっていたのだった。
「よくやったな、三人とも。 おまえらなら、もうDランクでもおかしくないんじゃないか?」
涼しい顔で三人を褒め讃えるヴィーを眺めながら、マルクも含めた四人は、だったらおまえは一体何ランクなんだよ? と、心の中でツッコミを入れていた。
「あ、ありがとうございました!」
襲われていた商人が、ヴィー達に深々と頭を下げていた。
今回の依頼は、あくまでアジトを突き止める事だったのだが、結果的にこの商人を助ける事に繋がった。
当然、本来護衛の依頼を受けていたハンターは、状況から見て依頼失敗扱いとなり、ヴィー達に追加報酬が払われる事になるだろう。
ある意味、護衛のハンターとしては、依頼を横取りされたともいえる。
だが、護衛のハンターは文句一つ言わず、むしろヴィー達に感謝の言葉を口にした。
プライドの高いハンターなら文句の一つも言っていたかもしれないのに、なぜか?
命を救ってもらったのは勿論の事、彼らは見ていたのだ。 手練れの盗賊七人を、あっという間に瞬殺したヴィーを。
彼らはDランクの四人組パーティーであり、手練れの盗賊の中には彼らから見てもCランクハンター相当の実力者が混じっていた。
そんな男たちを七人も、よそ見しながら瞬く間に気絶させたヴィーに、誰が文句など言えようものか。
そしてヴィー達五人は、本来の目的である盗賊のアジトを捜索する為、現場を後にしたのだった。




