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死神のリグレット~魔王軍最強の死神、学生になる~  作者: Tonkye
第一章 死神、学生になる
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第9話 厄介な頼み

 __九ヶ月前。



 魔王を倒して帝国に凱旋した勇者・シュウトは、帝王・ミゲールの自室にいた。


「先程も報告しましたが、魔王を倒したのは俺じゃない! あの魔王軍のアンノウンが、魔王を裏切って致命傷を与えたおかげなんです!」



 魔王討伐後、帝国に帰還した勇者パーティーと連合軍の生き残りは、盛大な出迎えを受けた。


 馬車の上で、自分達に向かって全ての人々が歓喜に震えて涙しながら、感謝と祝福を贈ってくれた。


 だが、勇者パーティーの四人は、割り切れない想いを抱えていたのだ。


 自分達は、英雄などでは無い……と。



 だからシュウトは帝王への報告の際、真実を告げたのだ。 魔王を倒したのは自分ではなく、アンノウンなのだと。


「御主の言い分は受け入れよう。 だが、その事実を公表する事はならぬ。 これは、シルマーリ帝国帝王からの命令だ」


 だが、ミゲールは真実を公表する事を認めはしなかった。


「何故ですか? 俺は……他人の手柄を横取りするなんて……」


「プライドが許さぬか? ……御主は、一個人のプライドと、世界の安寧を天秤に掛けるのか?」


 図星だった。 シュウトは、幼い頃から優秀であり、その上人を惹きつけるカリスマ性を持ち合わせていた。


 そんな彼が勇者として神託を受けて五年、何処に行っても、誰に会っても、勇者であるシュウトには人類の希望としての役割を求められたし、自らもその期待に応えて来たつもりだった。


 なのに、最後は魔王に辿り着く事も出来ずアンノウンに敗れ、しかもそのアンノウンに御膳立てしてもらって魔王を倒せたのだ。


 勇者としてのプライドは、ズタズタに引き裂かれても無理はなかった。



「魔王は部下に裏切られて倒されました……と、魔王は勇者の手によって倒されました。 ……人類の未来にとって、どちらが有益な事実か……それが分からぬ御主ではなかろう?」


「それはそうですが……アンノウンはまだ生きてるんです。 奴がどんな思惑で魔王を裏切ったか分からない現状、平和を取り戻したなどと油断するにはまだ早い! 今にもアンノウンが新たな魔王となって、魔王軍を率いる可能性だってあるんだ。 だから、真実を公表して、今後の対策を練るべきです!」


 確かにシュウトのプライドが傷付いたのは事実だ。 だが、何も知らないシュウトにとって、アンノウンが新たな魔王となる可能性は決して低いものではなかった。


 その上で、今後の対策を取るべきとの主張は筋が通っていた。



「……ふぅ、その心配はない。 御主にはいずれは紹介せねばと思っておったのだが、そこまで言うのであれば今、全てを知ってもらおう。 ちょうど本人もいるしな」


 ミゲールがそう言うと、突然部屋の片隅から人影が現れた……。


「……ア、アンノウン?」


 現れたのは、最終決戦で戦った姿のままのアンノウンだった。


「何故……何故おまえが……」


 驚き、戸惑い、そして……恐怖。 何故、帝王の自室にアンノウンが現れたのか理解出来ず、シュウトは言葉を失った。



 アンノウンは顔を隠していた仮面を外す。 現れたのは、大人びてはいるがまだ高校生くらいの美少年だった。


「お、おまえはさっきの……」


 目の前の少年とは、玉座の間にて一度すれ違っていた。


「……久しぶりだな、勇者・シュウト。 正真正銘、俺はアンノウンだ」




 __そして現在。



「頼むよ、これはおまえにしか……アンノウンにしか頼めない重要案件なんだ」


 魔王軍七騎将。 勇者をして、誰が相手でも苦戦は免れない強敵だ。


 より確実に、出来れば秘密裏に七騎将を撃退出来るのは、世界広しといえど、アンノウンであるヴィーしかいないとシュウトは確信している。


 そこには、己のプライドなどよりも人類の平和を考える、帝国騎士団団長の姿があった。



「今の俺は学生だ。 それにスパイだったとはいえ、七騎将とは同じ釜の飯を食った仲でもある。 無駄な殺傷は避けたい……というより、負い目があるのも正直な所だ。 一応、アイツらのほとんどは、俺を信用してくれていたからな」


 魔族だからといって、全ての者が人類を敵視したり、残虐非道な訳では無い事を、ヴィーは三年のスパイ生活の間に実感していた。


 ただ、トップである魔王の意向に従っていただけで。


 アンノウンが魔王打倒後にすんなり魔王軍を離脱したのは、現魔王が居なくなれば、魔王軍が人類に再侵攻する可能性は低いと判断しての事だった。

 現に、ヴィー本人は詳しい所までは知らないが、今魔族を統率しているのは、元七騎将のメンバーだと聞いているし、少なくとも現状は人類に対して敵意を向けてはいないと認識している。


(少なくとも、単細胞のガイルとシャリアが単身で人類に攻め込むとは考え難いんだよな)



