表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神のリグレット~魔王軍最強の死神、学生になる~  作者: Tonkye
第一章 死神、学生になる
13/85

第8話 勇者

 次の日、ゲロリアンとロレッタが同時に退学になった事で、アカデミーはザワついていた。


 二人に共通する事項は色々とあったが、アカデミーで最も知られてるのは、二人がソフィア・ハイドローズという生徒を標的にして嫌がらせをしていたという事だ。


 そんな二人が唐突に消えた……。



 元々ソフィアは入学早々に注目を浴びる程の美少女だったし、優等生だった。

 直接的にソフィアを虐めていたのはゲロリアンとロレッタ・その取り巻き達だけで、他の生徒は二人を恐れてソフィアに関わらない様にしていた者達だった。


 元凶である二人が居なくなった今、無視する理由もなくなったのだが、やはり負い目はある様で、ソフィアに話し掛ける生徒はまだいない。


 それでも、虐めは無くなったのだ。


 時間は掛かるかもしれないが、いつかはソフィアにも平穏な学園生活が戻ってくるだろう。

 それまで、気持ちの上でだけは兄として、傍にいて妹を勇気付けてあげようと、ヴィーは気を引き締めるのだった……。




 放課後……ヴィーが向かったのは、シルマーリ帝国帝都・カイゼルの王城敷地内にある、シルマーリ帝国騎士団本部。


 ゲロリアンやロレッタの件で御世話になった、とある男に一応御礼をしに来たのだ。


(……急だったとはいえ、厄介な男に借りを作ってしまった。 なんとか早めに借りを返さないと、経験上碌な事にならないんだよな)



 屈強な騎士団の門番に事情を説明すると、門番もヴィーの事を認識しており、すんなり通してもらえた。


 魔王軍との最終決戦から九ヶ月、ヴィーとして何度も騎士団本部には顔を出していたので、すれ違う騎士団員も引き止めたりはしないし、人によってはヴィーに挨拶をしてくる間柄になっていた。


(別に、俺みたいな若僧に、そんなに畏まらなくてもいいのになぁ)



 最上階の、騎士団団長室。


 いつもの様に軽くノックしてドアを開けると、そこには騎士団団長であり勇者でもあるシュウトが、ソファーで紅茶を嗜んでいた。



「……よう、ヴィー。 今日はソフィアちゃんの護衛はどうした?」


「ちゃんと孤児院まで送ってから来たんだよ。 で、今日は一応、昨日の件で早目に御礼しとこうと思ったんでね」


 ドゥワンゴ商会の没落。 そしてアンダードッグ伯爵家の次男・ゲロリアンの強制更生収容所への入所。

 どちらもヴィーが裏で手を回して、直接的には騎士団長・シュウトに動いてもらったのだ。


「これはこれは、死神と恐れられた男がご丁寧に」


 この九ヶ月、騎士団に顔を出す機会の多かったヴィーは、シュウトとも今では気の置けない仲になっていた。



 わざとらしく疲れたフリをしながら、シュウトは苦笑いを浮かべる。


「アンダードッグ伯爵はともかく、一応ドゥワンゴ商会はこの国の経済界を代表する商会だったから、捕らえるにしても上を説得するのには苦労したんだぜ? ま、結局は帝王の一声で決まったんだけど」


 騎士団の上……帝国の防衛大臣だが、経済界でも顔役のドゥワンゴを失脚させる事に難色を示した経済大臣を最終的に説得したのは、国のトップである帝王・ミゲールだった。


 ドゥワンゴ商会が帝国の経済を担う一翼だったのは事実。 だが、裏でかなり汚いやり口で商売をしていた情報は騎士団も掴んでいたし、何より魔王軍との戦争時には、国に対しても足下を見て相場の数倍の金額で物資を取引していた。


 当然、国はその煽りを受け、その借金は現在でも国の財政を逼迫している面もあり、今回ヴィーが動かなくとも、いずれは帝王でもあるミゲール自身が、何らかの手を打とうとしている事をヴィーとシュウトも承知していたからこそ、今回実行に移せたのだ。



