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prologue.1 最終決戦

久しぶりの連載です。宜しければ10話程、騙されたと思って読んでいただければ…また、活動報告も見て頂ければ幸いです!

「クックック、どうした? 勇者の力はそんなものか?」


「おのれっ……ハーデス!」


 人類にとっての怨敵である魔界の王・『ハーデス』。 目元を仮面で隠し、漆黒の鎧とコートに身を包んでいる。


その魔王の前に跪くのは、人類にとって最期の希望たる勇者・『シュウト』とその仲間たち。



 人類は、魔王を頂点とした魔族と長年に亘り激しい戦争を繰り返してきたが、個の力で上回る魔族に劣勢を強いられ、多くの命が奪われてきた。


 そんな人類にとって、選ばれた者にのみ発現するというコモンスキル・ブレイブハートに目覚めた勇者が誕生したのは、最後の希望だった。


 そして、勇者・シュウトが本格的に魔族打倒に動き出して一年……。

 最強の剣士と呼ばれ闘神と讃えられる青年・『リョウ』。

 森羅万象全ての魔法を司り大魔導師と呼ばれる老翁・『マサート』。

 どんな傷でも癒し、聖女として一部では勇者以上に神格化されている少女・『ルミーナ』。


 この四人を中心とした勇者パーティー率いる連合軍は、幾多の争いを経て遂に魔族の領土・魔界にそびえ立つ魔王城へ、掻き集めた人数分の転移石を用いて瞬間移動し、一気に攻め込んだのだ。



 ……一〇〇名からなる全世界の選ばれた精鋭のみで結成された連合軍が奮戦し、勇者パーティーを魔王の下へ送り込むことに成功するも、漸く魔王と対峙した勇者パーティーは魔王の前に屈し、風前の灯。


