表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神のリグレット~魔王軍最強の死神、学生になる~  作者: Tonkye
第一章 死神、学生になる
10/85

第5話 穏やかな一日

 後日、ソフィアが登校すると、ロレッタは欠席していた。

 一緒にいる取り巻き達は来ていたが、いつもなら朝一で一言は必ず嫌味を浴びせて来たのが、取り巻き二人は気まずそうな顔でソフィアを見るのみ。


 結局、ソフィアは昼休憩まで一度も嫌がらせの類を受ける事が無かった。

 これは、ゲロリアンの告白を断った次の日から数えて初めての事だった。



 食堂では、いつも片隅のテーブルで独りで食事を取るのが日課だったソフィアの隣にはヴィーが、そしてなぜかテーブルを挟んでマルクが座っていた。


「それにしても、ゲロリアンも今日は欠席だって聞くし、ソフィアさんのクラスのロレッタさんも欠席なんだって?」


「ええ……」


 恐らくヴィーの知り合いだろうとは予想できたが、初対面のマルクに話し掛けられてソフィアは戸惑っていた。


「ああ、僕は三年のマルク。 ヴィー君とはすっかり友人関係さ」


 マルクは先日の件の後、何故か自分の事の様にゲロリアンやロレッタに対し怒っていた。 二人の情報等を提供してくれたのも彼だったし、ヴィーとしても悪い感情は抱いてないし、友達と言われたのも少し嬉しかった。


 トラフトとダイスもそうだが、これまで同年代の友達などいなかったから。



「まあ、マルク君は中々いい奴だから、俺共々よろしくね、ソフィアさん」


「ちょっとヴィー君、マルク君だなんて水臭いよ? 友達なんだから、マルクって呼び捨てにしてよ」


「え? あ、ああ、分かったよ、マルク」


 昨日おおいに力を貸してくれた情報網といい、行動力といい、マルクは隠キャラに見えて実は陽キャラなのかもしれないとヴィーは思い直す。



「ところでソフィアさん、昨日は聞くのを忘れてたけど、火傷とかしてないか?」


「あ……ハイ。 不幸中の幸いというか、そんなに熱くなかったので……ていうか、先輩も私の事は呼び捨てにして下さい。 助けて頂いたのに申し訳ないですし」


 ソフィアは妹だ。 呼び捨てなど簡単なハズ……なのに、ヴィーは途端に緊張してしまった。


「……じゃあ、ソフィア?」


「フフフッ、なんで疑問形なんですか?」


 思わず三人で目を見合わせて笑ってしまった。



「それにしても、今まで災難だったね、ソフィアちゃん。 でも、もう大丈夫! 問題は全て、このヴィー君が解決してくれたから! 勿論、僕もささやかながら力を貸させてもらったし、僕達は君の味方だからね」


 突然突拍子もない事を口にしたマルクの真意が読めず、ヴィーは少しだけ睨む。


「その……僕にも妹がいてね。 実はこの学園の二年生なんだけど……まあ、最近は僕の事をウザイとか言って、あんまり構ってくれないんだけどね。 でも、あんなクズどもに虐められていたソフィアちゃんを見て、妹を想う兄として許せなくてさ」


 妹を想う兄として……その言葉に、ヴィーが反応を示す。


「……マルク、ちょっと今後の為に聞きたいんだが……何をしたら妹にウザイって言われてしまうんだ?」


 ヴィーとしては、マルクに共感を示しているとかよりも、もしソフィアにウザイと言われたらと思うとゾッとしてしまったのだ。


「いや~、僕が干渉し過ぎたんだよ。 宿題したか? 歯磨きしたか? 風呂入ったか? 寝る前はトイレに行っとけ……とか、毎日しつこくね」


「ふむふむ……あまり細かい事を言ってはいけないって事だな? 他には?」


「勉強したか? とか、夜に爪を切るなよ? とか、北に頭を向けて寝るな……とか……」


 その後もマルクによる兄妹講義を熱心に聞くヴィー。 そんな二人を、ソフィアは複雑そうに見ていたのだが……。


「ところで、ヴィー先輩には妹さんがいるんですか?」


 ヴィーがマルクとの妹談義に食いついてるのが気になって、思わず会話を遮ってしまった。



「いや、俺は……家族はいないから。 例えばの話なんだ、うん」


 ヴィーはソフィアに嫌われたくない思いから、つい我を忘れてしまったと反省する。


「それにしても……クフフッ、ヴィー君もお目が高いねぇ。 ま、ソフィアちゃんはメチャクチャカワイイし、一目惚れしちゃうのも無理はないけど……」


「な、なんて事言うんだマルク!? ソフィアはあくまで妹……!?」


 思わずソフィアが妹だと言ってしまい、焦るヴィー。


「妹……みたいな存在だから、放っておけなこったんだよ。 そう、あくまで、妹みたいな」


「へぇ〜、なのに随分取り乱してるねぇ。 いつもは超クールなのに」


「マルク、あんまりだと怒るぞ!!」


 そんな二人のやりとりを眺めながら、ソフィアの胸は早鐘の様に激しく鳴っていた。


 ヴィーはソフィアから見ても、整い過ぎたルックスのイケメンだ。 そんなヴィーが自分を好いてくれる訳は無いと分かっている。


 だが、ヴィーに妹と呼ばれて、自分でも驚く程に心臓が高鳴ってしまったのだ。


(ヴィー先輩は、にぃ〜にじゃないのに……本当のお兄ちゃんだったら嬉しいけど……)