「今後はドゥワンゴ商会は一旦国で預かり、相応しい人物に引き継がせるらしいけど……まさかドゥワンゴが娘の非行が引き金となって失脚するとはな……」


「とりあえず、シュウトのおかげで妹の学園生活にも平穏が訪れた。 感謝する」


 そう言って深々と頭を下げるヴィクトー。


「なんか、おまえにそんな丁寧に頭下げられたら調子狂うな……」


「俺だって、本当に感謝してる時は頭も下げるさ。 大体、私的な理由でこの国の騎士団団長であり、勇者でもあるシュウトに動いてもらったんだからな」


「……調子が狂うな。 そもそも妹の虐めを止めるくらい、おまえなら簡単にどうにか出来ただろ? まあ、そうなればアンダードッグ家の小僧とドゥワンゴ商会の娘はこの世から跡形もなく消されちまってただろうけどな」


「俺はもう昔とは違うんだ。 これからは、あまり派手な事をして周りに迷惑を掛けたくないんだ」


 何もゲロリアンやロレッタを殺さなくても、ヴィーにだっていくらでもやりようがあったのは事実。 だが、そこには最終通告などでは済まない暴力が行使されていただろう。

 特に、馬鹿なロレッタに分らせる為には、相当な痛みを与える必要があっただろうし、そうなると結局ドゥワンゴ家も絡んで来て更なる面倒事に発展していたハズだ。


 それらを計算して、シュウトに任せるのが最も迅速で血の流れない方法だと判断したのだ。



「で、もう妹ちゃんに、自分が兄貴だって告白したのか?」


「……迷った。 でも、どうやらソフィアも今更死んだと思っていた兄貴が現れても困るみたいだし、これからも他人として見守るつもりだ」


「はあ? おまえ、本当にお馬鹿さんだな。 死んだと思ってた兄貴が戻って来て、喜ばない妹がいるかよ?」


「ぬぅ……なら、おまえはどうなんだよ? 妹とは随分長い事、まともに口を聞いたこともかないって言ってたじゃないか」


「ウチは良いんだよ。 妹もデリケートな歳だから、時間が解決してくれるまで待つさ。 でもおまえら兄妹は、時間が解決してくれる訳じゃないだろ? おまえが、勇気を出せば直ぐにでも解決する問題じゃないのか?」


「……今回の件で、思い切って告げようと思ったさ。 でも……どう考えても、やっぱり俺にはその資格がない。 俺は、魔王軍に潜入していた上に暗殺者だったんだぞ? 妹に誇れる人間じゃないんだ」


「だ〜か〜ら〜、それはおまえが悪い訳じゃないって何度も何度も皆言ってるだろう? 命令を下したのは帝王だし、俺がこうして生きて英雄扱いされてるのも、全部おまえが泥水被ってくれたおかげじゃないか。 おまえの行動は罪じゃなく、功績なんだよ」


「……何を言われようとも、俺は正体を明かすつもりはないと改めて決意したんだ。 ソフィアにも、ルミーナにも」


「ったく、頑固な奴だな、おまえは。 なら忠告しておくが、ルミーナにはいずれバレる日が来る。 あの子は聡明で、鋭い洞察力もある。 一度怪しいと思わせたら、教会の権力を最大限利用してでも、おまえの正体に辿り着くだろうよ。 俺としてはそうなる前に自分で告白した方が良いと思うし、そのつもりがないのなら、バレた時の言い訳でも考えておくんだな」