 人類にとって、最後の希望が今、打ち砕かれようとしていた……。



「さて、それでは勇者よ……そろそろ死んでもらおうか。 やれ、アンノウン」


 魔王・ハーデスが玉座から、傍にいた漆黒の軍服とマントに身を包んでいる男に指示を出す。


 男の名は『アンノウン』。 漆黒の仮面を被り、魔王軍七騎将を凌ぐ魔王軍最強の死神と呼ばれ、魔王・ハーデスの懐刀とされる謎の男である。


 シュウトをはじめとした勇者パーティーの面々も、その噂だけは耳にしていた。

曰く、世界最強の暗殺者・死神の正体……曰く、魔王軍最強、曰く、魔王の懐刀……全ては噂でしかなかったが、魔族にはとんでもない切り札が存在するのだと。


 アンノウンの存在を確認した者は人間側にはおらず、正体不明=アンノウンという名前だけが、恐るべき実力の持ち主として伝えられていた。


 そしてアンノウンは噂に違わぬ……いや、噂を凌駕する実力で勇者パーティーの前に立ちはだかっていた。



「クソッ、俺は……何が勇者だっ。 魔王に辿り着く事さえ出来ないとは……」


 シュウトはハーデスを睨みながら呟き、悔しそうに地面を叩く。


 勇者パーティーは魔王であるハーデスではなく、このアンノウン一人に劣勢を強いられていたのだ。



「勇者よ、さぞ悔しかろう。 決死の覚悟で我が城に乗り込み、多くの犠牲を払って我の下に辿り着いたにも関わらず、このハーデスに指一本触れる事すら叶わぬのだから」


 絶望的状況。 だが、その魔王の言葉が、勇者たちの最後の闘志に火を点けた。


「舐めるな……ハーデス!!」


 シュウトの持つ、選ばれし勇者にのみ聖なる力を宿す神剣・ブレイブソードが光り輝く。


「拙者が隙を作る! 後は頼んだぞ、シュウト!」


 すると、シュウトの後方から闘神・リョウが飛び出し、魔王に向かって神刀・イザナギを振り下ろす……が、それをアンノウンの黒刀・ダークマターが防いだ。


「あくまで立ち塞がるか、アンノウンッ!」


 互いの斬撃が無数に交錯するが、一瞬の隙をついてリョウの腹にアンノウンの三日月蹴りがめり込んだ。

 そして屈んだリョウの顎に追撃の膝を打ち込むと、リョウは吹っ飛ばされて壁面に激突した。


 世界最強の闘神と呼ばれるリョウの剣技を、アンノウンは凌駕したのだ。


「がはっ……ば、化け物めっ……」



「アンノウンのう……やれやれ、実際アイツ、魔王より強いんじゃね?」


 小声で愚痴りながらも、大魔導士・マサートが、火属性・風属性混合究極魔法・プロミネンスサイクロンの詠唱を終えた。


「すまぬ、皆の者! こうなりゃ、死なばもろともじゃい!!」


 アンノウンに向かって放たれた極大な炎の竜巻は、その余波で味方である勇者パーティーの面々をも飲み込む威力と勢いを誇っていた。


 だが、巨大な炎に向かってアンノウンは瞬時に、目の前に両手で大きな魔法陣を描く。 すると、その炎は見る見るうちに魔法陣に吸い込まれてしまった。


「あの速さで、しかもワシの究極魔法をも吸い込む魔法吸収の陣を!? 正真正銘のバケモンじゃ……のわっ!?」


 驚愕と共に意気消沈したマサートに向かって、アンノウンは一歩も動かず、その場で掌を高速で打ち出して衝撃波を発生させると、マサートは抵抗も出来ずに吹っ飛ばされてしまった。



「アンノウン……噂には聞いていたが、ここまでの強さだとは」


 最後の一太刀の為に気力を貯めながらも、シュウトはその力がはたしてアンノウンに通じるのだろうかと不安を抱き始めていた。


 その時、聖女・ルミーナがシュウトの背中に手を触れた。


「シュウト様……私の魔力を差し上げます。 どうか、その力は魔王に」


 リョウとマサートが無念にも倒れる間、聖女ルミーナはシュウトに己の魔力をほぼ全て注ぎ込む補助魔法を詠唱していたのだ。


「すまないルミーナ。 だが、魔王の前にあの野郎をどうにかしないと……」


「アンノウン……本当に恐ろしい敵ですね。 ですが、大丈夫です。 ……あの男は私にお任せください」


 ルミーナは聖女として回復と補助の魔法を得意とするが、格闘術の腕も超一流だった。 だからといって、それがアンノウンに通用するとは考えられない。


「無茶だ。 アイツは、俺はおろかリョウですら歯が立たなかったんだぞ?」


「……大丈夫。 必ず、あの男は私が仕留めてみせます。 ……この命に代えても」


 聖女・ルミーナもまた、勇者と同じく選ばれし者のみが得られるコモンスキル・アフェクションセイントのスキルに目覚めた存在。

 その回復魔法の能力は、死んでさえいなければどんな重傷も治せると云われるが、聖女の最大の使命は戦地に於いて勇者をサポートし、魔王を打倒する事である。


 そんな聖女の最終奥義は、己の命を燃やし尽くす代わりに対象に甚大なダメージを負わせると共に、勇者に最期の一撃を放たせる隙を作る為の自爆魔法・サクリファイスだった。


 本来であれば使うべきではない……使うとしても魔王に対して発動する魔法であったが、今この場において、ルミーナは魔王よりもまず、アンノウンを倒さなければならないと判断した。



「まさか……ダメだっ、やめろっ、ルミーナ!!」


 自らの死を覚悟したルミーナはシュウトの制止を振り切り、眩いばかりのオーラに身を包んでアンノウンに向かって飛び掛かる。


「……世界の平和の為、死んでもらいますよ……アンノウン」


 ルミーナの聖なる光が、アンノウンを包み込む。 それでも、本来の実力差であればアンノウンにとって、自爆に巻き込まれる事なくルミーナを跳ね除けるなど容易な事だった。


「人生で、二人目に抱き付いた異性が敵である貴方とは……それでも、貴方を倒せるなら本望です!」


 それでもアンノウンに焦りは無かった。 まるで、ルミーナの決死の行動など意に介さないとばかりに。 だが……。


「……『ヴィクトー』、あの世でまた会えるかな……」


 ルミーナが最後に呟いた言葉に反応したのか、アンノウンが突然頭を抱えて苦しみ出したのだ。


「ぐううっ……」


 ここで初めて、アンノウンは苦悶の声を漏らした。


 好機。 そう確信したルミーナは、アンノウンをより一層力強く抱き絞め、いよいよ最期の力を爆発させようとした。


「さあ、共に逝きましょう、アンノウン!」


 ルミーナが、まさに全ての魔力を解放しようとしたその時……突然、ルミーナの光り輝くオーラを覆う様に、アンノウンの強大な漆黒のオーラが包み込んだ。


「なっ……!? この命を懸ける事すら、出来ないというの……」


 漆黒のオーラによってルミーナのオーラは掻き消されてしまう。


 自爆を抑え込まれたルミーナは、すべての魔力を使い果たし、力無く項垂れる事しか出来なかった……。



 だが、聖女の最終奥義が不発に終わった事にシュウトは安堵していた。 仲間の命が無駄に散らずに済んだのだから。


「アンノウン……ルミーナが死なずに済んだ礼を言いたい所だが、そういう訳にもいかないんでな」


 当たり前だが、魔王を倒す為にはまずアンノウンを倒さなければならない。


 本来であれば、全身全霊を込めた最期の一撃は魔王を倒す為の切り札だった。 だが、目の前にいるアンノウンを倒さなければ魔王には触れる事も出来ない現状、その一撃はアンノウンへと向けなければならなかった。



