第13話 友達
翌日の放課後、ヴィーは昨日と同じく、マルク、トラフト、ダイスの四人で、再びハンターズギルドに赴いていた。
「よっしゃ! 昨日は色々あったから、今日はその仕切り直しや!」
結局、昨日はゴタゴタがあったので依頼を受けずに帰った四人は、今日こそはと張り切っていたのだ。
「よ〜し、記念すべき四人の初任務や! ゴブリン討伐でも行こか!」
ゴブリンは中肉中背の人型魔獣であり、強さ的には一般的な成人男性と同等。
繁殖力が高く、狩っても狩っても現れる厄介な魔獣だが、群れではない限りは基本的に難易度の低い任務に分類されている。
「ゴブリン討伐か……折角ヴィーがいるんだし、もう少し難易度を上げてもいいんじゃねーか?」
トラフトが、ゴブリン討伐より難易度の高い任務を提案する。
昨日まではゴブリン相手にも慎重だったが、ヴィーが睨んだだけでミドル・ランカーを圧倒したのを見ていたから気が大きくなっていた。
「ゴブリンより上ってなると、オークとか? 僕の力じゃオークは倒せないよ〜」
オークは豚の顔をした巨体の二足歩行魔獣であり、その力は一般的な人間を大きくを上回る、ゴブリンとは比較にならない強い魔獣だ。 マルクの細腕では、到底敵わない相手である。
「オークか……俺とダイスは一度オーク討伐の依頼受けた事あったんやけど、一体かと思うたら三体も居よって危うく死ぬ所やったわ。 ま、あれから一年以上経つし、今なら楽勝やけどな」
「楽勝な訳あるか。 “三人”してヒーヒー言って逃げたの忘れたか? ま、楽勝とは言わなくとも、今ならそんな不様な真似はしねーけどな」
この一年の成長で自信を得た二人なら、オーク程度なら勝てると思っているのだろう。
するとトラフトは、掲示板で依頼を探す一人の男に目を向け、突然話しかけた。
「カイン? カインやないか! 久しぶりやなあ!」
トラフトが親し気に声を掛けたのは、『カイン・ビルバーグ』という男だった。
カインはカイゼルアカデミーでトラフトやダイスの同級生で、ハンター部でもよく行動を共にしていたのだが……。
「……久しぶりだなトラフト、それにダイスも。 今日も部活動か?」
「ああそうや。 昨日から俺ら四人でパーティー組んでな、今日は仕切り直しての初任務やねん」
「そうか……楽しそうだな」
そう言って微笑むカインだったが、その表情が一瞬羨ましそうに陰ったのを、ヴィーは見逃さなかった。
「そや、おまえも入らんか? カインが入ってくれたら、俺らのパーティーは更にパワーアップするしな!」
トラフトとしては、悪気なく誘ったつもりだったのだが……。
「悪いが、俺は遠慮させてもらう。 もう直ぐDランクに昇級出来る所だし、遊んでる暇は無いんでな」
「なんやと? 俺らが遊んどる言うんか?」
「そりゃそうだろ? あくまで部活動なんだからな」
二人の間に緊迫した空気が流れる。
「おいおい、久しぶりに会ったんだから喧嘩はやめろよ。 トラフトも、カインも」
そんな二人の間にダイスが割って入る。
「せやかて……」
「……悪かった。 ちょっと言い過ぎたよ、じゃあ、俺は依頼を受けないといけないから」
そう言うと、カインはそそくさと受付へ向かって去って行った。
「オイ、ちょっと待てや、カイン!」
トラフトはそんなカインを引き止めようとするが、ダイスが止めた。
「やめとけよ。 アイツだって、俺達といるのは気まずいだろうし……」
三人は旧知の仲であり、共にハンターの任務をこなす程に仲が良かったのだろう。 だが、今見た所だと、その関係は若干拗れている様に見える。
「カインって……同級生なのか?」
ヴィーが、誰ともなく三人に問い掛ける。 すると、トラフトとダイスが言い辛そうにしていたので、代わりにマルクが答えた。
「彼はカイン・ビルバーグと言って、去年までカイゼルアカデミーに通っていた同級生なんだ。 成績も優秀で、試験ではいつも三位以内を維持していた特待生だったんだけど……でも、三月の卒業式で問題行動を起こしちゃって停学になっちゃったんだけど、停学期間はもう過ぎてるのに登校して来ないから、退学したんじゃないかって噂されてるんだ」
「ちゃうわ! カインはなんもしてへん! 悪いのは、全部アイツら……」
「よう、期待のルーキーじゃねえか」
トラフトの言葉が気になる所だったが、いつの間にか現れたギルドマスターのヤーマンが、ヴィー達に声をかけて来た。
「……ちょっと空気読んでくれよ」
トラフトの話の続きが気になっていたヴィーは、あからさまに不満気な表情をヤーマンに負ける。
「あん? 取り込み中だったか? まあ気にすんな。 今日はおまえさんに丁度いい依頼を紹介しようと思ってな」
ギルドマスターのヤーマンは元・Aランクハンターであり、鋼の剣豪として名を馳せた人物。
カインの件で気分が沈んでいたトラフトとダイスも憧れているようで、その表情は緊張しつつも笑顔に変わっている。
「ちょうど良い依頼か……。 今は彼らとパーティーを組んでるから、俺の一存では決められないぞ」
「構わん構わん。 そっちの二人……トラフトとダイスだったか? おまえらも、調べてみたら二年間このギルドで活動してるみてーだし、筋も悪くなさそうだ。 眼鏡の坊ちゃんの実力は分からねーが、おまえらパーティーで引き受けてくれて構わんよ」