「……ご忠告、ありがたく承るよ」



その後、二人は他愛もない雑談をし、ヴィーが時計を確認した。


「じゃあ、俺はそろそろ帰らせてもらう。 この借りは必ず返すから、なにか考えておいてくれ」


 そう言って、ヴィーは立ち上がる。 元々早めに要件を済まして帰るつもりだったのに、話が長引いてしまった。


「ちょっと待ってくれ。 その借り、すぐに返してもらえないか? 実は、頼みたい事があってな」


 勇者・シュウトの頼み。 帝国の最高戦力でもある騎士団の団長の頼みとなれば、容易な案件ではないだろうとヴィーも予想出来る……というより、過去にも何度かあったのだが、悉く面倒なお願いばかりだったし、アカデミーへの入学が遅れたのも、シュウトの頼みを聞いたからだった。


 勿論、借りは返すつもりではあったが、流石に今このタイミングとは思っていなかった。


 正直、まだ学業……ではなく、ソフィアを優先すると言って断りたい所だったが、シュウトには今回の件でかなり御世話になったので無下にも出来ない。


「……一応、聞いてみる」


「お! 聞いてもらえるだけでも珍しいな、やっぱり恩は売っておくもんだ。 じゃあ、早速本題に入るか。 魔王軍七騎将は覚えてるな?」


 魔王軍七騎将。 魔王を頂点とした魔王軍のピラミッドの中で、魔王の直接的な配下としてそれぞれ七つの軍を率いていた七人の将軍。

 その力は絶大で、単騎で対抗出来るのは、人類では勇者パーティーのメンバーの他数える位しかいないだろう。


「七騎将か……。 最終決戦では俺の策略でまともに機能していなかったが、そのおかげで誰も死ぬ事はなかったハズ。 魔王が倒れた後、これまでは大人しくしてたみたいだが……まさか、動き出したのか?」


 もし、最終決戦の場に七騎将が万全の状態で挑んでたとしたら、勇者パーティーが四人全員で魔王の玉座に辿り着く事はなかったかもしれない。


 そして、表向きは魔王の次に権力を保持するのは七騎将だったが、実は魔王と七騎将の間に位置していたのが、アンノウンだった。


 アンノウンは魔王直属の右腕として、魔王軍で成り上がった。 実力至上主義である魔族の七騎将を、自らの力で黙らせて。



「ああ……実は、ヘンリー辺境伯の領内で、七騎将の二人、『暴風のガイル』と『灼熱のシャリア』らしき魔族の存在が確認されたんだ。 そのせいか魔獣の出現も頻発している」


 暴風のガイルは、とにかく敵味方構わずメチャクチャな戦いをする男だった。

 戦闘の度、せめて攻撃対象を絞れと、アンノウンとして注意という名の折檻を喰らわせていた。


 灼熱のシャリアは、触れる者皆燃やして尽くす狂気的な女だった。

 戦闘の度、火加減くらい調整しろとアンノウンとして諭しながら、度々頭を氷漬けにしていた。


「……なるほど、厄介な二人だな」


 己の攻撃力を自重せず、一度暴れ出せば周囲に甚大な被害を与える二人は、人類にとってはまさに厄災といえる存在だ。


 当然、その実力は本物。 二人が明確な敵意を抱いて暴れ出せば、間違いなくこのままではヘンリー辺境伯の領土は焦土と化すだろう。



「これはまだ不確定な情報だ。 魔族の領土である魔界は、今の所魔王亡き後平穏を保ってるが、七騎将の内三人は姿を眩ませている。 奴等が秘密裏に魔王軍を復活させたとなれば、一年経って漸く安寧が訪れたと安心し始めた人々に再び混乱と恐怖を与えてしまうだろう。 だから、今回の件はあくまで頻繁する魔獣による被害を鎮圧するという名目で対応するとヘンリー辺境伯とも話を付けている。 で、だ……他の七騎将の動きも警戒せねばならない今、我々騎士団は全戦力を辺境に送る訳にもいかない。 帝王の暗殺を考えれば、当然団長の俺は帝国から動く訳にはいかない」


 嫌な予感がした。 というより、会話の流れ的に確実に面倒事を押し付けられるだろうと予想できた。



「頼むよ、これはおまえにしか……アンノウンにしか頼めない重要案件なんだ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