「で、ソフィアちゃん。 こんなクールに見えてホットなイケメン・ヴィー君に妹って呼ばれて、どんな気持ち?」


「あ、あの……ちょっと恥ずかしいかも」


 自分が、こんな魅力的なヴィーの妹など恥ずかしい……という意味だったが、別の意味に捉えたヴィーの顔がショックで青褪める。


 自分の顔は、ソフィアに恥ずかしい思いをさせてしまっていたのかと。


「……ちょっと、整形魔術院に行って来る……」


 スッと立ち上がり、とんでもない事を言い出したヴィーを、ソフィアとマルクが二人がかりで止める。


「ごめん先輩! そういう意味じゃないから、ただ……私なんかが先輩の妹だったら、何て言われてるかちょっと不安で……」


 ソフィアは虐められる前から美少女として有名だったが、本人は外見を気にするより勉学を頑張っていたので意識した事がなかったし、虐められてからは人の嫌な視線を気にする様になってしまったので、自分に自信が持てなかった。


「ええ!? 何言ってんのさ、ヴィー君とソフィアさんは誰が見ても美男美女じゃないか? 正直、僕にもヴィー君ぐらいのルックスがあれば妹に邪険にされる事もないのかなって羨ましくなる……と同時に、ソフィアちゃんみたいな妹だったら、より一層気が気でなくて心配しちゃうだろうけど」


「マルク……Sセット、奢ってやるよ」


「え? いや……嬉しいけど、そこまで贅沢するつもりはないから」


 自分と云うより、ソフィアを褒められた事でヴィーは気を良くした。 そして、同じく妹を持つ兄として、共感を覚えたのだ。



「で、話を戻すけど、ゲロリアンとロレッタが二人揃って休むなんて、平和って良いねぇ。 ソフィアちゃん、今後も僕らに力になれる事があればなんでもするよ! 僕は腕っぷしには自信が無いけど、情報収集と情報操作には自信があるんだ」


 マルクの情報収集能力には、ヴィーも関心していた。


 昨日、昼から放課後の間には、ソフィアとロレッタ・ゲロリアンとの確執、噂の詳細と出所、昼の件、終いにはロレッタ・ゲロリアンの近況や家庭環境から性格まで、事細かな情報を集めてヴィーに報告してくれたのだから。


「……で、早速だけど……ソフィアさんの噂は真っ赤な嘘で、全てはゲロリアンとロレッタが結託して流したデマだって噂を新たに流しておいたよ。 ……まあ、こっちは一部の生徒は嘘だと分かった上でソフィアさんを無視してたんだろうから効果は微妙だけど」


 実際、ソフィアの噂がロレッタ・ゲロリアンによるものだと云う事は、三人に近しい生徒には分かり切った事だった。

 問題は、誰もロレッタ・ゲロリアンに歯向かう事が出来なかったと云う事なのだから。



「それなら多分もう大丈夫だ。 虐めが無くなれば必然的に噂も消えるさ」


 昨晩、二人をあれだけ脅したのだから、ヴィーとしても“暫く”はおとなしくしてくれるだろうと考えていた。


「いや、あの二人がそう簡単にソフィアさんから手を引くとは思えないけどな……」


「……ま、奴らだってそれほど馬鹿じゃないさ。 でも、念の為にソフィアには御守りをあげておく」


 ヴィーが胸元から綺麗な布の紐を取り出して、ソフィアの左手に結んだ。


「綺麗……ありがとうございます、先輩」


 これはミサンガといって、手首や足首に結んで願い事が叶う様にという想いを込めるアクセサリーだった。


「なんか高そうな生地で出来たミサンガだね。 よし、僕も妹にプレゼントしよう!」


 ヴィーとしてはいきなりプレゼントを、しかも有無を言わさず着けさせるなんてやり過ぎかなと思ったが、ソフィアが喜んでるみたいなので良しとした。



「……ところでマルク、おまえは一体何者なんだ? なんでそんなに情報に強いんだ?」


「へへへっ、情報は全てを制すんだよ。 こんなひ弱な僕が虐められずにいるのは、全ては情報を駆使してるからだしね」


 ここで、マルクはヴィクトーにだけ聞こえるように、そっと耳打ちした。


「勿論、昨夜サロンで、何があったかも知ってるよ……」


 ヴィーは少し驚いてマルクを見る。


「まあ、奴等の居場所を教えたのは僕だしね。 でも安心して、僕は友達は絶対に裏切らないって心に決めてるから」


 マルクが一体どんな人間なのか分からなくなったヴィーだったが、少なくとも悪意は無いだろうと判断し、何も言わずに昼食を再開した。



 ソフィアは、他愛もない会話をしながらも、今まで一人で虐めに耐えて来たのに、ヴィーだけじゃなくマルクという味方を得て、どこか安心感を抱いていた……のだが。




「ちくしょう!!」


 学園を休んだロレッタは、自室の壁に枕を叩きつけ、怒りでブルブルと震えながら親指の爪を噛んでいた。


「ふざけやがって……ソフィアのクセに、なんであんなヤバイ男が味方するんだよ!?」


 ロレッタの怒りの矛先はヴィーはなく、あくまでソフィアだった。


「ゲロリアンもすっかりビビっちゃって、もうソフィアには手を出すなですって? ふざけんじゃないわよ!」


 ゲロリアンは、昨夜の一件で明確にヴィーとの力の差を理解し、今後一切あの兄妹には手を出さないと決めた。

 だが、ロレッタが約束を破れば連帯責任を受けてしまう。 そんなとばっちりを避けるために、もうソフィアに手を出すなとロレッタにも強要したのだ。


 だが、ロレッタは許せなかった。 自分より優れた容姿、優れた成績、そして優れた味方を持つソフィアを。



「絶対……このままじゃ済ませないからね……ソフィア」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