 勇者の全てを懸けた刃は、自分ではなく腹心であるアンノウンに向けられている。 その余裕から、魔王はシュウトを嘲笑った。


「クックック、滑稽だな、勇者よ、 貴様はこのまま、我の配下にすら勝てずに死ぬのだ。 そして、貴様を葬ればいよいよ人類は終わりだ。 この世の全てを我が魔族が支配する。 歯向かう人間は皆殺しにし、それ以外は奴隷として扱ってやろうぞ…………ごはっ!?」


 その時、黒刀がハーデスの心臓を背後から貫いた。


 シュウト達も状況が掴めず、黒刀を握る者……アンノウンを見つめた。



「ガハッ……ア、アンノウン、貴様、なぜ?」


「……」


 ハーデスの問い掛けにアンノウンは応えない。


「貴様……“やはり”、裏切りおったか?」


 そして、突き刺した刀を引き抜き、アンノウンはシュウトに言った。


「やれ、勇者」


「えっ? ……あ、ああ。 ……うおおおおっ!」


 魔神に選ばれし者にのみ発現するコモンスキル・エンドーブサタンによる加護を受けた魔王は、ブレイブハートを用いた勇者の力でしか殺せない。 どんなにアンノウンが強くとも……だ。


 シュウトは一瞬戸惑いつつも、アンノウンの意図を理解し、神剣・ブレイブソードに全ての力を込めてハーデスの身体を袈裟斬りに両断した。


「ガハアッ!! ……クックック……これで終りだと思うなぁ、余は、必ず戻ってくるぞ、アンノウン!!」


 魔王・ハーデスの断末魔は、トドメを刺したシュウトではなくアンノウンに向けられる。


 そして、神剣に引き裂かれた傷から眩い光が溢れ出し、ハーデスの身体はあっという間に蒸発し、完全に消滅してしまった……。



 力を使い果たした事により地面に膝を着いたシュウトは、アンノウンを見上げる。


「……どうして? アンノウン、おまえは魔王の懐刀じゃなかったのか?」


 アンノウンは魔王軍最強の死神であり、魔王の懐刀と呼ばれ、人類にとっても脅威として噂される存在だった。

 しかしその実、“アンノウンとして”表舞台に登場した事は一切なく、実は魔王軍の中でもその存在を確認した事があるのは、生きてる者の中では魔王の他には魔王軍のトップ・七騎将のみだったのだ。


 だから当然、今回勇者パーティーが直接アンノウンと交戦したのは初めてであり、改めてその強さが噂以上のものだったと知らしめられたのだったが……。


「これで終戦だ」


 アンノウンは一言、そう呟く。



 魔王の懐刀、魔王軍最強の死神・アンノウン。


 だが、そのアンノウンがハーデスを裏切り、勇者であるシュウト達をサポートしたのだ。


 怪訝な表情で自分を見つめるシュウト、状況が読まずに困惑するリョウ、取り敢えず危機が去った事に安堵しているマサートを、アンノウンは何も言わずそれぞれを一瞥する。


 そして、魔力を使い果たして今だに項垂れているルミーナ見つめ、話しかけた。


「……聖女よ、聞きたい事が……いや、いい」


 何かを問い掛けようとしたが、途中で思い止まり、転移石を使ってその場から消えてしまった。



 シュウトと、既に満身創痍のパーティーメンバーが視線を交わし合い、今起こった出来事を理解しようと努めるも、誰も思考が定まらずに、暫くの間呆然とするしかなかった。


 そして、ルミーナは……。


「……不思議な感覚。 アンノウン……どこかで会った事があるような、懐かしい感じがした……」



 なんにしても、こうして人類と魔族との長きに亘った戦争は、人類の勝利で幕を閉じたのだった……。

※主な完結作品紹介


『漆黒のダークヒーロー』

『タイムスリップしたストライカー』


こちらも未読の方は是非読んでみてください。

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