憧れの人から認知されただけで、トラフトとダイスは興奮している。 一人、しょんぼりするマルクを除いてだが。
「で、依頼の内容なんだが、最近南東の林道に盗賊が出現するみたいで、あそこを通る商人が複数人被害に遭っている。 今回の依頼は、盗賊のアジトを突き止める事で、成功報酬は一〇〇万ギルだ。 どうだ? 悪い話じゃないだろ?」
星四の依頼……。 本来なら、学生には絶対受注出来ない上に、対魔獣ではなく対人間との戦闘になる可能性がある。
「ちなみに……依頼内容はあくまで偵察だが、もしそのアジトを壊滅させたり、盗賊団のリーダーを捕まえたら報酬は五倍だが……まあ時間的に難しいだろうが」
盗賊団のアジトを見つけるだけでなく、盗賊団そのものを壊滅させれば、成功報酬が五〇〇万ギルにもなる。
四人で山分けしても一二○万ギル以上。 正直、学生にははかなり魅力的な依頼ではあったが、比例して危険度も高くなるのは想像に容易い。
危険度を考えれば、本来なら学生には絶対に引き受けさせないし、引き受けもしないだろう。
「……さすがにアカン気がするわ。 盗賊団て……。 俺ら、ゴブリンとオークぐらいしか戦った事ないし」
「だよなぁ。 流石に、人間が相手となると……」
トラフトもダイスも、人間を相手に命の奪り合いをした事はまだ無いのだ。
ヴィーとしても、確かに報酬は魅力的だとは思ったが、どんな依頼だろうが四人で一緒にこなす事が楽しみだっただけで、三人の意向を無視してまでわざわざ難しい依頼をこなしたい訳でもなかった。
「今回の依頼、折角だけど断る……」
人間と戦うのに躊躇している三人を見て、ヴィーら依頼を断ろうとしたのだが……。
「待ってくれ! その依頼……俺も参加させてくれないか?」
そこへ、受付へ向かったハズのカインがやって来て、自分も星四の依頼に混ぜてくれと言って来たのだ。
「な、なんや、カイン。 おまえ、俺らの事なんか遊びやって嘲笑っとったんやないんか?」
本心では言いたくはなかったのだろうが、つい先ほどの件があったからトラフトは皮肉めいた言葉を発した。
「ん? おまえは確かカインだったか? その年齢でもう直ぐDランクに上がれる有望株だが、ヴィーのパーティーメンバーじゃないんだろ?」
突然現れたカインを、ヤーマンは値踏みする様に睨むと……。
「ほう、もう直ぐDランクっちゅーのも伊達じゃねえな。 なら、五人で行って来てもいいぜ」
カインの同行をアッサリと認めたのだ。
「ちょ、待てやカイン! 大体、さっきは俺らの誘いを断ったやんけ!」
「……すまない、トラフト。 俺はどうしても金を稼いで、早くランクを上げたいんだ。 頼む、俺にもこの依頼を受けさせてくれ」
先程揉めていたトラフトに対し、深々と頭を下げるカイン。 すると、皮肉を言っていたトラフトもバツが悪そうにしている。
「カイン、今回の依頼内容を聞いとったんか? 基本は偵察の依頼やけど、場合によっちゃあ人を殺さなアカン可能性もあるんやぞ」
「ああ、悪いとは思ったが全部聞かせてもらった。 それに……俺はおまえ等と行動しなくなってから毎日ハンターとして活動してたんだ。 その中で、悪人を相手しなければならない事もあった」
カインは暗に、自分は既に人を手にかけた経験がある事を告げる。
それが、まだ学生の部活動でしかハンター活動をしておらず、今回の件でも人を相手にすることを躊躇しているトラウトとダイスに、カインはもう自分達とは違うのだと知らせるには充分だった。
そんな光景を黙って眺めていたヴィーに、同じく会話に参加出来ずにいたマルクが囁く。
「……この三人、確か小学部の頃から仲良しトリオだったって噂なんだよね。 詳しくは明日調べてみるけど、昔は仲が良かった友達だったのに今はギクシャクしてるのって、なんか悲しいよね」
ヴィーにとっては、友達という概念がイマイチ理解出来なかった。 ミゲール達に育てられていた頃は同年代とは会った事もなかったし、魔王軍でも自分は年齢を公表してなかったが、周りは全員歳上ばかりだったし、七騎将も仲間意識はあったがどちらかというと部下的な存在だったから。
(友達……か……。 俺には縁が無いものだ……。と、思ってたんだけどな)
そんなヴィーだったが、学生になり、まずマルクと親しくなった。 最初は情報通の変わった奴程度にしか思ってなかったが、妹を大切に想う気持ちに共感し一緒にいる事も多くなったが、彼の素直で優しい性格には好感を持っている。
それにトラフトとダイスも、最初は自分に喧嘩を売って来た身の程知らずの愚か者としか思ってなかったが、昨日から本格的に行動を共にし、友達というのはこういう関係なんだろうなと少し羨ましさを覚えただけでなく、自分もその輪の中に加えてくれたことに感謝もしている。
友達という存在に、自分自身経験した事が無かった感情を抱いているのに気が付いた。 上司でも部下でもなく、対等な関係というものにワクワクしていたのだ。
(だったら……この三人が本当は互いを友達だと思ってるのに仲違いしてるのなら、放っておけないな)