 そして、今のヴィーにとっての最重要事項は、妹のソフィアと幼馴染のルミーナの平穏を守る事なのだ。


 常に護衛に守られて世界を回っているルミーナはともかく、ソフィアは虐めが無くなったとはいえ、まだどうなるかは分からない。

 そんな時にヴィーがいなくなれば、またソフィアにちょっかいをかける輩が現れないとも限らないし、それを阻止する事も出来なくなるのだ。


「悪いが、今回の件は保留にさせてもらう。 大体、シュウトが行けなくても、他国からリョウやマサートの力を借りればいいだろう? あの二人ならガイルとシャリアを相手にしても遅れを取るとは思わないし」


「リョウも自国の建て直しに奔走してるし、マサート爺さんは半ば隠居の身だ。 それに、俺はおまえの頼みを聞いてやっただろう? 借りは必ず返すって言ってたじゃないか」


 ニヤリと笑みを浮かべるシュウトに痛い所を突かれ、ヴィーは顔をしかめる。



「……正直に言おう。 まだ妹が心配だから、帝国を離れるのは嫌だ」


 結局、本音を言ってしまった……。


「……ぷっ、ふははははっ! 今回の頼みを聞いた時にも思ったが、あのアンノウンが、こうもシスコンな兄貴だったとはな!」


 普段から冷静沈着で、とても高校生とは思えない雰囲気を纏うヴィーが妹を溺愛してるという事実は、シュウトにとって愉快で仕方がなかった。


「……もっぺんボコるぞ?」


「はっはっは、すまんすまん、おまえにも人間らしさがあったのかと嬉しくてな。 まあ、俺も妹がいる身だから少しは気持ちが分かるが、だったら尚更おまえはヘンリー辺境領へ行かざるをえないと思うぞ?」


 言葉の意味が分からず、ヴィーは首を傾げる。


「カイゼルアカデミーの一年生は、夏休みの課外授業として、例年ヘンリー辺境領に二泊三日で向かう事になってる。 下手に中止したら七騎将の情報が漏れる心配があるから、騎士団が責任をもって護衛すると俺が約束して、課外授業は強行する事になってるし……あ、この行事はあくまでカイゼルアカデミー一年生の例年授業だから、誤解するなよ?」


 してやったりの表情を浮かべるシュウトに、ヴィーは全てシュウトの思惑通りだと悟る。


「卑怯な……おまえ、それでも勇者か?」


「おっと、課外授業の時期が重なったのはたまたまだぞ? でもまあ、人類の平和の為なら何でもする……それが勇者だからな」


 何故、実力で上回る自分ではなく、シュウトが神託を受けた勇者だったのか? それを、ヴィーは改めて思い知らされた。


(普段はちょっと気の良い兄貴分だが、最終的に自分より世界の平和を選択出来る勇気と決断力……多少の無理を言われても、なんとなくコイツの頼みなら聞いてやりたくなる。 それが、シュウトの持って生まれたカリスマ性か。 俺には無いな……)



「七騎将の動向が定かではないから急を要するという訳でもないが、放っておく訳にもいかない。 だからおまえの事情も加味して、課外授業に合わせて騎士団を派兵する事に決まったんだ」


「それって、俺が断れないと見越して、完全に俺のスケジュールに合わせてるじゃないか?」


「まあまあ、そこは偶然って事で。 いいじゃないか、妹の傍にもいれるんだし。 それにまだ一ヶ月も時間があるんだから、しっかり準備して宜しく頼むぜ」


「くっ……分かった。 やっぱり、おまえに借りを作ると碌な事にならないな……」


 結局、ヴィーはソフィアの為に、一ヶ月後、夏休み開始と同時にヘンリー辺境領へと向かう羽目になってしまったのだ。



「はぁ、じゃあもう帰るぞ。 おまえと話してるとどっと疲れる」


「失敬だな。 この俺とプライベートで話が出来るなんて特権を持ってる奴はそう多くないんだぞ?」


「もしその特権を俺が持っているのだとしたら、今直ぐにのしを付けて返してやりたいよ」


「まあまあ、折角来たんだ。 久しぶりに臨時講師として遊んでってくれよ」


「はあ? 勘弁してくれよ、臨時講師の期間はあくまでアカデミー入学までだっただろう?」


「皆おまえを待ってるんだよ。 我ら騎士団の剣術指南役にして、愛すべき弟・ヴィーをな」


 九ヶ月の間、騎士団の面々とは苦楽を共にした。

 彼らは若造であるヴィーの実力を認め、温かく迎えてくれたのだ。


 ヴィーもまた、そんな騎士団の面々のおかげもあり、立ち直れたともいえた。



「……はぁ、こうなる気がしたからなるだけ本部には顔を出さない様にしてたんだけどな」


「嘘つけ。 じゃあなんで口元が笑ってんだよ」


 騎士団の面々は、ヴィーにとってはもう家族みたいな存在でもあった。

 そもそも、本当に嫌ならば、わざわざほんぶに御礼になど来ないのだから。


「仕方ないなぁ……じゃあ、集まれる奴は全員訓練場に集合させてくれ。 久しぶりだし、全員と一騎打ちの模擬戦で鍛え直してやるよ」



 こうしてヴィーは、急遽訓練場に集まった一〇〇人近い騎士達を相手に、全員叩きのめして鍛え上げたのだった。

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