控室トーク:食卓にて和す者たち
(舞台裏の控室。落ち着いた灯りと木のぬくもりが漂う空間。真ん中には低めの丸テーブルがあり、そこに4人分の料理と飲み物が並んでいる)
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◆ 孔子の推薦:「魯の清粥」+「菊花茶」
孔子(竹の茶器を丁寧に並べながら):
「どうぞ。これは、魯の家庭でよく食されていた清粥です。
塩も控えめに、米の甘みを楽しむ一品。そしてこちらが、香り高い菊花茶。気を落ち着け、心を静めます。」
マルクス(口に運び、目を細めて):
「……まるで“誠実”の味がする。腹を満たすだけでなく、心を整えるというのは、こういうことか。」
マキャヴェリ(苦笑して):
「食べてると、つい“善人にならねば”という気持ちにさせられる……まさに“道徳の食卓”ですな。」
リシュリュー(ふっと微笑んで):
「清廉。まさにあなたらしい。だが正直……私はこれを朝に食す自信がない。」
孔子:
「腹は満たすものであって、驕るものではありませんよ、皆さん。」
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◆ マキャヴェリの推薦:「フィレンツェ風レバーパテのクロスティーニ」+「赤ワイン(キャンティ)」
マキャヴェリ(グラスを回しながら得意げに):
「こちらはフィレンツェの名物、“クロスティーニ・ディ・フェガティーニ”。
鶏レバーのパテをパンにのせ、香草とアンチョビで味を調えました。
合わせるのは、トスカーナ産の赤ワイン。決断の前には、これが一番効きます。」
孔子(恐る恐る一口):
「……うむ、非常に“濃厚”ですな。口の中で……理屈と策略が広がるようです。」
マルクス(眉をひそめながらも飲む):
「……これは“ブルジョワの味”だ。だが悔しいことに、旨い。」
リシュリュー(舌を鳴らし):
「実に精巧な料理だ。香草の調合がまるで外交工作のようだな。」
マキャヴェリ:
「皆さん、食べながら私を警戒しすぎでは?」
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◆ リシュリューの推薦:「鴨のロースト オレンジソース」+「フランス修道院のトラピストビール」
リシュリュー(ナイフを手に取りながら):
「これは“カナール・ア・ロランジュ”──
甘酸っぱいソースで鴨肉の野性味を包み込む、精緻な一品です。
そしてこちらは、修道院で作られたトラピストビール。祈りと共に醸された味わいを、どうぞ。」
マキャヴェリ(満足げに):
「これは……素晴らしい。“強さ”と“節制”の両立というやつですな。」
マルクス:
「甘いソースで肉を包む……まるで“権力の正当化”を料理で再現しているようだ。」
リシュリュー(笑って):
「さすが、どこまでも闘争的だな。
だが君も、うまいとは思っただろう?」
マルクス(ぐっと飲み干して):
「……その点は、否定しない。」
孔子(くすくす笑って):
「慎ましき修道士の酒とは思えぬ力強さですね。」
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◆ マルクスの推薦:「ジャーマンポテトとザワークラウト」+「黒ビール」
マルクス(豪快に皿を置き):
「労働者の味、これこそが“真の料理”だ。
じゃがいもとベーコン、キャベツの発酵──素材そのままで、誤魔化しがない。
そして、ドイツの黒ビール。“苦さ”の中に、“深さ”がある。」
リシュリュー(フォークを動かしつつ):
「素材で勝負……確かに、余計な手を加えていないな。ある意味で誠実だ。」
孔子:
「“本質を味わう”という意味では、私の清粥に通じるものがありますな。」
マキャヴェリ(もぐもぐと食べて):
「素朴だが、腹に来る。
これは……戦の前に兵士に食わせたい料理だな。」
マルクス(満足げに頷く):
「すべての民が、これを腹いっぱい食える世を、私は夢見る。」
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◆ 食後のひととき
(全員がひとしきり食事を楽しみ、椅子にもたれてくつろいでいる。ワインと茶が入り混じり、笑い声が漏れる)
マキャヴェリ:
「対談の時は、皆さんずいぶん鋭かったが……こうして飲み食いしていると、実に“人間”らしくていい。」
孔子:
「礼に始まり、礼に終わる。論争もまた、縁を深める道です。」
マルクス:
「……俺はまだ、“ブルジョワ料理”に屈したわけじゃないからな。」
リシュリュー(笑いながら):
「いや、さっき3口目をいってたぞ。」
あすか(ナレーション風に):
「こうして、“裏金”をめぐる熱い論戦の後、
時代も思想も超えた対談者たちは、
食卓を囲みながら“人”として向き合い、少しずつ心を通わせていくのでした。」
(照明がゆっくりと落ち、4人の笑い声とグラスの音が遠ざかっていく……)